ALS の嚥下スクリーニングは「前回比」と「次アクション」まで決める評価です
ALS の嚥下スクリーニングは、むせや誤嚥リスクを見つけるだけで終わらせないことが重要です。進行性疾患では、同じ条件で前回比を確認し、食事条件の調整、短期再評価、ST・医師・栄養との連携まで一体で決める必要があります。
本記事では、ALS に特化して「いつ評価を始めるか」「何を観察するか」「どの所見で連携するか」を、現場で使いやすい順に整理します。RSST や MWST などの細かな手技解説よりも、病棟・外来・在宅で共通して使える運用フローに焦点を当てます。
5 分フローで開始条件から連携判断まで固定します
ALS 嚥下スクリーニング 5 分フロー記録シート
開始条件、観察ポイント、連携判断、再評価メモを A4 1 枚で記録できるシートです。病棟・外来・在宅での前回比確認に活用できます。
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実装時は、開始条件を確認してから、問診、食事場面の観察、呼吸・栄養との関連を同じ順番で確認します。異常の有無だけでなく、前回から悪化しているか、食事条件を変えれば安全性が保てるか、専門職へつなぐ段階かを同時に判断します。
毎回ゼロから考えるより、次の 5 段で固定するとチーム内の判断が揃いやすくなります。
| 段階 | 確認すること | 記録すること | 次アクション |
|---|---|---|---|
| 1. 開始条件 | むせ増加、食事時間延長、体重低下、疲労、痰増加 | 前回からの変化 | 評価実施の必要性を判断 |
| 2. 問診 | 飲みにくさ、食べ残し、食形態の変化、食後の声 | 本人・家族の訴え | 食事場面観察へ進む |
| 3. 観察 | むせ、湿性嗄声、口腔残留、食事中の疲労、姿勢 | 所見の有無と程度 | 軽度か要連携かを分ける |
| 4. 関連評価 | 体重、栄養状態、咳嗽力、痰喀出、呼吸苦 | 嚥下以外の悪化サイン | ST・医師・栄養と共有 |
| 5. 再評価計画 | 短期再評価日、担当、見る項目 | いつ・誰が・何を見るか | 次回比較できる形に残す |
開始トリガーは「むせ」だけでなく疲労・体重・咳嗽力まで見ます
ALS では、明らかなむせがなくても嚥下機能が低下していることがあります。食事時間の延長、食事中の疲労、食形態の変化、体重低下、痰の増加、咳嗽力低下が出た時点で、前倒し評価の対象として扱います。
特に重要なのは、単回の所見ではなく「前回より変わったか」です。下表のように、トリガーと次の確認をセットで記録すると、カンファレンスで共有しやすくなります。
| 開始トリガー | 見落としやすい背景 | 次に確認すること |
|---|---|---|
| むせが増えた | 水分・唾液・疲労時で悪化している | 水分条件、食後の声、痰の増加 |
| 食事時間が延びた | 咀嚼・送り込み・疲労の影響が出ている | 一口量、休憩の有無、食事後半の変化 |
| 体重が低下した | 摂取量不足や食事回避が進んでいる | 摂取量、補助栄養、栄養士への相談 |
| 咳が弱くなった | 誤嚥物を喀出しにくくなっている | 痰喀出、呼吸状態、医師への共有 |
| 食形態が変わった | 本人が無意識に避ける食品が増えている | 避けている食品、残留、食べ方の変化 |
判断は「様子見」ではなく短期再評価・連携・精査に分けます
スクリーニング後は、異常なし/ありだけで終わらせず、短期再評価でよい段階か、ST・医師・栄養へ連携する段階かを分けます。ALS では進行速度に個人差があるため、判断を先送りにしないことが実務上の安全策になります。
軽度変化では一口量、ペース、姿勢、食形態を調整して短期再評価を設定します。むせ増加、湿性嗄声、体重低下、咳嗽力低下、食事中の疲労が重なる場合は、単独判断を避けて多職種で評価を更新します。
| 所見 | 判断 | 対応 |
|---|---|---|
| 前回比で大きな変化なし | 現条件で継続 | 同じ条件で定期再評価を続ける |
| 軽いむせ・食事時間延長 | 短期再評価 | 一口量、ペース、姿勢を調整し 1〜2 週間以内に再確認 |
| 湿性嗄声・残留・疲労が目立つ | ST 連携 | 食形態、代償法、精査の必要性を相談 |
| 体重低下・摂取量低下 | 栄養連携 | 摂取量、補助栄養、経口摂取条件を見直す |
| 咳嗽力低下・痰喀出困難・呼吸苦 | 医師・呼吸評価へ連携 | 呼吸機能、排痰、食事中の安全性を再評価する |
現場の詰まりどころは「前回比」と「連携基準」が曖昧なことです
ALS の嚥下スクリーニングで詰まりやすいのは、評価の実施そのものではなく、どの変化を悪化サインとして扱うか、誰へ相談するか、次回いつ見るかが曖昧になる場面です。次の 3 点を固定すると、担当者が変わっても判断が揃います。
ここまで整えても毎回同じところで詰まる場合は、個人の努力不足だけでなく、教育体制、共通フォーマット、相談相手の有無など、職場環境の影響を受けている可能性もあります。評価・記録・報告の型をまとめて整理したい方は、PT キャリアガイドも参考になります。
よくある失敗は単回評価・むせ中心・記録ばらつきです
ALS の嚥下評価では、所見が軽く見える段階でも変化が進んでいることがあります。単回評価で安心せず、前回比、食事中の疲労、呼吸・栄養との関連をセットで見ることが大切です。
| 失敗 | 起こる問題 | 改善の方向 |
|---|---|---|
| 単回評価で「問題なし」と判断する | 進行性変化を見落としやすい | 再評価間隔を先に決め、同条件で前回比較する |
| むせの有無だけで判断する | 疲労、湿性嗄声、食事時間、咳嗽力を拾いにくい | 観察項目を固定し、複合所見で判断する |
| 食事条件を記録しない | 前回との比較ができない | 姿勢、食形態、一口量、介助量を残す |
| 相談基準が担当者任せになる | ST・医師・栄養への連携が遅れる | 連携トリガーをチェック表に入れる |
回避のチェック手順は観察所見から次アクションへつなぎます
チェック手順は、細かく増やすよりも「所見」「前回比」「次アクション」の 3 点でそろえると運用しやすくなります。特に食事時間、湿性嗄声、体重、咳嗽力は、ALS の嚥下スクリーニングで見落としたくない項目です。
| 観察ポイント | 変化の例 | 次アクション |
|---|---|---|
| 食事時間 | 前回より延長 | 一口量・ペース・姿勢を調整し短期再評価 |
| むせ・湿性嗄声 | 増加/新規出現 | 食形態を見直し、必要時に ST へ相談 |
| 口腔残留・食べこぼし | 食後の残留が増えた | 口腔期の問題として観察し、食形態・介助方法を調整 |
| 体重・摂取量 | 低下傾向 | 栄養士・医師を含めて摂取方法を再検討 |
| 咳嗽力・痰喀出 | 低下傾向/痰が増えた | 呼吸面を含めて評価し、医師へ相談 |
記録は「変化・根拠・対応予定」の 3 行で残します
記録は長く書くより、次回比較できる形にそろえることが重要です。ALS では状態が変化しやすいため、「何が変わったか」「何を根拠に判断したか」「次に何をするか」を 3 行で残すと、担当者交代や多職種共有で使いやすくなります。
| 記録欄 | 書く内容 | 記載例 |
|---|---|---|
| 変化 | 前回から変わった所見 | 食事時間が 30 分から 45 分へ延長。水分でむせが増加。 |
| 根拠 | 観察所見と関連因子 | 食後に湿性嗄声あり。痰喀出に時間を要し、疲労も目立つ。 |
| 対応予定 | 誰が・いつ・何をするか | ST へ相談。食形態と一口量を調整し、1 週間後に再評価。 |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
ALS の嚥下スクリーニングは、どのタイミングで再評価すべきですか?
定期評価に加えて、むせ増加、食事時間延長、体重低下、食形態の変化、咳嗽力低下、痰増加など「前回比での変化」が出た時点で前倒し再評価します。変化が軽く見えても、ALS では次回比較できる形で早めに残すことが重要です。
RSST や MWST だけで判断してよいですか?
簡便なスクリーニングとして有用ですが、単独で完結させない方が安全です。食事場面の観察、食事時間、疲労、湿性嗄声、体重、咳嗽力を合わせて見て、必要時は ST・医師と連携します。
むせがなければ誤嚥リスクは低いと考えてよいですか?
むせがないだけでは安心できません。食後の声の変化、痰増加、発熱、食事時間延長、疲労、体重低下なども確認します。ALS では呼吸機能や咳嗽力の低下が重なると、喀出しにくさが問題になります。
ST や医師へ相談する目安は何ですか?
湿性嗄声、むせの増加、食後の痰増加、食事量低下、体重低下、咳嗽力低下、呼吸苦、判断に迷う所見がある場合は早めに相談します。特に複数の所見が重なる場合は、食形態や経口摂取条件を単独で決めないことが大切です。
家族や介護者には何を共有すればよいですか?
「どの食事条件なら安全に近いか」「どの変化が出たら連絡するか」「次回いつ評価するか」の 3 点を共有します。むせだけでなく、食事時間、疲労、声の変化、痰、体重変化も観察ポイントとして伝えると、在宅でも変化を拾いやすくなります。
次の一手
- 全体像をそろえる:ALS リハビリ評価の全体像
- 呼吸との接点を確認する:ALS 呼吸評価の実践ガイド
- 嚥下評価の標準手順を見直す:嚥下評価ワークフロー(総論)
参考文献
- 日本神経学会監修. 筋萎縮性側索硬化症(ALS)診療ガイドライン 2023. 日本神経学会
- 山本敏之. ALS の摂食嚥下障害への対処. Jpn J Rehabil Med. 2024;61(7):601-607. DOI: 10.2490/jjrmc.61.601
- Audag N, Goubau C, Toussaint M, Reychler G. Screening and evaluation tools of dysphagia in adults with neuromuscular diseases: a systematic review. Ther Adv Chronic Dis. 2019;10:2040622318821622. DOI: 10.1177/2040622318821622
- Plowman EK, Tabor LC, Robison R, et al. Discriminant ability of the Eating Assessment Tool-10 to detect aspiration in individuals with amyotrophic lateral sclerosis. Neurogastroenterol Motil. 2016;28(1):85-90. DOI: 10.1111/nmo.12700
- Miller RG, Jackson CE, Kasarskis EJ, et al. Practice parameter update: The care of the patient with amyotrophic lateral sclerosis. Neurology. 2009;73(15):1227-1233. DOI: 10.1212/WNL.0b013e3181bc0141
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


