PT の栄養スクリーニング運用 10 分フロー

栄養・嚥下
記事内に広告が含まれています。

まずは 10 分フロー(テンプレ)

病棟・外来・在宅でばらばらに行われがちな栄養スクリーニングを、PT 目線で「 10 分で回せる 1 本の流れ」にまとめたプロトコルです。MNA-SF/MUST/MST/NRS-2002 など個々のツールの詳細は GLIM と主要ツールの使い分け に譲り、本稿では「誰が・いつ・何をするか」の運用設計に焦点を当てます。

基本の 10 分フローは次のとおりです。① 0–3 分:直近 1–2 週の食事量と過去 3–6 か月の体重履歴を聴取。② 3–7 分:場面に応じたスクリーニング(急性期=NRS-2002、回復期・在宅=MNA-SF、横断場面=MUST/MST)。③ 7–9 分:陽性であれば GLIM の「表現型+病因」を満たしそうかをざっくり確認。④ 9–10 分:初期介入案と、栄養士・医師・嚥下チームへの連携方針をその場でメモします。

「どのツールを誰が回すか」を病棟・部署ごとにあらかじめ決めておくと、評価だけで終わらず、診療・リハ計画への橋渡しがスムーズになります。

クリニック / 訪問で役立つテンプレの一覧を見る(PT キャリアガイド)

どの場面でどのツール?(選び方早見)

ツール選択は「場面」と「誰が回すか」で決めておくと迷いにくくなります。急性期入院では炎症や急性疾患の影響が強く出るため NRS-2002 を第 1 選択にし、回復期や在宅・施設では高齢者向けに妥当性が高い MNA-SF を軸にする、という考え方が実務的です。横断的な場面やスタッフ構成が日々変わる現場では、簡便な MUST/MST を補助的に配置すると運用が安定します。

下表は「誰が」「どこで」「何分で」回すかまで含めた配置例です。自施設の人員構成や導入済みツールに合わせてアレンジしつつ、原則として 2 本までに集約する方が教育・研修コストを抑えられます。

現場別の栄養スクリーニング配置例(推奨)
場面 主担当 推奨ツール 所要時間 次のアクション
急性期入院 病棟看護+ PT 補助 NRS-2002 3–5 分 GLIM 評価を栄養士・医師へ依頼、摂取率モニタ開始
回復期病棟 PT / OT MNA-SF ± MUST 3–5 分 食事量アップ目標と歩行 / 訓練設計に反映
外来・在宅 PT(訪問) MNA-SF または MUST 約 5 分 買い物・調理支援や IADL 介入と組み合わせ、詳細は 在宅リハの栄養スクリーニング運用

GLIM での確定診断ポイント

スクリーニングでリスクありと判定されたら、次は GLIM による低栄養診断を視野に入れます。PT に求められるのは、診断そのものではなく、診断に必要な情報を 1 枚に整理して多職種へ渡すことです。具体的には、①体重減少(%と期間)② BMI ③筋量低下の指標(握力・四肢周囲径・BIA など)といった表現型と、摂取低下・吸収不良・炎症・疾患負荷といった病因の有無をセットで押さえます。

測定が難しい場面では、身長・体重と下腿囲・上腕周囲長などの身体計測だけでも構いません。数値が揃い次第、GLIM のアルゴリズムに当てはめて Stage 1 / 2 を栄養士・医師が判定できるよう、時系列と根拠を簡潔にメモして共有すると連携がスムーズです。

初期介入と連携(その場でできること)

栄養スクリーニングは「低栄養かもしれない」で終わらせず、その場で 1 つ行動を変えるところまでセットにするのがポイントです。①食事:嗜好を聞きながら間食や補食のタイミングを提案し、座位姿勢や食事環境を整える。②身体活動:日中の覚醒時間を増やし、短時間の立位・歩行・起立を 1 日数回に分散させる。③記録:食事摂取率と体重を週 1 回以上確認し、MNA-SF などの再検タイミングをあらかじめ決めておきます。

嚥下リスクが疑われる場合は、RSST・MWST などを組み合わせた 不顕性誤嚥スクリーニング を併用し、必要に応じて 高齢者の栄養ケア計画ガイド に沿って具体的な栄養ケア計画へ接続します。リハビリテーションのゴール設定と栄養ケアを同じカンファレンスで議論できるようにしておくと、アウトカムの共有がしやすくなります。

参考文献

  1. ESPEN. Nutritional Risk Screening (NRS-2002) Fact Sheet. PDF
  2. MNA®-SF User Guide. PDF
  3. BAPEN. ‘MUST’ Explanatory Booklet. PDF
  4. Cederholm T, et al. GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition. PubMed

おわりに:スクリーニングを「動く計画」に変える

栄養スクリーニングは、GLIM などの診断基準と結びついて初めて意味を持ちます。PT にとって重要なのは、①定期的なスクリーニング、②GLIM に必要な情報の整理、③初期介入と多職種連携、④数週間単位での再評価、というサイクルを日常業務に埋め込むことです。この 10 分フローをチームで共有し、どの場面でも同じ筋道で動けるようにしておくと、栄養起因の機能低下を早期に拾いやすくなります。

働き方を見直すときの抜け漏れ防止に、見学や情報収集の段階でも使える「面談準備チェック( A4・5 分)」と「職場評価シート( A4 )」を無料公開しています。印刷してそのまま使えるので、栄養やリハ体制を含めた職場環境の整理にも活用してみてください。ダウンロードページを見る

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

教育体制に不安があるとき、転職はいつ検討すべきですか?

栄養スクリーニングや GLIM など、新しい取り組みを一人で背負い続けて疲弊している場合は、「評価が形だけになっていないか」「学びやすい環境か」を一度立ち止まって振り返るタイミングかもしれません。今の職場で工夫できること(カンファでの共有、簡単な記録シートの導入など)を試しても状況が変わらないときは、早めに情報収集だけでも始めておくと選択肢が増えます。

チェックポイントや退職を考える前の整理ポイントは、PT キャリアガイドの注意サインまとめに詳しく整理しています。見学・面談の段階で何を確認しておくと安心かを含めて、一度目を通しておくと判断の助けになります。


関連記事GLIM と主要ツールの使い分け高齢者の栄養ケア計画ガイド

スクリーニングは早いほど価値が高い一方で、「評価して終わり」ではアウトカムはほとんど変わりません。本稿では、厚生労働省「危険因子評価票」で拾い上げたリスクを、診療計画書・看護計画・リハビリテーション計画へ確実に落とし込むための院内運用プロトコルを整理します。評価方法そのものではなく、記載例・ PT 指示文テンプレート・監査チェックリストを通じて「誰が使っても同じ質で回せる仕組みづくり」をめざします。

危険因子評価票を「計画書」につなぐ考え方

ねらいは、評価票の 「はい/いいえ」 をその場で終わらせず、確実に 具体的な予防策 へ橋渡しすることです。評価者ごとに表現がばらつくと、診療計画書の中身も属人的になりがちです。そこで、フロー・用語・文例 を病棟単位で標準化しておくことで、交代勤務や多職種連携の場面でもケアの質を揃えやすくなります。

本稿で想定するベースラインは、① 対象= ADL 自立度 B/C の入院患者、② 厚労省様式に基づく 8 項目の二者択一評価、③ 1 項目でも該当すれば診療計画書で対策を立案、の 3 点です。個々の項目の見方・評価のコツ・点数化の考え方については、別記事の「危険因子評価票の評価方法」をご参照ください。こちらは評価の「やり方」を、本稿は院内運用の「回し方」を扱う位置づけです。

病棟で使える評価・計画テンプレをまとめて見る(PT キャリアガイド)

運用フロー(院内標準ひな形)

危険因子評価票の運用は、次の 7 ステップに分けて整理しておくと新人にも共有しやすくなります。① 入棟 24 時間以内に評価票を実施 → ② 該当した危険因子をリストアップ → ③ 各項目ごとに看護/ PT /栄養/医師など担当職種を割り振り → ④ 診療計画書・看護計画・リハビリテーション実施計画書へ標準文例で転記 → ⑤ 日々のケアとリハで観察項目をモニタリング → ⑥ 目安 48 時間以内に効果判定 → ⑦ 必要に応じて計画を更新、という流れです。

PT は特に、「体位変換ができる身体づくり」と「座位・車椅子シーティング環境の規格化」 を両輪として支援します。座り直しの頻度や手がかり(アームレスト・テーブル・フットサポートなど)、クッションの種類・配置、ベッド〜車椅子間の移乗ハンドリングを短いサイクルで評価・修正し、病棟スタッフと共通言語で共有していくことがポイントです。褥瘡予防の全体像は 褥瘡予防バンドル、マットレス選定や OH スコア運用は マットレス選定プロトコルOH スコア運用プロトコル も参考になります。

記載例(看護計画・ PT 指示文)

「評価票 → 診療計画書」への翻訳文例(必要に応じて修正して使用)
該当項目 看護計画(例) PT 指示文テンプレ(例)
基本的動作能力 2 時間ごとに体位変換を行う。日中の椅子座位中は 30 分ごとに座り直しを促し、皮膚観察を 1 日 1 回以上実施する。 日中の座位保持訓練を 15 分 × 2 回/日実施する。座面高・足台・背支持を調整し、自力座り直しを促せる手がかりを付与する。
病的骨突出 仙骨・踵部に除圧材を使用し、体位変換時に骨突出部の皮膚状態を観察する。必要に応じて滑走シートを導入し、ズレ力を軽減する。 骨突出部への圧集中を評価し、推奨するクッションの種類と配置図を作成して病棟に共有する。移乗時に牽引が生じないよう介助方法を指導する。
関節拘縮 安全な可動域内で定期的に体位を変更する。衣類・寝具のしわや抵抗を最小限とし、関節周囲の圧迫・摩擦を避ける。 拘縮関節の駆動域確保を目的に、ベッド上での他動運動・ポジショニングを週 3 回実施する。介助時のハンドリング方法をスタッフに統一して指導する。
皮膚湿潤 失禁状況を再評価し、オムツ・パッドの種類と交換頻度を見直す。通気性の高いカバーを選択し、皮膚の乾燥時間を確保する。 長時間座位は 60 分以内を目安とし、全身状態に応じて休憩姿勢を提案する。ずれ・摩擦を最小化する移乗と体位変換の手順を教育する。
スキンテア 発生部位を保護材で保護し、被覆材の交換手順と頻度を統一する。更衣や移乗時の牽引動作を避けるようスタッフへ周知する。 更衣・移乗場面で滑走面(スライディングシート等)を使用し、皮膚への剪断力を軽減する。写真付きの介助手順書を作成し、病棟カンファレンスで共有する。

監査チェックリスト(院内用)

危険因子評価票の運用に関する監査チェック(抜粋)
項目 OK NG(是正例)
対象の適正 ADL 自立度 B/C のみを対象に、入棟後 24 時間以内に評価を実施している。 J/A を含む全患者に漫然と実施 → 評価対象と実施タイミングを明文化し、病棟で再周知する。
結果の共有 評価当日中に、結果が電子カルテやカンファレンスで多職種に共有されている。 翌日以降の共有・口頭のみにとどまる → 「当日中に記録・共有」を標準手順に明記し、監査項目に追加する。
計画への転記 診療計画書・看護計画・リハ計画で、用語・文例が院内標準に沿って記載されている。 担当者ごとに表現がばらばら → 本稿のテンプレをもとに標準文例集を作成し、電子カルテの定型文として登録する。
フォロー 少なくとも 48 時間以内に、観察指標(皮膚所見・疼痛・活動量など)をもとに効果判定が行われている。 介入後の評価が行われず放置されている → 判定の期限と観察指標を計画書内に明記し、再評価の記録欄を設ける。

参考・一次情報

著者情報

rehabilikun(理学療法士)のアイコン

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

運営者について編集・引用ポリシーお問い合わせ

タイトルとURLをコピーしました