有酸素運動の運動処方|FITT-VP・強度・中止基準・記録

臨床手技・プロトコル
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有酸素運動の運動処方|まずFITT-VPで決める

有酸素運動の運動処方では、単に「RPE 12で20分」と決めるだけでなく、頻度・強度・時間・種類・総量・次回の進め方まで決めると再評価につながります。PTが迷いやすいのは、どの強度から始めるか、連続して続けられない場合にどう組むか、どの反応を根拠に次回の負荷を変えるかという境界です。

この記事では、FITT-VPを軸に安全確認 → 処方 → 実施 → 反応確認 → 次回調整を1本の流れで整理します。疾患別の詳細な禁忌、CPX・ATによる強度設定、エルゴメーター固有のW設定は別記事へ分け、ここでは「今日どう処方し、次回どう変えるか」を決める総論に絞ります。

有酸素運動の運動処方を5ステップで回す

有酸素運動は、安全確認 → FITT-VPで処方 → 実施 → 反応確認 → 次回調整の順で考えると、実施内容と再評価がつながります。大切なのは、その日に運動できたかだけでなく、どの条件で実施し、どのような反応が出て、次回何を変えるかまで決めることです。

有酸素運動の運動処方を安全確認、FITT-VP、実施、反応確認、次回調整の5ステップで示した図版
有酸素運動は、今日の負荷を決めるだけでなく、反応を見て次回の変更点まで決めます。

この流れを固定しておくと、「今日は何をするか」だけで処方が終わりにくくなります。特に反応確認と次回調整をセットにすることが、毎回の介入をつなげるポイントです。

FITT-VPで有酸素運動の処方を組み立てる

有酸素運動の処方は、FITTだけでなくVolume(総量)とProgression / revision(進め方・見直し)まで考えると、次回の処方につながります。強度だけを細かく決めるのではなく、「どの条件なら成立したか」を再現できる形で残します。

有酸素運動処方で決めるFITT-VP
要素 決めること 記録例
Frequency どのくらいの頻度で行うか 週3回など
Intensity 何を指標に強度を合わせるか RPE、Talk test、心拍など
Time 1回あたり何分行うか、分割するか 5分×3回、休憩2分など
Type どの運動を選ぶか 歩行、エルゴメーターなど
Volume 1日・1週間でどの程度行うか 合計時間、距離など
Progression / revision 何を根拠に次回変更・見直しするか 時間延長、同条件継続、分割変更など

健康成人の健康づくりでは、中等度の有酸素活動を週150〜300分行うことなどが推奨されています。ただし、これは公衆衛生上の目標量です。病棟・外来リハで行う個別の運動処方では、疾患、運動耐容能、治療内容、生活目標、その日の反応に合わせて開始量と進め方を決めます。

Frequency|頻度は「週何回」だけで決めない

頻度は、運動強度、運動耐容能、回復に必要な時間、生活スケジュールなどを合わせて決めます。「有酸素運動だから全員週3〜5回」と固定するのではなく、その患者が安全に反復でき、必要な運動量を確保できる頻度を考えます。

退院後の自主トレでは、回数だけでなく「いつ行うか」「予定した運動ができない日はどうするか」まで決めると実施条件をそろえやすくなります。

Intensity|RPE・Talk test・心拍は使える条件が違う

強度は1つの数値だけで決めません。RPE、Talk test、心拍にはそれぞれ利点と限界があるため、病態や測定環境に応じて組み合わせます。各指標の詳しい選び方は運動強度の決め方|METs・RPE・心拍・Talk testで整理しています。

有酸素運動の強度を決めるときの考え方
場面 考え方 注意点
運動負荷試験の結果がある CPX・運動負荷試験の結果をもとに、AT、HRR、peak VO₂などから個別に処方します。 疾患・リスクによって目標強度は異なります。
負荷試験を行えない 病態に応じてRPEやTalk testなどを強度設定の補助に使います。 自覚症状だけでは把握できない異常があります。
β遮断薬を使用している 単純な予測最大心拍だけで決めず、利用できる負荷試験結果やRPE、症状、循環反応を合わせます。 薬剤によって心拍応答が変化します。
不整脈などで心拍が使いにくい 病態を確認したうえで、RPEや症状など他の指標を組み合わせます。 「心拍が使いにくい=RPEだけでよい」とは限りません。

JCS/JACR 2021では、心血管疾患で運動負荷試験を実施できない場合の方法として、Borg 12〜13、心不全では11〜13、Talk testでは楽に会話できる運動強度などが示されています。これは心血管疾患における運動強度設定の方法であり、RPE 11〜13をすべての患者に共通する絶対的な基準として扱うものではありません。

Time|10分続かなくても分割して組める

低耐容能の患者では、最初から長時間の連続運動を成立させる必要はありません。短時間の運動と休憩を組み合わせ、反応を確認しながら総量を作る方法を検討できます。

たとえば、連続歩行が難しければ5分×2〜3回のような分割を試すことができます。ただし、「5分×3回」が標準処方という意味ではありません。その患者で安全に成立する開始条件を探すための例です。

次回は、同じ条件でどの程度余裕があったかを確認し、1回の時間、合計時間、休憩、速度などから変更する項目を選びます。

Type|安全に反復できる種目を選ぶ

種目は、歩行、トレッドミル、エルゴメーターなどから、目的、身体機能、安全性、実施環境に合わせて選びます。歩行が不安定で転倒リスクが高い患者では、歩行だけで運動量を確保しようとすると、安全性が先に制限になる場合があります。

「有酸素運動=歩行」と固定せず、目的とリスクを踏まえて反復できる種目を選ぶことが重要です。

Volume|「1回できた」ではなく総量を見る

Volumeは、頻度・強度・時間などを合わせた運動量です。リハでは精密な運動量計算が不要な場面でも、1回の連続時間だけでなく、1日または1週間でどの程度実施できたかを見ると経過を追いやすくなります。

低耐容能では「連続10分できたか」だけで判断せず、分割して実施した場合も含め、どの程度の総量をどの反応で実施できたか確認します。

Progression|上げる・据え置く・下げるを決める

負荷の進め方は「毎週○%増やす」のように一律に固定せず、前回の運動反応を根拠に決めます。病態が不安定な患者や低耐容能では、一定割合で自動的に増量しません。

次回の負荷調整を決める3分類
判定 確認する反応 次回の考え方
上げる 予定した運動を完遂し、症状増悪がなく、設定した強度より余裕がある 時間、速度、負荷、休憩などから1項目を調整
据え置く 目標とした強度で成立しているが、まだ十分な余裕はない 同条件を再現して反応を確認
下げる・分割する 予定より強いRPE、会話困難、症状増悪、回復遅延などがある 時間短縮、休憩追加、速度・負荷低下、種目変更などを検討

ポイントは、一度に複数の条件を変えすぎないことです。時間、速度、外的負荷、休憩を同時に変更すると、何が反応へ影響したのか分かりにくくなります。次回変更する変数は原則1つにすると比較しやすくなります。

どこで止めるか|症状・病態・バイタルを合わせて判断する

有酸素運動では、開始前に「どの反応が出たら中止・中断するか」を確認しておきます。胸部症状、急な呼吸苦、めまい、意識変化などは重要な中止サインですが、症状がなければ安全とは限りません

疾患別の中止基準、医師の運動処方、施設基準がある場合はそちらを優先します。必要な患者では血圧、脈拍、SpO2、心電図なども合わせて確認し、自覚症状だけで継続可否を決めないようにします。

有酸素運動中に中止・中断を考える主な所見
区分 確認する所見 対応 残す情報
胸部症状 胸痛、胸部圧迫感、冷汗、放散痛など 運動を中止し、安静・評価・施設手順へ 出現時の時間、負荷、症状
呼吸 急激な呼吸苦、会話困難、チアノーゼなど 中止・中断し、必要な呼吸・循環評価を行う RPE、呼吸症状、必要時SpO2
神経 めまい、失神前駆、意識状態の変化、著明なふらつき 安全を確保して運動を中止 姿勢、出現時期、前駆症状
循環 顔面蒼白、循環不良を疑う所見、新たな脈の乱れなど 中止・中断し、必要なバイタル評価を行う 測定値、症状、運動条件
運動器 急な疼痛増悪、跛行悪化、腫脹・熱感など 中断し、荷重条件や種目を再評価 部位、誘発条件、動作

数値基準だけを横断的に当てはめるのではなく、その患者の疾患・治療・運動処方に必要なモニタリングを事前に決めることが安全管理の基本です。

記録は「何をしたか+反応+次回変更」を残す

有酸素運動の記録では、距離や時間だけでなく、同じ処方を再現できる条件、運動中の反応、次回どうするかをセットで残します。次回担当者が記録を見て処方を再現・修正できることが目標です。

有酸素運動処方の最小記録セット
項目 記録例 役割
Type 病棟内歩行 種目を再現する
Time 5分×3回、休憩2分 実施量と分割条件を残す
Intensity Borg RPE 12、Talk test可 相対的な運動強度を残す
Response 息切れ軽度、胸部症状・めまいなし 安全性と耐容性を残す
Next 次回は同強度で1回の歩行時間を延長予定 次回調整を共有する

記録例:病棟内歩行5分×3回、休憩2分、Borg RPE 12、Talk test可、息切れ軽度・胸部症状なし。次回は同強度で1回の歩行時間延長を検討。

「歩行20分実施」で終わるより、何を、どの強度で、どのような反応で実施し、次回どうするかまで残すことで、記録が次の運動処方につながります。

再評価|処方を変えるために何を見るか

再評価では、距離や時間が伸びたかだけでなく、同じ負荷をより少ない負担で行えるようになったかを確認します。同じ条件で繰り返すほど、処方変更の根拠が明確になります。

  • 日々の反応:RPE、Talk test、症状、回復までの経過、必要時バイタル
  • 実施量:1回時間、合計時間、分割回数、週の実施状況
  • 運動耐容能:必要に応じて6MWTなどを同条件で再評価
  • 生活への反映:歩行、外出など目標としている活動が成立しているか

6MWTを用いて経時変化を追う場合は、コースや声かけなどの条件をそろえる必要があります。詳しい方法は6分間歩行テスト(6MWT)の実施手順で確認できます。

よくある失敗|強度だけでなく処方全体を見直す

有酸素運動がうまく進まない場合は、「本人が頑張れていない」と考える前に、FITT-VPのどこで処方が合っていないのかを見直します。特に、強度だけを調整し続けると、時間・種目・休憩など別のボトルネックを見落としやすくなります。

有酸素運動処方で起こりやすい失敗と修正
よくある失敗 問題 修正
RPEの数字だけで決める 病態・症状・循環反応を見落とす可能性がある RPEを1つの指標として、必要なモニタリングと組み合わせる
心拍だけで決める 薬剤、不整脈、個人差などの影響を受ける 心拍の適用条件を確認し、RPEや症状なども合わせる
最初から連続時間を求める 低耐容能では処方そのものが成立しにくい 短時間・分割から開始して成立条件を探す
毎回複数項目を変える 何が反応に影響したか分かりにくい 次回変更する変数を原則1つにする
実施内容だけ記録する 次回の増減根拠が残らない 反応と次回変更までセットで残す

よくある質問

有酸素運動の処方で迷いやすいポイントをまとめます。各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。

Q1.心拍が運動強度の目安として使いにくい場合はどうしますか?

予測心拍だけで無理に処方せず、利用できる場合はCPXや運動負荷試験の結果を優先します。実施場面では、病態に応じてRPE、Talk test、症状、血圧などを組み合わせます。β遮断薬や不整脈があるからといって、必ずRPEだけで処方するわけではありません。

Q2.10分連続して歩けない場合はどう処方しますか?

連続10分を開始条件にする必要はありません。低耐容能では短時間に分割し、症状や反応を確認しながら1回時間、休憩、合計時間を調整します。「連続できたか」だけでなく、分割を含めてどの程度の総量を安全に実施できたかを確認します。

Q3.有酸素運動は週何回行えばよいですか?

健康づくりの推奨量と、疾患をもつ患者への個別運動処方は分けて考えます。臨床では、疾患、運動強度、運動耐容能、回復、生活目標などを踏まえて頻度を決めます。一律に「全員週3〜5回」とするのではなく、安全に反復できる条件を設定します。

Q4.負荷を上げるときは何%ずつ増やせばよいですか?

すべての患者に共通する一定割合で増量する必要はありません。前回のRPE、症状、回復、必要時のバイタルを確認し、時間・速度・外的負荷・休憩などから原則1項目を変更すると、反応を比較しやすくなります。

次の一手

この記事では、有酸素運動処方をFITT-VPで組み立て、反応から次回調整までつなげる全体像を整理しました。次は、運動療法全体の位置づけを確認するか、使用する機器に合わせて具体的な負荷へ落とし込みます。


参考文献

  1. Makita S, Yasu T, Akashi YJ, et al. JCS/JACR 2021 Guideline on Rehabilitation in Patients With Cardiovascular Disease. Circ J. 2023;87(1):155-235. doi:10.1253/circj.CJ-22-0234
  2. 日本心臓リハビリテーション学会. 心血管疾患における遠隔リハビリテーションに関するステートメント. 2023. PDF
  3. Borg GAV. Psychophysical bases of perceived exertion. Med Sci Sports Exerc. 1982;14(5):377-381. doi:10.1249/00005768-198205000-00012
  4. Foster C, Porcari JP, Anderson J, et al. The talk test as a marker of exercise training intensity. J Cardiopulm Rehabil Prev. 2008;28(1):24-30. PubMed
  5. U.S. Department of Health and Human Services. Physical Activity Guidelines for Americans. 2nd ed. Washington, DC: U.S. Department of Health and Human Services; 2018. PDF
  6. 厚生労働省 e-ヘルスネット. 運動処方. 2019. Web

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度など、医療従事者の実務に役立つ情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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