痛みの評価スケールの使い分け【成人・小児・認知症・神経障害性・生活影響を 1 ページで】
痛みの評価スケールは、対象や場面によって「最適解」が変わります。本記事では、成人の自己申告から小児・認知症・神経障害性疼痛・生活影響までを 1 ページで俯瞰し、臨床で迷わないための「使い分けの型」を整理します。スコアはゴールではなく、機能・活動・参加の変化とセットで記録し、介入の前後比較につなげていきましょう。
この記事の使い方
まずは「対象別のおすすめ早見表」をざっと見て、自施設の患者層に合うスケールを 1〜2 種類に絞って運用するのがおすすめです。各セクションでは、選択ポイント(何を優先するか)と落とし穴(ブレやすい条件)、そして記録テンプレの例を示します。強さ評価( NRS / VAS / VRS / FPS-R )の詳説は 痛みの強さの評価 を参照してください。
| 対象 / 場面 | 第一選択 | 補助 / 併用 | 使いどころ | 落とし穴 |
|---|---|---|---|---|
| 成人(自己申告) | NRS( 0〜10 ) | VAS / VRS | 外来・病棟・在宅の定点観測 | 説明文や測定条件(安静 / 運動 / 夜間)が毎回ブレる |
| 小児( 3 歳以上) | FPS-R | 必要に応じて FLACC | 短い声かけで自己申告を引き出したい | 表情に感情ラベルを付けて誘導してしまう |
| 小児(自己申告困難) | FLACC | 鎮痛前後で再評価 | 乳幼児・術後・集中治療など | 観察タイミングが固定されず比較できない |
| 認知症(言語訴えが難しい) | PAINAD / Abbey | 行動・睡眠・摂食の変化 | ケア前後・離床前後での観察 | スコアが低い=痛みなし、と誤解する |
| 神経障害性疼痛が疑わしい | DN4(スクリーニング) | 所見の地図化(デルマトーム等) | しびれ・電撃痛・灼熱感など | 「診断」と誤解して結論を急ぐ |
| 慢性痛(生活影響が主) | BPI / PDAS | 行動指標(歩行距離など) | 週次フォローで小さな変化を可視化 | 強さだけを追って“できたこと”が残らない |
現場の詰まりどころ:スケールより「条件固定」が先
痛み評価で一番起きやすい失敗は、「どのスケールを選ぶか」よりも測る条件が毎回変わってしまうことです。たとえば同じ NRS でも、ある日は安静時、別の日は歩行直後、さらに別の日は夜間痛の話…となると、数値が上下しても意味づけができません。まずは定点(安静 / 運動 / 夜間のうち 1〜3 点)を決めて、同じ説明文で反復し、比較できる“軸”をつくります。
もう 1 つは、強さの変化だけで終わってしまうことです。慢性痛では、強さが大きく変わらなくても「歩ける距離が伸びた」「睡眠が安定した」「家事が再開できた」など生活の回復が先に出ることがあります。強さと同時に行動(活動・参加)を 1 つだけでも固定して記録すると、介入調整と患者教育が進めやすくなります。
参考:面談準備チェック( A4 )と職場評価シート( A4 )をまとめて使うなら、こちら(無料ダウンロード)が便利です。
成人の自己申告:NRS / VAS / VRS の選び方
成人ではまず NRS( 0〜10 )を標準スケールとして揃え、説明文(アンカー)と測定条件(安静 / 運動 / 夜間など)をプロトコル化します。研究的精度が必要で微小変化を拾いたい場合は VAS( 10 cm )を、理解度や認知負荷に配慮したい場合は VRS を選択します。いずれも同じ文言・同じ条件で反復し、時系列での変化を追うことが大切です。
実務では「最強時・現在・活動時(または ADL 時)」の 3 点セットが使いやすい型です。たとえばカンファレンスでは「現在 4、活動時 7、最強時 8」で話が通りやすく、介入(運動負荷・動作指導・環境調整)を調整しやすくなります。
小児:FPS-R と FLACC(非言語)
自己申告が可能な 3 歳以上では、顔のイラストを用いる FPS-R( 0・2・4・6・8・10 )が第一選択です。表情に「悲しい」「怒った」などの感情ラベルを付けると誘導が起きやすいため、声かけは短く一貫させます。自己申告が難しい乳幼児や術後の一時的な評価には、行動観察の FLACC(顔・脚・活動・泣き・なだめ)を用います。
小児では「いつの痛みか」が特に重要です。例:歩行後 5 分、母子分離直後、鎮痛投与 30 分後など、場面とセットで記録します。場面が固定されると、介入の効果や悪化サインを捉えやすくなります。
認知症:PAINAD / Abbey Pain Scale
認知症で言語的な訴えが難しい場合は、観察尺度を第一選択とします。PAINAD は「呼吸・発声・表情・身体言語・慰撫可能性」を 0〜2 点で採点し、合計 0〜10 点。Abbey は 6 項目を 0〜3 点で評価します。評価は、環境を整えた状態やケア直前 / 直後などタイミングを標準化し、複数職種が同じ場面でスコアを確認できるようにしておきます。
スコアが低いからといって「痛みなし」とは限りません。基礎疾患や行動変化、睡眠・摂食リズムの乱れ、不穏の出現なども合わせて判断します。必要に応じて姿勢・ポジショニング調整、温罨法、軽い運動などの試験的介入を行い、再評価で反応を見ることが重要です。
神経障害性疼痛:DN4(スクリーニング)
しびれ・電撃様の痛み・灼熱感など、神経障害性疼痛が疑われる場合は DN4 によるスクリーニングを行います(質問項目 + 触覚 / ピンプリック所見)。スコア閾値で確定診断はできませんが、「神経障害性の可能性が高い層」を抽出し、神経診察や薬物選択、運動戦略の検討につなげるのに有用です。
臨床では、評価結果に加えて「デルマトーム・皮神経に沿った痛みの地図」「温冷・軽擦・伸張での増悪 / 寛解パターン」を短くメモしておくと、負荷量や動作指導(回避・代償・段階づけ)を調整しやすくなります。
生活影響:BPI / PDAS の活用
BPI は「痛みの強度 + 生活干渉(歩行・仕事・睡眠・気分など)」を一体で把握でき、慢性痛のゴール設定や患者教育に直結します。PDAS は生活障害のスクリーニングに適しており、強さだけでは見えにくい“困りごと”を拾いやすい点がメリットです。
これらは週単位の定点観測が効果的です。「 NRS 6 → 3、生活影響スコア 18 → 9、歩行 200 m → 600 m 」のように、数値 + 行動(機能・活動)をセットで残すと、介入調整とセルフマネジメント支援が進めやすくなります。
運用テンプレ:記録を “同じ形” にする
| 項目 | 推奨フォーマット | ポイント |
|---|---|---|
| 強さ | NRS(安静 / 運動 / 夜間) | 定点( 1〜3 点)を固定して比較可能にする |
| 性状 | 刺す・灼熱・しびれ・締め付け(複数可) | 神経障害性が疑わしいときの判断材料になる |
| 部位 | 体表マップ(右 / 左・分布のメモ) | 「広がる / 集中する」など変化も短く追記 |
| 生活影響 | BPI / PDAS(合計 + 代表項目) | 週次フォローで小さな回復を可視化する |
| 行動・機能 | 歩行距離、階段段数、家事時間、睡眠時間 など | “できたこと” を 1 つ固定すると継続しやすい |
| 教育・セルフケア | ペーシング、運動メニュー( EIH を意識) | 介入内容の変更点を 1 行で残す |
次の一手:明日から迷わない運用に落とす
- まずは成人患者で「 NRS(安静 / 活動時 / 夜間) のうち 2 点」など、定点を決めて説明文を固定する
- 慢性痛では「生活影響( BPI / PDAS ) + 行動指標 1 つ」を週次で追い、介入の前後比較に使う
- 関連:痛みの強さの評価( NRS / VAS / VRS / FPS-R )
- 関連:PDAS:慢性痛の生活影響を測る
- 評価の全体像を整理したい場合:評価ハブ
参考文献
- Raja SN, et al. The revised IASP definition of pain. Pain. 2020. doi: 10.1097/j.pain.0000000000001939
- Hjermstad MJ, et al. Studies comparing numerical rating scales, verbal rating scales, and visual analogue scales for assessment of pain intensity. J Pain Symptom Manage. 2011. doi: 10.1016/j.jpainsymman.2010.08.016
- Hicks CL, et al. The Faces Pain Scale–Revised: toward a common metric in pediatric pain measurement. Pain. 2001. doi: 10.1016/S0304-3959(01)00314-1
- Merkel SI, et al. The FLACC: a behavioral scale for scoring postoperative pain in young children. Pediatrics. 1997. PubMed: 9220806
- Warden V, et al. Development and psychometric evaluation of the Pain Assessment in Advanced Dementia (PAINAD) scale. J Am Med Dir Assoc. 2003. doi: 10.1097/01.JAM.0000043422.31640.F7
- Abbey J, et al. The Abbey pain scale: a 1-minute numerical indicator for people with end-stage dementia. Int J Palliat Nurs. 2004. doi: 10.12968/ijpn.2004.10.1.12013
- Bouhassira D, et al. Comparison of pain syndromes associated with nervous or somatic lesions and development of a new neuropathic pain diagnostic questionnaire (DN4). Pain. 2005;114(1–2):29–36. PubMed: 15733628
- Cleeland CS, Ryan KM. Pain assessment: global use of the Brief Pain Inventory. Ann Acad Med Singapore. 1994. PubMed: 8080219
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


