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この記事は「褥瘡のリスクアセスメントスケール」をキーワードに内容を構成しております。こちらのテーマについて、もともと関心が高く知識を有している方に対しても、ほとんど知識がなくて右も左も分からない方に対しても、有益な情報がお届けできるように心掛けております。それでは早速、内容に移らせていただきます。
日本は2007年に老年人口が21%を超える超高齢社会となり、2024年には30%を超えると推計されています。高齢化率の上昇とともに、高齢者の褥瘡はますます社会的な問題となることが予想されます。
褥瘡とは何故できるのでしょうか?褥瘡が発生する要因には様々なものがあります。例えば、「寝たきりである」「体位変換が少ない」「皮膚が圧迫されたり擦れたりしている」「マットレスが固い」「スキンケアができていない」「栄養状態が悪い」これだけではありませんが、このような発生要因が組み合わされて褥瘡は発生します。
そこで、重要になるのがリスクアセスメントツールを活用した褥瘡の予防になります。
褥瘡対策においては治療と予防が2つの柱になります。筆者の経験から考えると、治療と比較して予防は重要視されないことがある印象があります。しかしながら褥瘡対策において、予防は本当に重要性が高いものになります。高齢者の褥瘡は一度できてしまうと治癒に時間がかかることが多く、できないことに越したことはありません。また、褥瘡は全身状態に影響を与えますので命に直接的に関わります。
そのため、リスクアセスメントツールを活用し、様々な褥瘡発生要因からその対象者の褥瘡発生リスクを評価し、リスクに応じた予防策を実施することが重要になります。リスクアセスメントツールにも様々なものがありますので、それぞれのツールの特徴なども交えて解説していきます。
【簡単に自己紹介】
30代の現役理学療法士になります。
理学療法士として、医療保険分野と介護保険分野の両方で経験を積んできました。
現在は医療機関で入院している患者様を中心に診療させていただいております。
臨床では、様々な悩みや課題に直面することがあります。
そんな悩みや課題をテーマとし、それらを解決するための記事を書かせて頂いております。
現在、理学療法士として得意としている分野は「脳卒中」「褥瘡」「栄養」「呼吸」「摂食・嚥下」「フレイル・サルコペニア」についてです。そのため、これらのジャンルの記事が中心となっております。
主な取得資格は以下の通りです
脳卒中認定理学療法士
褥瘡 創傷ケア認定理学療法士
3学会合同呼吸療法認定士
福祉住環境コーディネーター2級
褥瘡リスクアセスメントスケールとは
褥瘡発生を予測するツールとして「褥瘡リスクアセスメントスケール」というものがあります。
「褥瘡リスクアセスメントスケール」の評価結果に基づく褥瘡予防ケア計画を立案し、実施と評価を繰り返すことにより、褥瘡発生を予防することが期待されます。
本邦では、日本褥瘡学会が「褥瘡予防・管理ガイドライン」を定期的に改訂しており、最新のものでいうと 2022 年 3 月に第 5 版が発行されています。
その中身でも、褥瘡発生を予防するためには、リスクアセスメントスケールを使用することが推奨されており、エビデンスレベルも推奨度 B(根拠があり、行うよう勧められる)となっています。
このように、リスクアセスメントスケールは褥瘡対策に必要不可欠であり、超高齢化社会を突き進む日本の医療や福祉に欠かすことができない標準的な評価尺度になります。
褥瘡発生に関わる危険因子
褥瘡のリスクアセスメントについて検討する際には、危険因子を評価することが重要になります。褥瘡の危険因子にはどのようなものがあるでしょうか。
褥瘡の定義、発生機序から考えると褥瘡の危険因子には「身体に加わる外力」と「皮膚の脆弱性」が大きく関与していることがわかります。
厚生労働省が示す褥瘡の「危険因子の評価」は以下の 7 項目から構成されています。この項目もそれぞれが「身体に加わる外力」と「皮膚の脆弱性」に影響を与える項目となっております。
- 基本的動作能力
- 病的骨突出
- 関節拘縮
- 栄養状態低下
- 皮膚湿潤(多汗、尿失禁、便失禁)
- 皮膚の脆弱性(浮腫)
- 皮膚の脆弱性(スキン- テアの保有、既往)
上記の 7 項目は全て褥瘡発生に関連した重要な要因になります。しかし、実際には褥瘡発生に関わる要因はこれだけではありません。
上図で示したように褥瘡発生には「個体の要因」「環境とケアの要因」「共通の要因」が複雑に絡み合っています。
褥瘡発生を防ぐためには、これらの要因に対して包括的な対策が必要になります。しかし、全ての患者や利用者に対して最高のパフォーマンスを提供することは、マンパワーやコストの観点から困難なところもあります。
そこで科学的根拠をもとに褥療発生の危険度を予測するために作成されたのが褥瘡のリスクアセスメントスケールとなります。
褥瘡発生予測にはリスクアセスメントを行うことが必要であり、そのためにリスクアセスメントスケールというツールを使用することが勧められています。
リスクアセスメントスケールを使用することにより、褥瘡予防に携わるすべての医療従事者間において、共通の認識で情報共有ができるというメリットがあります。
リスクアセスメントスケールを医療従事者間で共通言語にするためには、信頼性と妥当性が高い尺度を使用することが重要となります。そこで、本邦で信頼性と妥当性が認められている 4 種類のリスクアセスメントスケールについてご紹介していきます。
ブレーデンスケール
ブレーデンスケール(Braden Scale)とは、 1986 年に米国のブレーデン(Braden)博士とバーグストローム(Bergstrom)博士が開発した褥瘡発生リスクを予測するリスクアセスメントツールになります。
ブレーデンスケールは以下の 6 項目から構成されています。
- 知覚の認知
- 湿潤
- 活動性
- 可動性
- 栄養状態
- 摩擦とずれ
これらの 6 項目について、1 点(もっとも悪い)から 4 点(もっとも良い)で評価し、合計点を算出します。※「摩擦とずれ」の項目のみ 1 点から 3 点の 3 段階評価
ブレーデンスケールにおけるカットオフ値は、褥瘡発生の危険度の高さを示すことができます。
褥瘡発生リスクについては、身体機能や全身状態も関与していますが、介護力にも左右されます。そのため、ブレーデンスケールでは「病院」と「施設・在宅」で区別されています。
- 病院(入院中):14 点以下
- 施設・在宅:17 点以下
「病院」と「施設・在宅」で点数は異なりますが、上記の点数を下回った場合には褥瘡発生リスクが極めて高いと判断することができます。
ブレーデンスケールについては、他の記事で詳しくまとめています!《【ブレーデンスケール評価方法】褥瘡発生リスクとは【カットオフ値】》こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️
OHスケール
OH スケールは 1998 年から 3 年間にわたる 厚生労働省長寿科学総合研究班による調査を基に作成された褥瘡発生の危険性を評価する指標となり、開発者の大浦・堀田スケールという名称をもとに、OH スケールと呼ばれています。
OH スケールは日本人の高齢者がもつ危険要因である 「自力体位変換能力」「病的骨突出」「浮腫」「関節拘縮」の 4 項目を 0 ~ 10 点満点で評価することで褥瘡発生の危険性を抽出することができます。
合計点によって、褥瘡発生の危険度を段階分けすることが可能であり、合計点数 0 点を危険因子なし、1 ~ 3 点を軽度レベル、4 ~ 6 点を中等度レベル、7 ~ 10 点は高度レベルと判定します。
評価項目が 4 項目と少ないため、短時間で評価することができることが最大の特徴になります。また、合計得点によって、どのようなタイプのマットレスを選択するべきなのかについての指標にもなります。
OH スケールについては、他の記事で詳しくまとめています!《【OHスケールとは】マットレス選定も可能【10点満点の褥瘡評価】》こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️
厚生労働省危険因子評価票
厚生労働省危険因子評価票は入院基本料の算定にも関わるものとなっております。入院基本料を算定するには、それぞれの医療機関に対応する施設基準を満たしたうえで、褥瘡対策の基準を満たすことが必須となっています。
評価項目は「基本的動作能力」「病的骨突出」「関節拘縮」「栄養状態低下」「皮膚湿潤(多汗、尿失禁、便失禁)」「皮膚の脆弱性(浮腫)」「皮膚の脆弱性(スキン-テアの保有、既往)」の 7 項目となっています。
カットオフ値はありませんが、1 つでも「あり」あるいは「できない」項目があれば、専任の医師および看護職員で協力のもと、褥瘡に関する診療計画を立案することになります。
厚生労働省危険因子評価票については、他の記事で詳しくまとめています!《厚生労働省危険因子評価とは?褥瘡リスクアセスメントスケールの1つ》こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️
K式スケール
K式スケールは別名「金沢大学式褥瘡発生予測尺度」とも呼ばれます。当時、金沢大学医学部保健学科教授の真田弘美先生が開発した高齢者のための褥瘡のリスクアセスメントスケールになります。主に病院で使われています。
褥瘡のリスクアセスメントスケールとして、日本の臨床現場に最初に導入されたのはブレーデンスケールでした。
ブレーデンスケールは 6 項目の合計点で判定しますが、項目ごとの評価の解釈が難しく、採点者によって点数にばらつきが生じるというデメリットがあります。また、日本人の高齢者における褥瘡予防として着目すべきポイントである骨突出の項目がありません。
そこで、評価項目に骨突出が組み込まれており、誰が採点しても点数のばらつきが生じにくく、信頼性と予測妥当性が高い K 式スケールが開発されました。
在宅版 K 式スケールは「在宅版褥瘡発生リスクアセスメント・スケール」とも呼ばれています。在宅高齢療養者のために開発されました。
K 式スケールの前段階要因に「介護知識がない」という項目、引き金要因に「栄養」という項目が追加されていることが K 式スケールと在宅版 K 式スケールの違いになります。
K 式スケールについては、他の記事で詳しくまとめています!《【K式スケールの評価方法とは】褥瘡発生リスクアセスメントスケール》こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️
褥瘡の予防の3本柱
褥瘡は一度発生してしまうと治療に時間がかかることが多く、何より患者に多大な負担がかかってしまいます。また、褥瘡治療については難渋することもしばしばあり、一度つくられた褥瘡を治療することは簡単ではありません。
そのため、褥瘡対策で最も重要なことは褥瘡発生リスクを有する対象者に対して、予防策を講じて褥瘡を発生させないことになります。褥瘡予防の中核を担うことになる 3 本柱について解説します。
体圧管理
疾病の影響や意識状態、全身状態によっては自力による寝姿勢の調節、体位交換ができなくなることもあります。
また、寝姿勢の調節や体位交換が可能であったとしても、痩せていて毛細血管が閉塞されやすい状態であったり、感覚障害により痛みや違和感に気づくことができないことも考えられます。
これらのような課題がある場合には、体圧管理の必要性が高くなります。具体的には「体圧分散マットレスの選択」や「体位交換やポジショニングの方法を見直す」必要があります。
【体圧分散マットレスの選択】
対象者の状態にあった体圧分散マットレスを選択する必要があります。
体圧分散マットレスの種類には、素材でみると単一のウレタンフォームによるもの、ウレタンフォーム多層構造のもの、エアークッションと呼ばれる空気量で調節するもの、などのように多様な商品があります。
機能面からみても静止型や圧切替型、あるいはその両方の機能を持つハイブリッド型などに分類することができます。
マットレスの厚さや必要になる機能を含め、対象者の状態に適合したマットレスを選定する必要があります。
【体位交換やポジショニングの方法を見直す】
自力での体位変換が不可能な患者さんに対しては、基本的に同じ体位が 2 時間以上続かないように定期的に体位変換を行い、体圧管理を行う必要があるとされています。
医療機関や施設の形態にもよりますが、実際に 2 時間ごとに全患者を体位交換することは至難の業であり、「適切な体圧分散マットレスの使用」および「ポジショニング」が実施されている場合には、4 時間を超えない時間間隔で体位変換することが推奨されるといわれています。
また、体圧分散マットレスの使用や体位変換、ポジショニングのみならず、体位変換後にポジショニンググローブを使用して圧抜き、背抜きを実施することも体圧管理の視点から重要になります。
体圧分散マットレスについては、他の記事で詳しくまとめています!《【体圧分散マットレスの種類と選び方】褥瘡予防に必要な耐圧分散性能》こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️
栄養管理
褥瘡予防の栄養管理の基本は、低栄養の回避と栄養状態の改善になります。栄養不良や低栄養状態は褥瘡予防において、あらゆる問題を生じさせます。
栄養不良は、免疫力の低下から感染や炎症のリスクが高く、組織の代謝障害や循環障害を起こす可能性を高くします。更に、低栄養では ADL が低下するため、臥床時間を延長させるとともに組織の耐久性を低下させ、褥瘡発生の素地が作られます。
体重が減少すると皮下脂肪が減少し、骨格と床面との緩衝作用の役割が果たせなくなってしまいます。その状態で皮下の骨突出がみられれば、皮膚の自重による圧迫が皮下組織の耐久性を越え、潰瘍や壊死が発生し、褥瘡が形成されます。
褥瘡の予防には、日頃から栄養状態の評価を行
い、栄養改善に努めることが必要となります。また、褥瘡を有する患者では、既に基盤に慢性化した低栄養を有することが多いため、褥瘡を有するほとんどの症例で、栄養改善に取り組む必要があります。
栄養管理においては、栄養状態のスクリーニングも重要になります。栄養スクリーニングツールとして代表的な SGA(主観的包括的栄養評価)や MNA-SF(Mini Nutritional Assessment-Short Form)を活用して低栄養のリスクを抽出し、栄養状態の判定、予防や治療の効果判定を行うことが褥瘡対策に繋がります。
栄養状態のスクリーニングについては、他の記事で詳しくまとめています!《【低栄養のスクリーニング方法8選まとめ】栄養障害のリスクを抽出》こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️
スキンケア
スキンケアのポイントは洗浄、保湿、保護の3つになります。この3つを予防的ケアとして実践することで褥瘡予防に直接的に繋がります。
褥瘡になりやすい皮膚の状態としては、尿や便失禁による湿潤があります。皮膚の湿潤は皮膚そのもののバリア機能の破綻が生じるため、皮膚損傷が生じやすくなります。また、便による皮膚刺激についても、化学的刺激となるため皮膚トラブルの原因となります。
スキンケアにおいて大切なことは、正常な皮膚の状態の維持と正常な皮膚の状態に近づけることになります。
皮膚は体の臓器の中で最も大きな臓器であり、その機能はとても重要です。皮膚の角層部分は外部の刺激から皮膚を守るバリア機能、保湿機能を持っています。
その機能を維持するためには、適宜バリア機能、保湿機能を果たす成分を持つスキンケア用品によるケアをすることによりスキントラブルを起こしにくい状態にします。
バリア機能がなくなることにより保湿機能も低下し外部刺激が入りやすくなります。この状況は、外部から化学的刺激(排泄物・医療用テープの粘着成分・細菌)や物理的刺激(褥瘡の原因となる圧迫・摩擦・ずれ・外傷)を受けやすくなります。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます!
この記事では「褥瘡のリスクアセスメントスケール」をキーワードに解説させて頂きました。
こちらの記事を読むことで褥瘡のリスクアセスメントスケールについての理解が深まり、臨床に欠かすことができない褥瘡対策への一助へとなれば幸いです。
参考文献
- 岡田克之.褥瘡のリスクアセスメントと予防対策.日本老年医学会雑誌,50巻,5号,2013:9,p583-591.
- 寺師浩人.褥瘡.日本老年医学会雑誌.47巻,5号,2010:9,p396-398.
- 大桑麻由美.褥瘡発生の予測とリスクアセスメント.臨床栄養.138(6),p834-837,2021.
- 井上加奈子.褥瘡.消化器ナーシング.29(7),p606-615,2024.