下垂足で腓骨神経麻痺とL5神経根障害を見分けるポイント
下垂足をみたとき、臨床で特に迷いやすいのが総腓骨神経障害(腓骨神経麻痺)とL5神経根障害です。どちらでも足関節背屈や母趾伸展が低下し得るため、背屈だけで判断すると方向づけがぶれやすくなります。
この記事では、下垂足を認めたときに、どの筋まで弱いかを手掛かりに局在を整理する考え方をまとめます。結論は、背屈・母趾伸展に加えて、外反、内反(後脛骨筋)、股関節外転(中殿筋)まで確認することです。総腓骨神経支配だけで説明できるのか、それとも総腓骨神経の外にまで所見が広がるのかをみると、L5神経根障害を疑う根拠が整理しやすくなります。
なお、この記事は身体所見から局在を方向づけるための整理です。診断を確定するものではなく、必要に応じて神経伝導検査、針筋電図、画像検査などへつなげます。
結論:背屈だけでなく「総腓骨神経の外」を確認する
下垂足で腓骨神経麻痺とL5神経根障害を見分けるとき、足関節背屈や母趾伸展だけでは十分ではありません。どちらでも前脛骨筋や長母趾伸筋の筋力低下を認めることがあるためです。
方向づけのポイントは、外反に加えて、足関節内反(後脛骨筋)と股関節外転(中殿筋)まで確認することです。後脛骨筋と中殿筋は総腓骨神経支配ではないため、これらにも筋力低下があれば、総腓骨神経障害だけでは説明しにくくなり、L5神経根障害を考える材料になります。

比較表|腓骨神経麻痺とL5神経根障害の見分け方
最初に押さえたいのは、背屈と母趾伸展は両者で低下し得るという点です。鑑別では、弱い筋だけを見るのではなく、総腓骨神経支配の範囲だけで説明できるかを確認します。
| 確認項目 | 総腓骨神経障害 | L5神経根障害 | 判断のポイント |
|---|---|---|---|
| 足関節背屈 | 低下し得る | 低下し得る | 単独では分けにくい |
| 母趾伸展 | 低下し得る | 低下し得る | 単独では分けにくい |
| 足関節外反 | 低下しやすい | 低下することがある | 外反低下だけで総腓骨神経障害と断定しない |
| 足関節内反 | 比較的保たれやすい | 低下することがある | 後脛骨筋は総腓骨神経支配ではない |
| 股関節外転 | 保たれやすい | 低下することがある | 中殿筋まで弱ければL5を含む近位病変を考える材料になる |
| 感覚 | 下腿外側〜足背、第1趾間など | 下腿外側〜足背などに異常を認め得る | 分布が重なるため感覚だけで決めない |
| 病歴 | 腓骨頭部の圧迫、脚組み、長時間の同一姿勢、装具・ギプスなど | 腰痛、殿部痛、下肢への放散痛など | 病歴は支持所見として運動分布と合わせる |
| 次の一手 | 腓骨神経内の局在推定へ進む | 神経根症状として共有し追加評価へつなぐ | 二者択一で説明できない場合は追加評価を検討する |
見分け方の基本|「どの筋まで弱いか」を整理する
総腓骨神経障害とL5神経根障害を分けるときは、低下している筋だけでなく、保たれている筋にも注目します。特に、総腓骨神経支配かどうかを意識して筋力を並べると整理しやすくなります。
背屈・母趾伸展は入口として確認する
前脛骨筋による足関節背屈と、長母趾伸筋による母趾伸展は、下垂足を把握するうえで重要です。ただし、どちらも総腓骨神経障害とL5神経根障害の双方で低下し得るため、ここで局在を決めません。
「背屈が弱いから腓骨神経麻痺」「長母趾伸筋が弱いからL5」と単純化せず、次に外反・内反・股関節外転へ進みます。
外反低下は腓骨神経分布を確認する所見
腓骨筋群による足関節外反は、総腓骨神経から分かれる浅腓骨神経の支配を受けます。そのため、背屈と外反がともに低下していれば、総腓骨神経領域の障害を考える材料になります。
ただし、腓骨筋群にはL5神経根も関与するため、外反低下だけで総腓骨神経障害とは決められません。 ここで内反や近位筋までみることが重要です。
内反低下があれば後脛骨筋を確認する
足関節内反を担う後脛骨筋は、脛骨神経支配であり、総腓骨神経には支配されません。一方、神経根レベルではL5が関与します。
そのため、背屈・外反の低下に加えて内反まで低下している場合は、総腓骨神経単独の障害では説明しにくい所見となります。L5神経根障害や、より近位の坐骨神経・腰仙骨神経叢の病変なども視野に入れます。
反対に、背屈・外反が低下している一方で内反が明らかに保たれていれば、総腓骨神経障害を支持する材料になります。ただし、内反が保たれているだけでL5神経根障害を完全に否定することはできません。
股関節外転も確認すると局在をさらに絞りやすい
内反だけで判断しにくい場合は、中殿筋による股関節外転も確認します。中殿筋は上殿神経支配であり、総腓骨神経の障害によって直接筋力が低下する筋ではありません。
L5を含む神経根障害では股関節外転筋力が低下することがあり、足部だけでなく近位筋にも所見が広がっているかを見ることで局在を考えやすくなります。
実務では「外反→内反→股関節外転」の順で所見を広げる
実際の評価では、個々の筋を独立して判定するより、どこまで筋力低下の分布が広がっているかを見ると整理しやすくなります。以下は、下垂足を見たときの整理の流れです。
- 発症状況と病歴を確認する:腓骨頭部への圧迫、脚組み、長時間の同一姿勢、体重減少、ギプス・装具などの情報と、腰痛・殿部痛・放散痛の有無を確認します。
- 背屈・母趾伸展を確認する:前脛骨筋と長母趾伸筋の低下を確認しますが、この段階では局在を決めません。
- 外反を確認する:背屈だけでなく腓骨筋群にも低下があるかを確認します。
- 内反を確認する:後脛骨筋まで弱ければ、総腓骨神経より近位の病変を考えます。
- 股関節外転を確認する:中殿筋にも低下があれば、L5を含む神経根レベルの関与を考える材料になります。
- 感覚と病歴を重ねる:運動分布を中心に、感覚障害の範囲や腰部症状、圧迫歴を支持所見として加えます。
- 説明できない所見があれば局在を広げる:坐骨神経障害、腰仙骨神経叢障害、多発ニューロパチーなど、二者択一では説明できない原因も検討します。
「この筋力低下は総腓骨神経だけで説明できるか」を軸に考えると、局在が整理しやすくなります。背屈・母趾伸展だけで止めず、内反と股関節外転まで広げてみることがポイントです。
感覚と病歴は「支持所見」として使う
感覚障害は重要ですが、第1趾間の感覚低下だけで総腓骨神経障害とL5神経根障害を分けることは困難です。
第1趾間は深腓骨神経の代表的な感覚領域であり、足背の多くは浅腓骨神経領域です。一方、L5神経根障害でも下腿外側から足背に感覚異常が現れることがあり、末梢神経領域とデルマトームには重なりがあります。
そのため感覚評価では、「第1趾間が低下しているか」だけではなく、下腿外側・足背・第1趾間のどこまで症状が広がっているかを記録し、運動所見と合わせて解釈します。
| 確認すること | 総腓骨神経障害を考える材料 | L5神経根障害を考える材料 |
|---|---|---|
| 圧迫・姿勢 | 脚組み、長時間の圧迫、しゃがみ姿勢など | 直接の判断材料にはなりにくい |
| 装具・固定 | 腓骨頭周囲を圧迫し得るギプス・装具など | 直接の判断材料にはなりにくい |
| 腰部・殿部症状 | なくても矛盾しない | 腰痛、殿部痛、下肢への放散痛が手掛かりになる |
| 疼痛の有無 | 疼痛を伴わない場合もある | 疼痛を伴わない場合もある |
腰痛がないからL5ではない、痛みがないから腓骨神経ではない、とは判断できません。 病歴は運動所見を補強する情報として使用します。
身体所見だけで決め切れないときは追加評価へつなぐ
身体所見で局在を方向づけても、総腓骨神経障害とL5神経根障害を明確に分けられないことがあります。特に所見が混在する場合は、身体所見だけで診断名を固定せず、医師と共有して追加評価へつなげます。
神経伝導検査・針筋電図
神経伝導検査(NCS)と針筋電図(EMG)は、腓骨神経障害の局在や障害程度を評価し、L5神経根障害、坐骨神経障害などとの鑑別を進めるために用いられます。
鑑別では前脛骨筋や腓骨筋群だけでなく、総腓骨神経支配ではないもののL5が関与する筋の所見も重要になります。
画像検査
L5神経根障害が疑われる場合は、症状や診察所見に応じて腰椎MRIなどが検討されます。腓骨頭周囲での圧迫や腫瘤など局所病変が疑われる場合には、超音波検査やMRIなどが選択されることがあります。
画像所見だけで症状の原因を決めるのではなく、運動・感覚分布、電気診断所見、病歴と合わせて判断することが重要です。
早めの医学的評価につなげたい所見:
急速に進行する筋力低下、突然発症した下垂足に中枢神経症状を伴う場合、膀胱直腸障害や会陰部の感覚異常を伴う場合などは、単純な腓骨神経麻痺として経過をみず、速やかに医師へ共有します。
記録では診断名より「どの筋まで弱いか」を残す
PT・OTの記録では、「腓骨神経麻痺」「L5神経根障害」と先に断定するより、観察した運動・感覚所見と病歴を残す方が、その後の診断や再評価につながります。
| 所見の組み合わせ | 記録例 | 考え方 |
|---|---|---|
| 総腓骨神経障害を疑う分布 | 右TA 2、EHL 2、外反2。内反4+、股関節外転5。足背に感覚鈍麻あり。腓骨頭部の圧迫歴あり。 | 筋力低下が主に総腓骨神経領域にまとまっている |
| L5を含む近位病変を疑う分布 | 右TA 2、EHL 2、外反3、内反3、股関節外転4。腰部〜下腿外側への放散痛あり。 | 総腓骨神経支配外の筋にも低下がある |
| 局在を決めにくい場合 | 右TA 2、EHL 2。外反・内反は疼痛のため判定困難。足背感覚鈍麻あり。追加評価が必要。 | 判定できない項目を明示し、診断名を固定しない |
筋力値だけでなく、外反・内反・股関節外転の左右差、感覚分布、関連する疼痛や圧迫歴を一緒に記録すると、再評価時にも変化を追いやすくなります。
よくある判断ミスは「1つの所見で決める」こと
下垂足の局在では、1つの検査所見を決め手にすると判断がずれやすくなります。
- 背屈低下だけで腓骨神経麻痺と判断する:背屈低下はL5神経根障害でも起こり得ます。
- 母趾伸展低下だけでL5と判断する:長母趾伸筋は深腓骨神経支配でもあり、総腓骨神経障害でも低下し得ます。
- 外反低下だけで腓骨神経麻痺と判断する:外反筋にもL5が関与するため、内反や近位筋まで確認します。
- 内反が保たれているからL5を完全に除外する:L5神経根障害でも障害の程度や範囲によって所見はそろわないことがあります。
- 第1趾間の感覚だけで局在を決める:感覚分布には重なりがあり、運動分布との統合が必要です。
- 腰痛がないからL5を除外する:疼痛の有無だけでは神経根障害を否定できません。
判断に迷ったときは、「この筋力低下は総腓骨神経だけで説明できるか」と考え直し、後脛骨筋や中殿筋まで所見を広げると整理しやすくなります。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 内反が保たれていればL5神経根障害は否定できますか?
否定はできません。内反を担う後脛骨筋が保たれていれば総腓骨神経障害を支持する材料にはなりますが、L5神経根障害の程度や範囲によっては内反低下が明確でないこともあります。外反、股関節外転、病歴、感覚所見を合わせて判断します。
Q2. 第1趾間の感覚低下があれば腓骨神経麻痺ですか?
第1趾間は深腓骨神経の代表的な感覚領域ですが、それだけで局在を確定することはできません。L5神経根障害との感覚分布には重なりがあるため、運動所見を中心に評価します。
Q3. 身体所見で腓骨神経麻痺とL5を分けられない場合はどうしますか?
診断名を無理に固定せず、観察した筋力・感覚分布・病歴を医師へ共有します。必要に応じて神経伝導検査、針筋電図、腰椎や腓骨神経周囲の画像検査などを組み合わせて局在を確認します。
次の一手|下垂足全体か、腓骨神経内の局在へ進む
- 下垂足全体から原因を整理する:下垂足は脳卒中か腓骨神経麻痺か|中枢・末梢を見分ける
- 腓骨神経障害が疑わしい:腓骨神経麻痺の障害部位・局在推定
参考文献
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- Marciniak C. Fibular neuropathy. PM R. 2013;5(4):e41-e46.
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- Carolus AE, Becker M, Cuny J, Smektala R, Schmieder K, Brenke C. The interdisciplinary management of foot drop. Dtsch Arztebl Int. 2019;116(20):347-354.
- Jeon CH, Chung NS, Lee YS, Son KH, Kim JH. Assessment of hip abductor power in patients with foot drop: a simple and useful test to differentiate lumbar radiculopathy and peroneal neuropathy. Spine. 2013;38(3):257-263.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

