症例報告・学会抄録は「投稿規定→骨格→点検」の順で書きます
症例報告や学会抄録で最初に決めるのは、文章表現ではなく「投稿先のルール」と「この症例で何を伝えるか」です。PT・OT・STが書き始めで詰まるときは、情報不足よりも、評価・介入・結果を入れすぎて主題が見えなくなっていることがあります。
この記事では、投稿規定を確認したうえで、症例を5ステップで整理し、抄録の下書き、タイトル、CARE、提出前チェックへ進む流れをまとめます。A4下書き記録シートはExcel・PDFの2形式で配布しているため、「何を残し、何を削るか」を整理しながら書き始められます。
最初に確認:提出先の募集要項・投稿規定が最優先です
抄録の文字数、指定見出し、図表の可否、倫理的配慮・同意の記載方法などは投稿先によって異なります。この記事で紹介する「5文」は骨格を作るための下書き方法であり、提出形式そのものではありません。
結論:投稿規定を確認したら、5ステップで骨格を作ります
投稿条件を確認したあとは、①投稿条件を確認する → ②伝えたいことを1行にする → ③5文で骨格を作る → ④事実と解釈を分ける → ⑤提出前に点検する、の順で進めます。
最初から完成した文章を書く必要はありません。先に「何を伝える症例なのか」と評価・介入・結果のつながりを固定してから、投稿先の文字数や指定様式へ合わせて整える方が、情報の重複や結論のずれを見つけやすくなります。

- 投稿条件を確認する:発表先、締切、指定字数、指定見出し、倫理・施設規定を確認する
- 伝えたいことを1行にする:「誰に、何を行い、何がどう変わった症例か」を言葉にする
- 5文で骨格を作る:背景・目的、対象、評価・介入、結果、考察・結論の順で要点を並べる
- 事実と解釈を分ける:観察された結果と、その要因として考えられることを混同しない
- 提出前に点検する:投稿規定、時系列、評価条件、匿名化、同意・倫理などを照合する
5文構成は「提出形式」ではなく、抄録の下書きを作る型です
5文構成は、症例の要点をいったん短く並べて、背景から結論までのつながりを確認するための下書き方法です。投稿先から「目的・方法・結果・考察」などの見出しが指定されている場合は、その形式を優先してください。
下書きでは、評価や介入を最初からすべて盛り込まず、今回の主題に直結する情報から選びます。そのあと投稿規定の文字数や様式に合わせて、結果の解釈に必要な条件や補足所見を追加します。
| 文 | 役割 | 最初に入れる情報 | 下書きの考え方 |
|---|---|---|---|
| 1 | 背景・目的 | なぜ報告するのか、今回の目的 | 今回の症例で明らかにしたいことを置く |
| 2 | 対象 | 疾患、病期、主な課題 | 主題を理解するために必要な情報を残す |
| 3 | 評価・介入 | 主な評価と中心となる介入 | 結果と対応する評価・介入を優先する |
| 4 | 結果 | 介入前後の代表的な変化 | 何がどのように変化したかを明確にする |
| 5 | 考察・結論 | 事実から言える範囲と示唆 | 結果を超えて因果関係を言い切らない |
ここで重要なのは「5文で提出すること」ではありません。短い状態で目的・評価・介入・結果・結論がつながっているかを確認し、その骨格を投稿先の指定形式へ展開します。
200〜400字程度の短い抄録で、実際にどこまで情報を残すか確認したい場合は、学会抄録200〜400字の例文と5文構成で詳しく整理しています。
A4下書き記録シートで、文章にする前の情報を固定します
A4下書き記録シート v2では、投稿条件、今回伝えたいこと、抄録の5文メモ、観察された事実と解釈、提出前チェックを1枚にまとめています。5文は提出形式ではなく、骨格を作るための下書きとして使います。
Excel版はパソコンで入力・修正しながら使いたいとき、PDF版は印刷して手書きで整理したいときに使えます。どちらも内容は同じなので、使いやすい形式を選んでください。
症例報告・学会抄録 下書き記録シート v2
投稿規定を先に確認し、「何を伝えるか」を1行にしてから5文の骨格を作るA4下書きシートです。
PDF版のプレビューを開く
タイトルは「何を示す症例なのか」が1行で分かる形にします
タイトルでは、診断名や評価結果をできるだけ多く入れるのではなく、今回の主題が何かを読み手が判断できる情報を優先します。タイトルが長くなる場合は、文章を削る前に、症例報告で伝えたいことが2つ以上になっていないか確認してください。
下書きシートのSTEP 2にある「誰に、何を行い、何がどう変わった症例か」を1行で整理してからタイトルへ変換すると、不要な情報を外しやすくなります。
タイトルの型や、長くなった題名をどの順番で削るかまで確認したい場合は、症例報告タイトルの付け方で詳しく整理しています。
CAREは投稿規定の代わりではなく、症例報告の抜け確認に使います
CAREは、症例報告を正確かつ透明に報告するためのガイドラインです。投稿先の文字数や指定見出しを決めるものではないため、投稿規定を確認したうえで、症例報告として必要な情報が欠けていないかを点検するために使います。
CAREでは、タイトル・抄録だけでなく、患者情報、タイムライン、診断・評価、治療的介入、フォローアップと転帰、考察、患者の視点、インフォームド・コンセントなども扱います。この記事ではCARE全文を置き換えず、原稿を作る過程で特に確認したい時系列、介入、転帰、考察、倫理的配慮を中心に整理しています。
CAREの各項目を症例報告へどう当てはめるかは、CAREガイドラインの使い方で確認してください。
結果と考察は「観察された事実」と「解釈」を分けます
症例報告で考察が飛躍しやすいのは、観察された変化と、その理由として考えたことを同じ文章で扱うときです。まず実際に確認できた結果を書き、そのあとに結果へ影響した可能性がある要因を考えます。
| 区分 | 書く内容 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 観察された事実 | 評価値、動作、介助量、経過など実際に確認できた変化 | いつ、どの条件で確認した結果か |
| 考えられる要因・解釈 | 結果に影響した可能性がある介入、環境、自然経過など | 単一症例から因果関係を言い切っていないか |
「介入後に改善した」という時間的な前後関係だけでは、その介入が改善を引き起こしたと断定できません。症例報告では、確認できた事実と筆者による解釈の境界を明確にしておくことが重要です。
症例報告・学会抄録で詰まりやすい7つのポイント
読みにくくなる原因は、情報不足よりも「何を伝える症例なのか」と評価・介入・結果の対応が崩れていることです。書き足す前に、次の7点を確認してください。
- 目的が1行で言えない:症例から何を伝えたいのかを先に固定する
- 主な課題が複数ある:今回の報告で中心に扱う問題を選ぶ
- 評価結果を並べすぎる:結論を支える評価・所見から優先する
- 介入が羅列になっている:中心となる介入と、その狙いを対応させる
- 時系列が追えない:評価、介入、結果がどの時点の情報かをそろえる
- 結果と考察が混ざる:確認できた変化と、その理由として考えたことを分ける
- 倫理・匿名化の確認が遅い:募集要項と所属施設の規定を早い段階で確認する
提出前5分チェックでは「欠落」と「不一致」を探します
原稿を書き終えたら、言い回しを磨く前に、目的・評価・介入・結果・結論が同じ主題につながっているかを確認します。最後に投稿先の募集要項と原稿を並べ、指定された形式と一致しているかを点検してください。
| 観点 | 確認できている状態 | 見直したいサイン | 修正の一手 |
|---|---|---|---|
| 投稿規定 | 字数・指定見出し・提出形式を確認済み | 下書きテンプレの形式のまま提出しようとしている | 募集要項と原稿を並べて照合する |
| 目的と結論 | 同じ主題について答えている | 目的にない内容が結論へ追加されている | 目的と結論を1行ずつ並べる |
| 時系列 | 評価・介入・結果の順序が追える | いつ評価・介入したのか分からない | 必要な時点や期間を補う |
| 評価条件 | 結果の解釈に必要な条件が分かる | 装具・介助・環境などの条件が不明 | 必要な評価条件を補う |
| 介入 | 中心となる介入と狙いが対応している | 実施内容の羅列になっている | 中心介入と目的を対応させる |
| 考察 | 観察された結果から説明できる範囲で考察している | 単一症例から因果関係を強く言い切っている | 事実と解釈を分け、可能性として示す |
| 匿名化 | 個人特定につながる情報を再確認している | 症例を特定できる情報が残っている可能性がある | 症例情報、画像、日付などを再点検する |
| 同意・倫理 | 募集要項・所属施設の規定を確認済み | 必要な手続きや記載方法が未確認 | 投稿先と所属施設の規定を再確認する |
よくある質問(FAQ)
症例報告や学会抄録を書き始めるときに迷いやすい点を、判断に必要な範囲で整理します。
抄録が指定字数に収まりません。どこから削ればよいですか?
最初に、背景の一般論、結論と重複する説明、今回の主題に直接つながらない評価所見を見直します。結果や主要条件を先に削るのではなく、「この情報がないと結論を理解できないか」で残す情報を判断してください。
抄録と症例報告本文は、どちらから書けばよいですか?
まず短い5文メモで主題を固定し、そのあと必要な事実や時系列を整理すると、方向性を決めやすくなります。症例報告本文を作成する場合は、評価・介入・転帰などの情報を整理したあと、その内容をもとに最終的な抄録を仕上げます。
評価結果は何個まで書けばよいですか?
固定された個数があるわけではありません。まず今回の主題と結果を説明するために必要な評価を残し、投稿先の文字数に合わせて優先順位をつけます。尺度名だけでなく、装具・介助・環境などの条件が結果の解釈に必要なら、その条件も記載を検討します。
タイトルが長くなるときは、何を削ればよいですか?
最初に、症例報告で伝えたい主題が1つに絞れているかを確認します。そのうえで、背景説明、重複する診断・所見、なくても主題が伝わる情報から整理します。
CAREと学会の投稿規定は、どちらを優先しますか?
実際に提出する形式は、投稿先の募集要項・投稿規定を優先します。CAREは症例報告として必要な情報を漏れなく透明に報告するためのガイドラインとして使い、投稿規定の代わりにはしません。
次の一手
- 症例を発表スライドへ展開する:症例発表スライドの作り方
- 短い抄録の文章へ落とし込む:学会抄録200〜400字の例文と5文構成
参考文献
- Gagnier JJ, Kienle G, Altman DG, Moher D, Sox H, Riley D, CARE Group. The CARE guidelines: consensus-based clinical case reporting guideline development. J Clin Epidemiol. 2014;67(1):46-51. doi: 10.1016/j.jclinepi.2013.08.003.
- EQUATOR Network. CARE guidelines(ケースレポート報告ガイドライン). 公式ページ.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

