車椅子の側方崩れは「骨盤→体幹→足部」の順で直す
車椅子で体が片側へ倒れる側方崩れは、骨盤傾斜、体幹側屈、足底支持の左右差が重なって起こりやすい姿勢トラブルです。見た目だけで判断せず、まず「どこが起点か」を分けると、座面・背もたれ・フットサポートのどこから調整すべきかが決まります。
この記事では、PT・OT・介護現場で再現しやすいように、側方崩れを 3 パターンに分け、5 分チェック、支持の作り方、記録の残し方まで整理します。結論は、上体を先に押さえるのではなく、骨盤の下を整え、体幹を受け、最後に足底支持をそろえる流れです。
まず側方崩れを 3 パターンに分ける
側方崩れは「姿勢が悪い」で止めず、骨盤、体幹、足部のどこから崩れているかを分けます。骨盤の左右差が起点なら座面、体幹側屈が強ければ背もたれや側方支持、足が浮く場合はフットサポートを優先して確認します。
| パターン | 見た目の特徴 | 起点になりやすい場所 | 最初に触るポイント |
|---|---|---|---|
| 骨盤起点 | 骨盤の高さが左右で違う/坐骨荷重が片側に寄る | 座面・クッション | 骨盤の下で左右支持を作る |
| 体幹起点 | 体幹が側屈し、肩の高さがズレる | 背もたれ・側方支持 | 体幹を倒れる側で受ける |
| 足部起点 | 足が浮く/片足だけ踏み込みが強い | フットサポート | 足底支持を左右でそろえる |
調整順は「骨盤の下→体幹→足部」で決める
側方崩れでは、体幹を先に強く押さえると、骨盤の不安定さが残り、回旋や前ずれが出ることがあります。最初に座面で骨盤の左右差を整え、次に体幹の側方支持を追加し、最後に足底支持をそろえると、調整の再現性が高まります。
| 順番 | 見る場所 | 崩れのサイン | 調整 | 確認する変化 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 座面 | 坐骨荷重が片側/骨盤の高さが違う | 骨盤の下で左右支持を作る | 骨盤傾斜・圧の偏りが減る |
| 2 | 背もたれ・体幹 | 体幹側屈/肩高差 | 体幹の側方支持を追加する | 上体の倒れ込みが減る |
| 3 | 足部 | 足が浮く/片足だけ踏む | 足底支持をそろえる | 再崩れが減る |
5 分チェックで原因を切り分ける
チェックは、座り直した状態で 1 つずつ確認します。大切なのは、複数箇所を同時に変えないことです。1 箇所を調整したら、骨盤の高さ、肩の高さ、足底接地、本人の楽さを確認し、変化が出た場所を記録します。
| チェック | Yes の所見 | 原因の当たり | 先に行う調整 |
|---|---|---|---|
| 骨盤の高さが左右で違う | 坐骨荷重が片側に寄る | 座面支持の不足 | 骨盤の下で左右支持を作る |
| 肩の高さがズレる | 上体が倒れて戻れない | 体幹支持の不足 | 体幹の側方支持を追加する |
| 足が浮く | 片足だけ踏み込みが強い | 足底支持の不一致 | フットサポートを調整する |
| 片側の圧が強い | 下側の坐骨・大転子周囲に圧集中がある | 骨盤傾斜と支持面の不一致 | 座面条件とクッション適合を見直す |
A4 記録シートをダウンロードする
側方崩れの確認結果を、座面・体幹・足部の 3 枠で残せる A4 記録シートを用意しました。印刷して、調整前後の変化や次回申し送りに使えます。
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原因別レシピ:支持をどう作るか
支持は「まっすぐ固定する」よりも、「崩れる方向を受ける」と考えると実装しやすくなります。座面で骨盤を受け、背もたれで体幹を受け、足底で下肢からの引っ張りを減らす流れで確認します。
座面で骨盤の左右差を支える
骨盤の高さが左右で違う場合は、まず座面で坐骨荷重の偏りを減らします。クッションや座面条件を見直し、片側だけ沈む、片側だけ圧が強い、骨盤が回旋する状態がないか確認します。
- 狙い:骨盤傾斜と坐骨荷重の偏りを減らす
- 調整:骨盤の下で左右支持を作る
- 確認:骨盤の高さ、圧の偏り、本人の安楽さ
体幹の側方支持で倒れる連鎖を止める
骨盤を整えても上体が倒れる場合は、体幹側方支持を検討します。倒れる側を強く押し返すのではなく、胸郭や体幹が戻りやすい位置で受けることがポイントです。
- 狙い:体幹側屈と肩高差を減らす
- 調整:背もたれ・側方支持で体幹を受ける
- 確認:肩の高さ、上肢活動、呼吸や嚥下のしやすさ
足底支持をそろえて再崩れを防ぐ
足が浮く、片足だけ強く踏む、膝や股関節の位置が左右で違う場合は、骨盤が足部から引っ張られて再び崩れます。最後にフットサポートの高さや前後位置を確認します。
- 狙い:下肢から骨盤へかかる左右差を減らす
- 調整:足底接地を左右でそろえる
- 確認:踵の浮き、片足荷重、骨盤の再崩れ
よくある失敗は「体幹を先に押さえる」こと
側方崩れで多い失敗は、骨盤の下を見ないまま体幹だけを固定することです。体幹支持で一時的に真っすぐに見えても、座面の左右差や足部支持が残ると、回旋、前ずれ、片側圧集中が出やすくなります。
| NG | 起こりやすい問題 | OK | 記録例 |
|---|---|---|---|
| 体幹を先に固定する | 骨盤の不安定さが残る | 座面で骨盤を整えてから体幹支持 | 座面支持後、骨盤傾斜と肩高差が軽減。 |
| 複数箇所を同時に変える | 何が効いたか分からない | 1 箇所ずつ調整して変化を確認 | 体幹側方支持のみ変更し、左倒れ込みが減少。 |
| 足部支持を見ない | 調整後に再崩れしやすい | 最後に足底接地を確認する | 足底支持をそろえ、座位保持時間が延長。 |
記録は「条件・調整・変化」の 3 点で残す
側方崩れの記録は、細かい用語を並べるよりも、次の担当者が再現できる形にすることが重要です。座位条件、どこを調整したか、調整後に何が変わったかを短く残します。
| 記録する要素 | 見るポイント | 記録例 |
|---|---|---|
| 条件 | 車椅子、クッション、足底支持、座り直しの有無 | 標準型車椅子、クッション使用、両足底接地あり。 |
| 調整 | 座面、体幹、足部のどこを変えたか | 座面左側支持を追加し、骨盤の左下制を補正。 |
| 変化 | 骨盤傾斜、肩高差、圧集中、活動の変化 | 左側方崩れが軽減し、右上肢リーチ時の座位保持が安定。 |
現場の詰まりどころ:調整できても次に再現できない
側方崩れは、その場で整っても「次の担当者が同じ条件を再現できない」ことで再発します。原因は技術不足だけでなく、座位条件、調整箇所、変化の記録がそろっていないことにもあります。
ここまで整えても毎回同じところで詰まる場合は、手順だけでなく、教育体制・共通フォーマット・相談相手の有無など、職場環境の影響を受けている可能性もあります。評価・記録・報告の型をまとめて整理したい方は、PT キャリアガイドも参考になります。
よくある質問(FAQ)
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側方崩れは、まずどこから直すのがよいですか?
最初は骨盤の下、つまり座面から確認します。骨盤の左右差が残ったまま体幹だけを支えると、回旋や前ずれが出ることがあります。座面、体幹、足部の順で 1 箇所ずつ調整します。
骨盤傾斜と体幹側屈のどちらが先か分かりません
まず骨盤の高さ、坐骨荷重、片側の圧集中を見ます。骨盤の左右差が明確なら座面から調整します。判断に迷う場合も、座面を 1 つ変えて変化を確認すると、起点を推定しやすくなります。
足が浮いているだけでも側方崩れに関係しますか?
関係します。足底支持が左右で違うと、下肢から骨盤へ引っ張りが入り、再崩れしやすくなります。座面と体幹を整えた後、フットサポートの高さや前後位置を確認します。
クッションだけで側方崩れは改善しますか?
クッションで改善する場合もありますが、体幹支持や足底支持が合っていないと再崩れします。座面だけで完結させず、体幹と足部まで含めて変化を確認します。
記録には何を書けば再現しやすいですか?
座位条件、調整箇所、調整後の変化を残します。例として「座面左側支持を追加。骨盤左下制と左側方崩れが軽減。両足底接地で座位保持安定」のように書くと、次の担当者が再現しやすくなります。
次の一手
参考文献
- Owens J, Geyer MJ. Seating and Wheelchair Evaluation. StatPearls. 2023. NCBI Bookshelf
- Brienza DM, Geyer MJ. Using support surfaces to manage tissue integrity. Adv Skin Wound Care. 2005;18(3):151-157. PMID: 15835238
- Sprigle S, Sonenblum S. Assessing evidence supporting redistribution of pressure for pressure ulcer prevention: a review. J Rehabil Res Dev. 2011;48(3):203-213. DOI: 10.1682/JRRD.2010.05.0092
- Agency for Clinical Innovation. Conducting the MAT: Spinal seating. ACI
- International Guideline. Seating support surfaces and repositioning in seated position. International Guideline
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


