在宅復帰前に LSA・NRADL をどう使うか

評価
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在宅復帰前に LSA ・ NRADL をどう使うか:生活圏と息切れ ADL を “ 退院後の現実 ” に落とす

評価を “ 退院後の生活設計 ” につなげる型(PT キャリアガイド)を見る

在宅復帰の可否や支援量を決めるとき、歩行距離や ADL 自立度だけでは “ 退院後の現実 ” がズレることがあります。そこで役立つのが、生活圏の広がりを捉える LSA ( Life-Space Assessment )と、呼吸器疾患での息切れを含む日常生活活動を捉える NRADL ( Nagasaki University Respiratory ADL questionnaire )です。

結論は、 LSA =「どこまで行けるか」 NRADL =「その生活を息切れ込みで回せるか」の 2 軸で見立てることです。点数を “ 目標 ” にするのではなく、退院前に 生活動線・支援量・中止基準を具体化し、退院後の転倒と再入院を減らしましょう。

LSA とは:退院後の “ 生活圏 ” を数字で共有する評価

LSA は「自宅内〜自宅周囲〜地域(近隣)〜町外」など、生活空間の広がりを、頻度や移動の自立度(介助・補助具・同伴の有無)と合わせて把握する評価です。屋内歩行が可能でも、屋外環境や交通手段、家族同伴の有無で実際の生活圏は大きく変わります。

在宅復帰での使いどころは、退院後に “ 何ができそうか ” を家族と同じ言葉にすることです。たとえば「トイレは行ける」だけでなく、「買い物に行けるか」「通院が成立するか」「地域活動に戻れるか」を、条件(同伴・手段・頻度)ごとに整理できます。

LSA の落とし穴:点数が高くても危ない/低くても伸びる

LSA は生活圏の “ 実態 ” に強い一方で、季節・天候・家族都合で上下します。点数が高くても「同伴がないと外出できない」「雨の日に転倒リスクが跳ねる」などの危険は残ります。逆に、点数が低くても “ 条件が整えば ” 伸びる方は多いです。

運用のコツは、点数と同時に ①外出の障壁(段差・交通・恐怖)②崩れる場面(方向転換・混雑・疲労後)③安全条件(同伴・補助具・休息)を 1 行で残すことです。退院前に “ 条件を固定 ” できると、生活圏の再拡大が速くなります。

NRADL とは:息切れ・酸素・歩行距離を含めて ADL を見る(呼吸器向け)

NRADL は、呼吸器疾患の ADL を、動作速度息切れ酸素流量などの観点で整理し、さらに 連続歩行距離の要素も含めて “ 日常生活の回り方 ” を把握する評価です。単に「できる/できない」ではなく、息切れの出方と条件を共有しやすいのが強みです。

在宅復帰前に効く場面は、家事・更衣・入浴・屋内移動など “ 毎日必ず起きる動作 ” の見立てです。息切れが強い方ほど「一瞬はできるが、反復すると崩れる」「休息の入れ方で成立する」などの差が出るため、退院前に “ 再現できるやり方 ” を整えます。

現場の詰まりどころ:在宅復帰前に迷ったら、ここだけ押さえる

① 家の中は歩けるのに、退院後の外出が不安
LSA を使って “ 外出の条件 ”(同伴・交通・距離・頻度)を分解します。屋外は直線歩行より、段差・方向転換・混雑・疲労後がボトルネックになりやすいです。

② 息切れが強く、 ADL が日によってブレる
NRADL で “ 何をすると息切れが増えるか ” を固定し、休息・ペース配分・酸素設定などの条件を整えます。点数よりも、同条件で再現できるかが重要です。

③ 介護量・サービス量をどう決めるか
LSA と NRADL を 2 軸で見て、生活動線(屋内・屋外)と負荷(息切れ・疲労)の両面から必要支援を具体化します。家族へは “ できること ” ではなく “ 安全に繰り返せる条件 ” を共有します。

早見表:LSA × NRADL で決める退院後プラン( 2 軸整理)

※表は横にスクロールできます。

LSA(生活圏)と NRADL(呼吸器 ADL)から見立てる在宅復帰プラン(成人・退院前の実務向け)
分類 想定される状態 退院後ゴール例 PT の優先介入 支援・環境の整え方 記録のコツ
LSA 高 × NRADL 高 生活圏も ADL も比較的回る 外出頻度を維持し、転倒ゼロ 屋外課題(段差・方向転換)と耐久の段階づけ 自主練の頻度と休息ルールを固定 「崩れる場面」を先に書く(疲労後・混雑など)
LSA 高 × NRADL 低 外出はしているが息切れで ADL が崩れる 外出は条件付き、家の中の反復を安定 ペース配分、休息設計、動作手順の省エネ化 家事動線の短縮、入浴・更衣の負荷調整 誘因/軽減因子/安全条件を 1 行で
LSA 低 × NRADL 高 ADL は回るが生活圏が狭い(不安・環境・移動手段) 通院・買い物など “ 必須外出 ” を成立 屋外の成功体験(短距離×反復)と環境段階づけ 同伴・交通手段・ルートを具体化 「何が障壁か」を分類(恐怖/段差/交通など)
LSA 低 × NRADL 低 生活圏が狭く、息切れで反復も崩れやすい 生活動線の安全確立、再入院リスク低下 屋内課題の最適化と短時間反復(質優先) サービス導入、環境調整、介助ルールの固定 退院前に “ 中止基準 ” と “ 連絡先 ” を共有

退院前チェック:この 5 点が揃うと在宅が安定する

※表は横にスクロールできます。

LSA ・ NRADL を在宅復帰に落とすための退院前チェック( PT 実務用 )
チェック項目 OK の目安 不足時の対策 家族へ伝える一言例 記録ポイント
生活動線(屋内) 同じ条件で反復しても崩れにくい 手順の固定、休息の挿入、環境調整 「このやり方なら毎日回せます」 条件(補助具・介助・休息)を固定して書く
必須外出(通院・買い物) 同伴・交通・ルートが具体化されている 短距離から段階づけ、障壁の切り分け 「どこまで、誰と、どう行くかを決めましょう」 障壁(段差・混雑・恐怖)を分類
息切れ対応 誘因と軽減因子が共有できている ペース配分、姿勢、休息、酸素条件の整理 「苦しくなったらこの順で休みます」 誘因/軽減因子/再現性をセットで
中止基準 危険サインと連絡の流れが明確 家族へ簡単なルール化 「このサインが出たら中止して連絡です」 サインと対応(中止・休息・受診)を明文化
再評価計画 同条件での比較ができる 測定条件の固定(靴・補助具・環境) 「同じ条件で比べると変化が見えます」 条件を毎回書き、比較可能にする

カルテ記載テンプレ:点数より “ 条件 ” を残す

LSA と NRADL は、点数だけだとチームが動きにくいです。記載は、条件(同伴・補助具・休息・酸素)と、崩れる場面(方向転換・疲労後・入浴)をセットで残すと、退院後の支援が具体化します。

記載例(短文)
「 LSA :生活圏は自宅周囲中心。外出は同伴ありで成立。混雑・方向転換で不安定。 NRADL :家事は分割で可能だが更衣・入浴で息切れ増。休息を挿入すると再現性あり。退院後は通院ルート固定+休息ルール共有。」

ケース:生活圏は狭いが ADL は回る( LSA 低 × NRADL 高 )

状況:屋内 ADL は比較的安定しているが、屋外に出る機会が少なく生活圏が狭い。本人は「外が怖い」と話す。

見立て:課題は筋力より、屋外の “ 不確実さ ”(段差・交通・人混み)への不安。ここを分解し、短距離から成功体験を作ると生活圏が広がる可能性が高い。

介入:退院前に必須外出(通院)を想定し、ルートと条件(同伴・補助具・休息ポイント)を決め、屋外は “ 方向転換と停止 ” を中心に反復。退院後の再評価は同じ条件で比較する。

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1.LSA が低いと、在宅復帰は難しいですか?

A.必ずしも難しいとは限りません。LSA は “ 生活圏の実態 ” を示すため、低い場合は外出の障壁(交通・段差・恐怖・同伴の有無)を分解し、必須外出(通院など)を条件付きで成立させる設計が重要です。屋内動線が安定していれば、退院後に伸びる余地があります。

Q2.NRADL が低いとき、運動量は下げるべきですか?

A.一律に下げるのではなく、「質が保てる最小単位」で分割するのが基本です。短時間反復と休息をセットにし、息切れの誘因と軽減因子を固定して、同条件で再現できる範囲を広げます。

Q3.LSA と NRADL が食い違います(片方だけ低い)

A.食い違いは “ どこがボトルネックか ” のヒントです。LSA 低なら屋外の障壁、NRADL 低なら息切れや反復耐性が課題になりやすいです。 2 軸で整理すると、退院後プラン(同伴・環境・休息・サービス)が具体化します。

Q4.家族にどう説明すれば良いですか?

A.点数より、「安全に繰り返せる条件」を共有します。例として、同伴の必要性、休息の入れ方、危険サインと中止基準、通院ルートなどを具体化すると、在宅での事故が減ります。

おわりに

在宅復帰のリズムは「生活圏の現実を把握→息切れ込みで ADL 条件を固定→必須外出を設計→同条件で再評価」です。LSA と NRADL を 2 軸で使うと、退院後の “ ズレ ” が減り、支援が具体化します。面談準備のチェックと職場評価の視点を揃えたい方は、マイナビコメディカルのチェックリストも活用すると整理が速くなります。

参考文献

  • Baker PS, Bodner EV, Allman RM. Measuring life-space mobility in community-dwelling older adults. J Am Geriatr Soc. 2003;51(11):1610-1614. doi:10.1046/j.1532-5415.2003.51512.x. PubMed
  • Peel C, Baker PS, Roth DL, Brown CJ, Bodner EV, Allman RM. Assessing Mobility in Older Adults: The UAB Study of Aging Life-Space Assessment. Phys Ther. 2005;85(10):1008-1119. Journal
  • 岡本一紀. The Nagasaki University Respiratory ADL Questionnaire( NRADL )の臨床的意義(総説). J-STAGE PDF
  • 山口卓巳. 呼吸器疾患特異的 ADL 評価( NRADL など). J-STAGE PDF

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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