ボツリヌス療法後0〜14日のリハビリ|PTが最初に決めること
手技・プロトコル全体から確認する
結論:ボツリヌス療法(BoNT-A)後は、筋緊張の低下を待ってストレッチだけを続けるのではなく、安全確認、治療前後の条件をそろえた評価、拮抗筋の活動、ADL・歩行などの課題練習を組み合わせます。7〜14日は装具や治療後の変化を見直す時期として活用し、2週時点だけで最終判定せず、4〜6週の効果評価へつなげることが重要です。
この記事では、成人の痙縮に対するBoNT-A後0〜14日に、PTが「何を確認し、何を進め、何を記録するか」を時系列で整理します。なお、本文中のD7・D14と40〜60分の構成は、当サイトで実務を整理するための運用例であり、ガイドラインで定められた必須の再評価日や規定時間ではありません。
最初に押さえる3点|2週間で何をするか
最初の2週間では、筋緊張の変化だけでなく、その変化が目標動作へつながっているかを確認します。
- 0〜7日:安全確認と治療前後の条件整理を行い、変化に合わせて随意運動・課題練習を進めます。
- 7〜14日:装具、可動域、筋力、動作、介助量などを再確認し、治療による利益と不利益の両方を見ます。
- 2週以降:2週時点だけで効果を確定せず、4〜6週の効果評価とその後の治療計画へつなげます。

注射後0〜14日のリハビリ手順
BoNT-A後は「何日目だからこの治療をする」と固定するより、安全性、筋緊張・可動域・筋力の変化、目標動作を確認しながら内容を調整します。下表は、0〜14日の運用を迷いにくくするための実務例です。
| 時期 | 主な目的 | PTで確認・実施すること | 記録・再評価 |
|---|---|---|---|
| D0〜2 | 安全確認と評価条件の整理 | 注射部位の疼痛・腫脹、全身状態を確認し、医師の指示と患者の状態に合わせてポジショニング、関節運動、日常動作を調整する | 治療前のROM、筋緊張、筋力、疼痛、歩行・ADLなどのベースラインを確認する。未取得の場合は比較条件を記録する |
| D3〜7 | 変化を確認し、機能練習へつなげる | 筋緊張や可動域の変化に合わせ、拮抗筋の随意運動、分離運動、立位・歩行・上肢課題など目標に直結する練習を進める | 同じ体位・条件で変化を比較し、筋力低下や動作の不安定化などの不利益も記録する |
| D7〜14 | 治療後の変化を生活動作へ定着させる | 装具・スプリントの適合、課題練習、家庭で行う内容を見直し、必要に応じて多職種で治療計画を調整する | ROM、筋緊張、筋力、目標動作、介助量、疼痛、装具、転倒リスクなどを再確認する |
| 4〜6週 | 治療効果と目標達成を評価する | 筋緊張の変化だけでなく、活動・参加や患者本人の目標が改善したかを確認する | 治療前と同条件で比較し、その後の運動療法、装具、次回治療計画へ接続する |
D7・D14の位置づけ:本記事と配布PDFでは、実務上の確認漏れを防ぐためD7を中間確認、D14を2週時点の確認日として設定しています。すべての患者に同じ日程を必須とするものではなく、受診日、治療目標、状態、施設のフォロー体制に合わせて調整してください。
最初に確認する安全管理|中止・相談が必要なサイン
BoNT-A後のリハビリでは、局所の疼痛だけでなく、新たな嚥下・呼吸症状、著明な筋力低下、転倒につながる動作変化も確認します。治療後に新しく生じた症状は、単純な「効いている反応」と決めつけません。
| 確認する変化 | PTの対応 | 連携 |
|---|---|---|
| 呼吸しにくい、飲み込みにくい、声が変わったなどの新たな症状 | 運動負荷を中止し、呼吸・嚥下を含む全身状態を確認する | 速やかに医師・看護師へ共有し、症状の程度に応じて緊急対応を検討する |
| 急な著明な筋力低下、全身の脱力 | 治療前の状態と比較し、歩行や移乗など高負荷課題を中止する | 医師へ報告し、治療との関連を含めて評価する |
| 膝折れ、ふらつき、転倒の増加 | 歩行条件と介助量を戻し、筋力・アライメント・装具を再評価する | 目標や装具、移動方法を多職種で見直す |
| 強い疼痛・腫脹、装具による皮膚障害 | 原因となる負荷や圧迫を中止し、局所を確認する | 必要に応じて医師・看護師・装具担当者へ共有する |
BoNT-Aは単独で完結させず、治療目標に合わせて身体管理やリハビリテーションと組み合わせます。一方、筋緊張の低下によって、それまで動作に利用していた筋活動まで弱くなり、立位・歩行が不安定になる場合があります。筋緊張が下がったかだけでなく、動作が安全になったかまで確認してください。
40〜60分枠で使うPTセッション例
40〜60分という時間はガイドラインで定められた標準時間ではありません。臨床でこの程度の時間枠がある場合に、可動域だけで終わらず、目標動作まで練習するための配分例として使用します。
| パート | 時間の目安 | 確認・実施すること | 記録 |
|---|---|---|---|
| 状態確認・ポジショニング | 5〜10分 | 疼痛、皮膚、姿勢、装具、当日の動作変化を確認し、必要なアライメントを整える | 疼痛、皮膚、装具、当日の変化 |
| モビリティ・随意運動 | 10〜15分 | 関節運動、必要な伸張、拮抗筋の活動、分離運動など、目標動作に必要な要素を練習する | ROM、筋力、抵抗感、随意性 |
| 課題特異的練習 | 15〜25分 | 更衣、整容、物品操作、立ち上がり、移乗、方向転換、歩行など本人の目標に直結する課題を反復する | 介助量、反復数、速度、代償、達成度 |
| セルフ管理 | 5〜10分 | 家庭で再現できる課題、装具、休憩方法、注意する症状を確認する | 宿題、実施方法、本人・家族の理解 |
順番や時間配分は患者ごとに変更します。重要なのは「ストレッチを何分行ったか」ではなく、治療によって得られた変化を、その人が改善したい活動へ使えたかです。
装具・運動療法・キャスティングはどう組み合わせるか
併用療法は日数だけで決めず、治療目標、筋緊張と可動域、軟部組織の短縮、皮膚・感覚、本人が必要とする活動から選びます。
| 手段 | 使う目的 | 確認すること | 記録 |
|---|---|---|---|
| 運動療法・課題練習 | 得られた変化を随意運動、ADL、歩行などへつなげる | 筋力、代償、疲労、介助量、目標動作への一般化 | 課題、反復量、介助量、達成度 |
| スプリント・装具 | アライメント、持続的な位置保持、課題の再現性を支える | 筋力・筋緊張の変化に伴う適合、皮膚、疼痛、動作への影響 | 装着時間、皮膚、疼痛、装着時の機能 |
| ポジショニング・伸張 | 必要な関節位置を確保し、短縮や疼痛への対応を補助する | 終末感、疼痛、皮膚、目標動作との関係 | 肢位、反応、疼痛、実施後の動作 |
| キャスティング | 選択された症例で軟部組織の短縮や関節可動域制限へ対応する | 適応、皮膚、循環、感覚、疼痛、観察・除去体制を個別に確認する | 適応理由、観察項目、実施期間、除去条件 |
キャスティングを「D7〜14なら実施する」と固定する必要はありません。適応がある症例で、多職種による安全確認と観察体制を整えて検討します。装具については、筋力・筋緊張の変化が現れた段階で適合を見直すことが重要です。
ボツリヌス療法後に起こりやすい4つの失敗
治療後の変化を機能につなげるには、「何を実施したか」だけでなく、どこで判断を誤りやすいかを共有しておくことが重要です。
- ストレッチだけで終わる:可動域や抵抗感が変わったら、その変化を更衣、整容、立位、歩行など本人の目標動作で使えるか確認します。
- D7・D14を必須日と考える:本記事のD7・D14は運用例です。実際の評価日は受診予定、目標、状態に合わせ、7〜14日のレビューとその後の効果評価へつながるよう計画します。
- 2週で治療効果を確定する:2週は経過確認の一地点です。4〜6週にも治療効果と目標達成を確認し、その後の方針を決めます。
- 家庭課題を増やしすぎる:装具、伸張、筋力練習、歩行を一度に増やさず、本人が継続でき、目標につながる課題から優先します。
ボツリヌス後2週間の記録用紙PDF
注射後0〜14日の流れを1枚で追えるA4記録シートです。赤旗確認、状態の整理、最小評価、方針・再評価をまとめて記録できます。
使用時の注意:シート内のD7・D14は当サイトの運用チェックポイントです。施設の診療計画や受診日を優先し、2週以降の評価も別途計画してください。
プレビューを開く
ボツリヌス療法後のリハビリでよくある質問
Q1. ボツリヌス療法後のリハビリはいつから始めますか?
BoNT-Aは単独で完結させず、身体管理やリハビリテーションと組み合わせて治療効果を機能へつなげます。「全例で注射後○日まで待つ」という一律の日程ではなく、医師の指示、注射部位の状態、全身状態を確認し、安全な範囲で治療目標に沿った活動へつなげます。
Q2. D7とD14の両方で再評価する必要がありますか?
必須ではありません。RCPのガイドラインでは7〜14日に治療チームによるレビューを行い、必要に応じて装具・スプリントを評価する流れが示されています。本記事では、確認漏れを防ぐ実務上の方法としてD7とD14に分けています。通院頻度や状態に応じて、7〜14日のレビューとしてまとめて確認してください。
Q3. 2週間でボツリヌス療法の効果を判定してよいですか?
2週時点だけで最終判定しません。筋緊張や動作の変化は確認できますが、RCPのガイドラインでは4〜6週にも治療効果、目標達成、有害な変化などを確認するフォローアップが示されています。2週の結果を、その後の目標達成評価へつなげます。
Q4. 注射後に筋力が落ち、歩きにくくなった場合はどうしますか?
まず歩行条件や介助量を調整し、治療前と比べてどの筋力・支持性・動作が変わったかを確認します。新たな著明な全身性筋力低下や、嚥下・呼吸の症状を伴う場合は、通常の運動調整だけで済ませず速やかに医療チームへ共有します。
Q5. キャスティングは注射後7〜14日に行うものですか?
7〜14日に固定するものではありません。軟部組織の短縮や可動域制限、治療目標、皮膚・循環・感覚、観察体制などを確認し、適応がある症例で個別に検討します。
次に確認する記事
- 痙縮リハビリの進め方|評価・治療選択・再評価:BoNT-Aを含む痙縮治療全体の流れへ戻りたいとき
- MASとMTSの違いと評価方法|痙縮評価の記録例・PDF付き:治療前後の筋緊張を同条件で記録したいとき
参考文献・一次情報
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構. ボトックス注用50単位・100単位 添付文書. PMDA
- 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会. 脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕. 2025. 公式資料
- Verduzco-Gutierrez M, Raghavan P, Pruente J, et al. AAPM&R consensus guidance on spasticity assessment and management. PM R. 2024;16(8):864-887. doi: 10.1002/pmrj.13211
- Royal College of Physicians, British Society of Rehabilitation Medicine, Chartered Society of Physiotherapy, Association of Chartered Physiotherapists in Neurology, Royal College of Occupational Therapists. Spasticity in adults: management using botulinum toxin. National guidelines. 2nd ed. London: Royal College of Physicians; 2018. 公式資料
- Mills PB, Finlayson H, Sudol M, O’Connor RJ. Systematic review of adjunct therapies to improve outcomes following botulinum toxin injection for treatment of limb spasticity. Clin Rehabil. 2016;30(6):537-548. doi: 10.1177/0269215515593783
- Ledda C, Tosto R, Tringali G, et al. Clinical pharmacodynamics of onabotulinumtoxinA in spasticity: a systematic literature review. Toxins (Basel). 2022;14(2):79. doi: 10.3390/toxins14020079
- Wortley K, Carda S, Ganzert C, Farag J, Reebye R. Upper limb casting application post-botulinum toxin injection for elbow spasticity: a guided casting protocol. Am J Phys Med Rehabil. 2024;103(7):645-649. doi: 10.1097/PHM.0000000000002487
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

