エネルギー必要量の計算式と係数ガイド

栄養・嚥下
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エネルギー必要量の計算式(結論)

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エネルギー必要量(TEE, kcal/日)は TEE = BEE × 活動係数 (AF) × ストレス係数 (SF) で算出します。BEE は推定式(Mifflin-St Jeor/改訂 Harris-Benedict)または間接熱量測定で求めます。臨床では kcal/kg 法(例:25–30 kcal/kg/日)も補助的に使い、両者の整合で最終値を決めます。重症や変動が大きい症例では間接熱量測定を第一選択にします。

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活動係数(AF)の目安

活動係数の目安(成人・2025 年版/院内プロトコルがあればそれを優先)
状態 AF メモ
臥床主体1.20安静、離床ごく少量
軽い離床1.30–1.40リハ/ADL 少量
日常生活主体1.50–1.60通常の ADL レベル
作業・運動あり1.70–1.80労作・運動を伴う
高い活動1.90–2.00重労作など

ストレス係数(SF)の目安

ストレス係数の目安(成人・2025 年版/病態に応じてレンジで運用)
病態 SF メモ
術後(軽〜中等)1.10–1.20経過良好時
感染症1.20–1.30肺炎など
敗血症/多発外傷1.30–1.50重症度で調整
熱傷1.50–2.00広範囲で高め
慢性呼吸不全増悪1.20–1.30COPD 増悪など

※ 係数は目安です。可能なら間接熱量測定や院内ガイドラインを優先し、個別条件(高齢・肥満・臓器障害・発熱など)で過不足を見直します。

BEE の推定式(成人)

表記ゆれ対策:Mifflin-St Jeor = MSJ、Harris-Benedict(改訂 Roza & Shizgal, 1984)= 改訂ハリス

Mifflin-St Jeor(一般成人で実用性が高い)

  • 男性:BEE = 10×体重(kg) + 6.25×身長(cm) − 5×年齢(歳) + 5
  • 女性:BEE = 10×体重(kg) + 6.25×身長(cm) − 5×年齢(歳) − 161

改訂 Harris-Benedict

  • 男性:BEE = 13.397×体重 + 4.799×身長 − 5.677×年齢 + 88.362
  • 女性:BEE = 9.247×体重 + 3.098×身長 − 4.330×年齢 + 447.593

日本人成人では、国内検証で Mifflin の妥当性が相対的に高い報告があります。施設プロトコルに従い、方法を固定して運用してください。

kcal/kg 法の使いどころ

kcal/kg 法の目安(成人・2025 年版)
状況推奨レンジ補足
一般病棟25–30 kcal/kg/日体重は通常 BW。肥満は ABW/IBW 検討
高齢・低活動23–27 kcal/kg/日サルコペニア・フレイルで過小評価に注意
リハ強度高め28–33 kcal/kg/日活動量に応じて調整

例題:推定式の違いと算出の手順

  1. 推定式で BEE を計算(例:MSJ と改訂ハリスの両方)。
  2. 活動係数 AF とストレス係数 SF を選定。
  3. TEE = BEE × AF × SF を算出。
  4. kcal/kg 法でも概算し、乖離が大きければ前提(体重・係数)を再チェック。
  • 例(68 歳・男性・60 kg・165 cm):MSJ ≈ 1,286 kcal/日、改訂ハリス ≈ 1,375 kcal/日 → 本例では約 +7% の差。AF 1.5・SF 1.2 なら TEE は約 2,315 vs 2,475 kcal/日。

実践編:リハビリテーションで必要エネルギー量を決める臨床的思考

式(TEE = BEE × AF × SFkcal/kg)は出発点です。臨床では「いま必要な目標値」を、病期・活動量・病態ストレス・摂取量・合併症のバランスで決め、毎日見直す運用が要点です。以下は現場で使いやすい手順とチェックポイントです。

ワークフロー(5 ステップ)

  1. 前提整理:病期(急性・回復期・生活期)、病態(術後・感染・熱傷など)、体重/BMI、摂取経路(経口/経管/静脈)を確認。
  2. 方法選択:可能なら間接熱量測定。なければ BEE(MSJ/改訂ハリス)と AFSFで TEE、併せて kcal/kgも試算。
  3. リハ計画と整合:当日のリハ負荷(時間・内容・到達距離など)と AF の妥当性を合わせる。
  4. 安全側の初期値:嚥下や代謝負荷が読みにくい場合はレンジの下端から開始し、摂取率/症状を見て段階的に増量。
  5. 毎日再評価:摂取率、体重/浮腫、便通、離床量、バイタル、創/褥瘡の治癒傾向などで 過不足を判断し再見直し。

リハ負荷と活動係数(AF)の整合

当日のリハ負荷と AF の目安(成人・2025 年版/施設プロトコルを優先)
リハ負荷(例) 日内活動の目安 推奨 AF 注意点
ベッド上中心・離床ごく少量 起き上がり・端座位訓練が中心 1.20 食事量・嚥下機能により過不足変動
20–40 分 × 1–2 回 立位保持・数十 m 歩行など 1.30–1.40 離床が安定し始めた時期
40–60 分 × 2 回 歩行訓練+ADL 練習 1.50–1.60 食事摂取率や疲労蓄積に注意
高負荷訓練・作業量多 階段・長距離歩行・重作業 1.70–1.80 水分/電解質と回復休息の確保

再見直しトリガー(毎日チェック)

日々の観察と再見直しの目安(成人・2025 年版)
項目 観察ポイント 再見直しの目安
摂取率 経口/経管の実摂取量 70% 未満が 2 日以上続く
体重・浮腫 日々の変化と水分バランス 週 ±0.5–1.0 kg を超える変動
便通・消化 便秘/下痢/嘔気の有無 便秘 3 日以上 or 下痢持続
離床量/歩数 セッション時間・距離 予定より活動量が大きく乖離
創/褥瘡・疲労感 治癒傾向・倦怠/易疲労 治癒停滞・疲労蓄積の兆候

ケーススタディ(例)

回復期・脳卒中(68 歳・男性・60 kg・165 cm)
  • 前提:40–60 分 × 2 回の歩行/ADL。感染なし。
  • 推定:BEE(MSJ)≈ 1,286 kcal/日。AF 1.5 前後、SF 1.1–1.2。
  • TEE 例:1,286 × 1.5 × 1.2 ≈ 2,315 kcal/日(レンジ 2,100–2,300)。
  • kcal/kg 参考:60 × 27 = 1,620 kcal/日。
  • 判断:摂取率や疲労感をみながら 1,800–2,200 kcal/日 で漸増。離床がさらに伸びれば上方調整。
高齢フレイル(78 歳・女性・50 kg・150 cm)
  • 前提:臥床主体、嚥下軽度不安、離床は短時間。
  • 推定:BEE(MSJ)≈ 887 kcal/日。AF 1.2、SF 1.2。
  • TEE 例:887 × 1.2 × 1.2 ≈ 1,276 kcal/日
  • kcal/kg 参考:50 × 23–27 = 1,150–1,350 kcal/日
  • 判断:まず 1,200–1,300 kcal/日 で開始し、摂取率と体重推移で微調整。
COPD 増悪後(72 歳・男性・55 kg・170 cm)
  • 前提:離床は 20–40 分×1–2 回、軽い作業。呼吸仕事量がやや高い。
  • 推定:BEE(MSJ)≈ 1,258 kcal/日。AF 1.3、SF 1.25。
  • TEE 例:1,258 × 1.3 × 1.25 ≈ 2,046 kcal/日
  • kcal/kg 参考:55 × 27–30 = 1,485–1,650 kcal/日
  • 判断:CO2 貯留リスクや食欲を考慮し 1,700–1,900 kcal/日 から開始、呼吸状態と活動量で段階的に増量。

コツ:単一点ではなくレンジで設定し、摂取率・活動量・浮腫で微調整。院内プロトコルがあればそれを優先し、記録シートに根拠と採用理由を残します。

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FAQ

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

ストレス係数の「求め方」は?

まずは院内プロトコルを最優先。なければ病態別レンジ(術後 1.10–1.20/感染 1.20–1.30/敗血症 1.30–1.50/熱傷 1.50–2.00 など)から開始し、炎症所見・敗血症の重症度・創治癒・離床量の推移で段階的に微調整します。重症例では可能なら間接熱量測定を優先します。

ICU 症例でも係数で計算して良い?

測定可能なら間接熱量測定を第一選択とします。測定不可の場合は係数法で暫定値を決め、循環・呼吸・代謝の変動に応じて頻回に再評価します。

肥満(BMI ≥ 30)のとき体重はどう使う?

kcal/kg 法では 調整体重(ABW)IBW の採用を検討します。推定式では施設方針に従い、過小・過大評価のリスクを説明した上で方法を固定してください。

Mifflin と改訂ハリス、どちらを使えば良い?

一般成人では Mifflin の実用性が高い報告が多く、国内検証でも良好です。施設としての「標準式」を決め、同一患者内での比較可能性を確保するのが実務的です。

参考文献

  1. Mifflin MD, et al. A new predictive equation for resting energy expenditure in healthy individuals. Am J Clin Nutr 1990;51(2):241–247. PubMed/DOI
  2. Roza AM, Shizgal HM. The Harris-Benedict equation reevaluated. Am J Clin Nutr 1984;40(1):168–182. PubMed/DOI
  3. Miyake R, et al. Validity of predictive equations for basal metabolic rate in Japanese adults. J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo) 2011;57(3):224–232. PubMed/DOI
  4. Singer P, et al. ESPEN guideline on clinical nutrition in the ICU. Clin Nutr 2019;38(1):48–79. PubMed/DOI
  5. 国立健康・栄養研究所:基礎代謝量の推定(日本人向け解説)。公式ページ

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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