この記事のねらい
医療機器関連圧迫創傷(MDRPI)は、ICU と在宅の双方で高頻度に見られ、マスク・鼻翼・耳介・頸部など“機器×部位”の特徴が現れます。本記事では、発生メカニズムを踏まえつつ ICU の視点・在宅の視点・リハ専門職(PT/OT/ST)の注意点を具体化し、観察・記録・報告までを現場で回せる実務フローに落とし込みます。
配布用として ① デイリーチェックシート と ② 機器フィット確認票(ともに A4・印刷ボタン付き HTML)を提供します。※ご要望により「巡視チェックリスト」のダウンロードリンクは設置していません。記事内のフローをそのまま巡視にお使いください。
ICU での視点:高リスク状況と運用の勘所
ICU では、鎮静・人工呼吸・体位制限(腹臥位含む)・血管作動薬・浮腫・発汗/湿潤などが重なり、“長時間 × 局所高圧 × 湿潤”が成立しやすいです。装着直後/交替時の初期評価、2–4 時間ごとの皮膚/粘膜観察、リーク最小の範囲でのテンション最適化、貼付位置のローテーションが基本になります。
- 腹臥位管理:鼻梁・頬骨・口角・耳介・胸骨端子・鎖骨上に注意。保護材は“エッジ/角”を覆い、湿潤時はドライアップ → 再貼付。
- ライン/配管テンション:カニュラ・チューブの自重/牽引による食い込みを避け、ベッド柵のクランプ位置を見直します。
- 粘膜病変の扱い:粘膜は一般のステージング適用外。部位・大きさ・滲出・疼痛・原因機器・対処を記述で残します。
- 多職種連携:問題が出たら原因—対策(再フィット/除圧/保護材/体位)をセットで共有し、次の巡視までのアクションを明確化します。
在宅での視点:家族/介護者教育と継続モニタ
在宅では、観察者の目線づくりとケア前後のルーティン化が鍵です。耳介後部・鼻翼・頸部・口角などを鏡や写真で確認し、赤み・痛み・圧痕・湿潤があれば装着を緩める/当て物追加/専門職へ連絡という行動指針を共有します。簡易記録は紙 1 枚で十分です(この記事のフローをそのままチェック欄として活用)。
- 合図づくり:「赤みが 30 分以上消えない」「痛みが続く」「装置がずれる/食い込む」は要相談のサイン。
- 清潔と微小気候:発汗/唾液/滲出で浸軟しやすい部位はこまめに乾燥 → 再装着。貼付部のローテーションを家族と運用。
- 見える化:スマホで部位を撮って変化を確認。訪問時に時系列で振り返れるようにします。
リハビリテーション専門職の注意点(PT/OT/ST)
リハ介入は“動かす/座る/立つ/歩く”という機器負荷の瞬間が増えるため、創傷悪化と治療目標の両立を設計します。以下をセッション前後のミニサイクルとして徹底します。迷ったら 導入の流れ を参照してください(インライン内部リンク)。
- ポジショニング:装具やマスクのエッジ圧が骨突出に当たっていないか。クッション/当て物で接触面を「線 → 面」へ。
- 配管/ケーブル取り回し:立ち上がり・歩行練習時はスラックを確保。固定ポイントを移し牽引ゼロに。
- 微小気候管理:発汗や口腔分泌で浸軟しやすい部位は、練習前に皮膚確認、練習後にドライアップ。
- 痛みと意思表示:NRS 等で違和感/疼痛を把握し、30 分消退しない発赤=要報告を徹底。
- 中止/相談の目安:強い痛み/びらん出現/浸軟の増悪/デバイス固定不能時は中断し、医師・看護へ即共有。
背景知識として、当ブログの関連記事も併せてご覧ください:褥瘡の要因/体圧・接触圧の測定/創傷治癒と栄養/ボディメカニクス/MST
高頻度の「機器 × 部位」早見
機器 | 起こりやすい部位 | 初期サイン | 予防のコツ |
---|---|---|---|
酸素マスク / CPAP・BiPAP | 鼻梁・鼻翼・頬・耳介後部 | 持続発赤、圧痕、痛み、ずれ | 「指 1–2 本」の余裕、鼻梁保護材、2–4 時間ごと再フィット、湿潤はドライアップ |
鼻カニュラ / 酸素チューブ | 鼻翼、耳介後部、頸部 | 擦過傷、圧痕、浸軟 | 耳パッド/イヤーセーバー、頬固定テンション調整、配管牽引の回避 |
気管 / 経鼻チューブ・固定テープ | 口角・頬・鼻腔・咽頭粘膜 | びらん、潰瘍、浸軟 | 粘膜はステージング適用外のため記述記録、固定方向交替、分泌物マネジメント |
頸椎カラー / 装具・ギプス端 | 下顎・後頭・項部・鎖骨上・踵 | 輪郭状の発赤、ずれ、痛み | 指 1–2 本の余裕、エッジ圧分散、体位変換と除圧 |
電極 / パルスオキシメータ | 胸壁・乳頭周囲・爪床/耳朶 | 発赤、跡残り、浸軟 | 貼付位置ローテーション、汗/湿潤管理、ケーブルテンション緩和 |
導尿カテーテル固定 | 外陰部・鼠径・大腿内側 | 圧痕、びらん、滲出 | 固定方向交替、皮膚保護材、バッグ高と配管ルート見直し |
観察・記録・報告フロー(ICU / 在宅 共通)
① 装着直後/交替時にフィット確認 → ② 2–4 時間ごと(在宅はケアごと)に皮膚/粘膜・テンション・湿潤・疼痛をチェック → ③ 問題があれば再フィット / 除圧 / 保護材 / 貼替 → ④ 皮膚はステージング、粘膜は詳細記述 → ⑤ 原因—対策を多職種で共有し、次の巡視までのアクションを決めます。
配布:現場で使える A4 シート
FAQ(よくある質問)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
粘膜に生じた場合はステージングしますか?
粘膜は一般の圧迫創傷ステージングの適用外です。部位(例:口角/鼻腔/咽頭)、大きさ、滲出、疼痛、原因機器、対処(除圧・再固定・保護材など)を記述で残し、皮膚にまたがる場合は皮膚側のみステージングします。
予防ドレッシングは全例に貼るべきですか?
万能ではありません。骨突出・長時間装着・発汗などの高リスク例で有用性が期待できますが、貼付しても再フィットと観察頻度の確保が前提です。
歩行練習や離床時の注意点は?(リハ視点)
配管やチューブのスラック確保、固定ポイントの見直し、エッジ圧の分散を優先します。強い痛みや赤みが持続する場合は中断し、医師・看護へ速やかに共有します。
参考文献
- EPUAP, NPIAP, PPPIA. Prevention and Treatment of Pressure Ulcers/Injuries: Clinical Practice Guideline. 4th ed. 2023. Guideline website
- NPIAP. Pressure Injury Staging(資料). Guidelines page
- Edsberg LE, et al. Revised NPUAP Pressure Injury Staging System. JWOCN. 2016;43(6):585–597. doi:10.1097/WON.0000000000000281. PMC
- American Nurse. Preventing medical device–related pressure injuries. 2018. Article
- NPIAP. MDRPI Best-Practice Posters. NPIAP