床から立つ動作分析は「 3 局面 」に分けると一気に解けます
床から立てない原因は、単なる筋力低下だけでは説明できません。多くは ①起き上がり(臥位→座位)、②四つ這い〜膝立ち、③膝立ち〜立位 のどこかで「重心移動」「支持基底面」「体幹・股関節の使い方」が破綻しています。
本記事では、床から立つ動作を 3 局面に分けて、観察ポイント → よくある失敗 → 修正の方向性を臨床で使える形に整理します。回復期・在宅・施設で「まず何を見る?」が即決できることがゴールです。
同ジャンル回遊(まずここ)
動作分析のフレーム(親)へ続けて読む: 立ち上がり動作の分析(椅子→立位) / 方向転換の分析
結論:床から立てない人は「 どこで破綻しているか 」が違います
床から立てないとき、介入の優先順位は「脚を鍛える」ではなく、破綻局面の特定 → 失敗パターンの言語化 → 代償を減らす誘導です。局面が違えば、見るポイントも声かけも練習課題も変わります。
まずは、次の「 3 局面 」で どこまで自力で到達できるか を確認し、到達できない局面の観察に時間を使うのが最短ルートです。
床から立つ動作の 3 局面(臨床での分け方)
① 起き上がり(臥位 → 端座位)
体幹の回旋・側屈・支持(上肢の押し)を組み合わせて、重心を支持基底面の上に戻す局面です。腹筋だけで起きようとすると「途中で止まる」「頸部だけ起きる」などの破綻が出ます。
② 四つ這い〜膝立ち(支持基底面の切り替え)
支持が 体幹+上肢 から 体幹+下肢 へ切り替わる局面です。ここで必要なのは「筋力」よりも、前後への重心移動 と 支持基底面の再構築 です。
③ 膝立ち → 立位(股関節伸展と体幹の立て直し)
最終局面は、股関節伸展と体幹伸展で重心を上方へ移動させます。膝主導・反動だけで立とうとすると失敗しやすく、上肢で引っ張る代償が強くなります。
観察の軸:重心移動・支持基底面・主導関節の 3 点を見る
床から立つ動作の観察では、細かい関節角度より先に 「重心はどこへ動いているか」 を追うと迷いが減ります。次に「支持基底面が作れているか」「主導関節がどこか」を確認します。
| 軸 | 見るポイント | 典型的な破綻 | 最初の修正ヒント |
|---|---|---|---|
| 重心移動 | 前後・左右に重心を移せるか | 前方へ行けず手で支える | 「鼻をつま先へ」など方向づけ |
| 支持基底面 | 手・膝・足の設置が安定か | 膝が開く/足が迷う | 接地位置を先に“決めてから”動く |
| 主導関節 | 体幹/股関節/膝のどれが主役か | 膝だけで頑張る | 股関節主導に誘導(殿筋・体幹) |
※表は横スクロールで閲覧できます。
よくある失敗パターン(原因の当たりを付ける)
失敗を「筋力不足」でまとめると介入が散ります。ここでは、現場でよく遭遇する失敗を 局面別 に整理します。
| 局面 | 失敗パターン | 起こりやすい要因 | 観察の追加ポイント |
|---|---|---|---|
| ① 起き上がり | 頸部だけ起きる/途中で止まる | 体幹回旋が出ない、上肢支持が弱い | 上肢で押せているか、骨盤の回旋が出るか |
| ② 四つ這い〜膝立ち | 四つ這いが不安定/膝立ちへ移れない | 前方重心移動が苦手、支持基底面が作れない | 手の位置・膝の幅、体幹の回旋代償 |
| ③ 膝立ち→立位 | 反動で立とうとして崩れる/膝が先行 | 股関節伸展が出ない、体幹伸展が弱い | 骨盤前傾の有無、足部の接地と荷重 |
※表は横スクロールで閲覧できます。
現場の詰まりどころ
床から立つ練習がうまく進まないとき、詰まりどころは「強化メニュー」よりも、段階設定 と 介助の方向 にあります。特に、四つ這い〜膝立ちで破綻しているのに最終局面(立位)を練習してしまうと、反動・代償が増えて評価がブレます。
まずは、失敗を「局面」で言語化して共有し、チェック項目を固定すると、チーム内のズレが減ります。
評価のチェック(最短の手順)
現場では「全部チェック」より、手順を固定して見落としを減らす のが重要です。以下の順で確認すると、原因の当たりが付きやすくなります。
- どの局面まで到達できるか( ① / ② / ③ )
- 重心移動が“進まない方向”はどちらか(前/後/側方)
- 支持基底面の作り方(手・膝・足の位置)が適切か
- 主導関節(体幹/股関節/膝)と代償(上肢引っ張り等)
修正の方向性(声かけ・環境設定・課題の選び方)
介入は、いきなり完成動作をやらせるより、局面の“通り道”を作る 方が早いです。ポイントは「方向づけ(重心の行き先)」「接地位置の固定(支持基底面)」「主導関節の切り替え」です。
| 詰まり | まずやること | 声かけ例 | 避けたい対応 |
|---|---|---|---|
| 前方重心移動が出ない | 方向づけ+接地位置を先に決める | 「鼻を手の上へ」「胸を前へ」 | 反動だけで立たせる |
| 支持基底面が不安定 | 手・膝・足の“置き場所”を固定 | 「ここに手」「膝はこの幅」 | 位置が決まる前に動かす |
| 膝主導で崩れる | 股関節主導へ誘導(殿筋・体幹) | 「お尻を前へ」「骨盤を立てる」 | 膝だけの反復練習 |
※表は横スクロールで閲覧できます。
安全管理(転倒リスクを下げる前提)
床から立つ練習は、転倒・膝の痛み・手関節負担が出やすい課題です。対象者の状態に合わせて、介助位置 と 環境(マット/台/手すり) を先に整えます。
- 手関節痛がある:手掌支持を減らす(前腕支持や台利用)
- 膝痛が強い:膝立ち保持を短くし、段階課題を調整
- ふらつきが強い:立位獲得より、局面 ①〜② の安定化を優先
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
床から立てないのは筋力不足ですか?
筋力は要因の 1 つですが、実際は「重心移動の方向づけ」「支持基底面の作り方」「股関節・体幹主導への切り替え」が原因で破綻していることが多いです。まずは 3 局面のどこで止まるかを特定すると、介入の優先順位が決まります。
高齢者に床から立つ練習は必要ですか?
転倒や災害時などを考えると、必要性が高い場面があります。ただし安全管理が前提です。完成動作をいきなり狙わず、局面 ①(起き上がり)や局面 ②(四つ這いの安定)から段階的に進めるとリスクを下げられます。
膝が痛くて膝立ちができません
膝立ち保持を無理に続けると疼痛が増えます。台や手すりを使って支持基底面を広げたり、前腕支持・高い支持物を使って膝への負担を調整します。評価としては「どの局面で痛みが出るか」を先に整理すると、代替案が立てやすくなります。
在宅で家族が介助するときのコツは?
「引っ張って起こす」よりも、「位置を決める(手・膝・足)」「行き先を示す(前方へ)」が安全です。家族には、まず環境を整える(マット・低い台)ことと、無理に立位を狙わず段階課題で練習することを共有します。
次の一手
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
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参考文献
- Neumann DA. Kinesiology of the Musculoskeletal System. 3rd ed. Elsevier.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


