在宅・訪問リハの栄養評価とスクリーニング

栄養・嚥下
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在宅・訪問リハで なぜ “採血なし” を整えるのか

「採血データがなくても栄養は見られる?」に答えます。MST/MUST/MNA-SF を 5 分で回す在宅・訪問リハ向けの導入手順、週次の記録テンプレ、GLIM 連携のコツまで。通所・施設を含め、今日から運用できる形にまとめました。

働き方に迷ったら「PTキャリアガイド」もどうぞ

地域や在宅・施設では、初回評価の時点で採血データが手元にないケースが少なくありません。その結果、栄養評価が「採血結果が揃ってから」と後回しになり、歩行・ ADL ・褥瘡・サルコペニアの改善が頭打ちになることがあります。在宅の栄養評価・栄養スクリーニングを「採血前提」にしてしまうと、訪問リハの介入設計そのものが遅れてしまいます。

本稿では、採血を前提としない MST/MUST/MNA-SF を在宅・訪問リハ・施設共通の標準セットとして位置づけ、初回 5 分でリスク層別 → 翌週の再評価までを一気通貫で回す具体策を示します。陽性であれば、体重・摂取量・間食プラン・活動量( Ex )の「 1 週間目標」を設定し、管理栄養士や主治医と共有します。診断が必要な場面は GLIM による栄養アセスメント(表現型+病因)で統一し、必要に応じて採血や身体計測を追加します。詳細は 高齢者の栄養設定ガイド も参照ください。

在宅・施設での導入手順(初回 5 分プロトコル)

在宅・訪問リハの初回評価では、まず ① MST(体重減少・摂取量)で最速トリアージ → ② MUST( BMI ・体重減少・急性疾患)で在宅向けリスク層別 → ③ MNA-SF( 6 項目)で高齢者の取りこぼし防止、の順で評価します。判定が陽性なら、体重・摂取量( kcal/日 )・間食・活動量( Ex/週 )の週間目標を 1 枚にまとめ、翌週の訪問や通所時に再評価します。

ここで押さえたいのは、「スクリーニング=診断」ではない点です。スクリーニングは在宅・施設での栄養リスクの拾い上げ、診断・重症度は GLIM(表現型+病因)で統一し、必要に応じて採血や身体計測を追加します。いわば「訪問・在宅の栄養評価 → GLIM による診断」という二段構えにしておくイメージです(参考:GLIM 2019)。

採血なし 3 ツールの比較(在宅・施設向け)

在宅・施設では「トリアージ → 層別 → 高齢者の取りこぼし防止」の順で 3 つを回すのが実用的です。下表はスマホで横スクロールできます。訪問リハでの栄養スクリーニングに慣れていないスタッフにも、「どの場面でどのツールを使うか」が共有しやすくなります。

各ツールは “週次再評価” を前提にし、体重・摂取量・サイン(浮腫・褥瘡・筋量低下)と機能指標の並行改善を確認します。いわば、在宅の栄養アセスメントの入口として 3 ツールを位置づけるイメージです。

在宅・施設での採血なし栄養スクリーニング運用(成人・2025 年版)
ツール 所要 強み 注意点 使いどころ 院内解説
MST 約 1 分 最速トリアージ( 2 項目 ) 偽陽性は後段で整理 在宅初回訪問・施設入所時の全例 手順・採点
MUST 約 3 分 在宅で運用しやすい BMI 計測体制が前提 在宅・訪問リハの標準として 手順・採点
MNA-SF 3–5 分 高齢者での妥当性が豊富 主観項目の聞き取り精度 65 歳以上には必ず 手順・採点

週次の記録テンプレ(コピペ可)

クリックで全選択 → コピーできます。在宅・施設内配布や多職種連携メモにも使いやすい 1 枚フォーマットです。訪問ごとに 1 行ずつ追記していくだけでも、在宅の栄養評価の継続性がぐっと上がります。

次週目標は「数値+頻度+期間」で具体化し、体重・摂取量・ Ex を 1 週間単位で可視化します。歩行距離や転倒リスク評価と並べておくと、リハビリテーション全体の優先順位も共有しやすくなります。

よくあるミスと対策(在宅 PT 視点)

“採血がないから始められない” を避け、まず 3 点セットで層別 → 翌週で上書きする運用に切り替えます。訪問栄養評価そのものは管理栄養士が中心でも、在宅・訪問リハの PT がスクリーニングの入口を担うことで、低栄養の見落としを減らせます。

GLIM による診断・重症度の統一と週次フォローで、介入の優先度とチーム内の意思決定を明確化できます。下表は、在宅の栄養スクリーニングで起こりやすい NG 例と、その対策をまとめたものです。

在宅・施設での運用 NG/OK 対応(採血なし場面)
NG 理由 OK(対策)
“採血がないから評価できない” 介入開始が遅延 MST→MUST→MNA-SF の 3 点セットで先に層別し、翌週に再評価
スクリーニング結果を診断として扱う 重症度・記録が不統一 GLIM で診断・重症度を統一し、必要に応じて採血・身体計測を追加
週次フォローなし 改善停滞に気づけない 体重・摂取量・ Ex を 1 枚で追跡し、具体的な “次週目標” を設定

まとめ

在宅・施設では、採血がなくても MST/MUST/MNA-SF の 3 点セットで「漏れなく速く」栄養リスクを拾えます。陽性なら 1 週間の食事・体重・ Ex を可視化し、必要に応じて GLIM による診断で連携を強化します。訪問リハの評価シートに「在宅の栄養評価欄」を 1 行足すだけでも、低栄養の見立ては大きく変わります。

総覧と “使い分け” の全体像は 低栄養スクリーニング 8 選:PT の使い分け もどうぞ(本文からの相互導線は本リンク 1 本のみ)。

参考文献

  1. Cederholm T, et al. GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2019;10(1):207–217. DOI / PubMed
  2. Kaiser MJ, et al. Validation of the MNA-SF. J Nutr Health Aging. 2009;13(9):782–788. PubMed
  3. Bouillanne O, et al. The GNRI: a new index for elderly. Nutrition. 2005;21(3):295–302. PubMed
  4. de Ulíbarri JI, et al. CONUT: a tool for controlling nutritional status. Nutr Hosp. 2005;20(1):38–45. PDF
  5. Ferguson M, et al. Validation of the MST. Nutrition. 1999;15(10):858–864. PubMed
  6. Elia M. The MUST report. BAPEN; 2003. (概要)Link

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