肘部管症候群(尺骨神経絞扼)とは?|「肘の神経」を 5〜 8 分で言語化する
肘部管は “病歴(肘屈曲・圧)” と “最小所見セット” が揃うと、保存療法の説明が一気に通ります。 評価→介入→再評価の流れを体系で確認する
肘部管症候群( cubital tunnel syndrome )は、肘の内側で尺骨神経が圧迫・牽引されて起こる絞扼性ニューロパチーです。症状は「環指・小指のしびれ」「肘内側の違和感」「手内筋の弱さ(巧緻低下)」が中心で、夜間や長時間の肘屈曲、机縁への肘当てで悪化しやすいのが典型です。
尺骨神経麻痺(鷲手)と頚椎・脳卒中の鑑別まで含めて “最小セット” を整理した比較記事は、こちらにまとめています:尺骨神経麻痺(鷲手)と頚椎・脳卒中の違い
結論:病歴(肘屈曲/圧)+筋力 5 点+感覚 2 点で “肘部管らしさ” を固める
肘部管は、検査を増やすより順番を固定する方が強いです。まず病歴で「肘屈曲」「肘への圧」「夜間の増悪」を拾い、次に筋力 5 点(尺骨 3+非尺骨 2 )と感覚 2 点で末梢分布に沿うかを確認。最後に誘発( Tinel ・肘屈曲テスト)で補強します。
| 手順 | みること | 狙い | 記録の型 |
|---|---|---|---|
| ① 病歴 | 夜間悪化、肘屈曲、机縁の肘当て、電話・運転・ PC 姿勢 | 起点(増悪因子)を言語化 | 「夜間:増悪」「肘当て:あり」 |
| ② 筋力 5 点 | 骨間筋、 ADM 、母指内転( Froment )、母指外転( APB )、示指 DIP 屈曲 | 尺骨 vs 根・腕神経叢の方向づけ | 「骨間 3 / ADM 2 / Froment +」 |
| ③ 感覚 2 点 | 小指手掌側、手背尺側(背側尺骨皮神経) | 肘部管らしさを補強 | 「小指掌↓ / 手背尺側↓」 |
| ④ 誘発 | Tinel(肘部)、肘屈曲テスト、圧迫で再現 | 病歴と所見の一致 | 「 Tinel +」「屈曲 60 秒で増悪」 |
問診:まず聞くのは 3 つ(夜・屈曲・肘圧)
肘部管は、問診が “治療そのもの” になりやすい領域です。初回から「やめること」ではなく「減らす工夫」を提案できる形で聞き取ります。
| 質問 | 典型の答え | 意味 | 次の一手 |
|---|---|---|---|
| 夜に増えますか? | 寝て起きるとしびれる | 睡眠中の肘屈曲・圧が関与 | 夜間の肘屈曲対策 |
| 肘を曲げると増えますか? | 電話/運転/読書で増える | 屈曲で神経が牽引・圧迫 | 作業姿勢の分割 |
| 肘をつく癖は? | 机縁、車窓、肘掛け | 局所圧が原因になりやすい | パッド、肘位置の変更 |
身体所見:筋力は “尺骨 3+非尺骨 2 ” で迷わない
尺骨神経の障害でも、根( C8–T1 )が混ざると所見が変わります。尺骨神経だけで判断しないために、最初から 5 点セットで揃えます。
| 分類 | 項目 | みる理由 | メモ |
|---|---|---|---|
| 尺骨 3 | 骨間筋(指の開閉) / ADM(小指外転) / 母指内転( Froment ) | 尺骨神経らしさを固める | 巧緻低下の “原因筋” を明確化 |
| 非尺骨 2 | APB(母指外転) / 示指 DIP 屈曲 | 根や腕神経叢の可能性を拾う | 「尺骨だけではない」弱さを検出 |
誘発テスト: Tinel と肘屈曲は “病歴の裏取り” に使う
誘発テストは単独で確定する目的ではなく、病歴(夜・屈曲・肘圧)と一致しているかを確かめるために行います。肘部での Tinel 、肘屈曲保持での症状再現、圧迫での再現を “セット” で確認します。
| テスト | 方法(要点) | 陽性の書き方 | 注意 |
|---|---|---|---|
| Tinel(肘部) | 肘内側で軽くタップし、末梢へ放散するか | 「 Tinel :+(環指・小指へ放散)」 | 強く叩かない |
| 肘屈曲テスト | 肘屈曲保持で症状が誘発されるか | 「屈曲 60 秒でしびれ増悪」 | 再現の有無と時間を残す |
| 圧迫 | 肘部管周囲の圧で再現するか | 「圧迫で再現:あり」 | 痛みの増悪は中止 |
保存療法:①活動修正→②夜間スプリント→③神経滑走(耐用性優先)
肘部管の非手術療法は、まず活動修正(肘屈曲と肘圧の削減)が中心で、必要に応じて夜間スプリントで肘屈曲を減らします。AAOS でも、夜間に肘を伸展位に保つためのスプリント/ブレースが紹介されています。
神経滑走( nerve gliding )は、過敏な時期に “強く伸ばす” と悪化することがあるため、症状の反応を見ながら短く実施します。保存療法のエビデンスは一様ではなく、患者の重症度や耐用性で選択が変わる点は、レビューでも議論されています。
| 優先 | 目的 | 具体策 | 再評価 |
|---|---|---|---|
| ① 活動修正 | 神経ストレスを減らす | 肘屈曲の連続時間を短く、肘当て回避、机・肘掛けの当たり対策 | 夜間症状、しびれ頻度 |
| ② 夜間スプリント | 睡眠中の屈曲ストレスを減らす | 肘伸展寄りで固定(眠れる範囲で) | 起床時のしびれ、睡眠の質 |
| ③ 神経滑走 | 動きの “引っかかり” を減らす | 短時間・低強度で反応を確認しながら実施 | 実施後 24 時間の増悪有無 |
| ④ 巧緻の再学習 | 生活で使える形に戻す | ピンチ、指の開閉、ボタン等を短時間反復 | 主訴動作の達成度 |
現場の詰まりどころ:よくある失敗と回避
| 失敗 | 起きること | 対策 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 筋力を尺骨だけで見る | 根( C8–T1 )が混ざっても気づきにくい | 非尺骨 2 筋( APB / 示指 DIP )を最初から入れる | 「 5 点セット」 |
| 夜間増悪を聞かない | 保存療法が噛み合わない | 夜間の屈曲と肘圧を具体化して対策 | 「起床時:増悪」 |
| スプリントで眠れないのに継続 | 中断して効果が出ない | 耐用性優先(固定角度・素材・時間を調整) | 睡眠の質 |
| 神経滑走を強くやりすぎる | 症状が増悪する | 短時間・低強度、 24 時間反応で調整 | 「翌日増悪:有/無」 |
共有・紹介の目安:経過が合わないときは “所見と言葉” を揃える
保存療法の選択は症状の程度で変わります。ここでは、現場で迷いやすい「共有の型」を用意します。筋力 5 点+感覚 2 点+誘発をセットで渡すと、検査( EDX )や治療方針の相談が進めやすくなります。
| 状況 | なぜ重要か | 共有するときの要点 |
|---|---|---|
| 筋萎縮や明確な筋力低下が進む | 重症化の可能性 | どの筋がどの程度、期間、左右差 |
| 夜間痛・しびれが強く生活に影響 | 耐用性・睡眠に直結 | 誘発姿勢、スプリント耐用性 |
| 末梢分布に沿わない | 根・中枢の再検討 | 非尺骨 2 筋、 UMN 所見の有無 |
| 保存療法を一定期間行っても改善乏しい | 治療方針の再検討 | 活動修正内容、期間、再評価の推移 |
よくある質問(FAQ)
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Q1. 最初に 1 つだけやるなら、何からですか?
最初は活動修正です。肘屈曲の連続時間と肘当て(局所圧)を減らすだけで、夜間・日中の症状が変わることがあります。次に夜間スプリントを検討します。
Q2. 夜間スプリントは “肘をまっすぐ” が正解ですか?
原則は伸展寄りですが、眠れない固定は続きません。耐用性を優先して角度や装着時間を調整し、起床時症状と睡眠の質で再評価します。
Q3. 神経滑走は毎日やっていいですか?
反応を見ながらです。実施後に症状が増える場合は強度や回数を下げ、 24 時間の反応で調整します。過敏な時期は “短く・弱く” が基本です。
Q4. どの所見があると “肘部管っぽい” が強まりますか?
夜間増悪、肘屈曲での増悪、肘部の圧で増悪、尺側の感覚低下、尺骨神経支配筋の低下(骨間筋など)が揃うと肘部管らしさが高まります。
参考文献
- American Academy of Orthopaedic Surgeons (AAOS). Ulnar Nerve Entrapment at the Elbow (Cubital Tunnel Syndrome). OrthoInfo
- Kooner S, Cinats D, Kwong C, Matthewson GD, Dhaliwal G. Conservative treatment of cubital tunnel syndrome: A systematic review. Orthopedic Reviews. 2019;11(2). doi: 10.4081/or.2019.7955
- Bateman M, et al. Effectiveness of night splints for cubital tunnel syndrome: Systematic review. 2025. PMC
- Lleva JMC, et al. Ulnar Neuropathy. StatPearls. 2023-. NCBI Bookshelf
おわりに
肘部管症候群は、病歴(夜・屈曲・肘圧)→筋力 5 点→感覚 2 点→誘発→活動修正→夜間スプリント→再評価のリズムが作れると、迷いが減ります。最小セットを固定して記録すれば、保存療法の効果判定も共有も “同じ言葉” で進めやすくなります。
次の一手を決めるために、面談前の準備チェックと職場評価シートも手元に置いておくと進めやすいので、面談準備チェック&職場評価シートも活用してください。
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


