失禁関連皮膚炎(IAD)と褥瘡の違い|鑑別とケアの優先順位

臨床手技・プロトコル
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iad(失禁関連皮膚炎)と褥瘡の鑑別・対応:実務フローと優先ケア

先に押さえる赤旗チェック(評価の落とし穴を回避)

IAD(失禁関連皮膚炎)と褥瘡は、原因・分布・初期対応の優先順位が異なります。本稿はベッドサイドで迷わないように「鑑別フロー」と「優先ケア」を 1 ページに集約しました。A4 印刷できる鑑別フローチャート観察・記録用紙も用意しています。

評価は「失禁の有無 → 解剖学的位置 → 所見(壊死の有無) → 機械的負荷 → 重症度」の順で判定すると混在症例でもブレません。皮膚トラブル全体を俯瞰した整理は、内科・全身管理ハブもあわせて参照してみてください。

iad と褥瘡の“本質的な違い”早見表

IAD は失禁曝露による湿潤関連皮膚障害で、びまん性の発赤・浸軟・びらんが主体です(壊死は通常なし)。褥瘡は圧迫・せん断による局所損傷で、骨突出部に一致し、深部損傷や壊死を伴い得ます。混在(IAD+褥瘡)も起こり得るため両視点での評価が必須です。

成人・2025 年版|IAD と褥瘡の鑑別ポイント
観点 IAD(失禁関連皮膚炎) 褥瘡(圧迫/せん断)
必須条件 尿・便などの失禁曝露あり 持続的な圧迫・せん断負荷あり
部位・分布 殿部・会陰・大腿内側にびまん性(境界不明瞭) 仙骨・坐骨・踵など骨突出部に一致(境界明瞭)
皮膚所見 発赤・浸軟・びらん、灼熱感/疼痛。壊死は通常なし ポケット形成や黒色壊死、深い潰瘍があり得る
形状 不整な“地図状”に広がる 輪郭鮮明な円形〜楕円形が多い
キーファクター 洗浄→保湿→バリア+失禁コントロール 除圧・ずれ低減・体位管理(寝具/体位変換)

迷わない鑑別フロー(印刷版つき)

実務では「①失禁の有無 → ②解剖学的位置 → ③所見と壊死 → ④機械的負荷・デバイス → ⑤重症度」の順にチェックします。下記 A4 版は印刷ボタン付きで、病棟や在宅での携行に便利です。

初期対応の優先順位(iad/褥瘡 共通の考え方)

  1. 汚染の迅速除去:やさしい洗浄 → 保湿 → バリア(皮膚バリアの再構築)
  2. 除圧とずれ低減:体位変換の頻度最適化、寝具・ポジショニング見直し
  3. 失禁マネジメント:吸収材の選定、集尿/便管理デバイスの適正使用、曝露時間短縮
  4. 疼痛・感染徴候の評価:必要に応じてドレッシング調整、医師/専門チームへコンサルト

混在時(IAD+褥瘡)は清潔化・皮膚保護除圧を並行して開始します。便失禁が強い場面では排便直後のケア徹底が予後を左右します。薬剤は、亜鉛華軟膏やアズノールなどを「何となく」ではなく、ガイドラインや院内プロトコルに沿って位置づけることが重要です。

観察・記録用紙(印刷版つき)

「部位・分布・失禁状況・重症度/ステージ・介入」を同じ項目立てで追うと経過比較が容易です。下記テンプレート(A4・印刷ボタン付き)をご利用ください。

現場の詰まりどころ

IAD と褥瘡の鑑別で多いのは「びらん=褥瘡」と早合点してしまうケースです。骨突出部から離れたびまん性の発赤・浸軟は、まず失禁歴と曝露時間を確認し、IAD を第一候補に挙げると誤分類を減らせます。判定に迷うときほど、写真やスケッチを残してチームで再確認するプロセスが有効です。

もう 1 つの詰まりどころは「ケアの優先順位があいまいになること」です。薬剤やドレッシングの選択に目が行きがちですが、予後を大きく左右するのは汚染の迅速除去と曝露時間の短縮、除圧・ずれ低減、失禁コントロールという“地味な基本”です。理学療法士は体位・モビリティ・座位バランスの調整を通じて、これらの基本ケアが実行しやすい環境づくりを支援できます。

よくある質問(faq)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

びらん=褥瘡と考えてよいですか?

いいえ。IAD はびらん・浸軟が主体で、壊死は通常みられません。褥瘡は骨突出部に一致し、深部損傷や壊死を伴い得ます。まず失禁の有無と部位の一致を確認し、骨突出部から離れたびまん性びらんは IAD を疑いましょう。

除圧と失禁ケア、どちらを先に始めますか?

汚染除去と皮膚保護を直ちに実施し、並行して除圧・ずれ低減を開始します。混在時は“どちらか一方”ではなく、清潔化・バリア再構築と体圧管理の両輪で進めるのが安全です。

亜鉛華軟膏やアズノールはいつ使えばよいですか?

これらはあくまでスキンケアの一部であり、「洗浄 → 保湿 → バリア」という基本ケアと失禁コントロールを優先したうえで、ガイドラインや院内プロトコルに沿って選択します。浸軟が強い場合は亜鉛華系のバリアが有用なことがありますが、厚塗りやこすり取りはかえって皮膚障害を悪化させるので注意が必要です。

理学療法士は IAD/褥瘡にどう関わればよいですか?

理学療法士は、体位・ポジショニング・シーティング・起居動作・歩行などのアプローチを通じて、圧迫とずれの低減、失禁リスクを下げるモビリティの確保に貢献できます。おむつ交換しやすい体位や、端座位・車いす座位でのずれ予防、早期離床による排泄リズムの整えなど、「ケアがしやすい姿勢づくり」を意識するとチーム内での役割が明確になります。

おわりに

IAD と褥瘡は「見た目」が似ていても、原因と優先すべきケアは大きく異なります。失禁歴・解剖学的位置・壊死の有無・機械的負荷を整理しながら、鑑別フローと観察・記録用紙をルーチン化することで、チーム全体の判断のブレを減らせます。日々の症例を振り返りつつ、ケアの“型”をアップデートしていくことが、患者さんの QOL と現場の安心感につながります。

もし「今の職場で褥瘡・IAD ケアの体制や教育が不十分かもしれない」と感じている方は、マイナビコメディカルの記事内で配布している面談準備チェック&職場評価シートも活用しつつ、自分に合った環境や学び方を整理してみてください。

参考文献

  1. Gray M, Giuliano KK. Incontinence-Associated Dermatitis: Characteristics and Relationship to Pressure Injury. J Wound Ostomy Continence Nurs. 2018;45(1):63–67. PubMed
  2. Doughty D, et al. Incontinence-associated dermatitis: consensus statements. J Wound Ostomy Continence Nurs. 2012;39(3):303–315. PubMed
  3. Ghent Global IAD Categorisation/Monitoring Tool (GLOBIAD). 2017–2018. PDF
  4. NPIAP/EPUAP/PPPIA. Prevention and Treatment of Pressure Ulcers/Injuries: Clinical Practice Guideline. 2019/2023. Official page
  5. 日本創傷・オストミー・失禁管理学会(JWOCM) IAD ベストプラクティス. PDF

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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