ジェントルスティムとは?【嚥下・咳反射を中心に安全に活用する】
嚥下・呼吸の介入は「順番」を固定すると、安全性と再現性が上がります。 理学療法の考え方を体系で復習する(流れを固定)
ジェントルスティムは、低強度の触覚・固有感覚刺激(必要に応じて微弱な電気刺激を併用)で、嚥下反射・咳反射の立ち上げ/維持を支える介入です。強く“効かせる”より、弱く・短く・一定の入力で「反応が出る準備状態」を作り、次の課題へつなげます。
本記事は、まず禁忌・中止基準を先に固定し、その上で部位(貼付/刺激)・時間・頻度の目安、観察できた反応をADL(食事・口腔ケア・排痰)へ橋渡しする手順をまとめます。嚥下・栄養の全体像は 嚥下・栄養ハブ に整理しています(本文内のインライン内部リンクは本項のみ)。
現場の詰まりどころ:どこで事故が起きやすい?
ジェントルスティムでつまずきやすいのは、①禁忌の見落とし、②“反応が出ない”のに続ける、③反応を ADL に接続せず終わるの 3 点です。手技そのものより、中止できる条件と次にやる課題をセットで持つと、安全に回ります。
特に、前頸部・口腔内などの直接刺激は、施設の教育・許可・手順書が前提になりやすい領域です。本記事は、まず誰でも始めやすい間接入力(姿勢・胸郭・四肢)を軸に、反応が出たら“次へ進む”考え方で整理します。
嚥下・咳反射とジェントルスティムの関係
ねらい:口腔〜咽頭・喉頭周囲の感覚入力に加え、胸郭・体幹・手掌/足底などの固有感覚入力を「弱く・短く・一定」で与え、反射閾値を下げる/準備状態を高めることです。反応が出たら、その場で“次課題”へ移行します(刺激を長く続けるほど良い、ではありません)。
前頸部や口腔内・咽頭内の直接刺激、特定機器( NMES 等)の設定・貼付は、施設によって専門手技に分類されます。実施範囲は必ず施設 SOP と指示に合わせ、本記事は安全に始めやすい間接入力部位を中心に解説します。
| 入力部位(例) | 期待反応/目的 | 専門手技の扱い | 注意 |
|---|---|---|---|
| 口唇・頬・顎(軽擦/タッピング) | 覚醒・注意喚起、口唇閉鎖準備、取り込み動作の立ち上げ | 不要(一般的手技で可) | 強刺激・疼痛は厳禁。皮膚病変部は避ける |
| 手掌/足底・肩甲帯・体幹側腹部 | 姿勢反応↑・体位安定→嚥下時の姿勢保持、呼吸パターンの整え | 不要 | 短時間で様子を見る。バイタル変動に注意 |
| 胸郭前外側・肋間周囲 | 呼気流誘導・胸郭拡張→咳の予備力/呼気圧の準備 | 不要 | 疼痛部位・骨折部は避ける |
| 舌/口蓋/口峡(サーマル/タクタイル) | 咽頭期嚥下トリガー促通・反射閾値の低下 | 必要(専門教育・許可) | 衛生・誤嚥リスク管理を厳守 |
| 前頸部・喉頭周囲( NMES 等) | 喉頭挙上群の反応性向上、咳支援への移行 | 必要(専門教育・許可) | 禁忌/出力/電極位置は施設基準に準拠 |
禁忌・中止基準(メーカー資料準拠+臨床共通)
要点:妊産婦は使用不可。植込み型デバイス周囲は原則避ける。皮膚トラブル時は使用しない/直ちに中止。小児や意思表示が困難な方は、介護者等の管理下でのみ使用します。
臨床では「続けない判断」が最重要です。次の中止基準を先に共有し、セッション中に 1 つでも該当したらその場で終了→観察→記録へ切り替えます。
メーカー資料に基づく「禁忌・禁止」
- 妊産婦:使用しない(安全性未確認)。
- 小児/意思表示困難: 12 歳以下や意思表示困難者は、介護者なしで使用しない。
- 併用医療機器:ペースメーカー/ ICD などの植込み型電子医療機器周囲、電気メスとの併用は避ける。
- 電極の扱い:専用電極のみ使用。通電中に電極位置を動かさない。装着不良・劣化は局所の疼痛・発赤(軽度熱傷)原因。
- 皮膚状態:装着でかゆみ・かぶれ等が出たら中止。傷やかぶれのある部位、かぶれやすい方への使用は避ける。
臨床での「中止基準」(共通)
- 症状悪化:疼痛/不快の増悪、不穏・拒否、悪心・めまい、呼吸苦。
- バイタル逸脱: SpO₂ 低下、著明な頻脈/徐脈、血圧の急変。
- ライン/創部トラブル:ドレーン・酸素・点滴ライン牽引、出血、創部異常。
安全に始めるポイント
- 開始条件:説明・同意 → 体位と導線を整える → まずは「弱く・短く・一定」。
- 時間/頻度: 1 部位 30–60 秒 × 2–3 セット、セッション 5–10 分、 1–2 回/日(施設 SOP /医師指示を優先)。
- 貼付の基本:前頸部や植込み機器周囲は避ける。皮膚清潔・密着を確認し、専用電極を使用。
- 記録:反応(即時/短期)・バイタル・次回条件(部位/時間/強度)を残す。
使い方(貼付/刺激・時間・頻度・手順)
基本は 5 ステップ:①説明・同意 → ②安全確認(体位/導線/バイタル) → ③刺激(弱く・短く・一定) → ④反応モニタ → ⑤記録(反応/時間/安全/次回条件)
ポイントは「刺激の上達」より「反応が出たら次課題へ」です。反応が出ないまま続けるのではなく、部位を変える/姿勢を整える/一旦やめる、の判断を優先します。
時間・頻度の目安
- 1 部位: 30–60 秒 × 2–3 セット(反応が出たら一旦休止し、持続可否を評価)
- 1 セッション: 5–10 分(状態により短縮可)/頻度: 1–2 回/日
- 強度:「快適・痛みなし」。不快/バイタル変動で即中止
貼付/刺激の実例(嚥下・咳反射を意識)
| 目的 | 安全に始めやすい部位 | 専門的領域に該当する部位 | 次に行う課題 |
|---|---|---|---|
| 嚥下反射の準備 | 口唇/頬・顎周囲、肩甲帯、体幹側腹部(姿勢安定) | 口腔内/咽頭内刺激、前頸部の機器刺激(教育・許可が必要) | 嚥下姿勢セット → 段階的摂食の準備運動 |
| 咳反射の準備 | 胸郭前外側・肋間、手掌/足底(覚醒) | 喉頭周囲への機器刺激(教育・許可が必要) | 呼気誘導 → 「ホッ」発声 → 段階的な咳支援 |
| 姿勢/体位保持 | 体幹・骨盤帯、肩甲骨内側縁(固有感覚) | — | 座位 1–2 分 → 食事前の準備動作へ |
OK/NG 早見表(安全の要点)
| 区分 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| OK | 声掛け → 軽擦/短刺激 → 姿勢安定 → 短時間 → 記録 | 弱く・一定・様子を見ながら。反応が出たら休止して次課題へ遷移 |
| NG | 突然の強刺激/疼痛誘発/無監視/長時間固定 | 前頸部の直接刺激や高出力機器は、施設基準外では行わない |
効果の見取り → ADL へのつなげ方
ジェントルスティムは「その場での反応」を拾えたときに価値が出ます。即時効果(開眼・追視・表情・発声・随意運動/嚥下誘発/咳誘発)を確認したら、その場で次の機能課題へ橋渡しします。短期では参加時間・応答性・食事/口腔ケアの受容が指標になり、最終的に経口摂取の再開・誤嚥性肺炎予防・安全行動へ接続します。
逆に、反応が曖昧なまま刺激を続けても、 ADL は変わりにくいです。「反応が出た → 次をやる」を型にすると、チームで共有しやすく、再現性も上がります。
| 観察された反応 | 次に行う課題 | ADL /アウトカム |
|---|---|---|
| 嚥下誘発/口腔準備の改善 | 嚥下姿勢セット → 段階的摂食 → 食後体位管理 | 経口摂取の再開・増量、誤嚥予防 |
| 咳誘発/呼気圧の向上 | 呼気誘導 → 咳支援 → 気道クリアランスの習慣化 | 排痰効率↑、感染/誤嚥性肺炎リスク低下 |
| 開眼・応答性の改善 | 座位保持 → 食事/口腔ケア受け入れ → 依頼動作 | 食事・整容の自立度↑、安全行動(コール)の実行 |
実施体制メモ(職種を問わない共通ルール)
- 専門手技の定義:前頸部/咽頭内の刺激や特定機器の出力設定など、施設が「教育・許可」を要すると定める手技。
- 一般手技:手掌・足底・肩甲帯・体幹・胸郭周囲などの短時間・低強度刺激。禁忌と中止基準を遵守。
- 共有:反応(即時/短期)、バイタル、次回の条件(部位/時間/強度)を残し、チームで申し送り。
ダウンロード(クリックで保存/ A4 印刷向け)
- 安全チェック&中止基準( A4 ) —— 適応外/中止条件のチェックリスト
- 手順フロー( 5 ステップ, A4 ) —— 準備 → 安全確認 → 刺激 → モニタ → 記録
- 反応ログシート( A4 ) —— 即時反応・バイタル・次回条件を記録
- SpO₂ STOP カード( A4 ) —— 中止の判断基準を即確認
参考資料
FAQ
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
1 回の実施時間と頻度は?
1 部位 30–60 秒 × 2–3 セット、セッション 5–10 分を目安に 1–2 回/日。反応・疲労・バイタルに応じて短縮します。
「反応が出ない」ときは、強くすればいい?
基本はおすすめしません。強刺激は不快やバイタル変動の原因になりやすいです。まずは「姿勢(座位・頸部・体幹)」「呼気の流れ」「部位の変更」「短く区切って休止」を優先し、反応が出たタイミングで次課題へ移行します。
前頸部や咽頭内の刺激は行ってよい?
専門手技に該当します。施設の教育・許可・手順書に従い、禁忌・出力・電極位置を厳守してください。
記録は何を書けば、次回につながる?
「部位/時間/強度(快適か)」「即時反応(嚥下・咳・発声・表情)」「バイタル」「次に行った課題(座位保持・呼気誘導・段階摂食など)」の 4 点が揃うと、再現性が上がります。
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


