ICF環境因子(e)は「何が・何に・どう影響するか」で書く
ICFの環境因子(e)は、「家族あり」「手すりあり」と事実を並べるだけでなく、その環境が本人の生活機能を支える促進因子なのか、妨げる阻害因子なのかまで整理します。記録の最小形は、対象 → 影響を受ける活動・参加 → 促進/阻害 → 対応・再評価です。
この記事では、PT・OT・STなどが環境因子を記録へ落とし込めるよう、公式の5領域、促進因子と阻害因子の判断境界、記載例、eコードの「.」と「+」の違いを整理します。なお、1行テンプレはWHOが定める公式様式ではなく、臨床で共有しやすくするための本記事独自の整理方法です。
ICF全体の書き方から確認したい方へ
まず結論|環境因子を1行で書くテンプレ
環境因子は、「何があるか」ではなく「その環境が、どの生活機能へ、どちら向きに影響しているか」を書くと、環境調整や多職種連携へつながります。
1行記載の基本形
(環境因子)が(活動・参加など)を(促進/阻害)している →(対応)を行い、(条件・指標)で再評価する
- 阻害因子の例:自宅玄関の15cm段差が屋外移動を阻害 → 手すりと踏み台の導入後、昇降時の介助量を再評価する
- 促進因子の例:四点杖が病棟内歩行を促進 → 高さと使用方法を確認し、同じ歩行条件で距離と介助量を再評価する
「阻害因子を1つ、促進因子を1つ」に絞る方法は、優先順位を決めるときの実務上の出発点です。ICFの公式ルールではないため、安全や退院後の生活へ重要な影響を与える因子が複数ある場合は、必要な項目を追加します。
ICF環境因子に含まれるもの|公式分類は5領域
環境因子は、本人の外部にあり、生活機能へ肯定的または否定的な影響を与える要因です。ICFでは、環境因子を次の5章に分類しています。
| 章 | 領域 | 確認する例 |
|---|---|---|
| e1 | 生産品と用具 | 杖、歩行器、車いす、装具、住宅設備、通信機器 |
| e2 | 自然環境と人間がもたらした環境変化 | 地形、気候、光、音、空気の質 |
| e3 | 支援と関係 | 家族、友人、介護者、医療・福祉専門職 |
| e4 | 態度 | 家族や支援者の理解、過保護、周囲の受け止め方 |
| e5 | サービス・制度・政策 | 医療、介護、福祉、交通、教育、就労支援 |
環境因子と間違えやすい項目
環境因子は「本人の外部」にあることが判断の手がかりです。年齢、生活歴、価値観、意欲などは個人因子、筋力低下や痛みは心身機能、脳卒中や大腿骨近位部骨折などは健康状態として整理します。
| 情報 | 主に整理する場所 | 記録の考え方 |
|---|---|---|
| 玄関段差、歩行器、家族の見守り | 環境因子(e) | 生活機能への促進・阻害の方向まで書く |
| 年齢、性格、価値観、生活歴 | 個人因子 | 目標や支援方針に関係する内容を残す |
| 筋力低下、疼痛、関節可動域制限 | 心身機能・身体構造(b/s) | 関連する活動・参加と分けて記録する |
| 歩行、更衣、入浴、買い物 | 活動・参加(d) | 環境因子が何に影響するかを明確にする |
促進因子と阻害因子の違い|物ではなく影響で判断する
促進因子か阻害因子かは、手すりや家族支援といった環境の名称だけでは決まりません。同じ環境でも、本人、目標とする活動、設置・支援条件によって影響の方向が変わります。
| 環境 | 促進因子になる例 | 阻害因子になる例 | 確認する境界 |
|---|---|---|---|
| 手すり | 適切な位置にあり、移乗や段差昇降を安定させる | 位置や高さが合わず、動作を不安定にする | 設置の有無ではなく、使用時の動作が改善するか |
| 家族支援 | 必要な見守りや声かけで本人の遂行を支える | 過介助により、本人が行う機会を減らす | 安全を保ちながら本人の実施部分が増えるか |
| 歩行器 | 適合した用具が移動範囲を広げる | 高さや種類が合わず、疲労や不安定性を増やす | 用具使用時の距離、介助量、安全性が改善するか |
| サービス | 必要な支援が生活行為の継続を可能にする | 利用時間や支援内容が本人の生活目標と合わない | サービス導入後に希望する活動・参加が実現するか |
厚生労働省の解説資料でも、点字ブロックが視覚障害のある人には促進的に働く一方、歩行が困難な人には阻害的に働く場合があると説明されています。環境因子は「ある/ない」ではなく、誰の、どの生活機能に、どう影響しているかで判断します。
ICF環境因子の記載例|対応と再評価までつなげる
記録では、促進・阻害を判定した根拠と、次に変える条件をセットにします。「誰が/いつまでに」はICFの公式評価項目ではありませんが、退院支援や多職種共有を止めないための実務情報として有用です。
| 場面 | 判定 | 1行記載例 | 再評価する内容 |
|---|---|---|---|
| 玄関 | 阻害因子 | 玄関の15cm段差が屋外移動を阻害 → 手すりと踏み台を検討 | 昇降方法、介助量、転倒リスク |
| 病棟内歩行 | 促進因子 | 適合した歩行器が病棟内移動を促進 → 使用条件を統一 | 歩行距離、介助量、症状、安全性 |
| 更衣 | 阻害因子 | 家族の先回り介助が本人の更衣機会を減らす → 見守る工程を共有 | 本人の実施割合、所要時間、安全性 |
| 入浴 | 促進因子 | 家族の見守りが浴室移動を支える → 介助位置と声かけを統一 | 移動・またぎ動作、必要な介助 |
| 在宅生活 | 阻害因子 | 必要な訪問サービスが未調整で入浴再開が難しい → 担当者会議で導入条件を確認 | 利用開始日、支援内容、入浴実施状況 |
| 夜間移動 | 阻害因子 | 廊下の照度不足が夜間トイレ移動を阻害 → 足元照明を追加 | 経路、つまずき、見守りの必要性 |
eコードの書き方|阻害因子は「.」、促進因子は「+」
ICFコードを使う場合、阻害因子はコードの後に小数点、促進因子は小数点をプラス記号に置き換えて程度を示します。阻害因子を「−2」と書くのが公式表記ではありません。
| コード例 | 読み方 | 記録例 |
|---|---|---|
e155.2 |
e155が中等度の阻害因子 | 自宅玄関の段差が屋外移動を中等度に阻害 |
e120+2 |
e120が中等度の促進因子 | 移動用の歩行補助具が屋内歩行を中等度に促進 |
評価点は、0=影響なし、1=軽度、2=中等度、3=重度、4=完全、8=詳細不明、9=非該当を基本とします。ただし、どの程度と判定したかを後から確認できるよう、コードだけでなく、対象となる活動・参加、評価条件、観察した変化を併記します。
0〜4・8/9の意味と判定根拠は、ICF修飾子の決め方で詳しく整理しています。
環境因子を介入へ変える3ステップ
環境因子は記載して終わりではなく、阻害を減らす、または促進を活かす条件変更へつなげます。実務では、次の3ステップで整理すると再評価まで一続きになります。
- 影響を受ける生活機能を決める:屋外歩行、入浴、更衣、買い物など、今回優先する活動・参加を明確にする
- 環境の方向と程度を判断する:その環境が促進か阻害か、何を根拠に判断したかを残す
- 条件を変えて再評価する:用具、設置位置、介助方法、サービスなどを調整し、同じ指標で変化を確認する
カンファレンス向け記録例
屋外歩行では、自宅玄関の段差が阻害因子、家族の見守りが促進因子です。PTが手すり・踏み台使用時の昇降方法を確認し、退院前訪問時に介助量と安全性を再評価します。
よくあるNG/OK|事実列挙を判断できる記録へ変える
環境因子の記録では、情報量よりも「生活機能への影響」が読めることが重要です。次のように書き換えると、対応の優先順位が明確になります。
| NG | 不足していること | OK |
|---|---|---|
| 家族あり、手すりあり | 何を支えるのか不明 | 家族の見守りが入浴動作を促進、浴室手すりがまたぎ動作を支える |
| 段差=阻害、歩行器=促進と固定する | 本人・活動・使用条件との関係 | 実際の遂行が改善するかを確認して促進/阻害を判断する |
| 阻害(−2)と記録する | 公式コードとの区別 | コードを使う場合は e155.2、文章では「中等度の阻害」と書く |
| 対応策だけを書いて終了する | 効果を確認する条件 | 変更する環境と、再評価する活動・指標・時期をセットにする |
ICF環境因子の書き方でよくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップすると閉じます。
Q1. 年齢や意欲は環境因子に含まれますか?
年齢、生活歴、価値観、意欲などは、基本的に個人因子として整理します。環境因子は、家屋、用具、家族や専門職との関係、周囲の態度、サービス・制度など、本人の外部にある要因です。
Q2. 阻害因子と促進因子は必ず1つずつ書きますか?
必須ではありません。「1つずつ」は記録の優先順位を決めるための実務上の方法です。安全、退院後の生活、本人の目標へ影響する重要な環境因子が複数ある場合は、必要な項目を追加してください。
Q3. 家族支援はどのe領域に入りますか?
家族による見守りや介助などの支援・関係は主にe3、家族の理解、期待、過保護などの態度は主にe4として整理します。「家族あり」だけで終わらず、どの生活機能へどのように影響しているかを記録します。
Q4. 通常のカルテでもeコードが必要ですか?
施設の書式や運用で求められていなければ、すべての環境因子へコードを付ける必要はありません。文章で記録する場合も、促進/阻害の方向、影響を受ける活動・参加、対応と再評価条件を残すと共有しやすくなります。ICFコードとして記載する場合は、評価点を組み合わせます。
参考文献
- World Health Organization. International Classification of Functioning, Disability and Health: ICF. Geneva: World Health Organization; 2001. WHO公式ページ
- 厚生労働省. 国際生活機能分類―国際障害分類改訂版―(日本語版). 2002. 厚生労働省公式ページ
- 厚生労働省. ICF(国際生活機能分類)―「生きることの全体像」についての「共通言語」―. 厚生労働省PDF
- World Health Organization. Towards a Common Language for Functioning, Disability and Health: ICF. Geneva: World Health Organization; 2002. WHO PDF
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

