不可避褥瘡(UPI)の記録|検討時の確認項目と再評価

臨床手技・プロトコル
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不可避褥瘡(UPI)は「判定」より前に評価・介入・計画修正を確認する

不可避褥瘡(Unavoidable Pressure Injury:UPI)を検討するときは、「予防したのに発生した」という結果だけでは整理できません。日本褥瘡学会の2025年1月の解説文では、患者の身体状態と危険因子を評価し、標準的ケアを踏まえ、患者に合った目標と介入策を検討・試行し、定期的に計画修正したにもかかわらず発症した褥瘡をUPIとしています。

この記事では、この解説文を「評価」「標準的ケア」「目標・介入」「計画修正」の4つの観点に整理し、UPIを検討する症例で何を振り返り、何を記録・再評価すればよいかを解説します。なお、この4分類は日本褥瘡学会の公式判定項目ではなく、解説文を実務で確認しやすくするための整理です。

先に結論:UPIを検討するときは、「褥瘡が発生した」という事実だけでなく、発症までに何を評価し、どのケアや介入を検討・実施し、患者の変化に応じて何を修正したかを時系列で確認します。記録用紙はその振り返りを補助するものであり、UPIを自動的に判定する公式チェックリストではありません。

不可避褥瘡(UPI)の公式解説文で確認すること

日本褥瘡学会は2025年1月、従来の「防ぎきれない褥瘡」という和訳を「不可避褥瘡(UPI)」へ変更し、解説文を示しました。

解説文では、UPIについて、医療提供者が患者の身体状態と褥瘡の危険因子を評価し、褥瘡ガイドブックにある標準的ケアを踏まえ、患者の身体状態・ニーズに合った目標と介入策を検討・試行し、定期的に計画修正したにもかかわらず発症した褥瘡、と整理されています。

ここで重要なのは、「褥瘡が発生した=UPI」ではないことです。一方で、日本褥瘡学会がUPI専用の点数表や、今回の記事で示すような4項目の公式判定票を公表しているわけでもありません。

日本褥瘡学会は現在も「UPIとは何か?」についてコンセンサス形成を継続課題として掲げています。そのため、院内独自のチェック項目を普遍的な診断基準のように扱うのではなく、公式解説文を起点として症例ごとに経過を振り返ることが大切です。

学会解説文を記録へ落とす4つの観点

UPIを検討する症例では、日本褥瘡学会の解説文を次の4つの観点に分けると、発症までの経過を振り返りやすくなります。以下はrehabilikunによる実務上の整理であり、日本褥瘡学会が示した「公式4要件」ではありません。

UPIの解説文を記録へ落とす4つの観点
観点 確認すること 記録で残したい内容
1.評価 身体状態と褥瘡の危険因子を把握していたか 評価日時、皮膚・創部所見、活動性、圧・ずれ、湿潤、栄養状態など症例で重要な因子
2.標準的ケア 患者の状態に応じた褥瘡予防・管理を検討し実施していたか 体圧管理、体位、用具、皮膚管理、栄養管理など、実際に選択したケアと実施状況
3.目標・介入 患者の身体状態とニーズに合った目標を設定し、介入策を検討・試行したか 目標、検討した介入、実施した介入、実施できなかった場合の理由
4.計画修正 状態変化や反応に応じて計画を見直していたか 再評価日、変化した所見、修正理由、変更したケア・介入、その後の反応

この4つを順番に埋める目的は、「UPIという名称を付けるための書類を作ること」ではありません。発症までに患者へどのような予防・管理を行い、それを状態変化に応じてどのように見直してきたかを再現できるようにすることが目的です。

UPIを検討するときは時系列で記録を振り返る

UPIを検討する場面では、発症後の記録だけを見るのではなく、発症までの評価・ケア・介入・計画修正を時系列で振り返ります。特定の日数や固定した体位変換頻度だけで判断するのではなく、その患者に必要だった対応と実際の経過を確認します。

  1. 発症・悪化時の状態を確認する:部位、皮膚・創部所見、発見日時、直前の状態変化などを整理します。
  2. 身体状態と危険因子を振り返る:褥瘡発生に関連した可能性のある因子と、その変化を確認します。
  3. 実施していた標準的ケアを確認する:患者の状態に応じて何を選択し、実際にどのように実施していたかを確認します。
  4. 目標と介入策を確認する:患者の身体状態・ニーズに合わせてどのような目標を置き、何を検討・試行したかを整理します。
  5. 計画修正の経過を確認する:状態変化や介入への反応を受けて、いつ・なぜ・何を変更したかを確認します。
  6. チームで経過を統合する:一部の記録だけで即断せず、職種間の情報を合わせてUPIとして検討できる経過かを整理します。

この順番にすると、「予防はしていた」という抽象的な説明ではなく、症例固有の評価と対応を確認できます。

記録では「実施したこと」だけでなく修正理由まで残す

記録で重要なのは、ケアを実施した事実だけではありません。なぜその方法を選び、患者の変化を受けて何を修正したのかまで追えると、後から経過を振り返りやすくなります。

UPI検討時に確認したい記録内容
記録項目 残したい内容 避けたい記録
評価 日時、所見、危険因子、前回からの変化 「褥瘡リスクあり」のみ
ケア 患者に合わせて選択した方法と実施状況 「除圧実施」「体位変換実施」のみ
介入 目標、検討した選択肢、実施内容、実施困難だった理由 介入内容だけで目的が分からない記録
計画修正 変更した日時、変更理由、変更内容 「継続」「経過観察」のみ
再評価 変更後の皮膚状態、危険因子、ケアへの反応、次の方針 変更したまま再評価が追えない記録
共有・相談 チームで確認した論点、相談内容、今後の方針 結論だけが残り、根拠となる経過が分からない記録

たとえば、体位変換についても「一定時間ごとに行ったか」だけをUPIの条件として固定するのではなく、患者の耐久性、活動性、支持面、姿勢、皮膚状態などを踏まえ、どのような体圧管理を選択し、必要に応じてどう変更したかを確認します。

記録が不足していたら「UPIではない」と断定するのか

記録不足だけを根拠に、直ちに「UPIではない」と断定するのも適切ではありません。一方で、記録がなければ、過去にどのような評価・ケア・介入・計画修正が行われていたのかを後から十分に確認できない場合があります。

実務上は、まず残っている診療記録・看護記録・リハビリテーション記録・栄養管理記録などから経過を整理します。そのうえで確認できない点を「不足している情報」として分け、現在の患者について必要な評価と計画修正を進めます。

つまり、記録用紙の空欄を埋めることがUPIの目的ではありません。患者に必要なケアを継続しながら、どの情報まで確認できるかを明確にすることが優先です。

記録例は「評価→実施→反応→修正」でまとめる

UPIを検討する症例では、一文にすべてを詰め込む必要はありません。次のように「評価→実施→反応→修正」の関係が分かる形にすると、経過を共有しやすくなります。

記録例:

仙骨部の皮膚状態と活動性低下を再評価。体圧管理方法とポジショニングを見直し、患者の姿勢保持能力に合わせて支持方法を変更した。変更後も皮膚所見を継続して確認し、状態変化に応じて褥瘡対策チームで再検討する。

これはあくまで文章の型です。患者ごとの危険因子、創部所見、実施したケア、介入への反応に置き換えて記録してください。

不可避褥瘡(UPI)検討時 記録・再評価シート A4 v2

UPIを検討する症例について、「評価」「標準的ケア」「目標・介入」「計画修正」と、その後の共有・再評価を1枚で整理できるように「不可避褥瘡(UPI)検討時 記録・再評価シート A4 v2」を作成しました。

重要:このシートは日本褥瘡学会の公式判定票ではありません。2025年1月の解説文をもとに、症例の評価・ケア・介入・計画修正を振り返るためにrehabilikunが作成した記録補助用紙です。このシートへの記入だけでUPIと判定できるものではありません。

PDF版はA4でそのまま印刷して使う場合、Excel版は施設内の運用に合わせて入力・管理したい場合に使用できます。施設独自の判定基準として使用するのではなく、症例の経過を振り返り、再評価につなげる補助資料として活用してください。

チームでUPIを検討するときに共有したいこと

UPIの検討は、名称を付けることだけを目的にすると、その後の予防・管理につながりません。チームでは、発症前後の経過を振り返りながら、現在のケアで継続することと変更することを明確にします。

  • 発症前から認識していた褥瘡の危険因子
  • 発症前に実施していた褥瘡予防・管理
  • 患者の状態やニーズに応じて検討・試行した介入
  • 状態変化を受けて修正した内容とその理由
  • 発症後に追加または変更する対策
  • 次回に再評価する所見とタイミング

PTであれば、体位・姿勢、活動性、移乗、シーティング、支持面との接触状況など、他職種の記録だけでは見えにくい情報を共有できる場面があります。職種ごとに別々の結論を出すのではなく、患者の経過を統合して次の計画へつなげることが重要です。

UPIの記録で避けたい4つの整理

UPIを検討するときは、次のような整理になっていないか確認します。

  • 「予防していたからUPI」と結果だけで決める:評価・介入・計画修正まで含めて経過を確認します。
  • 一つの固定頻度を満たしたかだけで判断する:患者の身体状態・ニーズに応じたケアだったかを確認します。
  • 記録用紙を埋めることを目的にする:記録は実施したケアと判断過程を振り返るための手段です。
  • UPIと整理した時点で計画修正を止める:発症後も悪化予防・治癒促進に向けた評価と計画修正を継続します。

不可避褥瘡(UPI)のよくある質問

Q1.UPIには公式の判定票がありますか?

この記事で扱う2025年1月の日本褥瘡学会資料では、UPIの和訳名称と解説文が示されていますが、本記事の「4つの観点」のような公式判定票は示されていません。本記事の記録・再評価シートも、日本褥瘡学会の公式判定票ではありません。

Q2.不可避褥瘡は終末期だけを対象とする概念ですか?

日本褥瘡学会の2025年1月の解説文には、UPIを終末期患者に限定する記載はありません。患者の身体状態・危険因子を評価し、標準的ケアを踏まえた介入と計画修正を行ったにもかかわらず発症した褥瘡として説明されています。

Q3.褥瘡が発生した時点でUPIを検討すればよいですか?

発症を確認したら、まず発症前からの評価、実施していたケア、検討・試行した介入、計画修正の経過を振り返ります。「褥瘡が発生した」という結果だけでUPIと整理するのではなく、患者ごとの経過を確認することが重要です。

Q4.記録が一部不足している場合はどうしますか?

記録不足だけでUPIか否かを即断せず、残っている診療・看護・リハ・栄養などの記録から確認できる経過を整理します。確認できない情報は不足点として分け、現在必要な評価・ケア・計画修正を優先します。

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参考文献

  1. 日本褥瘡学会.防ぎきれない褥瘡に関する「和訳名称変更」と「解説文」のお知らせ.2025年1月.日本褥瘡学会 PDF
  2. 日本褥瘡学会.理事長挨拶.UPI(不可避褥瘡)に関するコンセンサスを継続課題として提示.日本褥瘡学会

著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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