退院前訪問指導は「段取り」と「共有記録」で決まります
退院前訪問指導は、家の情報を集めるだけの訪問ではありません。PT が見るべきポイントは、退院後の生活動作がどこで崩れ、何を整えると安全に近づくかを、その場で本人・家族・多職種と共有できる形にすることです。
この記事では、退院前訪問指導を 60〜90 分で進めるために、事前準備、当日の 5 ステップ、持ち物、見落としやすい条件、帰院後に使える記録の型まで整理します。読み終えると、「何を持って行き、どの順番で見て、何を記録するか」が決めやすくなります。
結論:目的、動線、失敗条件、採寸、合意の順で見ます
退院前訪問指導で最初に決めるのは、手すりや住宅改修の内容ではなく、退院後に失敗が起きやすい生活場面です。排泄、入浴、玄関、夜間動線のように、頻度が高い場面や事故時の影響が大きい場面から優先すると、短時間でも判断がぶれにくくなります。
当日は、家屋全体を細かく見る前に「何を確認する訪問か」を合意し、動線を一気通貫で確認します。そのうえで重点タスクを再現し、必要な場所だけ採寸・撮影し、最後に「誰が・いつ・何をするか」まで決めると、退院後の訪問看護・通所・ケアマネジャーへの共有もスムーズになります。
退院前訪問指導チェックシートをダウンロード
退院前訪問指導では、当日の確認項目をその場で書き残せる形にしておくと、帰院後の記録や多職種共有がスムーズになります。下記の A4 チェックシートは、目的、重点動作、見落とし条件、採寸、次アクションを 1 枚で整理できるように作成しています。
印刷して持参する場合は、事前に対象者情報と今回の訪問目的だけを記入しておくと、当日は「見る・測る・合意する」に集中しやすくなります。
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事前準備:当日を短縮する 6 点をそろえます
事前準備では、当日に「何を見るか」を絞ります。情報を広く集めるほど丁寧に見えますが、目的が曖昧なまま訪問すると、採寸や写真だけが増えて合意形成まで進みにくくなります。
- 目的を 1 つに絞る:転倒予防、排泄動作の安定、入浴介助量の軽減など、今回の最優先を決める。
- 同席者を確認する:本人、主介助者、ケアマネジャー、福祉用具事業者の同席可否を確認する。
- 退院直後の生活像を仮置きする:退院後 1 週間と 1 か月後で、できること・介助が必要なことを分ける。
- 重点タスクを決める:トイレ、浴室、玄関、寝室から、当日必ず再現する動作を 1〜2 個に絞る。
- 持ち物をまとめる:測る、書く、撮る、安全を守る、説明する道具を予備込みで準備する。
- 撮影と記録の扱いを確認する:撮影範囲、共有先、記録への転記方法を事前にそろえる。
当日の流れ:60〜90 分は 5 ステップで固定します
当日の流れは、採寸から始めないことがポイントです。先に目的と範囲を合意し、主動線を見てから、失敗が起きるタスクを再現します。採寸と撮影は、提案や記録に必要な場所へ絞ると、訪問後の整理も速くなります。
| ステップ | やること | チェックの焦点 | 記録の一言(例) |
|---|---|---|---|
| ① 合意 | 目的、同席者、今日見る範囲、撮影の扱いを確認する | 何を優先するか | 「目的:排泄時の介助量軽減」 |
| ② 動線確認 | 玄関、居室、トイレ、浴室を一気通貫で確認する | 段差、最狭部、扉干渉、照明 | 「最狭部:廊下 720 mm」 |
| ③ タスク再現 | 失敗が起きやすい動作を 1 つずつ再現する | 把持が途切れる瞬間、片手条件、方向転換 | 「旋回時に右手が離れふらつきあり」 |
| ④ 採寸・撮影 | 幅、高さ、段差、傾斜、下地を必要箇所に絞って残す | 後で比較できる数値と写真 | 「便座高 410 mm、段差 12 mm」 |
| ⑤ その場で合意 | 用具、配置、改修、再確認日、担当者を決める | 可逆的な調整から固定化へ進める | 「次:福祉用具で試行し、再訪問で固定化判断」 |
持ち物リスト:測る・書く・撮る・守る・説明する道具をそろえます
持ち物は、便利さよりも再現性を優先します。同じ条件で測れる、同じ角度で撮れる、帰院後に同じ言葉で共有できる道具をそろえると、訪問後の記録と多職種連携が安定します。
| カテゴリ | 必須 | あると強い | 忘れると起きやすいこと |
|---|---|---|---|
| 測る | メジャー、レーザー距離計 | 水平器、養生テープ、基準線用のマスキングテープ | 「だいたい」で提案し、後日寸法が合わない |
| 書く | クリップボード、ペン、予備ペン | 簡易見取り図用紙、付箋、チェック欄付きメモ | 数値はあるのに、どこの数値か分からない |
| 撮る | スマホ、モバイルバッテリー | 広角レンズ、同一アングル用の立ち位置メモ | 施工前後や用具配置前後の比較ができない |
| 守る | 滑りにくい靴、小型ライト | 手袋、消毒用品、必要時のマスク | 暗所や浴室確認中に転倒リスクが上がる |
| 説明する | 優先順位メモ、退院後の担当者メモ | 用具、配置、改修の順で説明する一言メモ | 家族の不安が整理されず、合意が先延ばしになる |
見落とし防止:夜間・濡れ・急ぎ・片手を必ず拾います
退院前訪問指導で見落としやすいのは、昼間の落ち着いた条件ではなく、生活の中で姿勢が崩れやすい条件です。特に夜間、濡れ、急ぎ、片手、介助者の立ち位置は、退院後の転倒や介助負担に直結しやすいため、最低 1 回は確認しておきます。
| 観察点 | なぜズレるか | 確認のコツ | 対策の方向性 |
|---|---|---|---|
| 夜間動線 | 昼は安全でも、暗さと眠気で判断が遅れる | 照明、スイッチ位置、足元の見え方を確認する | 照度確保、動線短縮、足元の視認性改善 |
| 浴室の濡れ条件 | 摩擦が低下し、またぎや方向転換で崩れやすい | 出入り、洗体、立ち座りの順に再現する | 椅子、滑り対策、手順の単純化 |
| 急ぎ条件 | 排泄などで動作が速くなり、把持が雑になる | トイレまでの最短動線と旋回位置を見る | 導線整理、手すり位置、衣服操作の簡略化 |
| 片手条件 | 扉、衣服、杖、手すりの同時処理で手が足りない | 補助具を持ったまま開閉や更衣を再現する | 把持点の連続、扉の変更、配置調整 |
| 介助者スペース | 本人だけでなく、介助者の姿勢が崩れる | 介助者が回り込めるか、足場があるかを確認する | 家具配置、介助位置、福祉用具の再選定 |
記録の型:帰院後に「誰が何をするか」まで残します
退院前訪問指導の記録は、きれいな文章よりも共有しやすさが重要です。数値、失敗条件、提案、担当、期限がそろうと、病棟、訪問看護、通所、ケアマネジャーが同じ前提で動きやすくなります。図で共有する場合は、退院前訪問指導の間取り図の書き方も先に固定しておくと、写真と記録のつながりが作りやすくなります。
| 記録項目 | 残す内容 | 記録例 |
|---|---|---|
| 目的 | 今回の訪問で最優先にした生活場面 | 「排泄動作の介助量軽減を目的に訪問」 |
| 失敗条件 | どの条件で動作が崩れたか | 「夜間想定、右手把持が途切れると旋回時にふらつき」 |
| 実測値 | 提案に必要な幅、高さ、段差、傾斜 | 「トイレ有効開口 650 mm、便座高 410 mm」 |
| 提案 | 用具、配置、改修のどれで対応するか | 「まずトイレ手すりと便座高調整を試行」 |
| 次アクション | 担当者、期限、再確認の方法 | 「福祉用具事業者が候補提示、退院前に再確認」 |
現場の詰まりどころ:採寸先行になると合意まで届きません
退院前訪問指導が長引くときは、情報不足よりも順番のズレが原因になりやすいです。採寸や写真を先に増やすほど、家族には「結局、何を変えるのか」が伝わりにくくなります。
- 見落とし条件を先に確認する:夜間、濡れ、急ぎ、片手を外すと、退院後に同じ場所で崩れやすくなります。
- 当日の 5 ステップに固定する:目的、動線、再現、採寸、合意の順にすると説明が短くなります。
- 記録の型を決めておく:誰が・いつ・何をするかまで残すと、退院後の再評価がぶれにくくなります。
ここまで整えても毎回同じところで詰まる場合は、個人の工夫だけでなく、教育体制、共通フォーマット、相談相手の有無など、職場環境の影響を受けている可能性もあります。記事末で、運用を整えた後の環境要因も確認できる導線を置いています。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
訪問時間が短いとき、どこを優先すべきですか?
事故時の影響が大きい場面か、頻度が高い場面を優先します。多くはトイレ、浴室、玄関です。動線全体を短く確認したあと、重点タスクを 1 つ再現し、必要な採寸と写真だけ残して、最後に担当者と期限を決めます。
家族の不安が強く、話が長くなるときはどう進めますか?
最初に「今日は何を決める訪問か」を共有します。自立できるかどうかだけで話すより、「事故を減らす」「介助量を減らす」「退院直後に困る場面を減らす」と目的を置くと、合意が取りやすくなります。
写真は何を撮ればよいですか?
全体動線、最狭部、段差、把持点、扉の干渉、浴室や玄関などの失敗場面を撮ります。施工前後や用具配置前後で比較できるよう、同じ立ち位置・同じ角度で撮ると共有しやすくなります。
採寸で最低限押さえる数字は何ですか?
有効開口幅、段差高、便座高、手すり候補の高さ、浴槽またぎ高、スロープや屋外アプローチの傾斜を優先します。すべて測るより、提案や記録に必要な数字を残す方が実務では使いやすくなります。
退院後の訪問看護や通所へ何を引き継ぐべきですか?
最低限は、目的、失敗条件、実測値、提案内容、次アクションの 5 点です。特に「夜間に崩れる」「濡れると不安定」「片手条件で扉が難しい」などの条件まで残すと、退院後の再評価で同じ視点を保ちやすくなります。
次の一手
- 制度と書類を確認する:退院前訪問指導料の算定要件と必要書類
- 図で共有する:退院前訪問指導の間取り図の書き方
運用を整えたあとに、職場環境の詰まりも点検しておきましょう
退院前訪問指導は、個人の段取りだけでは安定しないことがあります。教育体制、記録文化、相談しやすさを一度見える化すると、次の打ち手を決めやすくなります。
チェック後の進め方も整理したい方は、PT キャリアガイドを見ると、続ける・変えるの判断がしやすくなります。
参考文献
- Lannin NA, Clemson L, McCluskey A, Lin CW, Cameron ID, Barras S. Feasibility and results of a randomised pilot-study of pre-discharge occupational therapy home visits. BMC Health Serv Res. 2007;7:42. DOI: 10.1186/1472-6963-7-42 / PubMed: 17355644
- Cumming RG, Thomas M, Szonyi G, Salkeld G, O’Neill E, Westbury C, et al. Home visits by an occupational therapist for assessment and modification of environmental hazards: a randomized trial of falls prevention. J Am Geriatr Soc. 1999;47(12):1397-1402. DOI: 10.1111/j.1532-5415.1999.tb01556.x / PubMed: 10591231
- Keall MD, Pierse N, Howden-Chapman P, Cunningham C, Cunningham M, Guria J, et al. Home modifications to reduce injuries from falls in the Home Injury Prevention Intervention (HIPI) study: a cluster-randomised controlled trial. Lancet. 2015;385(9964):231-238. DOI: 10.1016/S0140-6736(14)61006-0 / PubMed: 25255696
- World Health Organization. WHO global report on falls prevention in older age. 2007. Official page
- 厚生労働省. 介護保険における住宅改修. PDF
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


