- 床からの立ち上がり動作分析は「3局面×3軸」で整理します
- 結論|止まる局面を決めて、3軸で観察し、1つ変えて反応を見ます
- 3局面は「起き上がり・支持形成」「中間姿勢への移行」「立位化・再安定」です
- 高這い・片膝立ち・しゃがみは「動作パターン」として分けます
- 観察は「重心移動・支持基底面・主導部位」の3軸に絞ります
- 5分観察では「停止局面 → 事実 → 仮説 → 1条件変更 → 反応」で記録します
- 観察事実と原因仮説を分けると、動作分析が散らばりにくくなります
- 修正は「1回に1条件」だけ変えます
- 安全管理は疼痛・めまい・支持物・介助量を先に確認します
- 床からの立ち上がり動作分析でよくある質問
- 次の一手|椅子からの立ち上がりにも同じ分析手順を使います
- 参考文献
- 著者情報
床からの立ち上がり動作分析は「3局面×3軸」で整理します
床から立てない場面では、筋力低下だけで原因を決めず、「どこで止まるか」「そこで何が起きているか」「条件を変えるとどう変わるか」を順に確認します。本記事では、床から立位までを臨床観察用の3局面に分け、重心移動・支持基底面・主導部位の3軸で整理します。
高這い・片膝立ち・しゃがみなど、床からの立ち上がり経路は1つではありません。特定のパターンを正常と決めるのではなく、停止局面 → 観察事実 → 原因仮説 → 1条件変更 → 反応の順で確認し、次に何を見るか・何を試すかを絞ることがこの記事の目的です。
動作分析全体の型を先に確認したい方へ
結論|止まる局面を決めて、3軸で観察し、1つ変えて反応を見ます
床からの立ち上がりを分析するときは、最初から全関節や全筋群を追う必要はありません。安全を確認したうえで、まず普段の方法でどこまで到達できるかを見ます。停止局面が決まったら、重心移動・支持基底面・主導部位の3軸で観察します。
重要なのは、見えた動きをそのまま原因と決めないことです。「上肢で強く引く」は観察事実ですが、その背景には疼痛、筋出力、バランス、可動域、恐怖、支持物の条件など複数の可能性があります。原因仮説を立てたら、条件を1つだけ変え、動作がどう変化したかで確かめます。

3局面は「起き上がり・支持形成」「中間姿勢への移行」「立位化・再安定」です
本記事の3局面は、標準化された評価尺度や研究上の公式分類ではありません。床からの立ち上がりでどこに観察時間を使うかを決めるための臨床観察用フレームです。
① 起き上がり・支持形成
臥位や床座位から身体を起こし、上肢・骨盤・下肢を使って次の姿勢へ移れる支持を作る局面です。側臥位、座位、四つ這いなど、次に選ぶ姿勢は対象者によって異なります。
ここでは、頸部だけが先に起きる、上肢で床を押せない、身体を起こす途中で停止するなど、まず目で確認できた事実を残します。その時点で「腹筋が弱い」などと原因を確定しません。
② 中間姿勢への移行
床面に多く接していた状態から、高這い・片膝立ち・しゃがみなど、立位につながる中間姿勢へ支持点を組み替える局面です。
ここでは、身体をどの方向へ移しているか、手・膝・足をどこへ置いているか、支持点を外したときに次の姿勢へ移れるかを確認します。筋力だけでなく、支持位置や重心移動の方向が動作を止めていないかを見ることがポイントです。
③ 立位化・再安定
中間姿勢から身体重心を上方へ運び、最終的に立位を安定させる局面です。片膝立ち、高這い、しゃがみなど、選択した経路によって必要な支持や関節運動は変わります。
立てたかどうかだけではなく、上肢で強く引いていないか、一側へ大きく偏っていないか、立位直後に追加ステップや介助を必要としていないかまで観察します。
高這い・片膝立ち・しゃがみは「動作パターン」として分けます
床からの立ち上がりには複数の経路があります。高齢者を対象とした研究でも、高這い位、片膝立ち、しゃがみ位などを経由する複数の動作パターンが報告されています。
本記事では、パターンは「どの経路で立つか」、局面は「その経路のどこで止まったか」を整理するものとして分けます。高這い、片膝立ち、しゃがみのどれか1つを正常パターンとして固定する必要はありません。
| パターン | 経路の特徴 | 観察するときの視点 |
|---|---|---|
| 高這いを経由 | 上肢と足部で支持しながら立位へ移る | 上肢支持、足部の位置、手を離す時期 |
| 片膝立ちを経由 | 片膝立ちから左右非対称の支持で立位へ移る | 支持側、左右差、前方への重心移動 |
| しゃがみを経由 | 両足部で支持したしゃがみ姿勢から立位へ移る | 足部支持、下肢の使い方、立位直後の安定 |
※表は横スクロールで閲覧できます。
同じ対象者でも、開始姿勢や支持物の有無、疼痛、可動域、バランスなどの条件によって使いやすい経路は変わります。再評価では、動作パターンだけでなく開始姿勢・支持物・介助量などの条件もそろえて比較します。
観察は「重心移動・支持基底面・主導部位」の3軸に絞ります
停止局面が決まったら、細かな所見を増やす前に3軸を確認します。目的は原因を即断することではなく、次に確かめる仮説を絞ることです。
| 軸 | まず見る事実 | 考える原因仮説 | 次に変える候補 |
|---|---|---|---|
| 重心移動 | どの方向へ動き、どこで止まるか | 動かしにくい方向、疼痛回避、恐怖、支持能力など | 支持位置や開始姿勢を1つ変える |
| 支持基底面 | 手・膝・足をどこへ置き、いつ支持を外すか | 接地位置、可動域、安定性、疼痛など | 接地位置を1か所変える |
| 主導部位 | 体幹・股関節・膝・上肢のどこで動きを作るか | 筋出力、運動戦略、疼痛回避、支持条件など | 支持物や姿勢条件を1つ変える |
※表は横スクロールで閲覧できます。
例えば「手で長く支持している」だけでは、上肢依存の理由までは分かりません。重心を移せないのか、足部の位置が決まらないのか、膝痛を避けているのかなど、3軸から次の確認項目を絞ります。
5分観察では「停止局面 → 事実 → 仮説 → 1条件変更 → 反応」で記録します
臨床では、所見をすべて列挙するより、観察順を固定すると再評価につながりやすくなります。実施前に、開始姿勢、裸足・装具、支持物、介助量などの条件を確認したうえで、図版の5段階に沿って整理します。
記録例
停止局面:② 中間姿勢への移行で停止
観察事実:右手を離せず、右手の接地位置が身体から遠い
原因仮説:支持位置が遠く、次の支持点へ重心を移しにくい可能性
1条件変更:右手の位置を身体へ近づける
反応:手を離して次の姿勢へ移行できた
この場合、「上肢筋力低下」とだけ記録するより、どこで止まり、何が見え、何を変えたらどう変わったかが分かります。次回も同じ条件で確認すれば、動作の変化を比較しやすくなります。
観察事実と原因仮説を分けると、動作分析が散らばりにくくなります
床からの立ち上がりでは、1つの所見に複数の原因が考えられます。そのため、「見えたこと」と「そこから考えたこと」を分けて整理します。
| 局面 | 観察事実 | 原因仮説の候補 | 次の確認 |
|---|---|---|---|
| ① 起き上がり・支持形成 | 頸部だけ先行する/途中で止まる | 体幹運動、上肢支持、疼痛、開始姿勢など | 開始姿勢や上肢支持条件を変えて比較する |
| ② 中間姿勢への移行 | 手を離せない/足の位置が決まらない | 支持位置、重心移動、可動域、疼痛、バランスなど | 手・膝・足の位置を1か所だけ変える |
| ③ 立位化・再安定 | 上肢で強く引く/一側へ偏る/立位後に追加ステップが出る | 荷重配分、下肢出力、疼痛、支持条件、姿勢制御など | 足位置や支持条件を1つ変えて反応を見る |
※表は横スクロールで閲覧できます。
原因仮説が複数浮かんでも、同時に全部を検証する必要はありません。停止局面に最も関係しそうな仮説から1つ選び、条件変更後の反応を確認します。
修正は「1回に1条件」だけ変えます
動作分析から介入へつなげるときは、完成動作を何度も反復する前に、原因仮説に関係する条件を1つだけ変えます。複数条件を同時に変えると、何が動作を改善させたのか判断しにくくなるためです。
| 観察したこと | 変える候補 | 確認する反応 |
|---|---|---|
| 進みたい方向へ身体を移せない | 手や支持物の位置 | 次の支持点へ重心を移せるか |
| 手・膝・足の配置が安定しない | 接地位置を1か所 | 支持を外して次の姿勢へ移れるか |
| 上肢への依存が大きい | 中間姿勢または支持物 | 下肢・体幹の参加や介助量が変わるか |
| 立位直後にふらつく | 立位化直前の足位置 | 追加ステップや介助量が減るか |
※表は横スクロールで閲覧できます。
条件を変えても反応が変わらなければ、その仮説の優先度を下げて別の要因を確認します。介入そのものを答えにするのではなく、反応を次の評価材料にすることがポイントです。
安全管理は疼痛・めまい・支持物・介助量を先に確認します
床から立位まで姿勢を大きく変える課題なので、評価を完遂することより安全確保を優先します。強い疼痛やめまいがある場合、介助なしでは危険と判断される場合は、無理に一連動作を続けません。
- 手関節や膝への負担:支持面、クッション、支持物などを調整する
- 支持物を使用する場合:台や手すりなどの条件を記録し、再評価時もそろえる
- 介助が必要な場合:介助量だけでなく、どの局面で何を介助したかを残す
- ふらつきが強い場合:立位完成を優先せず、安全に確認できる局面までで評価する
膝痛などで特定の中間姿勢が難しい場合も、その姿勢を無理に通過させる必要はありません。別の立ち上がり経路や支持物を検討し、安全に使えるパターンを探します。
床からの立ち上がり動作分析でよくある質問
床から立てないのは筋力不足ですか?
筋力は重要な要因の1つですが、筋力だけでは決まりません。床からの立ち上がりは、重心移動、支持位置、バランス、疼痛、可動域、使用する動作パターンや支持物など複数の条件に影響されます。まず停止局面と観察事実を確認し、必要な身体機能評価へつなげます。
高這い・片膝立ち・しゃがみは、どれを選べばよいですか?
全員に同じパターンを選ぶ必要はありません。実際に通りやすい経路は、疼痛、可動域、筋出力、バランス、支持物、生活環境などによって変わります。まず普段の立ち方を観察し、安全性と実用性を確認したうえで、必要に応じて別の経路を試します。
膝が痛く、片膝立ちや膝立ちを使えない場合はどうしますか?
膝立ちを必須の経路にはしません。支持物を利用する方法、高這いを経由する方法、しゃがみへ移る方法など、膝への負担を調整できる経路を検討します。重要なのは3局面を決まった姿勢で再現することではなく、安全に立位へ到達できる経路と、その経路での破綻点を見つけることです。
再評価では何を同じ条件にすればよいですか?
開始姿勢、履物や装具、支持物、介助量など、動作に影響する条件を可能な範囲でそろえます。そのうえで、停止局面、3軸の観察事実、条件変更後の反応がどう変わったかを比較すると、単に「立てた・立てない」だけでは分からない変化を追いやすくなります。
次の一手|椅子からの立ち上がりにも同じ分析手順を使います
床からの立ち上がりで、停止局面 → 観察事実 → 原因仮説 → 1条件変更 → 反応を整理できたら、次は椅子からの立ち上がりでも同じ考え方を使うと、動作分析の型を定着させやすくなります。
参考文献
- Alexander NB, Ulbrich J, Raheja A, Channer D. Rising from the floor in older adults. J Am Geriatr Soc. 1997;45(5):564-569. PubMed / DOI
- Bergland A, Laake K. Concurrent and predictive validity of “getting up from lying on the floor”. Aging Clin Exp Res. 2005;17(3):181-185. PubMed / DOI
- Klima DW, Anderson C, Samrah D, Patel D, Chui K, Newton R. Standing from the floor in community-dwelling older adults. J Aging Phys Act. 2016;24(2):207-213. PubMed / DOI
- 原聡美, 菅沼一男, 芹田透, 金子千香, 丸山仁司. 床からの立ち上がりと運動機能の関係. 理学療法科学. 2014;29(3):367-370. DOI
- 岩瀬弘明, 村田伸, 宮崎純弥, 大田尾浩, 堀江淳. 女性高齢者における床からの立ち上がり動作パターンの分類と身体機能の比較. ヘルスプロモーション理学療法研究. 2011;1(1):13-19. DOI
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

