下垂手と下垂指の違い|手関節背屈とMP伸展を分けて見る
下垂手(drop hand)と下垂指(drop finger)の違いは、まず手関節背屈と手指MP関節伸展を分けて確認すると整理できます。下垂手では手関節背屈とMP伸展がともに低下しやすいのに対し、下垂指では手関節背屈が保たれる、または部分的に可能でも、MP伸展が大きく低下します。
ただし、「手首が反る=正常」「指が伸びない=後骨間神経障害」とは限りません。この記事ではPT・OT向けに、手関節背屈、MP伸展、母指伸展、背屈時の橈側偏位、感覚を組み合わせて、下垂手と下垂指の見え方を整理します。
橈骨神経麻痺の評価全体を確認したい場合: 橈骨神経麻痺の評価・鑑別の全体像で、病歴から運動・感覚所見までまとめています。
結論:下垂手は手関節背屈も低下し、下垂指はMP伸展が目立って低下する
下垂手と下垂指を分ける中心所見は、手関節背屈と手指MP関節伸展の組み合わせです。下垂手では手関節背屈とMP伸展がともに低下しやすく、下垂指では手関節背屈が残る一方、MP伸展が目立って低下します。
| 確認項目 | 下垂手 | 下垂指 |
|---|---|---|
| 手関節背屈 | 低下・不能になりやすい | 可能または部分的に保たれる |
| 手指MP伸展 | 低下しやすい | 目立って低下する |
| 母指伸展 | 低下することがある | 低下しやすい |
| 背屈時の橈側偏位 | 障害部位によって異なる | 後骨間神経障害ではみられることがある |
| 皮膚感覚 | 手背橈側などに障害を伴うことがある | 後骨間神経障害では通常保たれる |
| 代表的に考える部位 | 橈骨神経本幹 | 後骨間神経(PIN) |

日本整形外科学会では、下垂手は手関節背屈と手指MP関節伸展が困難になる状態、下垂指は手関節背屈は可能でもMP関節伸展が困難になる状態として説明されています。
ここで重要なのは、単に「指が伸びるか」ではなく、どの関節の伸展が低下しているかを見ることです。橈骨神経麻痺ではMP関節伸展が低下していても、指のPIP・DIP関節は別の伸展機構によって動かせる場合があります。
下垂指では手関節背屈の「有無」だけでなく橈側偏位を見る
下垂指を考えるときは、「手関節背屈ができるから手関節伸筋は問題ない」と判断しないことが重要です。後骨間神経障害では、手関節背屈そのものは残っていても、背屈が弱い、または橈側へ偏位しながら背屈することがあります。
これは橈側手根伸筋の一部が保たれる一方、尺側手根伸筋などの機能が低下することで生じるパターンです。したがって、手関節背屈は「可能・不能」だけでなく、筋力、保持の可否、運動方向まで観察します。
| 確認すること | 所見 | 考え方 |
|---|---|---|
| 背屈の可否 | 背屈そのものが困難 | 橈骨神経本幹を含む障害を考える材料になる |
| 背屈筋力 | 背屈は可能だが弱い | 「背屈可能」だけで正常とは判断しない |
| 運動方向 | 背屈時に橈側偏位が目立つ | 後骨間神経障害でみられるパターンの1つ |
| MP・母指伸展 | 手関節背屈より強く低下 | 下垂指型の所見として整合性を確認する |
MP関節伸展とPIP・DIP関節伸展を混同しない
下垂手・下垂指の評価では、MP関節伸展とPIP・DIP関節伸展を分けることが重要です。橈骨神経は総指伸筋などを介してMP関節伸展に大きく関与しますが、PIP・DIP関節の伸展には骨間筋や虫様筋を含む伸筋腱膜の働きも関与します。
そのため、患者が指先をある程度伸ばせたとしても、MP関節伸展が十分とは限りません。「指が伸びる・伸びない」という全体の見た目だけでなく、MP関節を個別に観察します。
とくに下垂指では、手関節背屈が残るため一見すると麻痺が軽く見えることがあります。MP関節を伸展位まで持ち上げられるか、保持できるか、母指伸展がどうかまで確認すると、所見を整理しやすくなります。
感覚が正常でも後骨間神経障害は否定できない
感覚所見も、下垂手と下垂指の背景を考える手掛かりになります。橈骨神経本幹の障害では、手背橈側などに皮膚感覚障害を伴うことがあります。
一方、後骨間神経は主に運動を担う神経枝であり、後骨間神経障害では皮膚感覚が保たれるのが典型です。そのため、「感覚障害がないから末梢神経障害ではない」と判断することはできません。
| 所見の組み合わせ | 考え方 |
|---|---|
| 手関節背屈低下+MP伸展低下+手背の感覚障害 | 橈骨神経本幹を含む障害を考える材料になる |
| 手関節背屈が残る+MP伸展低下+皮膚感覚正常 | 後骨間神経領域の障害を考える材料になる |
| 背屈可能だが橈側偏位+MP・母指伸展低下 | 後骨間神経障害でみられる所見との整合性を確認する |
ただし、感覚所見だけで障害部位を確定することはできません。運動分布、発症様式、疼痛、外傷歴などを合わせて判断します。
下垂指=後骨間神経障害とは限らない
下垂指は所見であり、診断名ではありません。後骨間神経障害は代表的な原因ですが、指伸展低下は頸椎神経根障害、伸筋腱断裂、外傷、神経炎などでも生じます。
2024年にfinger dropを呈した87例を検討した報告でも、後骨間神経ニューロパチーに関連する例だけでなく、頸椎神経根症や伸筋腱断裂など複数の原因が確認されています。すべての指が低下するglobal finger dropは後骨間神経障害との関連が多く、一部の指に限局するpartial finger dropでは頸椎神経根症や腱断裂なども考慮する必要があります。
そのため、「MP伸展が低下している=PIN障害」と即断するのではなく、どの指に低下があるか、母指伸展はどうか、手関節背屈と橈側偏位はどうかを整理します。
障害部位をさらに絞る場合は、橈骨神経麻痺の障害部位・障害レベル推定で、肘伸展、腕橈骨筋、手関節背屈、指伸展、感覚所見の組み合わせを確認してください。
記録では「できない動き」と「残っている動き」をセットで残す
記録は「下垂手あり」「下垂指あり」だけではなく、低下した動きと保たれた動きをセットで残すと、障害部位の推定や再評価、多職種共有に使いやすくなります。
| パターン | 記録例 |
|---|---|
| 下垂手型 | 右手関節背屈MMT 1、手指MP伸展MMT 1、母指伸展低下あり。手背橈側の触圧覚に左右差あり。 |
| 下垂指型 | 右手関節背屈は可能だが筋力低下と橈側偏位あり。手指MP伸展MMT 1、母指伸展低下あり。明らかな皮膚感覚左右差なし。 |
とくに下垂指では、「手関節背屈可能」とだけ記載すると重要な情報が抜けます。背屈筋力、橈側偏位、MP伸展、母指伸展、感覚まで残すと、次の評価者が所見を再現しやすくなります。
急に出現した下垂手は末梢神経障害だけで完結させない
下垂手は橈骨神経障害でみられる代表的な所見ですが、まれに脳卒中などの中枢病変が、橈骨神経麻痺のような限局した運動麻痺を呈することがあります。
とくに、急に出現した片側の下垂手、末梢神経の分布だけでは説明しにくい筋力低下、ほかの新規神経学的所見を伴う場合は、橈骨神経麻痺と決めつけず、中枢病変を含めて速やかに評価・共有することが重要です。
中枢病変との具体的な見分け方は、脳梗塞と橈骨神経麻痺の鑑別で詳しく整理しています。
よくある質問
手関節は背屈できるのに、指が伸びない場合は下垂指ですか?
下垂指のパターンに合います。とくにMP関節伸展と母指伸展が低下し、手関節背屈が保たれている場合は、後骨間神経領域の障害を考える材料になります。ただし、下垂指には頸椎神経根症や伸筋腱断裂などほかの原因もあるため、所見だけで診断を確定することはできません。
手関節背屈ができれば後骨間神経は正常ですか?
いいえ。後骨間神経障害でも手関節背屈は残ることがあります。背屈が弱い、または橈側へ偏位しながら背屈する場合があるため、MP伸展と母指伸展を合わせて確認します。
PIP・DIP関節が伸びれば、橈骨神経麻痺ではありませんか?
そうとは限りません。下垂手・下垂指では、手指のなかでもMP関節伸展を分けて確認することが重要です。PIP・DIP関節の伸展がみられることだけで、橈骨神経系の運動機能が正常とは判断できません。
感覚障害がなければ末梢神経障害を否定できますか?
否定できません。後骨間神経障害では皮膚感覚が保たれるのが典型です。感覚だけで判断せず、手関節背屈、橈側偏位、MP伸展、母指伸展を組み合わせて確認します。
まとめ:背屈の有無だけでなく、MP伸展・橈側偏位・感覚まで見る
下垂手と下垂指の違いは、まず手関節背屈と手指MP関節伸展を分けると整理できます。下垂手では両者が低下しやすく、下垂指では手関節背屈が保たれる一方で、MP伸展や母指伸展が目立って低下します。
下垂指では、手関節背屈が「できるか」だけでなく、筋力低下や橈側偏位がないかも確認します。また、感覚が正常でも後骨間神経障害は否定できません。
一方で、下垂指は診断名ではなく、後骨間神経障害以外の原因でも生じます。まずは低下している動きと保たれている動きを整理し、その所見に応じて障害部位や中枢病変を含む次の評価へ進むことが重要です。
参考文献
- 日本整形外科学会. 橈骨神経麻痺. 日本整形外科学会.
- Han BR, Cho YJ, Yang JS, Kang SH, Choi HJ. Clinical features of wrist drop caused by compressive radial neuropathy and its anatomical considerations. J Korean Neurosurg Soc. 2014;55(3):148-151. doi:10.3340/jkns.2014.55.3.148. PubMed.
- Hanna AS, Omuro PM, Hutchinson JR, Fofana ML, Hellenbrand DJ. The Window Test: A Simple Bedside Method to Detect Radial Deviation of the Wrist Commonly Seen in Posterior Interosseous Nerve Palsy. World Neurosurg. 2022;158:18-20. doi:10.1016/j.wneu.2021.10.186. PubMed.
- Shields LB, Iyer VG, Zhang YP, Shields CB. Clinical, Electrodiagnostic, and Ultrasound Findings in 87 Patients With Finger Drop. Cureus. 2024;16(4):e57913. doi:10.7759/cureus.57913. PubMed.
- Brigo F, Ragnedda G, Canu P, Nardone R. Synkinetic wrist extension in distinguishing cortical hand from radial nerve palsy. Pract Neurol. 2018;18(6):520-521. doi:10.1136/practneurol-2018-001971. PubMed.
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

