- ALSの嚥下評価は「変化を拾う→臨床評価→必要時VF・VE」の3段階で考えます
- ALSの嚥下評価は3段階に分けると次の判断が明確になります
- 嚥下評価は「むせてから」ではなく診断後の経過観察と変化時に行います
- ALSの嚥下スクリーニングでは「むせ」以外の変化も確認します
- EAT-10・ALSFRS-R・RSST・MWSTは役割と限界を分けて使います
- 変化を認めたらスクリーニングから臨床嚥下評価へ進みます
- VF・VEを検討する境界は「臨床評価だけでは判断しきれない」ときです
- ALSでは嚥下・栄養・咳嗽・呼吸を切り離して考えません
- よくある失敗は「むせだけ」「テストだけ」「前回比だけ」で判断することです
- 記録は「条件→変化→判断根拠→次アクション」の4点を残します
- よくある質問
- 次はベッドサイド評価からVF・VEまでの流れを確認します
- 参考文献
- 著者情報
ALSの嚥下評価は「変化を拾う→臨床評価→必要時VF・VE」の3段階で考えます
ALSの嚥下評価では、むせの有無だけで経口摂取の安全性を判断しません。食事時間の延長、食事中の疲労、食形態や摂取量の変化、体重低下、唾液・痰、咳嗽力、呼吸状態などを経時的に確認し、嚥下障害が疑われれば臨床嚥下評価、必要に応じて嚥下造影検査(VF)や嚥下内視鏡検査(VE)へ進みます。
本記事では、ALS患者に対して「いつ嚥下機能を確認するか」「何をスクリーニングするか」「どの変化でST・医師等へ連携するか」「どの段階でVF・VEを検討するか」を、PT・OT・ST・看護師などが判断しやすい順に整理します。
ALSの評価全体から確認したい方へ
ALSの嚥下評価は3段階に分けると次の判断が明確になります
最初に区別したいのは、日常的な変化を拾うスクリーニングと、嚥下障害を詳しく評価する臨床評価・機器評価は同じものではないという点です。スクリーニングは誤嚥の有無や安全な食形態を確定するためではなく、嚥下障害を疑う変化を拾い、次の評価が必要か判断する入口として位置づけます。
| 段階 | 主な目的 | 確認すること | 次の判断 |
|---|---|---|---|
| 1. 変化を拾う | 嚥下障害を疑うサインを見つける | むせ、食事時間、疲労、食形態、摂取量、体重、唾液・痰、咳嗽・呼吸、本人・家族の訴え | 経時観察/臨床嚥下評価へ進む |
| 2. 臨床嚥下評価 | 食べにくさの原因と食事場面の問題を具体化する | 口腔・咽頭機能、姿勢、発声、咳嗽、呼吸、食事場面、必要に応じたベッドサイド評価 | 経過観察/支援条件の検討/機器評価を検討 |
| 3. VF・VEなど | 嚥下動態や安全性・効率を詳しく確認する | 侵入・誤嚥、残留、嚥下各期の問題、条件変更や代償方法による変化 | 経口摂取条件や今後の支援方針を多職種で検討 |

ALSでは嚥下機能が進行性に変化するため、「一度問題がなかったから評価終了」ではなく、基準となる状態を残して経時的に追うことが重要です。ただし、前回比だけでは誤嚥の有無や嚥下障害の部位までは判断できません。変化を認めたときは、必要に応じて評価の深さを一段上げます。
ALS 嚥下評価・連携判断シート
「変化を拾う→臨床嚥下評価→VF・VE検討」の流れ、観察項目、連携判断、記録欄をA4で整理しました。PDFは閲覧・印刷用、Excelは院内運用に合わせて記入・編集したい場合に使用できます。
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嚥下評価は「むせてから」ではなく診断後の経過観察と変化時に行います
ALSでは、明らかなむせが出現してから初めて嚥下を評価するのではなく、診断後から食事・水分摂取、体重・栄養、嚥下症状などを経時的に確認します。さらに、新しい症状や生活上の変化が出た場合は、予定していた定期評価を待たずに確認を前倒しします。
| タイミング | 確認すること | 考え方 |
|---|---|---|
| 初回・診断後 | 現在の食形態、食事時間、摂取量、体重、嚥下症状、咳嗽・呼吸状態 | 今後比較するための基準を残す |
| 定期フォロー | 前回と同じ項目の変化 | 疾患進行や生活上の変化を追う |
| 症状・状態の変化時 | むせ、食事時間延長、疲労、食形態変更、摂取量・体重低下、痰・唾液、咳の弱さ | 予定日を待たずに再評価する |
| 急な悪化時 | 窒息が疑われる状態、急激な呼吸状態悪化、意識状態の変化など | 通常のスクリーニングではなく緊急対応を優先する |
「ALSの嚥下は必ず○日後に再評価する」と一律に決めるのではなく、病状、変化速度、現在の食事条件、栄養・呼吸状態などから次回評価時期を設定します。日付だけでなく、「どの変化が出たら予定を待たず再評価するか」を本人・家族・多職種で共有しておくことが重要です。
ALSの嚥下スクリーニングでは「むせ」以外の変化も確認します
ALSの嚥下障害を拾うときは、むせだけを確認すると変化を見落とす可能性があります。食べる速さ、食事後半の疲労、食形態、摂取量、体重、唾液・痰、咳嗽、呼吸などを組み合わせ、「以前と何が変わったか」を確認します。
| 領域 | 確認する変化 | 次に確認すること |
|---|---|---|
| 本人・家族の訴え | 飲みにくい、食べにくい、錠剤を飲みにくい、避ける食品が増えた | 新しく出た症状か、以前より悪化しているか |
| 食事時間・疲労 | 食事時間が延びた、食事後半で疲れる、休憩が増えた | 咀嚼・嚥下だけでなく全身疲労や呼吸負荷も確認する |
| 口腔期 | 咀嚼しにくい、送り込みにくい、食べこぼし、口腔残留 | 舌・口唇・顎などの機能や食事条件との関係を確認する |
| 咽頭・気道関連 | むせ、咳込み、食後の声の変化、痰の増加 | 臨床嚥下評価や詳細評価が必要か検討する |
| 栄養・水分 | 摂取量低下、体重低下、水分摂取量低下 | 嚥下以外の原因も含めて栄養・水分管理を再評価する |
| 咳嗽・呼吸 | 咳が弱い、痰を出しにくい、呼吸苦、食事中に呼吸が乱れる | 気道防御と呼吸機能を含めて評価する |
| 唾液 | 流涎、口腔内への貯留、粘稠な唾液、吸引回数の変化 | 嚥下・呼吸・姿勢・口腔管理との関連を確認する |
体重低下や摂取量低下については、嚥下障害だけが原因とは限りません。上肢機能低下による食事動作の困難、食事に要する努力、呼吸状態、食欲なども含めて原因を整理し、多職種で判断します。
EAT-10・ALSFRS-R・RSST・MWSTは役割と限界を分けて使います
ALSの嚥下評価では、1つの質問票やベッドサイドテストだけを「正常なら安全」「異常なら誤嚥」と読むのは避けます。それぞれが何を見ているのかを理解し、本人・家族の訴え、食事場面、栄養・呼吸状態と組み合わせて解釈します。
| 評価・方法 | 主な役割 | 解釈上の注意 |
|---|---|---|
| EAT-10 | 本人が感じている嚥下症状を質問票で把握する | ALSで嚥下安全性との関連を検討した研究はあるが、単独で誤嚥を確定する検査ではない |
| ALSFRS-Rの嚥下・球症状関連項目 | ALSに伴う機能変化を経時的に追う | 詳細な嚥下動態や誤嚥の有無を評価する尺度ではない |
| RSST・MWSTなど | ベッドサイドで嚥下機能を確認する際に用いられる | ALSにおける経口摂取の安全性を単独で確定するための検査として扱わない |
| 食事場面の観察 | 普段の食事条件で起きている問題を確認する | 観察だけでは嚥下動態や誤嚥の有無を完全には把握できない |
| VF・VE | 嚥下動態、安全性、残留などを詳しく評価する | 臨床上の疑問と検査で確認したい内容を整理して適応を判断する |
EAT-10はALS患者を対象とした研究でも、嚥下安全性や誤嚥を拾うためのスクリーニング性能が検討されています。一方で、研究によって対象や最適とされたカットオフが異なるため、特定の点数だけを普遍的な「VF・VE実施基準」や「経口摂取中止基準」として固定するのは避けます。
RSSTやMWSTなどのベッドサイド評価も、結果だけで食形態や経口摂取の可否を決めるのではなく、食事場面、栄養状態、咳嗽・呼吸状態などと合わせて解釈します。
変化を認めたらスクリーニングから臨床嚥下評価へ進みます
スクリーニングで変化を認めたときの次の一手は、単に「様子を見る」ことではなく、どこまで詳しい評価が必要かを判断することです。特に新しい嚥下症状がある場合や、食事・栄養・呼吸に複数の変化が重なる場合は、嚥下評価に習熟した医療職へつなぎます。
| 状況 | 判断 | 次アクション |
|---|---|---|
| 前回から大きな変化がなく、食事・栄養・呼吸面でも新たな懸念がない | 経時観察 | 現在の条件を記録し、定期評価と変化時の再評価条件を決める |
| 新しいむせ、食事時間延長、食べにくさ、疲労などが出現した | 臨床嚥下評価 | 食事場面を含めて嚥下機能を評価し、問題を具体化する |
| 摂取量・体重低下、咳嗽力低下、痰増加、呼吸症状などが重なる | 多職種連携 | ST・医師・栄養士等で嚥下・栄養・呼吸をまとめて再評価する |
| 臨床所見だけでは安全性や障害部位を判断できない | VF・VE等を検討 | 機器評価で何を明らかにしたいか整理し、適応を医療チームで判断する |
| 窒息が疑われる、急激な呼吸状態悪化、意識状態の変化などがある | 緊急対応 | 通常のスクリーニングを続けず、施設・地域の緊急対応手順に従う |
「軽い変化だから食形態だけ変更して様子を見る」と決めるのではなく、変化の背景を確認することが重要です。ALSでは嚥下だけでなく、栄養状態、呼吸機能、食事に要する努力、上肢機能、本人の希望などが食事の継続可能性に影響します。
VF・VEを検討する境界は「臨床評価だけでは判断しきれない」ときです
VF・VEへ進むかどうかは、スクリーニングで何点だったかだけでは決まりません。重要なのは、現在の臨床情報だけで嚥下の安全性・効率、障害部位、食事条件や代償方法を十分に判断できるかです。
たとえば、次のような場面では機器評価を検討する理由が生じます。
- 嚥下障害が疑われるが、ベッドサイド所見だけでは嚥下動態が分からない
- 本人の訴えと食事場面の所見が一致しない
- むせの有無だけでは気道侵入・誤嚥の可能性を十分に評価できない
- 残留や嚥下各期のどこに問題があるか詳しく確認したい
- 食形態、姿勢、代償方法などを変更したときの効果を確認したい
- 今後の経口摂取条件を多職種で検討するため、客観的な情報が必要である
VFとVEには、それぞれ観察できる内容や実施条件に特徴があります。どちらを選ぶかは「何を確認したいのか」と患者の全身状態・実施可能性を整理したうえで判断します。
ALSでは嚥下・栄養・咳嗽・呼吸を切り離して考えません
ALSの嚥下評価では、嚥下機能だけを独立して追うのではなく、体重・摂取量などの栄養面と、咳嗽・排痰・呼吸機能を合わせて確認します。嚥下障害があっても咳で気道を防御できる状態と、咳嗽力や排痰能力も低下している状態では、臨床上の意味が異なります。
| 領域 | 確認項目 | 連携の視点 |
|---|---|---|
| 栄養 | 体重、摂取量、食事時間、水分量、補助栄養 | 必要に応じて医師・栄養士と摂取方法を再検討する |
| 咳嗽・排痰 | 咳の強さ、痰の出しやすさ、吸引の必要性 | 気道防御能力を嚥下所見と合わせて考える |
| 呼吸 | 呼吸苦、呼吸パターン、食事中の呼吸変化、呼吸機能の経過 | 食事負荷と呼吸状態の両方から安全性を考える |
| 本人の負担 | 食事に要する努力、疲労、食事を楽しめているか | 安全性だけでなくQOLや本人の希望を意思決定に含める |
咳嗽力や排痰能力、呼吸機能の変化が気になる場合は、ALSの呼吸機能評価で、症状・呼吸機能・咳嗽を含めた評価方法を確認できます。
よくある失敗は「むせだけ」「テストだけ」「前回比だけ」で判断することです
ALSの嚥下評価では、単独の症状や検査結果をそのまま経口摂取の安全性へ結びつけないことが重要です。特に次の4つは、スクリーニングから次の判断へ進む場面で注意したいポイントです。
| 失敗 | 起こる問題 | 修正方法 |
|---|---|---|
| むせがなければ問題ないと判断する | 食事時間、疲労、栄養、咳嗽などの変化を見落としやすい | 食事・栄養・呼吸を含む複数領域で確認する |
| EAT-10やベッドサイドテストだけで完結する | 嚥下動態や詳細な安全性までは判断できない | 臨床所見と組み合わせ、必要時はVF・VEを検討する |
| 前回と同じだから問題ないと判断する | 比較条件が違う場合や、もともとの問題を見逃す可能性がある | 食形態・姿勢・介助などの条件も含めて比較する |
| スクリーニング結果だけで食事条件を決める | 嚥下・栄養・水分・呼吸・本人希望を統合できない | 必要に応じてST・医師・栄養士等と評価を更新する |
記録は「条件→変化→判断根拠→次アクション」の4点を残します
ALSでは経時比較が重要ですが、所見だけを記録しても次回評価では比較しにくくなります。「どの条件で見たか」「前回から何が変わったか」「なぜ次の評価が必要と判断したか」「誰が何をするか」をそろえて記録します。
| 項目 | 記録すること | 記載例 |
|---|---|---|
| 条件 | 姿勢、食形態、水分条件、介助、時間帯など | 昼食、車椅子座位、現行の食形態・水分条件で観察。 |
| 変化 | 前回と比較して変わったこと | 食事時間が延長し、食事後半の疲労と水分時の咳込みが増加。 |
| 判断根拠 | 嚥下・栄養・呼吸を含む所見 | 摂取量低下と咳嗽力低下もあり、嚥下機能の再評価が必要と判断。 |
| 次アクション | 誰が・何を確認するか、再評価条件 | ST・医師へ共有し臨床嚥下評価を依頼。必要性を判断してVF・VEを検討。 |
「むせあり」「前回より悪化」だけで終わらず、次の担当者が判断過程をたどれる形にしておくことが、多職種連携と再評価につながります。
よくある質問
ALSの嚥下評価はどのくらいの頻度で行いますか?
嚥下だけに共通する一律の再評価期間を決めるのではなく、定期的な評価に加えて、むせ、食事時間延長、食形態・摂取量の変化、体重低下、咳嗽力低下などが出た時点で前倒しします。「次回○日」だけでなく、どの変化が出たら予定を待たず再評価するかを決めておくことが重要です。
むせがなければ誤嚥リスクは低いと考えてよいですか?
むせがないことだけで嚥下の安全性を確定することはできません。食事時間、疲労、食後の声、痰、摂取量、体重、咳嗽力なども確認します。臨床所見だけでは安全性を十分に判断できない場合は、VF・VEなどの詳細評価を検討します。
EAT-10だけでALSの嚥下障害を判断できますか?
EAT-10は本人が感じる嚥下症状を簡便に確認する方法で、ALSを対象にした研究でもスクリーニング性能が検討されています。ただし、単独で嚥下障害や誤嚥を確定する検査ではありません。点数だけで判断せず、食事場面、栄養、咳嗽・呼吸などと合わせて解釈します。
RSSTやMWSTだけで食形態を決めてもよいですか?
単独のベッドサイドテストだけで経口摂取の可否や食形態を確定するのは避けます。本人の訴え、口腔・咽頭機能、食事場面、栄養・呼吸状態などと合わせ、必要に応じてST・医師等による臨床嚥下評価やVF・VEへつなぎます。
どのような場合にVFやVEを考えますか?
嚥下障害が疑われ、臨床評価だけでは安全性・嚥下動態・障害部位を十分に判断できない場合や、食事条件・代償方法を検討するために詳細な情報が必要な場合などに検討します。どの検査を実施するかは、確認したい内容と患者の状態を踏まえて医療チームで判断します。
PT・OT・看護師はALSの嚥下評価で何を確認すればよいですか?
日常の食事やリハ場面で、むせ、食事時間、疲労、姿勢、食べこぼし、摂取量、体重、痰、唾液、咳嗽・呼吸の変化を確認し、前回との違いを共有することが重要です。詳細な嚥下機能評価や食事条件の判断が必要な場合は、施設の役割分担に従ってST・医師などへつなぎます。
次はベッドサイド評価からVF・VEまでの流れを確認します
ALSに特有の変化を拾った後は、疾患横断的な嚥下評価の流れを確認すると、臨床嚥下評価から精査への判断を整理しやすくなります。ベッドサイドで何を確認し、どの段階で機器評価を考えるかは、嚥下評価ワークフローで詳しく整理しています。
参考文献
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- Donohue C, Vasilopoulos T, Wymer JP, Plowman EK. Relationship between pulmonary, cough, and swallowing functions in individuals with amyotrophic lateral sclerosis. Muscle Nerve. 2024;70(1):140-147. doi:10.1002/mus.28113. PubMed
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

