SARA とは?(目的と使いどころ)
SARA(Scale for the Assessment and Rating of Ataxia)は、運動失調の重症度を 8 項目で評価する臨床スケールです。総点は 0–40(数値が大きいほど重い)で、初期評価・経過観察・介入効果の把握を「同じ物差し」で回すために使います。診断名を付ける検査ではなく、機能障害の重症度指標として活用します。
最終更新:2025-10-27
要点早見(構成とスコア範囲)
| 項目 | 上限 | 狙い |
|---|---|---|
| 1. 歩行 | 8 | 失調歩行の全体像(直線・方向転換・支持の要否) |
| 2. 立位 | 6 | 静的バランス(足位と保持の安定性) |
| 3. 座位 | 4 | 体幹近位制御(座位保持と上肢支持) |
| 4. 発話 | 6 | 失調性構音(明瞭度・リズム・速度の崩れ) |
| 5. 指追い | 4 | 上肢協調(測定障害・到達の誤差) |
| 6. 鼻-指 | 4 | 上肢協調(終末の振戦・一貫性) |
| 7. 反復拮抗運動 | 4 | 律動(速度・振幅・持続性の破綻) |
| 8. かかと-すね | 4 | 下肢協調(軌跡・精度・速度での崩れ) |
スコア記録シート(プレビュー)
臨床で使いやすいように、スコア記録用として A4 版のシートを用意しました。下のプレビューで内容を確認できます。
印刷や PDF 化をしたい場合は、上の埋め込みを開いた状態でブラウザの共有メニューから印刷を選び、保存先を PDF にしてください。直接開く場合は、次のパスに移動します:/wp-content/uploads/2025/10/sara-score-sheet-a4_v1_202510.html
準備・リスク管理(チェックリスト)
| 観点 | 確認ポイント | 記録のコツ |
|---|---|---|
| 環境 | 十分なスペース、滑りにくい床、必要なら手すり・平行棒。 | 場所(病棟廊下/訓練室など)を固定して書く。 |
| 見守り・介助 | 歩行・立位は見守り者を配置し、接触介助の基準を事前に合意。 | 「監視/接触/部分介助」など用語を揃える。 |
| 補助具・装具 | 普段の条件を基本にし、再評価でも同条件に揃える。 | 靴・装具・杖の種類を必ず併記。 |
| 疲労・痛み | 休憩を挿入し、後半の質低下は所見として残す。 | 休憩回数や実施時間(目安 10–15 分)を控える。 |
| 説明 | 目的と流れを短く説明し、中断の合図を共有。 | 説明の有無だけでなく「同じ言い回し」を意識。 |
評価フロー(手順の全体像)
- 前準備:環境と見守り体制を整え、条件(靴・補助具・場所)を確定。
- 実施:8 項目を標準化した順で行い、各項目の点数を記録。
- 合計:8 項目の合計を算出(0–40)。
- 所見:代償、左右差、疲労による質の変化などを短文でメモ。
- 共有:本人・家族へ「点数の意味」と「次回の再評価時期」を説明。
スコアリングの考え方(共通)
- 同条件の徹底:靴・装具・補助具・場所・説明の言い回し・実施順・休憩の入れ方を固定します。
- 所見は“観察語彙”で:「軌跡のぶれ」「リズムの乱れ」「ばらつき」「過大/過小運動」「代償の増減」など、再評価で比較できる語彙で残します。
- 左右差・疲労を別管理:左右差は項目ごとに明記し、前半と後半で質が落ちる場合は所見として分けて書きます。
- 迷ったら“条件→所見→点数”:点数だけ先に決めず、条件と観察を言語化してから点数に落とすとブレが減ります。
各領域の「狙い・観察・記録」要約
① 歩行
- 狙い:直線歩行と方向転換での失調の出方をまとめて捉えます。
- 観察:ステップ幅のばらつき、ターン前後の修正ステップ数、速度維持、補助具・介助の要否。
- 記録:条件(補助具の有無、見守りレベル)を必ず併記します。
② 立位
- 狙い:静的バランス制御の破綻を見ます。
- 観察:足位(開脚→閉脚→タンデム)での保持の崩れ方、上肢の代償(外転・把持)、微小ステップ。
- 記録:失敗条件(支持物把持、足位崩れなど)を具体的に書きます。
③ 座位
- 狙い:体幹近位の安定性を評価します。
- 観察:骨盤後傾・側方ドリフト、上肢支持の有無、会話などでの変化。
- 記録:座面高さ、足接地の条件を明記します。
④ 発話
- 狙い:失調性構音の程度を把握します。
- 観察:抑揚や間、速度の不均一、明瞭度のばらつき。
- 記録:復唱・自由会話など、評価条件を短く添えます。
⑤ 指追い
- 狙い:測定障害や到達誤差(過大/過小運動)を捉えます。
- 観察:目標到達の誤差、終末の揺れ、左右差。
- 記録:テンポや試行回数を揃えたかを書きます。
⑥ 鼻-指
- 狙い:上肢協調の一貫性と終末の揺れを見ます。
- 観察:タップ終末の揺れ、誤差の一貫性、視覚依存の出方。
- 記録:目標距離と姿勢条件を統一し、その条件を記載します。
⑦ 反復拮抗運動
- 狙い:律動(速度・振幅・持続性)の崩れを評価します。
- 観察:減速、不規則化、途中停止、左右差。
- 記録:実施時間(例:10 秒)と、後半の質低下の有無を残します。
⑧ かかと-すね
- 狙い:下肢協調と測定障害を捉えます。
- 観察:軌跡の蛇行、目標喪失、速度を上げた際の精度低下、左右差。
- 記録:姿勢(臥位/座位)、ベッド高、反復回数を条件として書きます。
スコアの読み取り(目安と解釈)
| 指標 | 目安 | 臨床での使い方 |
|---|---|---|
| 重症度の層別(用例) | < 10 / 10–25 / > 25 | 軽度/中等度/高度のように「帯」で説明すると共有しやすいです。 |
| ADL との関連(ROC の用例) | 5.5 / 10 / 14.25 / 23 | ADL 依存の程度を推測する際の参考域として使われます。 |
| MDC(個人の変化量の目安) | 約 3.5 点 | 同条件での縦断評価で「変化が出た」と判断する目安として使います。 |
レポートでは、点数だけでなく「条件(補助具・見守り)」「所見(代償・左右差・疲労)」をセットで残すと、再評価での解釈が速くなります。
記録・レポートの書き方(テンプレ)
| 項目 | 記入例 |
|---|---|
| 実施条件 | 訓練室/靴あり/補助具なし。歩行・立位は見守り 1 名。休憩 1 回。 |
| 総点 | 18 / 40(高いほど重い)。 |
| 要点所見 | 方向転換で修正ステップ増。立位は足位を狭くすると揺れ増。上肢は右で過大運動。反復運動は後半で律動が崩れる。 |
| フォロー | 2 週間後に同条件で再評価。体幹近位の安定化と歩行練習を継続。 |
再評価の目安(フォローアップ)
- 急性期:数日〜 1 週間単位で、変化が出やすいタイミングで確認します。
- 回復期・外来:2–4 週間に 1 回を目安に、条件を揃えて再評価します。
- 見せ方:総点の推移に加えて「どの領域が変わったか(歩行/体幹/四肢協調など)」を短文で添えます。
現場の詰まりどころ(よくあるブレと整え方)
| 詰まりどころ | なぜ起きる | 対策 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 点数は同じでも所見が毎回違う | 条件(補助具・見守り・休憩)が揺れている | 条件を固定し、所見は「観察語彙」で短文化 | 靴/装具/補助具/見守りレベル/休憩回数 |
| 後半だけ急に悪く見える | 疲労や集中低下が混入している | 休憩の入れ方を標準化し、前後半を分けて所見を書く | 実施時間、休憩タイミング、後半の質低下 |
| 検者が変わると点数がずれる | 口頭指示や見守り基準が人によって違う | 部署内で「指示文」と「接触介助の基準」を合わせる | 指示の統一、接触の有無、介助の強さ |
| 点数の説明が伝わらない | “点数”だけを伝えている | 点数に「帯(軽度〜)」と「日常での困りごと」を接続して説明 | 帯+具体例(ターン、立位保持、巧緻など) |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. SARA は何分くらいで実施できますか?
目安は 10–15 分です。疲労が出やすい場合は休憩を入れつつ、休憩の入れ方を次回も揃えると比較しやすくなります。
Q2. “カットオフ”はありますか?
疾患や目的によって扱いが変わるため、単一の固定カットオフで運用するより、スコア帯(例:軽度/中等度/高度)+所見で共有するのが実務的です。研究では層別の用例があり、臨床では「帯」での説明が噛み合いやすいです。
Q3. どれくらい変われば“変化あり”と見てよいですか?
同条件での縦断評価では、MDC が約 3.5 点とされる報告があり、変化量の目安として参照されます。現場では、点数の変化に加えて「どの領域が変わったか」を所見でセットにすると説明が速くなります。
Q4. 補助具や見守りが必要な人でも使えますか?
使えます。重要なのは、条件(補助具・見守り)を明記し、再評価でも同条件に揃えることです。条件が変わった場合は、点数の比較よりも「条件変更の理由」と「所見の変化」を優先して書きます。
Q5. “評価用紙”はどこで確認できますか?
この記事内の「スコア記録シート(プレビュー)」で確認できます。項目ごとの点数と所見をまとめて残せるように作っているので、記録の型として使ってください。
おわりに
SARA は、条件を揃える → 観察を言語化する → 点数と所見を残す → 同条件で再評価するという流れを作ると、経過の共有が一気に楽になります。次のフォローアップで迷わないために、今回の条件と所見を短文で残しておくのがおすすめです。
評価の記録を整えたら、面談準備のチェックと職場選びの整理に使えるシートもまとめて確認できます:マイナビコメディカル(面談準備チェック&職場評価シート)
参考文献
- Schmitz-Hübsch T, Tezenas du Montcel S, Baliko L, et al. Scale for the Assessment and Rating of Ataxia: development of a new clinical scale. Neurology. 2006;66(11):1717–1720. doi:10.1212/01.wnl.0000219042.60538.92. PubMed
- Kim BR, Lee J, Yoo B, et al. Usefulness of the SARA in ataxic stroke patients. Ann Rehabil Med. 2011;35(6):772–780. doi:10.5535/arm.2011.35.6.772. PMC
- PhenX Toolkit. Protocol: Ataxia Rating Scale(SARA). phenxtoolkit.org
- Ataxia Study Group. SARA Instruction(プロトコル). ataxia-study-group.net(PDF)
- Petit E, et al. SARA captures disparate progression and responsiveness across disease stages(解析報告). 層別例:< 10 / 10–25 / > 25. PMC
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


