車椅子クッションの選び方:褥瘡予防とシーティングの基本
車椅子クッションは「とりあえず標準付属のまま」になりがちですが、褥瘡リスクや座位耐久、疼痛コントロールに直結する“治療的な道具”です。本ページでは、理学療法士・作業療法士が現場で迷いやすいポイントを整理し、車椅子クッションの選び方を 3 ステップで解説します。
褥瘡ハイリスク例での第一選択、フォームと空気セル・流動体・ハイブリッドの違い、採寸の基準値、不適合サインの見抜き方、空気セルの基本調整と再評価のタイミングまで、シーティング評価とセットで押さえておきたい実務のコツをまとめました。
臨床に追われながら「勉強時間」と「働き方」を両立したい理学療法士の方へ
理学療法士の転職ガイドで働き方の選択肢を見る失敗しない車椅子クッションの選び方 3 ステップ
「どの車椅子クッションを選べばよいか分からない」というときは、製品カタログから入るのではなく、まず 利用者像と評価 から逆算すると迷いにくくなります。ここでは、理学療法士・作業療法士が押さえておきたい車椅子クッション選び方の基本を 3 ステップに整理します。
- 利用者の状態整理:褥瘡リスク(既存褥瘡・栄養・浮腫)、座位耐久時間、除圧の自立度、認知機能・動作協調性などを簡潔にプロファイルします。
- 座位アライメントと採寸:骨盤の傾斜・回旋、体幹アライメント、下肢ポジションと、車椅子シート・バックサポートのサイズを合わせて評価します。
- クッションタイプの仮決定→試適:フォーム/空気セル/流動体/ハイブリッドから候補を絞り、試適と再評価を通して「分散」と「安定」のバランスを調整します。
クッションのタイプと特徴(フォーム・空気セル・流動体・ハイブリッド)
車椅子クッションの選び方では、「どの素材が優れているか」ではなく、利用者の目的とリスクに対して何を優先するか が重要です。ここでは代表的なタイプと特徴を比較します。
| タイプ | 主な特徴 | 適応の目安 |
|---|---|---|
| フォーム | 型崩れしにくく、骨盤支持を作り込みやすい。軽量で取り回しが良い。 | 骨盤後傾・前滑りが目立つ例、屋外移動が多い例、介助者の持ち運び負担を減らしたい場合。 |
| 空気セル | 圧分散性能が高く、セル高さや空気量で微調整可能。除圧インターバルに強み。 | 褥瘡ハイリスク例、自力除圧が困難な例。認知・操作能力に応じて管理方法を検討。 |
| 流動体・ゲル | ズレ・せん断力の低減に寄与しやすい。沈み込み方がゆっくりで安心感がある。 | 坐骨部の一点高圧が気になる例、感覚過敏があり硬さを嫌う例。 |
| ハイブリッド | フォームで骨盤を安定させつつ、空気・流動体で圧分散も狙う設計。 | 「褥瘡リスクも高いが、前滑りも強い」など、分散と制御を両立させたい複雑な症例。 |
実務では、「安定(姿勢制御)」と「分散(褥瘡予防)」のどちらを優先するか をチームで共有しておくと、車椅子クッション選び方の議論がスムーズになります。
褥瘡リスクとシーティング評価の押さえどころ
車椅子クッションは褥瘡対策単独ではなく、シーティング評価の一部として位置づけると判断しやすくなります。姿勢が崩れたまま高機能クッションを導入しても、結局は一点高圧や前滑りが残り、褥瘡リスクを下げきれないことが少なくありません。
褥瘡ハイリスク例では、①骨盤・体幹アライメントの評価、②座位耐久時間と除圧方法(シートからの立ち上がり・ティルト・リクライニング等)、③栄養状態と浮腫の有無をセットで確認したうえで、車椅子クッションの選び方(タイプ・厚み・サイズ)を決めていく ことが重要です。
車椅子クッションの採寸とサイズ選びの目安
- 座幅( W ):大腿最大幅+指 1 本(≈ 1.5 cm)〜指 2 本(≈ 3 cm)。狭すぎると圧集中・広すぎると側方傾きの原因。
- 座奥行( D ):殿部 − 膝窩長 − 2〜3 cm(膝窩圧・前滑りを防ぐ)。骨盤後傾例では短め設定も検討。
- 前/後座高:踵高+靴+フットレスト厚を加味。前>後 の軽い前下がりで骨盤後傾を抑制しつつ、足底接地を確保。
- クッション厚:骨突起の底付き回避+移乗動線。厚さを増やすほど前滑り・立ち上がり困難のリスクに注意。
※個別の疾患・拘縮・装具の有無で調整します。最終決定は、実際の車椅子にセットしての試適(姿勢・皮膚・動作)の再評価で行います。
車椅子クッション不適合のサインと対処表
「なんとなく座りにくそう」「前にずれてくる」といった訴えは、車椅子クッションの選び方が合っていないサインかもしれません。よくある不適合サインと原因・即時対処を一覧にしました。
| サイン | 想定原因 | 即時対処(優先順) |
|---|---|---|
| 前滑り | 骨盤後傾・座面前上がり不足・表面摩擦低 | 後座高を下げる/前座高を上げる/前方ウェッジ追加/骨盤支持の強化/表面摩擦が高いカバーへの変更 |
| 左右傾き | 骨盤側傾・座面のたわみ・座幅過大 | 座面平面化ボードの挿入/片側ウェッジで補正/骨盤パッドで中立へ誘導/座幅見直し |
| 一点高圧(坐骨・尾骨) | クッション厚み不足・底付き・沈み込み偏位 | 厚み・構造の再選定(エア/ジェル/ハイブリッド)/空気量見直し/沈み込み方向の補正 |
| 股・腰部痛の増悪 | 座奥行過大/過小・座面前傾過多・支持点の不一致 | 座奥行の再測・再設定/前後座高の再設定/骨盤・大腿の支持線を合わせる/バックサポート形状の調整 |
※とくに褥瘡ハイリスク例では、前滑りや一点高圧は優先的に修正します。姿勢の崩れ方と皮膚状態をセットで観察することが重要です。
対象別の第一選択(褥瘡予防と安定シーティングの実務ショートカット)
ここでは、理学療法士・作業療法士が現場で「まず何を使うか」を決めるときのショートカットとして、代表的なパターンと車椅子クッションの選び方の目安を示します。
- 褥瘡ハイリスク+自力除圧困難:空気セル or 流動体系で圧分散を最優先し、骨盤支持はバックサポートや側方支持で補強します。
- 骨盤後傾・前滑りが顕著:フォームクッション(ウェッジ・骨盤支持強め)で沈み過ぎを抑え、骨盤と大腿の支持線を優先的に整えます。
- 軽量・持ち運び重視:フォーム薄型で介助者の取り扱い負担を軽減しつつ、痛み・発赤の再評価間隔を短く設定します。
- 「分散も安定も両方必要」ケース:ハイブリッドクッション(分散 × 制御)を検討し、調整の手間・重量・価格の許容範囲をチームで共有します。
車椅子クッション(空気セル)の基本調整と褥瘡対策のコツ
空気セルクッションは、圧分散性能が高い一方で、空気量や座り方が不適切だと逆に前滑りや一点高圧を招くこともあります。ここでは、理学療法士・作業療法士が現場で押さえておきたい基本調整の目安を示します。
- 底付きの確認:利用者を実際に座らせた状態で、仙骨・坐骨が底付きしていないか を触診します。
- 空気量の調整:空気を少しずつ抜きながら、骨盤が「浮きすぎない」最低量に近づけます。過充填は不安定感と前滑りの原因になります。
- 微調整:クッション表面から指 2 本が沈む程度を目安に微調整し、前滑りや一点高圧が出ていないかを再確認します。
※製品ごとの推奨手順・専用ポンプの有無が最優先です。利用者・介助者にも日々の空気量点検やカバー洗濯時の再調整を教育しておきましょう。
再評価の間隔と指標
車椅子クッションの選び方は「入れたら終わり」ではありません。フォームのへたりや体重変動、生活環境の変化に応じて、定期的に見直すことが大切です。
- 導入直後:1〜2 週後に再評価(座位姿勢・皮膚・主観的な痛みや疲労感の三点セット)。
- 安定後:1〜3 ヵ月ごとにフォームのへたり具合、体重変動、日課・環境変化を確認します。
- 指標:前滑りの有無、骨盤傾斜の中立性、坐骨部などの発赤の有無、可能であれば座圧(平均・ピーク・高圧部位の面積)を簡易的にチェックします。
配布物(もう一度ここでダウンロード)
評価と試適・再評価をセットで回すために使えるシートを A4 版で用意しています。カンファレンスや申し送り時の共有にもご活用ください。
使い分け早見表( A4 ・印刷) A/B トライアル記録( A4 ) 適合チェックシート( A4 )
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
採寸は何から始めるのがよいですか?
基本は「座幅 → 座奥行 → 前後座高 → クッション厚」の順で、骨盤中立の保持を最優先に測定します。まず大腿最大幅から座幅を決め、殿部 − 膝窩長から座奥行を算出します。つぎに踵高・靴・フットレスト厚を踏まえて前後座高を検討し、最後に褥瘡リスクや移乗能力を考慮してクッション厚を決めると、前滑りや一点高圧を避けやすくなります。
車椅子クッションの再評価はどのくらいの頻度で行えばよいですか?
導入直後は 1〜2 週で一度、その後安定していれば 1〜3 ヵ月ごとを目安に再評価します。体重変動や活動量の変化、褥瘡リスクの上昇(栄養状態の悪化・浮腫の増悪など)がみられたときは、タイミングを待たず臨時に再評価します。座位姿勢・皮膚・主観症状(痛み・疲労感)をセットで確認すると、車椅子クッションの見直しポイントが整理しやすくなります。
おわりに
車椅子クッションの選び方は、「評価 → 試適 → 調整 → 再評価」というリズムで回していくことが重要です。褥瘡予防とシーティングの両立を意識しながら、骨盤・体幹アライメントと皮膚の状態をチームで共有すれば、クッション変更が単発のイベントではなく、継続的なケアの一部として機能しやすくなります。
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著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


