連携体制加算とは?(目的と全体像)
令和 6 年改定で新設されたリハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算( A233 )は、入棟後 48 時間以内に ADL・栄養・口腔を評価し、その結果に基づく多職種計画の策定と実行を行った場合に、1 日 120 点を計画作成日から通算 14 日まで算定できる仕組みです。ねらいは、急性期入院直後から早期離床と経口摂取を促進し、ADL 低下と合併症(誤嚥性肺炎・低栄養など)を最小限に抑えることにあります。
要点サマリー
- 対象:急性期病棟入院患者に対し、入棟後 48 時間以内に ADL・栄養・口腔を評価し、多職種で一体的な計画を作成したケース。
- 点数・期間:120 点/日で算定可能。起算日は計画作成日で、そこから通算 14 日まで(入院日数ではなく通算管理)。
- 運用の肝:週 5 回以上の食事時観察(同日複数回は 1 回扱い)、定期カンファレンス、休日を含めたリハ提供体制の設計。
- 体制:病棟 PT / OT / ST(専従・専任の要件を満たす配置)、病棟専任の管理栄養士、歯科・医師との連携(所定研修の修了)を前提としたチーム運用。
算定要件を PT 実務に落とす
| 要件 | 現場の具体( PT 中心 ) | 記録すべき事項 | 関連リンク |
|---|---|---|---|
| 48 時間以内の評価と計画 | 入棟当日〜翌日に、ADL(例: Barthel Index など)・栄養スクリーニング・口腔・嚥下観察をまとめて実施し、多職種ケア計画を起票する。 | 評価日時・担当職種・使用尺度、ゴール(短期/退院時)、介入内容、担当、見直し期日。 | 栄養・嚥下関連の記事群を院内標準として整理しておく。 |
| 週 5 回以上の食事時観察 | 配膳〜食後 30 分の枠に観察を設定し、低栄養・嚥下リスクの高い患者を優先。食形態・摂取量・誤嚥サインの有無を、PT も病棟ラウンドの中でフォローする。 | 観察日・時間帯・対象者・摂取量・嚥下所見・対応内容(姿勢調整・食形態の提案など)。 | 誤嚥性肺炎予防の院内プロトコルと整合させる。 |
| 口腔の早期評価と連携 | 歯垢・歯肉出血・両側臼歯の咬合・義歯の有無と適合を入棟初期に確認し、問題があれば歯科へコンサルト。摂食機能とあわせてリハ目標に反映する。 | 評価項目ごとの所見、義歯の状態、再評価予定日、歯科コンサルトの有無・内容。 | 口腔ケア・口腔機能管理の院内マニュアル。 |
| チーム体制 | 病棟 PT / OT / ST の配置と、病棟専任の管理栄養士を明確化。週 1 回の定期カンファレンスで、ゴールと方針を更新する。 | 配置名簿(専従・専任の区分)、カンファ議題・議事録、役割分担表。 | 院内業務ハブ |
| 14 日の算定管理 | 計画作成日を起算日とし、転棟や同一院内での再入院があっても通算で管理する仕組みを院内で統一する。 | 起算日、算定日数ログ、通算の根拠(入退院・転棟の履歴)。 | 入退院センターや医事課との情報共有体制を明文化する。 |
口腔評価ミニプロトコル( 48 時間以内 )
- 視診:歯垢の付着、歯肉出血、潰瘍・白斑などの有無を確認する。
- 機能:左右の臼歯でしっかり咬めるか、咀嚼時の痛みや違和感がないかを聴取・観察する。
- デバイス:義歯の有無、装着時間、適合(痛み・ゆるみ・破損)の状態をチェックする。
- 対応:問題があれば歯科へコンサルトし、評価結果と再評価予定日を計画書・カルテに明記する。
実装チェックリスト(配布・監査対応)
| 項目 | 合格基準 | よくある落とし穴 | 是正案 |
|---|---|---|---|
| 48 時間内評価 | 入棟後 48 時間以内に ADL・栄養・口腔の 3 点セットが完了している。 | 夜間入棟で評価が遅れ、記録に時刻が残っていない。 | 当直体制に短時間評価のフローを組み込み、時刻自動記録のテンプレを導入する。 |
| 食事観察 | 週 5 回以上の食事時観察(同日複数回は 1 回扱い)を達成している。 | 同じ日に 2 回観察したものを「2 回」とカウントしてしまう。 | 「同日 1 カウント」のルールをマニュアルに明記し、集計シートでダブルチェックする。 |
| 専従・専任配置 | 病棟 PT / OT / ST と管理栄養士の専従・専任要件が施設基準どおりに満たされている。 | 兼務制限の解釈違いにより、届出と実態がずれる。 | 施設基準・疑義解釈を職種ごとに読み合わせ、兼務可能範囲を一覧化して共有する。 |
| 14 日管理 | 計画起算から通算で 14 日までをシステムやチェックリストで管理している。 | 転棟や同一院内再入院のタイミングで、算定期間を誤ってリセットしてしまう。 | 病棟横断の通算ロジックを情報システムに組み込み、監査ログを定期的に確認する。 |
| カンファ運用 | 週 1 回以上、多職種で情報共有とゴール再設定を行っている。 | 議題が一般論に終始し、誰が何をいつまでに行うか不明瞭。 | KPT 形式で振り返り、担当・期日・指標(アウトカム)をセットで記録する。 |
よくある誤解と注意点
- 「同一院内での再入院や転棟で 14 日がリセットされる」→不可。同一医療機関内では入退院・転棟をまたいで通算管理が必要です。
- 「同日に 2 回の食事観察をすれば 2 カウント」→不可。同一患者の同一日は、複数回の観察を行っても1 回扱いです。
- 専従・専任の定義や兼務制限は、必ず施設基準と疑義解釈に沿って解釈し、院内ルール(マニュアル・勤務表)に落とし込んでおくことが重要です。
- 「リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算は一部病棟だけでよい」など、対象病棟や入院基本料との関係も誤解が生じやすいポイントです。算定開始前に、届出内容との整合を確認しておきましょう。
カンファの型(議題テンプレ)
- 入棟後 48 時間以内の初回評価共有( ADL・栄養・口腔 3 点セット )。
- 早期離床・摂食計画(休日提供を含めたプログラム)の確認。
- 食事時観察の優先リスト更新と、週 5 回の達成状況の確認。
- ゴール(短期・退院時)と担当・期日・評価指標(例:経口摂取量・歩行自立度)の明確化。
- 次回までの宿題( KPT : Keep / Problem / Try )の設定と共有。
現場の詰まりどころ
- 48 時間以内評価の「線引き」:夜間・休日入棟で評価が後ろ倒しになりやすく、「どこまでを 48 時間とみなすか」が現場判断に丸投げされがちです。入院時刻の入力ルールと、バッファを含めたショート版評価フローを決めておくと迷いが減ります。
- 週 5 回観察の母数管理:「同日 2 回で 2 カウント」と誤解したまま進めてしまい、後から集計し直しになるケースが多いです。患者単位・日単位で自動集計できるシートや院内システムをあらかじめ設計しておくと、監査対応もスムーズです。
- 誰が「口腔」を見るのか問題:歯科・看護・リハの役割分担があいまいなままスタートすると、「歯垢や義歯の確認はどこまで PT が触れてよいか」で止まりがちです。初回評価のチェックリストを共通化し、職種ごとに必須項目と追加項目を整理しておくことがポイントです。
- 14 日間の通算管理:転棟・再入院をまたぐ入院歴が多い患者では、紙ベースだけでは管理が破綻しやすく、「結局何日算定したのか」が追えなくなります。入退院センターや医事課と連携し、情報システム上で一元管理できる形にしておくと、現場の負担が大きく減ります。
- 「8 割」の感覚差:「どの程度の実施率なら運用上問題ないか」「平日偏重でもよいのか」など、肌感覚で語られやすいテーマです。必ず一次資料・疑義解釈での前提条件を確認し、各施設のリソースに合わせた現実的なラインをチームで合意しておきましょう。
おわりに
リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算は、単に 120 点を積み上げる加算ではなく、「入棟直後から歩く・食べる・話す・笑う」を守るためのチーム設計そのものです。入棟後 48 時間以内の評価 → 多職種計画 → 食事時観察と早期離床 → カンファでの再評価という流れが定着すれば、算定の可否だけでなく、急性期病棟全体のリズムやアウトカムも変わってきます。
本ページの表やチェックリストは、そのまま院内マニュアルや勉強会資料に流用できるように構成しています。自施設の病棟構成や人員配置に照らし合わせてカスタマイズし、監査に耐える「見える化」と、患者さんにとっての実感あるメリットの両立を目指していきましょう。
外部資料・一次情報
- 厚生労働省:個別改定事項(Ⅰ) A233( PDF ) 資料
- 厚生労働省:疑義解釈資料(算定期間・食事時観察の取扱い等)( PDF ) 第 1 弾/ 第 2 弾
- 日本歯科医学会:口腔機能・口腔健康管理の基礎資料( Web ) JADS
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1.リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算の「8 割」という言葉を耳にしました。どう考えればよいですか?
「8 割」という表現は、実施率や体制整備の水準をイメージするときによく使われますが、何を母数にするか(患者数・日数・観察回数など)によって意味合いが変わります。まずは一次資料や疑義解釈で、「どの指標について」「どのような前提で」書かれているかを確認し、自院のリソースに照らして現実的な目標ラインをチームで合意しておくことが大切です。
Q2.48 時間以内に評価が終わらないことがあります。その場合は算定をあきらめるしかありませんか?
原則として、要件を満たさないケースを算定対象に含めることはできません。一方で、「なぜ 48 時間に間に合わなかったのか」を振り返ることで、入院導線や当直帯の役割分担、ショート版評価フローなど、業務プロセスの改善点が見えてきます。個々の事例で無理を通すのではなく、今後同じことが起きにくい仕組み作りに活かす発想が重要です。
Q3.人員が足りず、食事時観察やカンファが負担です。どこから見直すと良いですか?
まずは「全員を同じ頻度で見る」発想から、「リスクに応じた優先順位付け」へ切り替えることがポイントです。低栄養・誤嚥リスクの高い患者を抽出し、重点的に食事時観察を行うことで、観察の質とアウトカムを両立しやすくなります。また、カンファでは議題を絞り、担当・期日・指標を明確にすることで、時間当たりの効果が高まり、結果的に負担感の軽減にもつながります。


