BPSD 評価の進め方:原因→観察→再評価

評価
記事内に広告が含まれています。

BPSD 評価の進め方(結論):まず原因と環境、次に尺度、最後は再評価で回します

BPSD(行動・心理症状)は、「症状名を付ける」より先に、「なぜ今それが起きたか」を整理した方が、介入が速く安全です。まずはせん妄・疼痛・感染・便秘/尿閉・薬剤・睡眠など、可逆的な要因を外し、次に環境とケア手順で増悪していないかを確認します。

そのうえで、観察を ABC(先行事象 – 行動 – 結果)の形に揃え、必要に応じて尺度( NPI / NPI-NH など)で重みと変化を記録します。評価は「一回で終わり」ではなく、介入 → 再評価 → チーム共有までを 1 セットで回すのがコツです。

BPSD 評価の全体像(5 ステップ)

BPSD 評価は、①まず外す(原因・急変)→②情報収集(誰から何を聞くか)→③観察ログ化( ABC )→④介入を当てる(環境・ケア・リハ)→⑤再評価(同じ条件で)という 5 ステップで進めるとブレにくくなります。尺度は ④ の前後で使い、「介入の優先度」と「変化」を見える化する位置づけです。

ポイントは、情報源の違い(本人/家族/職員)と、観察条件の違い(時間帯・場面・誘因)で見え方が変わることです。先に条件を揃えておくと、「薬を増やすしかない」という結論になりにくく、非薬物的介入が当たりやすくなります。

ステップ 0:まず外す(せん妄・疼痛・感染・便秘・薬剤)

BPSD が急に悪化したときは、まずせん妄(急性の注意障害)を疑い、急変要因を外します。BPSD とせん妄は見た目が似ることがありますが、対応が変わるため、最初に切り分ける価値が高いです。特に入院・環境変化・夜間はリスクが上がります。

次に、疼痛・感染(肺炎/尿路感染など)・低酸素・脱水・便秘/尿閉・睡眠不足・薬剤(抗コリン作用、ベンゾジアゼピン系、オピオイド、ステロイドなど)を確認します。PT / OT / ST は、痛み行動・呼吸状態・排泄・睡眠を「観察で拾える」立場なので、ここが強みになります。

まず外すチェック(急な BPSD 増悪時に優先する確認項目)
疑う要因 現場で拾いやすいサイン 次アクション(例)
せん妄 注意が続かない、見当識の急変、昼夜逆転、幻視、急な興奮 バイタル・ SpO2 ・脱水、誘因(環境変化/感染)を共有
疼痛 動作時の拒否、しかめ面、守る動き、介助で悪化 痛みの出る動作・時間帯を特定し、介助手順と負荷を調整
感染・低酸素 発熱、咳・痰、頻呼吸、 SpO2 低下、尿の変化 呼吸状態と活動耐容を記録し、医療者へ早期共有
便秘・尿閉 落ち着かない、腹部不快、頻回トイレ、夜間不穏 排泄パターン・水分・活動量を確認し、ケアへ連携
薬剤・睡眠 眠気と興奮の波、ふらつき、日中傾眠、夜間覚醒 服薬タイミング・副作用疑いを共有し、日中活動と光曝露を調整

ステップ 1:情報収集(誰から・何を・いつ聞くか)

情報収集は「本人」だけに寄せると漏れやすく、「家族」だけに寄せると施設内の誘因が見えにくくなります。そこで、本人・家族・職員(病棟/施設)の 3 視点を意識し、まずは頻度・時間帯・場所・誘因をそろえます。

具体的には、「いつ(朝/夕/夜)」「どこで(トイレ/食事/更衣)」「何の直後に(声かけ/移乗/入浴)」「誰が対応すると(特定職員で悪化)」「結果どうなる(介助中断/転倒リスク)」の順に聞くと、原因仮説が立てやすいです。

ステップ 2:観察を ABC でログ化(再現性を作る)

観察は、印象(怒りっぽい)だけだと共有しにくく、介入が当たりません。そこで、ABC( Antecedent / Behavior / Consequence )で書きます。 A は「きっかけ」、 B は「起きた行動」、 C は「周囲の反応・結果」です。

例えば「更衣の声かけ( A )で、拒否と腕を振り払う( B )。介助者交代で落ち着き、その後は可能( C )」のように書くと、声かけ方法・順序・役割分担が介入ポイントになります。PT / OT / ST は動作場面を見ているため、 A と B を具体化しやすいのが強みです。

ステップ 3:尺度を選ぶ(目的は “優先度” と “変化” の見える化)

尺度は「診断を付けるため」ではなく、チームで共通言語を作り、変化を追うために使うと機能します。とくに NPI 系は、複数領域(幻覚・妄想・焦燥など)をまとめて拾えるため、「困りごとの全体像」を把握しやすいのが利点です。

一方で、情報源(家族か職員か)や、短時間で回したいかで最適解が変わります。運用の要点は「同じ情報源」「同じ期間」「同じ場面」で繰り返すことです。比較の整理は、NPI と NPI-NH の使い分けにまとめています。

BPSD 尺度の選び方(実務での使いどころ)
尺度 向く場面 強み 注意点
NPI 在宅・家族介護、外来フォロー 多領域を一括で拾い、介護者負担の背景も見える 情報源(介護者)の理解と観察量に左右される
NPI-NH 病棟・施設(職員が情報源) 職員観察で拾いやすく、施設運用に乗せやすい 担当者差が出やすいので、記録条件を固定する
NPI-Q 短時間スクリーニング、回診前後 短く回しやすく、変化の有無を追いやすい 詳細な介入設計には追加の観察が必要
CMAI 興奮・攻撃性が主で、行動頻度を追いたい 興奮行動の具体が拾いやすい 全体像より「興奮の管理」に寄る

ステップ 4:介入を当てる(環境・ケア手順・リハの工夫)

BPSD の非薬物的介入は、「環境調整」と「ケア手順の標準化」を先に当てると効果が出やすいです。例えば、刺激(騒音・人の出入り)を減らす、見通し(予定・声かけ)を与える、失敗経験(転倒・拒否)を減らす、という方向性です。

リハでは、疲労と不安の波を見ながら、時間帯と課題難度を調整します。歩行や更衣のような「失敗しやすい動作」は、手順を分割し、成功しやすい条件を先に作ります。ABC の A(誘因)に手を入れると、薬に頼りすぎずに改善することがあります。

ステップ 5:再評価(同じ条件で取り直し、共有する)

再評価は「良くなった気がする」ではなく、同じ条件で取り直すことが肝です。期間(例:過去 1 週間)、情報源(家族 or 担当職員)、観察場面(食事・更衣・移乗)を固定し、変化が出た理由(介入)と一緒に記録します。

また、改善しない場合は「尺度が悪い」のではなく、原因仮説が外れていることが多いです。ステップ 0 に戻り、疼痛・感染・薬剤・睡眠・排泄の再チェック、あるいは A(誘因)の見落とし(特定の声かけ、特定の動作)を再点検します。

現場の詰まりどころ(よくある失敗)

BPSD は「症状のラベル」に引っ張られると、評価と介入が止まります。よくある失敗は、①急な悪化でもせん妄・疼痛を外さずに進める、②観察条件がバラバラで比較できない、③情報源が一定でなく “担当者差” を症状変化と勘違いする、の 3 つです。

対策はシンプルで、条件固定(いつ・どこ・誰)と、ABC で書くことです。これだけで、「何を変えれば良いか」が議論しやすくなり、リハの工夫(負荷・時間帯・声かけ・環境)も当てやすくなります。

よくある質問(FAQ)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1.BPSD とせん妄は、現場でどう見分けますか?

「急に始まった」「注意が続かない」「日内変動が大きい」「環境変化や感染の直後」といった特徴があれば、まずせん妄を疑います。BPSD と同じく興奮や幻視が出ても、せん妄なら原因(感染・低酸素・脱水・薬剤など)を外す対応が優先です。迷うときは、“いつから急に変わったか”をチームで確認すると切り分けやすくなります。

Q2.尺度は毎回やるべきですか?

毎回は不要です。目的が「介入の優先度」と「変化の見える化」なので、介入前後、またはチームで判断を揃えたいタイミングで十分です。逆に、条件が揃わないまま頻回に回すと、担当者差や場面差を “悪化” と誤認しやすくなります。

Q3.家族と職員で言っていることが違います

情報源が違えば見え方が違うのは自然です。まずは「時間帯」「場面」「誘因」をそろえ、ABC で “何がきっかけで何が起きたか” を共通言語にします。家族は生活史やこだわり、職員は施設内の誘因(更衣・入浴・排泄)に強いので、両方を足すと介入が当たりやすくなります。

Q4.拒否が強くてリハが進みません

まずは疼痛・疲労・不安が乗っていないかを確認し、課題を分割して成功体験を作ります。時間帯を変える、準備動作を短くする、声かけを “指示” から “選択肢” に変える、など A(誘因)に介入すると変化することがあります。拒否を “意欲低下” と決めつけず、ABC で誘因を特定するのが近道です。

おわりに

BPSD 評価は、原因の除外 → ABC でログ化 → 尺度で変化を共有 → 介入 → 同条件で再評価というリズムで回すと、チームの迷いが減ります。尺度は目的を決めて最小限に使い、現場の観察(誘因と場面)を強みに変えるのがコツです。

あわせて、面談前に整理しやすい職場評価シート準備チェックも使うと、現場の改善点が言語化しやすくなります:マイナビコメディカルの面談準備(チェックリスト)

参考文献

  • Cummings JL, Mega M, Gray K, Rosenberg-Thompson S, Carusi DA, Gornbein J. The Neuropsychiatric Inventory: comprehensive assessment of psychopathology in dementia. Neurology. 1994;44(12):2308-2314. DOI: 10.1212/WNL.44.12.2308
  • Inouye SK. Delirium in older persons. N Engl J Med. 2006;354:1157-1165. DOI: 10.1056/NEJMra052321
  • NICE. Dementia: assessment, management and support for people living with dementia and their carers (NG97). 2018. https://www.nice.org.uk/guidance/ng97

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

運営者について編集・引用ポリシーお問い合わせ

タイトルとURLをコピーしました