腸骨稜は骨盤上縁を前後にたどると触診できます
腸骨稜は、腰に手を当てたときに触れる骨盤の上のふちです。前方は上前腸骨棘(ASIS)、後方は上後腸骨棘(PSIS)へ続いています。触診では、指先で一点を探すのではなく、側腹部から広く触れて骨性抵抗を捉え、前後へ上縁をたどることがポイントです。この記事では、新人PT・OT向けに、腸骨稜の場所、3ステップの触診方法、左右差の見方、よくある失敗、記録例を整理します。
この記事の結論
- 腸骨稜は腸骨の上縁にある骨性ランドマーク
- 前方はASIS、後方はPSISへ続く
- 側腹部から広く触れ、骨盤上縁を前後へたどる
- 左右比較では体位・荷重・触診位置をそろえる
- 高さの違いだけで骨盤のゆがみを断定しない
腸骨稜はどこ?骨盤の上のふちにあります
腸骨稜は、骨盤を構成する腸骨の最上部にある弧状の骨性ランドマークです。
自分の腰に両手を当て、指を下方へ滑らせたときに最初に触れる硬い骨のふちをイメージすると位置を捉えやすくなります。

腸骨稜を前方へたどると上前腸骨棘(ASIS)、後方へたどると上後腸骨棘(PSIS)へ続きます。
腸骨稜は「一点」ではなく、ASISからPSISまで続く「骨盤上縁のライン」として捉えることが重要です。
| ランドマーク | 位置 | 触診での捉え方 |
|---|---|---|
| 腸骨稜 | 腸骨の上縁 | 骨盤上部を前後へ続くラインとして捉える |
| ASIS | 腸骨稜の前端 | 骨盤前上方の突出として捉える |
| PSIS | 腸骨稜の後端 | 骨盤後上方の突出として捉える |
腸骨稜の触診は3ステップで行います
腸骨稜は、側腹部を指先で強く押すのではなく、手掌や指腹を広く当ててから骨盤上縁を探すと触れやすくなります。
ステップ1.側腹部へ両手を広く当てる
対象者を立位、座位または背臥位にし、左右の側腹部へ両手を当てます。
最初から一点を押すのではなく、指腹を使って広い範囲に軽く触れます。初めて練習する場合は、軟部組織の緊張が少なく、左右を比較しやすい背臥位から始めると位置を整理しやすくなります。
ステップ2.下方へ滑らせて骨性抵抗を捉える
側腹部から指をゆっくり下方へ滑らせ、軟部組織から硬い骨性抵抗へ切り替わる位置を探します。
指がそれ以上下方へ滑りにくくなる骨のふちが腸骨稜です。強く押し込むより、皮膚と皮下組織を軽く移動させながら輪郭を捉えます。
ステップ3.上縁を前後へたどる
捉えた骨性抵抗を前方と後方へたどり、腸骨稜が連続していることを確認します。
前方へたどった突出部がASIS、後方へたどった突出部がPSISです。腸骨稜を線として確認できると、ASISやPSISを単独で探すより位置関係を理解しやすくなります。
触診のコツ
- 指先ではなく指腹を使う
- 側腹部から下方へ滑らせる
- 一点ではなく上縁の連続性を確認する
- 前方のASISと後方のPSISにつなげる
- 必要以上に強く押し込まない
5分で確認する腸骨稜の触診フロー
新人PT・OTでは、触診の順番を固定すると再現しやすくなります。
- 対象者の体位を決める。
- 左右の側腹部へ手を広く当てる。
- 指腹を下方へ滑らせて骨性抵抗を捉える。
- 腸骨稜を前方と後方へたどる。
- ASIS・PSISとの連続性を確認する。
- 左右の高さ、圧痛、触れやすさを同じ条件で比べる。
- 姿勢・荷重・疼痛・動作所見と組み合わせて記録する。
触診結果を再評価に使う場合は、立位と背臥位を混在させず、毎回できるだけ同じ体位と触れ方で確認します。
腸骨稜が触れないときに見直すこと
腸骨稜が触れない場合は、触診位置だけでなく、指の使い方や探す方向を見直します。
側腹部の軟部組織だけを押している
皮下組織や筋を垂直方向へ強く押すだけでは、腸骨稜の輪郭を捉えにくくなります。
指を押し込むのではなく、側腹部から下方へ滑らせ、軟部組織から骨性抵抗へ変わる境界を探します。
指先で一点を探している
腸骨稜は点ではなく、前後へ続く骨のふちです。
指先で小さな突出を探すより、複数の指を並べて広く触れ、上縁のラインを確認します。
ASISだけを探している
ASISは腸骨稜の前端にある突出部であり、腸骨稜全体ではありません。
ASISから後方へたどる、または側腹部で腸骨稜を捉えてから前方へたどると区別しやすくなります。ASISを詳しく確認する場合は、上前腸骨棘(ASIS)の触診方法と記録例も参考にしてください。
左右で違う位置を触っている
左右比較では、片側は腸骨稜の最高点、反対側は前方部分というように、異なる位置を触れていることがあります。
両手の指の向き、前後位置、圧の強さをそろえてから比較します。
腸骨稜を確認するときのポイント
腸骨稜は、位置を触れただけで終わらせず、体位、左右差、疼痛、姿勢との関係まで確認すると臨床所見として使いやすくなります。
| 確認項目 | 見る内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 体位 | 立位・座位・背臥位 | 再評価では同じ体位にそろえる |
| 位置 | 腸骨上縁のどこを触れているか | 左右で前後位置をそろえる |
| 高さ | 左右の腸骨稜の相対的な高さ | 高さだけで骨盤変位を断定しない |
| 圧痛 | 圧痛の有無と範囲 | 骨性部と周囲軟部組織を分ける |
| 荷重 | 左右の荷重量や支持条件 | 荷重差による見かけの変化を確認する |
| 動作 | 立ち上がり・立位・歩行中の動き | 静止立位だけで判断しない |
腸骨稜の左右差だけで骨盤のゆがみを断定しません
左右の腸骨稜に高さの違いがあっても、その所見だけで骨盤の傾斜や回旋を断定することはできません。

触診結果は、対象者の立ち方、左右の荷重量、下肢の位置、体幹側屈、軟部組織の厚さ、検者の触れ方などの影響を受けます。また、骨盤の形態には個人差があります。
臨床では、腸骨稜の高さに違いを認めたら、次の順で確認します。
- 左右で同じ前後位置を触れているか確認する。
- 足幅、膝の状態、左右荷重をそろえる。
- 体幹側屈や下肢長の見かけの違いを確認する。
- ASIS・PSIS・大転子など、別のランドマークも確認する。
- 姿勢を変えたときに左右差が変化するか確認する。
- 疼痛、可動域、筋力、動作所見と統合する。
臨床での注意点
腸骨稜の高さは、評価を始めるための所見です。「右が高いから骨盤が上がっている」と即断せず、何が左右差を生じさせているのかを追加評価で確認します。
臨床では姿勢・荷重・動作評価の基準点として使います
腸骨稜は、骨盤周囲の位置関係を整理し、次に行う評価を決めるための基準点になります。
立位・座位姿勢の確認
左右の腸骨稜へ同時に触れると、骨盤上縁の相対的な高さを確認できます。
ただし、腸骨稜だけを見るのではなく、足部位置、膝屈曲、左右荷重、体幹側屈、座面との接触状態もあわせて確認します。
歩行時の骨盤運動の観察
歩行では、骨盤の側方移動、挙上・下制、体幹側屈との関係を観察します。
静止立位で触れた腸骨稜の位置と、歩行中の骨盤運動をつなげることで、左右荷重や代償動作の仮説を立てやすくなります。
疼痛部位の共有
腰部や骨盤周囲の訴えがある場合、「腰が痛い」だけでは疼痛部位が曖昧です。
腸骨稜を基準にして、「右腸骨稜直上」「左腸骨稜後方」「腸骨稜より内側」などと表現すると、再評価や申し送りで位置を共有しやすくなります。
腰椎レベルを推定するとき
左右の腸骨稜を結ぶ線は腰椎レベルを推定する目安として使われることがありますが、触診で得られる位置と画像上の椎体レベルは必ずしも一致しません。
したがって、腸骨稜だけを使って腰椎レベルを正確に決定したり、侵襲的手技の位置を判断したりすることは避けます。
新人が間違えやすいポイント
腸骨稜の触診では、位置を当てることに集中しすぎると、比較条件や臨床的な意味づけが抜けやすくなります。
- ASISだけを腸骨稜だと思っている
- 指先で一点を強く押している
- 左右で異なる前後位置を比較している
- 片側ずつ触れ、手の位置がずれている
- 体位や荷重条件をそろえていない
- 腸骨稜の高さだけで骨盤のゆがみを断定している
- 触診所見と姿勢・疼痛・動作を結び付けていない
最初は、自分や触診に協力できる健常者で、ASIS、腸骨稜、PSISの連続性を繰り返し確認します。その後、体格や姿勢の異なる対象者で練習すると、触れ方の違いを整理しやすくなります。
記録は体位・部位・所見・解釈を分けます
腸骨稜の触診結果は、左右差だけを書くのではなく、どの条件で何を確認したかが伝わる形にします。
| 目的 | 記録例 |
|---|---|
| 基本的な位置確認 | 背臥位にて両側腸骨稜を触知可能。左右の著明な差なし。 |
| 立位姿勢 | 安静立位にて右腸骨稜が左より高位。右下肢優位の荷重と体幹右側屈を認める。 |
| 条件による変化 | 立位では右腸骨稜高位。左右均等荷重を促すと高さの差は減少した。 |
| 疼痛部位 | 右腸骨稜後方の軟部組織に圧痛あり。腸骨稜骨性部の明らかな圧痛なし。 |
| 次の評価 | 左腸骨稜低位を認めたため、左右荷重、体幹側屈、下肢長、ASIS位置を追加確認した。 |
「右腸骨稜が高い」だけでは、その所見がどの体位で生じたのか、原因として何を考えたのかが伝わりません。条件と追加評価まで記録すると、再評価や申し送りに使いやすくなります。
関連する骨盤ランドマーク
腸骨稜は、前後の端点や股関節周囲のランドマークと組み合わせることで位置関係を立体的に捉えられます。
- ASIS:腸骨稜の前端にある骨性突出
- PSIS:腸骨稜の後端にある骨性突出
- 大転子:大腿骨近位外側の骨性突出
- 坐骨結節:骨盤下後方にあり、座位で荷重を受ける部位
骨盤後方の位置関係を詳しく確認する場合は、PSISの触診方法・場所・記録例へ進んでください。
よくある質問
腸骨稜とASISの違いは何ですか?
腸骨稜は腸骨の上縁を前後へ続く骨のふちで、ASISはその前端にある骨性突出です。腸骨稜をライン、ASISを前方の端点として整理すると区別しやすくなります。
腸骨稜は立位と背臥位のどちらで触診しますか?
どちらでも触診できます。位置を確認する練習では背臥位、荷重時の姿勢を確認する場合は立位が適しています。再評価では同じ体位と条件をそろえることが重要です。
腸骨稜の左右の高さが違えば骨盤がゆがんでいますか?
高さの違いだけでは断定できません。左右荷重、足部位置、膝屈曲、体幹側屈、軟部組織、骨盤形態、触診位置などの影響を受けるため、ASIS・PSIS、姿勢、疼痛、動作所見と組み合わせて判断します。
腸骨稜が触れないときはどうすればよいですか?
指先で強く押すのではなく、側腹部へ指腹を広く当てて下方へ滑らせます。軟部組織から硬い骨性抵抗へ切り替わる場所を捉え、その上縁を前後へたどってください。
腸骨稜を結ぶ線は必ず第4腰椎を通りますか?
必ず第4腰椎を通るわけではありません。触診による腸骨稜の線と画像上の腰椎レベルには個人差や測定誤差があるため、正確な椎体レベルの決定には別の確認方法が必要です。
腸骨稜は位置・条件・次の評価まで確認します
腸骨稜は、腸骨の最上部にあり、前方のASISから後方のPSISへ続く骨性ランドマークです。
- 側腹部から下方へ滑らせて骨性抵抗を捉える
- 指先ではなく指腹を使って広く触れる
- 骨盤上縁を前後へたどり、ASIS・PSISにつなげる
- 左右比較では体位・荷重・前後位置をそろえる
- 高さの違いだけで骨盤のゆがみを断定しない
- 姿勢・疼痛・荷重・動作所見と組み合わせる
- 体位・部位・所見・追加評価を記録する
新人PT・OTでは、まず腸骨稜を正確に触れることが目標です。その後、「なぜ左右差があるのか」「姿勢や動作を変えるとどう変化するのか」まで確認すると、触診結果を臨床判断につなげやすくなります。
次の一手
骨盤前方の基準点を続けて確認する場合は、上前腸骨棘(ASIS)の触診方法と記録例で、腸骨稜の前端と棘果長測定の起点を整理してください。
骨盤後方までつなげて確認する場合は、PSISの触診方法・場所・記録例で、腸骨稜後端と仙骨周囲の位置関係を確認できます。
参考文献
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著者情報
rehabilikun
理学療法士。脳卒中認定理学療法士、褥瘡・創傷ケア認定理学療法士、登録理学療法士、3学会合同呼吸療法認定士、福祉住環境コーディネーター2級。療養病棟での臨床経験をもとに、理学療法評価、ポジショニング、褥瘡予防、リスク管理に関する情報を発信しています。

