不可避褥瘡( UPI )運用と記録テンプレ

臨床手技・プロトコル
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不可避褥瘡( UPI )は「言葉」より先に“記録の型”を揃える

不可避褥瘡( Unavoidable Pressure Injury: UPI )は、定義を知るだけでは現場で運用できません。大事なのは、①評価②標準的ケア③目標と介入④定期的な計画修正の「証跡」を、誰が見ても追える形で残すことです。本記事では、UPI と判断するための“前提条件”をチェック表に落とし、監査・説明・チーム合意に耐える記録の最小セットをテンプレ化します。

関連:褥瘡(市民向け表記の考え方も含む)は 日本褥瘡学会の案内 が一次情報です。

臨床の型(評価・記録)を増やしつつ、キャリアの選択肢も押さえると迷いが減ります。

PT のキャリア設計を 5 分で整理する

何が変わった?「防ぎきれない」→「不可避褥瘡( UPI )」

日本褥瘡学会は、 Unavoidable pressure injury の和訳名称を「不可避褥瘡( UPI )」とし、あわせて解説文(運用上の要件)を決定しています。ポイントは、“できることはやった”を口頭で主張するのではなく、評価と標準ケア、介入、計画修正までを記録で示すことが前提になっている点です。

また名称変更の理由として、今後の実態調査などで褥瘡の発生率・有病率から UPI を除外する運用を想定した場合に、電子カルテ等での取り扱いを明解にする目的が示されています(一次資料参照)。

解説文を“現場の言葉”に翻訳する(丸暗記しない)

解説文は長く、現場ではそのまま運用しづらいので、下の 4 つに分解して扱うとブレません。

  • 評価:患者の身体状態と褥瘡リスク(危険因子)を評価している
  • 標準的ケア:ガイドブック等の標準的ケアを踏まえ、必要な予防ケアを実施している
  • 目標と介入:状態とニーズに合致した目標を置き、介入策を検討し試みている
  • 計画修正:定期的に計画を見直し、修正した証跡がある

この 4 点が“追える”記録で揃っていれば、チーム内での説明が早く、判断の再現性も上がります。

UPI 運用フロー(評価→標準ケア→修正→それでも発症)

まずは院内で「 UPI を検討する場面」を固定します(例:発生時のカンファ/週次の褥瘡回診/看護計画の評価日など)。次に、下の順で確認します。

  1. 発生(または悪化)を確認し、部位・重症度・関連要因を整理する
  2. 直近 1〜2 週間のリスク評価の有無と結果を確認する
  3. 標準的ケア(体位変換・除圧・スキンケア・栄養・福祉用具など)の実施記録を確認する
  4. 目標・介入内容が状態に合っていたか、計画修正の履歴を確認する
  5. 不足があれば「 UPI 判定」ではなく、まず計画修正と再発防止を優先する

次の H2 から、そのまま使えるチェック表と記録テンプレを提示します。

UPI 判定の前提チェック( OK / NG 早見表 )

下表は「 UPI かどうか」を即断する表ではありません。目的は、UPI を検討するために必要な“証跡が揃っているか”をチームで同じ目線で確認することです。

不可避褥瘡( UPI )を検討するための前提チェック(院内カンファ用)
領域 OK(証跡がある) NG(不足しがち) 次にやること
リスク評価 直近の評価日・所見・リスク因子が記録されている 評価が古い/評価日が不明/所見が曖昧 評価を更新し、要因(圧・ずれ・湿潤・栄養など)を再整理
標準的ケア 体位変換・除圧・皮膚ケア等の実施が具体に残っている 「実施」だけで頻度・手段が不明/担当不明 頻度・手段・実施者を記録。用具や体位の“条件”も固定
目標と介入 状態に合う目標(例:除圧時間)と介入内容が一致 目標が抽象的/介入が漫然/責任者不明 目標を具体化(期限・数値・行動)し、介入を役割分担
計画修正 定期見直しの履歴があり、変更点が追える 見直し日がない/「様子見」だけ/変更点不明 評価日を固定し、変更点(用具・体位・頻度)を明記
説明と合意 家族・チームへの説明要点が短文で残っている 説明の記録がない/誤解を招く表現 次項の「説明テンプレ」を使い、要点だけ記録

記録の最小セット(テンプレ:そのまま転記できる)

UPI 関連の記録は、文章量を増やすより、何を・いつ・誰が・どう変えたかが追えることが重要です。下の項目だけ揃えば、再現性が上がり、説明も短く済みます。

不可避褥瘡( UPI )運用の記録テンプレ(最小セット)
項目 書くこと(短文でOK) 記録例(文の型)
状態の要点 部位・所見・変化・関連因子(圧/ずれ/湿潤等) 「仙骨部に発赤〜びらん。湿潤あり、体位保持困難。」
リスク評価 評価日・結果・主要因子 「 1 / 29 に評価。圧とずれが主因。皮膚脆弱。」
標準的ケア 体位変換、除圧、皮膚ケア、用具等の“具体” 「 2 時間毎の体位変換、クッション調整、保湿実施。」
目標と介入 目標(期限/数値)+介入(担当) 「 48 時間で湿潤低減。除圧時間延長(看護/ PT )。」
計画修正 修正日・変更点・理由 「 1 / 31 :体位と用具変更。体幹保持困難のため。」
判断の整理 UPI を“検討した根拠”or“不足” 「証跡は揃うが発生。 UPI 検討として回診で合意。」
説明の要点 家族説明の要点( 2 行 ) 「予防を実施しつつ状態に合わせ修正したが発生。今後も最適化。」

よくある失敗( UPI を“言い訳”にしない)

  • 評価が古い:「リスク評価→ケア」の因果が示せない。評価日は固定する。
  • 標準ケアが抽象:「体位変換実施」だけでは証跡になりにくい。頻度・条件を書く。
  • 計画修正がない:「定期的に計画修正した」要件を満たしづらい。見直し日を決める。
  • 説明が強すぎる:「防げなかった」より、「予防を実施し最適化し続ける」方向の短文に統一。

説明の型(家族・チーム向け:短文テンプレ)

説明は長くしない方が誤解が減ります。下の“型”を院内で統一すると、担当が変わってもブレません。

  • 家族向け:「褥瘡の危険因子を評価し、予防ケアを継続しながら状態に合わせて計画を見直しましたが、皮膚の状態などの影響で発生しました。今後も最適化して悪化を防ぎます。」
  • チーム向け:「評価・標準ケア・介入・計画修正の証跡は揃う。回診で UPI 検討として合意し、再発防止の修正点を追加する。」

よくある質問( FAQ )

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. いつ「 UPI 」を判断(または検討)しますか?

まずは「発生・悪化が確認された時点」で、チェック表(前提)を確認します。証跡が不足している場合は UPI 判定ではなく、評価更新と計画修正を優先します。院内の判断タイミング(回診・カンファ等)を固定するとブレません。

Q2. “終末期だけ”の話ですか?

終末期で話題になりやすい一方、一次資料の解説文は「評価・標準ケア・介入・計画修正を試みたにもかかわらず発症」という運用要件の整理が中心です。終末期に限ると決めつけず、まずは“証跡の型”を揃える運用が安全です。

Q3. UPI の記録は、普段の褥瘡記録と何が違いますか?

特別な文章を増やすより、評価日、標準ケアの具体、計画修正の履歴が追えることが差になります。普段の記録に「修正点」と「説明の要点」を追加するイメージで十分です。

Q4. チーム内で揉めたときは、どこを見直しますか?

揉めるポイントはたいてい「標準的ケアが具体でない」「修正の履歴がない」のどちらかです。チェック表の NG 列を埋める形で、条件(頻度・体位・用具・担当)と修正点を補強してください。

次の一手(院内で“型”を揃えて再発を減らす)

まずは職場の“運用”を点検する(無料)

参考文献

  • 日本褥瘡学会.防ぎきれない褥瘡に関する「和訳名称変更」と「解説文」のお知らせ( 2025 年 1 月 6 日 ).PDF
  • 日本褥瘡学会.褥瘡 / MDRPU(「褥瘡(じょくそう)」の市民向け表記について).Web

著者情報

rehabilikun(理学療法士) rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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