訪問リハの書類と流れ(本記事のねらい)
訪問リハビリは、自宅でのリハという「現場の動き」だけでなく、契約・指示書・計画書・実施記録など多くの書類で支えられています。どの書類がいつ必要で、誰が作成し、どのくらいの頻度で見直すのかが曖昧なままだと、利用開始や更新のタイミングで慌てがちです。本記事では、訪問リハに関わる主要な書類と大まかな流れを、法律解説ではなくあくまで現場の理学療法士目線で整理します。
内容は、介護保険・医療保険の制度や自治体ごとの運用に完全には踏み込みません。その代わりに「最低限ここを押さえておくと実務で困りにくい」というラインに絞り、契約前〜継続利用〜終了時までの書類と、それぞれの確認ポイントをまとめます。細かな様式やルールは、所属事業所のマニュアルや行政通知と照らし合わせながら、自分の現場用にカスタマイズしてください。
訪問リハでキャリアを積むステップを確認する(PT キャリアガイド)
利用開始前〜契約時に必要な書類
訪問リハ開始前の大きな仕事は、「契約まわりの書類を整えつつ、サービスの中身を丁寧に説明すること」です。多くの事業所では、訪問リハビリテーションの契約書と重要事項説明書(事業所の概要・サービス内容・料金・中止や解約の条件など)、個人情報の取得・利用に関する同意書をセットで扱います。これらは利用者・家族に書面で説明し、署名・捺印をもらうことで、後々のトラブル防止や監査対応の基盤になります。
あわせて、保険証・介護保険負担割合証・受給者証などの確認、緊急連絡先やかかりつけ医、ケアマネジャーなど基本情報もここで固めます。ケアマネ側で作成されるケアプランやサービス利用票・提供票は、訪問リハの位置づけ(目的・頻度・他サービスとの関係)を整理するうえで重要な資料です。初回は「説明に追われて評価や家屋確認が薄くなる」か「評価に集中しすぎて契約の説明が十分でない」かに振れやすいので、事前にチェックリストを用意しておくと安定します。
医師の指示書と診療情報提供書
訪問リハの実施には、原則として主治医による訪問リハビリテーションの指示書が必要です。介護保険では 3 か月ごとに、医療保険では 1 か月ごとなど、保険種別や地域ルールに応じて有効期間が定められており、「いつまでに更新が必要か」をカレンダーや台帳で見える化しておくことが重要です。指示書には診断名・心身機能の状況・リハの目的や留意点などが記載されるため、リハ計画書を作成するときの大きな拠り所になります。
主治医が他院のときは、診療情報提供書でより詳しい病歴・検査所見・治療方針が共有されるケースもあります。PT としては、指示書の有効期限の管理に加えて、「指示内容と現場の状態がズレていないか」「急変や悪化をどう主治医にフィードバックするか」を意識しておきたいところです。指示書のコピーをカルテとリハ台帳の両方から確認できるようにしておくと、更新漏れや期間切れリスクを減らせます。
リハビリテーション計画書・実施計画書の実務
訪問リハでは、多くの事業所で「リハビリテーション計画書」あるいは「訪問リハビリテーション実施計画書」といった名称の書類を用います。ここには、評価結果(心身機能・活動・参加)、本人・家族のニーズ、長期目標・短期目標、リハ内容(頻度・時間・具体的なプログラム)、予後や留意点を記載します。介護保険のリハマネ加算などと連動して、ケア会議やモニタリングに使われることも多く、「他職種にも伝わる言葉で書く」ことがポイントです。
計画書はおおむね 3 か月ごとの見直しが目安で、その都度「評価の更新 → 目標とプログラムの修正 → 利用者・家族への説明・同意 → 交付」という流れを踏みます。説明・同意のプロセスを曖昧にすると、本人の納得感や家族の理解が不足しがちです。短期目標は数値だけでなく「何をどこまで誰の助けで」といったレベルで具体的に書きつつ、あまり診療報酬用語に寄りすぎないバランスを意識すると、現場でも読みやすい計画になります。
継続利用中の記録・モニタリング・報告書
サービス開始後は、毎回の訪問ごとに「サービス実施記録」を残します。バイタル・主訴・実施したリハ内容・反応・セルフエクササイズの指導・家族への説明・次回への持ち越し事項などを簡潔に記録し、必要に応じて利用者や家族のサインをもらいます。記録は、急変時の情報共有や苦情対応、監査の際の重要なエビデンスとなるため、形式的な「やりました」メモではなく、変化やリスクに目を向けた書き方が求められます。
一定期間ごと(例:1〜3 か月)にはモニタリングや計画書の見直しを行い、その結果をケアマネジャーや主治医に報告することもあります。担当者会議の資料や情報提供書では、「直近の評価変化」「目標に対する到達度」「今後の方針」「在宅生活のリスクと対策」を押さえておくと、他職種との連携がスムーズです。訪問回数が多い利用者ほど記録が散らばりやすいので、定期的にサマリーを作る習慣をつけておくと、自分の振り返りにも役立ちます。
サービス終了時の書類と対応
訪問リハの終了時には、入院・施設入所・転居・死亡・利用者や家族の希望による中止など、さまざまなパターンがあります。いずれの場合も、「いつ・どの理由で・どのような状態で終了したか」を残すサービス終了時サマリーが重要です。経過の要約、終了時点の能力・生活状況、未解決の課題や今後の注意点を簡潔にまとめておくことで、次の医療・介護資源への橋渡しがしやすくなります。
入院や施設入所の場合は、診療情報提供書やリハサマリーの作成を医師や他のリハ職と分担することもあります。契約上の解約手続き(解約の申し出時期、料金日割りの扱いなど)は、契約書や重要事項説明書の内容に沿って事務担当と連携して進めます。PT としては、終了時の訪問で「これまでの振り返り」と「今後の生活で特に注意してほしい点」を丁寧にお伝えし、書類上の情報と実際の生活イメージが一致するよう意識したいところです。
現場の詰まりどころ(誰が・どこまで書く?)
訪問リハの書類でよく詰まりやすいのが、「どこからどこまで PT が書くべきか」「どのタイミングで誰に確認を取るべきか」がぼんやりしているケースです。指示書の更新タイミングや契約書・計画書の書式は事業所や法人ごとに異なるため、最初に「自分の担当範囲」「事務や看護との分担」「更新サイクル」を整理しておかないと、気づけば期限切れ寸前ということになりがちです。
もう一つの詰まりどころは、「臨床と書類の優先順位の揺れ」です。訪問時間がタイトな中で評価・介入・記録・説明までこなす必要があり、書類が後回しになると、結果的にリスク管理や他職種連携で不利になります。一方で、書類にばかり時間をかけてしまうと、利用者との関係づくりや実際の介入が薄くなるジレンマもあります。現場では、テンプレートやチェックリストを上手く使って記入時間を圧縮し、そのぶん「対話と観察」に時間を割く工夫が鍵になります。
よくある質問(FAQ)
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Q1. 訪問リハの書類で、まず最優先で覚えるべきものは何ですか?
最初に押さえたいのは、指示書・契約書/重要事項説明書・リハビリテーション計画書の 3 点セットです。指示書は「保険適用の前提条件」、契約書・重要事項説明書は「サービス内容とルールの合意」、計画書は「評価と目標・介入の見取図」と考えると整理しやすくなります。細かい書式や様式番号よりも、「どの書類がどんな役割を持っているか」をまず掴むことが、新人期にはおすすめです。
Q2. 書類が多すぎて追いつきません。効率化のコツはありますか?
闇雲に頑張るよりも、①テンプレート化、②更新サイクルの見える化、③チーム内ルールの共有が近道です。実施記録やサマリーは、自分用の文章テンプレを数パターン用意すると入力がかなり楽になります。また、指示書や計画書の期限はカレンダーや台帳で色分けし、「毎月〇週目に 3 か月先までを確認する」などのルールをチームで決めてしまうと、個人の努力に頼らず運用できます。
Q3. 訪問リハの書類は、どこまで PT が責任を負うべきでしょうか?
法的な責任の最終ラインは管理者や医師・事業所にありますが、PT も「自分が関与した評価・計画・記録」については説明できる状態にしておきたいところです。現実的には、①評価・目標・リハ内容の記載、②実施記録と変化のサマリー、③主治医やケアマネへの報告の内容が PT の主要な担当領域になります。疑問があれば、早めに管理者や事務担当に確認し、グレーゾーンを減らしておくことが安心につながります。
Q4. 教育体制に不安があるとき、転職はいつ検討すべきですか?
訪問リハは一人で判断する場面が多く、教育体制や相談できる先輩が乏しいと負担が大きくなりがちです。まずは「指示書・契約・計画書・記録」に関する最低限のサポートがあるかを確認し、それでも改善が見込めない場合は早めに情報収集を始めてよいタイミングです。転職を検討する際は、PT キャリアガイド(職場選びの注意ポイント)も参考にしつつ、「一人訪問になる前にどの程度の支援があるか」を具体的に確認しておくと安心です。
おわりに(書類のリズムを整えると臨床が楽になる)
訪問リハでは、「指示書 → 契約・説明 → 計画書 → 実施記録・モニタリング → 終了サマリー」という書類のリズムが整うほど、臨床に使える時間と心の余裕が生まれます。逆にこのリズムが乱れていると、急な更新や監査対応に追われ、利用者との関わりや介入内容が後回しになりがちです。まずは自分の事業所で使われている書式と更新サイクルを整理し、「何をいつまでに・誰と一緒に」仕上げるのかを見える化しておきましょう。
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著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

