褥瘡予防のポジショニング|結論:圧・ずれ・踵骨を外す
褥瘡予防のポジショニングは、「良い姿勢をつくる」ことよりも、①圧を分散する、②ずれ(剪断)を減らす、③踵骨などの高リスク部位を確実に浮かせることが本質です。現場では “ 30°側臥位 ” や “ 2 時間おき ” が独り歩きしやすいですが、患者さんの体型・拘縮・疼痛・循環呼吸・支持面(寝具)で正解は変わります。
本記事では、理学療法士の視点で評価 → 体位設計 → 共有・記録 → 再評価までを 1 本の線で整理し、褥瘡予防に直結する「まずここだけは外さない」実務ポイントをまとめます。
最優先 5 つ|この順に押さえると迷いにくい
褥瘡予防で迷ったら、まずは下の 5 つを “上から順に” つぶします。ここが揃うだけで、仙骨部や踵骨のトラブルが起きにくくなります。
| 優先 | やること(要点) | 狙い | 確認のコツ |
|---|---|---|---|
| 1 | 踵骨を浮かせる | 踵骨の持続圧を遮断 | 手が “かかと下” に入る |
| 2 | ずれ(剪断)を減らす | 仙骨部・尾骨部の損傷を減らす | 前滑り/皮膚の引っ張られを減らす |
| 3 | 骨突出を “当てない” 体位にする | 圧の集中を回避 | 仙骨・大転子・腓骨頭・外果を触診 |
| 4 | 頭側挙上は必要最小限 | ずれと圧の増大を抑える | 挙上角度と前滑りを同時に観察 |
| 5 | 体位変換を “個別化” して回す | 皮膚反応に合わせて最適化 | 発赤の消退時間・疼痛・ズレで調整 |
最初にみる評価| PT だからできる “当たり” の予測
ポジショニングはクッションの技術だけでは決まりません。まず「どこに負担が集まりやすいか」を評価で当てにいくと、介入が安定します。
| 評価所見 | 起きやすい問題 | 介入の方向性 | 記録の一言例 |
|---|---|---|---|
| 骨盤後傾+前滑り | 仙骨部のずれ・発赤 | 背抜き/足側の支持の見直し/摩擦低減 | 前滑り減少、仙骨部のズレ所見なし |
| 痩せ+骨突出が強い | 局所の圧集中 | “当てない” 体位選択+接触面積を増やす | 骨突出部の圧集中を回避する配置 |
| 下肢浮腫 | 皮膚脆弱+ずれ | 過度な局所圧を避け、支持を分散 | 浮腫部の圧迫を避けた支持 |
| 拘縮(股・膝・足関節) | 体位が崩れて局所圧が増える | 関節角度を “守る” 支持配置にする | 拘縮角度に合わせ、疼痛なく保持 |
| 疼痛・不穏 | 自己抜去/自動運動でズレる | 安楽性を優先し、段階的に調整 | 安楽性を優先し、ズレが少ない体位 |
褥瘡予防の全体像(皮膚観察 → リスク評価 → 除圧/体位変換 → 寝具 → 栄養 → 再評価)は、褥瘡予防 理学療法士|基本フローにまとめています。
基本の体位と “狙い”|仰臥位・ 30°側臥位・ 90°側臥位
体位は “正しい形” を目指すよりも、骨突出を当てない・ずれを生まない・踵骨を浮かせるの 3 点で設計します。
| 体位 | 狙い | 守る骨突出(例) | 配置の要点 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 仰臥位 | 全身の圧を分散 | 仙骨、踵骨、後頭部 | 踵骨免荷を最優先/骨盤の前滑りを抑える | 頭側挙上でズレが増えやすい |
| 30°側臥位 | 大転子の圧集中を回避 | 大転子、腓骨頭、外果 | “真横” ではなく体幹を少し後方へ/下肢の支持を分散 | 体型・拘縮で当たりが変わる |
| 90°側臥位 | 目的がある時に選択 | 大転子 | 圧集中を作らない工夫が必須 | 大転子リスクが高い |
ずれ(剪断)対策|頭側挙上と “前滑り” を同時に見る
仙骨部のトラブルは、圧だけでなくずれ(剪断)が引き金になります。特に頭側挙上(ギャッチアップ)時は、体幹が沈みながら下方へ滑り、皮膚が引っ張られやすくなります。
- 頭側挙上は必要最小限(嚥下・呼吸・医療的都合で例外はあり)
- 背抜きで皮膚の引っ張られを一度リセットする
- 前滑りが出る場合は、支持の位置(膝下・足底・骨盤周囲)を見直す
- 摩擦が強い時は、スライディングシート等で移乗・調整時の摩擦を減らす
| チェック | よくある原因 | すぐできる対策 | 観察ポイント |
|---|---|---|---|
| 骨盤が後傾している | 座面(ベッド)で保持できない | 背抜き+支持の再配置 | 仙骨部のズレ所見 |
| 頭側挙上が大きい | 重力で下方へ滑る | 角度を下げる/段階的に調整 | 尾骨付近の発赤 |
| 摩擦が強い | シーツのしわ・素材 | しわを取る/摩擦低減の道具 | 皮膚の引っ張られ感 |
| 支持が一点集中 | 枕の位置が合わない | 接触面積を増やして分散 | 骨突出の圧痛 |
踵骨(かかと)を確実に浮かせる| “浮いているか” を確認する
踵骨は小さな骨突出で、皮下組織も薄く、褥瘡が起きると深くなりやすい部位です。褥瘡予防では踵骨を浮かせることを最優先にします。
- 枕やデバイスで下腿(ふくらはぎ)を支持し、踵骨は接地させない
- 膝窩を強く圧迫しない(循環・神経の観点)
- 体位変換後に必ず “踵が浮いているか” を手で確認する
体位変換の頻度は “固定” ではなく個別化|皮膚反応で回す
「 2 時間おき」を機械的に当てはめるよりも、皮膚反応(発赤の消退)、疼痛、ずれの出方、支持面(マットレス・クッション)をセットで見て、頻度を調整するほうが再現性が高くなります。
- 体位変換後に発赤が長く残る場合は、圧集中かズレが残っているサイン
- 疼痛が強い場合は、安楽性を優先して段階的に調整する
- 支持面が整うほど、同じ体位でも皮膚負担は下がりやすい
現場の詰まりどころ|よくある失敗と “直し方”
ポジショニングがうまくいかない時は、「体位」よりもズレと支持の一点集中が原因になっていることが多いです。下の表で “原因の当たり” をつけてから直すと早いです。
| 失敗(あるある) | 原因の候補 | 直し方 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 30°側臥位でも仙骨が赤い | 前滑り・骨盤回旋・支持が不適 | 背抜き+骨盤周囲の支持を再調整 | 仙骨部のズレ所見/発赤の消退 |
| 踵がいつの間にか接地 | 支持がずれた/枕が短い | 下腿支持へ変更し、手で確認 | 踵骨免荷の確認(手の挿入) |
| ギャッチアップで尾骨が赤い | 角度が大きい/摩擦が強い | 角度を下げる+摩擦低減+背抜き | 挙上角度/前滑りの有無 |
| 痛くて体位が保てない | 圧集中/拘縮角度と不一致 | 安楽性優先で段階調整 | 疼痛 NRS/耐えられる体位 |
記録と共有| “再現できる情報” にする
褥瘡予防のポジショニングは、多職種で再現できて初めて効果が安定します。記録は “体位名” だけでなく、クッション配置と確認結果まで書くのがコツです。
- 体位(仰臥位/ 30°側臥位 など)
- クッション配置(どこを支えるか、どこを浮かせるか)
- 踵骨免荷の確認(浮いている)
- 頭側挙上角度(必要時)と前滑りの有無
- 皮膚所見(発赤の部位、消退の様子)
- 次回見直し(何で調整するか)
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q 1. 30°側臥位は “必ず” やるべきですか?
A. 30°側臥位は大転子の圧集中を避けやすい “有力な選択肢” ですが、体型や拘縮、疼痛で当たりは変わります。大切なのは角度の正確さより、骨突出を当てないこと、ずれを作らないこと、踵骨を浮かせることです。
Q 2. 頭側挙上は 30°以下が良いと聞きました。例外はありますか?
A. 一般に頭側挙上が大きいほど前滑りが増え、仙骨部のずれが起きやすくなります。一方で嚥下・呼吸・医療的管理などで角度が必要な場合もあります。その場合は、摩擦低減と背抜き、支持の見直しで “ずれを最小化” しながら運用します。
Q 3. 体位変換は何時間おきが正解ですか?
A. 固定の正解より、皮膚反応(発赤の消退)、疼痛、ずれ、支持面を見て個別化するほうが実務で安定します。体位変換後に発赤が長く残る場合は、圧集中かずれが残っている可能性があるため、体位設計の見直しが優先です。
おわりに
褥瘡予防のポジショニングは、踵骨免荷 → ずれ対策 → 体位設計 → 記録 → 再評価のリズムで回すと、現場の再現性が上がります。学び直しや職場選びまで含めて整えたいときは、面談準備チェックや職場評価シートを使って “次の一手” を整理しておくと動きやすくなります。
参考文献
- European Pressure Ulcer Advisory Panel, National Pressure Injury Advisory Panel and Pan Pacific Pressure Injury Alliance. Prevention and Treatment of Pressure Ulcers/Injuries: Clinical Practice Guideline. 2019. https://internationalguideline.com/
- National Pressure Injury Advisory Panel( NPIAP ). Pressure Injury Prevention Points. https://npiap.com/page/PreventionPoints
- 日本褥瘡学会. 褥瘡予防・管理に関する情報(一般向け含む). https://www.jspu.org/
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

