車椅子の側方崩れ対策|骨盤傾斜をどう見分けて調整するか

臨床手技・プロトコル
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車椅子の側方崩れは、まず「戻せる傾きか」を確認する

車椅子で身体が片側へ傾くときは、すぐにクッションを追加したり、体幹を横から押さえたりするのではなく、まず骨盤傾斜や体幹側屈が可動性のある崩れか、固定性の高い変形かを確認します。可動性があれば許容範囲で中間位方向へ整え、固定性が高ければ無理に水平へ戻さず、その姿勢に適合する支持を検討します。

そのうえで、骨盤・体幹・下肢/足部のどこを変えると姿勢や圧、活動が改善するかを1か所ずつ確認します。この記事では、PT・OTなどが車椅子の側方崩れを評価し、支持調整、再評価、記録までつなげる手順を整理します。

シーティング全体の評価手順から確認したい場合は、シーティングの全体像を先に確認してください。

最初の判断は「可動性のある傾斜か、固定性が高いか」

側方崩れで最初に分けたいのは、骨盤や体幹を中間位方向へ戻せるかどうかです。見た目の傾きが同じでも、可動性がある場合と固定性の高い変形では、調整の考え方が異なります。

側方崩れで最初に確認する可動性
状態 確認の目安 基本方針
可動性あり 臥位や除重位で骨盤・体幹を中間位方向へ動かしやすい 許容範囲で整え、その位置を支持する
部分的に可動 抵抗はあるが、中間位方向へある程度動かせる 無理に全矯正せず、動かせる範囲で支持する
固定性が高い 中間位へ動かそうとすると代償や疼痛が出る、または明らかな可動域制限がある 無理に水平化せず、変形した形状に適合させる

固定性が高い骨盤傾斜を「左右の高さが違うから」と強く水平化すると、体幹や股関節など別の部位へ代償が生じたり、局所圧が増えたりする可能性があります。臥位や除重位でどこまで修正できるかを確認し、その範囲を超えて押し戻さないことが重要です。

次に骨盤・体幹・足部のどこが崩れに関係しているかを見る

可動性を確認したら、側方崩れを骨盤・体幹・下肢/足部の3方向から見ます。この3区分は標準化された正式分類ではなく、調整箇所を整理するための実務上の確認枠です。

側方崩れで確認する3つの支持領域
見る場所 確認する所見 試すこと 再確認すること
骨盤・座面 骨盤高差、坐骨荷重の左右差、回旋、クッションの沈み込み 座面・クッション条件を1つ変更する 骨盤傾斜、体幹、圧の偏り
体幹・背もたれ 側屈、肩高差、背もたれとの接触、支持なしでの保持 背もたれや側方支持の条件を変える 倒れ込み、安楽さ、上肢活動
下肢・足部 足底接地、左右の膝位置、フットサポート高・前後位置、片足の踏み込み フットサポートの高さ・位置を調整する 骨盤の再傾斜、下肢の左右差

大切なのは、「骨盤が傾いているから必ず座面が原因」「足が浮いているから足部だけ直せばよい」と決めつけないことです。1か所だけ条件を変え、その前後で姿勢や圧、活動がどう変わったかを見ることで、原因仮説を絞ります。

車椅子の側方崩れの見方と調整フローをまとめた図版
図:側方崩れは、まず可動性を確認し、固定性が高い場合は無理に水平化せず、骨盤・体幹・足部のうち1か所だけ条件を変えて再評価します。

5分チェックは「条件をそろえて1か所ずつ変える」

短時間で確認するときも、複数箇所を同時に変更しないことがポイントです。座り直した条件をそろえ、1か所だけ変更し、その前後で姿勢・圧・安楽さ・活動を比較します。

※「5分チェック」は本記事で実務上の確認手順を整理したものであり、標準化された評価尺度ではありません。

  1. 急な変化がないか確認する:新たな強い疼痛、皮膚トラブル、意識・全身状態の変化などがあれば、シーティング調整だけで処理しません。
  2. 座位条件をそろえる:車椅子、クッション、臀部位置、靴、フットサポートなどを確認します。
  3. 可動性を確認する:臥位または除重位で、骨盤・体幹がどこまで中間位方向へ戻るかを確認します。
  4. 1か所だけ変更する:座面、背もたれ・側方支持、フットサポートなどから1つを選びます。
  5. 同じ項目を再評価する:骨盤傾斜、肩高差、局所圧、安楽さ、上肢活動、一定時間後の再崩れを比較します。

可動性に応じて「整えるか、適合させるか」を決める

支持の目的は、見た目を左右対称にすることではありません。姿勢の可動性、圧分布、安楽さ、活動性を踏まえ、本人にとって安定して使える支持を作ります。

可動性がある場合は許容範囲で整える

骨盤傾斜が中間位方向へ戻る場合は、座面やクッション条件を調整し、より安定する位置を探します。ただし、強く押し戻して局所圧を作らないようにします。

  • 見る:骨盤高差、坐骨荷重、体幹側屈
  • 試す:座面・クッション条件を1つだけ変更する
  • 確認:姿勢だけでなく、圧・安楽さ・活動も改善したか

固定性が高い場合は無理に水平化しない

骨盤を水平へ戻そうとすると体幹や股関節などに代償が出る場合は、固定性の高い変形を考えます。この場合は「低い側を持ち上げればよい」と単純化せず、変形した形状を受けながら安定する支持を検討します。

  • 避ける:可動域を超えた強制的な矯正
  • 狙う:変形に適合しながら、安定した支持面を作る
  • 確認:坐骨・大転子周囲などの局所圧が増えていないか

骨盤条件を変えても残る側屈は体幹支持を確認する

骨盤・座面条件を変更しても体幹側屈が残る場合は、背もたれとの接触や側方支持を確認します。体幹を強く押し返すのではなく、本人の可動域、安楽さ、上肢活動を損なわない位置で受けることが重要です。

足部条件が骨盤を崩していないか確認する

足が浮く、左右で膝の高さが違う、片足だけ強く踏み込む場合は、フットサポートの高さ・前後位置、靴やクッション厚との適合を確認します。明らかな不適合がある場合は、骨盤や体幹支持より先に足部条件を修正して変化を見る場合もあります。

骨盤傾斜では「低い側の圧」と皮膚も確認する

側方崩れでは、姿勢が整ったように見えても、圧管理が不十分であれば調整成功とはいえません。骨盤傾斜や非対称姿勢がある場合は、局所圧、ずれ、支持面との適合をあわせて確認します。

  • 坐骨・大転子周囲の発赤や皮膚状態
  • 片側への荷重集中
  • クッションの底付き、劣化、左右の沈み込み
  • 座面のたわみや車椅子幅・奥行きとの不適合
  • 調整後に新たな局所圧が生じていないか
  • 一定時間座ったあとに再び傾きが強くならないか

消退しない発赤、既存の褥瘡・創傷、強い疼痛などがある場合は、姿勢調整だけで対応せず、施設の手順に沿って除圧、報告、専門職への相談を行います。

側方崩れの評価・調整記録シートをダウンロードする

今回のリライト方針に合わせて、配布物を「車椅子 側方崩れ 評価・調整記録シート v2」へ更新しました。可動性の判定から、1か所だけ条件を変更し、同じ項目で再評価して申し送るところまでをA4縦1枚で記録できます。

PDF版はそのまま印刷・配布したい場合、Excel版は施設内で項目や運用に合わせて編集したい場合に使用してください。

PDF版|そのまま印刷・配布したい場合

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Excel版|施設内で編集して使いたい場合

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側方崩れで避けたい4つの失敗

調整がうまくいかないときは、支持物をさらに追加する前に、最初の見立てと変更条件を見直します。

側方崩れで起こりやすい失敗と見直し方
失敗 問題 見直し方
固定変形まで水平に戻そうとする 他部位の代償や局所圧につながる 可動性を確認し、固定性が高ければ変形へ適合させる
傾いている側へすぐ支持物を追加する 骨盤・体幹の関係を確認できない 座面、体幹、足部を分けて原因候補を確認する
複数箇所を同時に変える 何が有効だったか分からない 1か所だけ変更して同条件で再評価する
見た目だけで成功と判断する 圧や活動性が悪化していても見逃す 圧、安楽さ、活動、一定時間後の再崩れまで見る

記録は「条件・可動性・変更・反応」で残す

側方崩れの記録では、次の担当者が同じ条件を再現できることが重要です。「左へ傾きあり」のような所見だけで終えず、どの条件で、どこまで戻り、何を変更し、その結果どう変わったかを残します。

側方崩れの記録テンプレート
項目 記録する内容 記録例
条件 車椅子、クッション、臀部位置、靴、足底支持 標準型車椅子、クッション使用、両足底接地。
可動性 骨盤・体幹がどこまで中間位方向へ戻るか 臥位では骨盤高差が軽減し、可動性あり。
変更 何を1か所変更したか 座面支持のみ調整。
反応 姿勢、圧、活動、安楽さ、再崩れ 左骨盤傾斜と肩高差が軽減。右上肢リーチ時も保持可能。

「何を変えたか」だけでなく、「何が変わらなかったか」も残すと、次回の調整で同じ試行を繰り返しにくくなります。

簡単な調整だけで終えず、詳しい評価を検討する場面

簡単な支持調整で変化しない側方崩れは、座面だけの問題とは限りません。姿勢変形、疼痛、筋緊張、左右の組織量差、車椅子寸法、クッションの適合など複数要因が関係する場合があります。

  • 臥位でも骨盤・体幹の非対称がほとんど変わらない
  • 支持を変えると別部位の痛みや圧が増える
  • 褥瘡・創傷や消退しない発赤がある
  • 側方崩れが短期間で急に強くなった
  • クッションや車椅子寸法の不適合が疑われる
  • 複数回調整しても同じ姿勢を再現できない

車椅子寸法や身体寸法との適合が疑われる場合は、シーティングの身体計測も確認してください。

よくある質問

車椅子で身体が横に傾くとき、最初は骨盤から直しますか?

必ず骨盤から調整するわけではありません。最初に骨盤・体幹の傾きが可動性のあるものか、固定性が高いものかを確認します。そのうえで骨盤、体幹、足部のどこを1か所変更すると改善するかを確認します。

固定した骨盤傾斜も水平にした方がよいですか?

無理に水平へ戻しません。中間位へ動かそうとすると他部位が代償する場合や明らかな可動域制限がある場合は、固定性の高い変形を考えます。可動範囲を超えて矯正せず、変形した形状に適合する支持を検討します。

低い側の骨盤の下へクッションを入れれば改善しますか?

可動性のある骨盤傾斜で有効な場合はありますが、すべての側方崩れに当てはまる方法ではありません。固定性、体幹変形、局所圧、クッション・車椅子の適合を確認し、変更前後で姿勢・圧・安楽さ・活動を比較します。

どのような場合に詳しいシーティング評価が必要ですか?

固定変形が疑われる、褥瘡・発赤・疼痛がある、支持調整で別部位の圧が増える、車椅子やクッションの不適合が疑われる、複数回調整しても再崩れする場合は、より詳細なシーティング評価を検討します。

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参考文献

著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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