PDAS(疼痛生活障害評価尺度)とは?
PDAS は、慢性痛が日常生活に与える障害度を 20 項目で評価する日本発の患者報告式尺度です。各項目を 0–3 点で採点し、合計 0–60 点で重症度を把握します。数分で実施でき、通院フォローの変化追跡にも適しています。PDAS 自体は痛みの「強さ」ではなく「生活障害」を測るため、痛み強度の NRS や心理尺度と組み合わせて全体像を評価するのが実務上のコツです。
本記事では PDAS の要点(採点、カットオフの目安、解釈の注意点)と臨床での使いどころを、理学療法の視点で簡潔に整理します。痛み評価の全体像は当ブログの基礎記事(疼痛評価スケールの基礎)も合わせてご参照ください。
PDAS の基本仕様(要点)
項目 | 内容 |
---|---|
項目数 | 20 項目(生活動作・移動中心) |
採点 | 各 0–3 点(0: 困難なし〜3: 実施不能) |
合計点 | 0–60 点(高得点ほど障害大) |
実施時間 | 2–3 分目安 |
解釈メモ | スクリーニングの実務目安として「10 点」以上で生活障害ありを示唆※ |
※カットオフ「10 点」は国内研究で広く用いられる目安です。疾患特異性やベースラインの低さによっては、単純な閾値判断より「変化量」を重視してください。
採点と解釈:カットオフの“賢い”使い方
PDAS は 0–60 点で高いほど生活障害が強いと解釈します。初回評価で 10 点以上なら日常生活への影響が疑われ、教育・運動療法・心理社会的支援を含む介入の適応を検討します。一方、初回が 10 点未満でも、経時的に 5–10 点以上の悪化があれば機能低下の兆候として早めに手当てします。
注意点として、疾患群によっては「痛みが下がっても PDAS が十分に下がらない」ことがあります(例:非運動器疼痛)。このような場合は、動作特異的な課題分析や回避行動、恐怖回避、抑うつ・不安を同時に是正する介入デザインに切り替えるのが合理的です。
他尺度との組み合わせ(推奨バンドル)
- 痛み強度: NRS(0–10)
- 破局化: PCS(カットオフ 30 周辺)
- 情動: PHQ-4(超短縮、不安・抑うつのスクリーニング)
PDAS は「何がどれくらい生活を妨げているか」を可視化します。痛み強度( NRS )や心理( PCS / PHQ-4 )と重ねて見ると、訓練課題・教育・セルフマネジメントの優先順位づけがスムーズになります。関連の基礎は 疼痛評価スケールの基礎 をどうぞ。
臨床ワークフロー(初診〜フォロー)
- 初診: PDAS + NRS + PHQ-4(必要に応じ PCS )。行動目標を 1–3 個に絞って合意。
- 介入:教育(痛みの理解・回避行動の修正)+有酸素・筋力・曝露ベースの動作練習。
- 再評価:2–4 週ごとに PDAS と NRS を再測定。10 点以上 → 生活障害ありを踏まえ、目標到達の障壁(恐怖回避・睡眠・活動量)を個別修正。
実務の注意
- PDAS は生活障害の縦断トラッキングに向くが、疾患特異度は限定的。必要に応じて疾患特異的尺度(例:腰痛なら RDQ)を併用。
- 尺度の複製・配布は出典を明記。研究利用時は各誌の方針に従い許諾を確認。
参考文献
- Arimura T, Iwaki R, Jensen MP, et al. Development of a Japanese version of the Pain Disability Assessment Scale. Japanese Journal of Behavior Therapy. 1997;23(1):7–15. DOI
- Ase C, et al. PDAS change differs by diagnosis after interdisciplinary pain treatment. Jpn J Society of Pain Clinicians. 2024;31(6):99–105. DOI
- Takahashi N, et al. Multidisciplinary pain management program for chronic pain patients. J Pain Res. 2019;12:2563–2571.(本文に「 PDAS のカットオフは 10 点 」と記載)PMC
- Kroenke K, et al. The PHQ-4: an ultra-brief screening scale. Psychosomatics. 2009;50(6):613–621. PubMed