療法士の賃上げ支援は「申請しないと届かない」制度です
補正予算で動く「医療機関等における賃上げ・物価上昇支援事業」は、申請しなければ支給されない仕組みです。現場としては、制度の要点を押さえ、院内の意思決定(確認→試算→提案→申請→還元確認)を前に進めることが最優先です。
本記事では、交付額の早見(病院・診療所・訪問看護)と、部門管理者が明日から動ける「5 手順」までを 1 本にまとめます。
まずは制度の置き場所(全体像)を固定
このページは「申請・院内配分の実務」を扱います。全体像や比較は、下の関連記事で補完できます。
今回の支援の全体像:賃上げ支援+物価支援の「2 本立て」
今回の枠組みは、医療機関等が賃金・物価上昇の影響を受けている状況を踏まえ、従事者の処遇改善と経営の下支えの両面から支援する設計です。病院向けには「病院賃上げ支援事業」と「病院物価支援事業」、診療所等(有床/無床/訪問看護/薬局)には都道府県経由の支援が整理されています。
ポイントは、賃上げ支援は「ベースアップ評価料の届出」が要件に絡むことです。届出の有無・基準日が曖昧だと、支援の取りこぼしが起きます。
まず先に:対象の前提と「基準日」を 10 秒で言える状態にする
この支援は、保険医療機関コードが発行されており、令和 7 年 4 月 1 日から申請時点までに診療報酬請求の実績がある施設が前提です。加えて、賃上げ支援は施設区分ごとに「ベースアップ評価料」の基準日が定められています。
- 病院(賃上げ支援):令和 8 年 2 月 1 日時点でベースアップ評価料を届け出
- 診療所等(賃上げ支援):令和 8 年 3 月 1 日時点でベースアップ評価料を届け出(例外的な誓約要件あり)
- 病床数の基準日(病院・有床):使用許可病床数(令和 7 年 8 月 1 日時点)
交付額の早見:病院・診療所・訪問看護で「内訳」を分けて整理
現場ではまず「うちはどの枠か」を 10 秒で言える状態にするのがコツです。説明の場では、合計(目安)だけでなく、賃上げ支援(要件あり)と物価支援(要件や申請が異なる)を分けて話せると誤解が減ります。
| 施設区分 | 賃上げ支援(例) | 物価支援(例) | 合計目安 | まず確認すること |
|---|---|---|---|---|
| 病院 | 84,000 円/床(使用許可病床数 2025-08-01) | 111,000 円/床+加算(救急・全麻・分娩など) | 19.5 万円/床(概算) | ベースアップ評価料(2026-02-01)/病床数の基準日 |
| 診療所(有床) | 72,000 円/床(※ 2 床以下は 150,000 円/施設の扱い) | 自治体の要綱・様式に従う(物価支援あり) | 8.5 万円/床(概算) | 有床・無床の区分/病床数の基準日/申請窓口(都道府県) |
| 診療所(無床) | 150,000 円/施設 | 自治体の要綱・様式に従う(物価支援あり) | 32.0 万円/施設(概算) | 医科/歯科の区分/要件(ベースアップ評価料の基準日) |
| 訪問看護ステーション | 228,000 円/施設 | 自治体の要綱・様式に従う(物価支援あり) | 22.8 万円/施設(賃上げ分) | 要件の基準日/申請窓口(都道府県) |
療法士にとって重要な理由:予算はあっても「動かなければ届かない」
制度の狙いは「物価高騰を上回る賃上げ」を医療現場で実装することですが、実務上は申請と院内配分の設計がボトルネックになりがちです。だからこそ、部門側が数字と段取りを持って提案し、「賃上げ原資を療法士へ確実につなげる」状態を作るのが最短です。
続けて読む:賃上げが「一律にならない理由」と、明細で追う確認項目は こちらにまとめています。
部門管理者が今やる 5 手順:確認→試算→提案→申請→還元確認
ここを “やることリスト” に落として、院内タスクに変換します。要点は「先に基準日を固定して、数字を 1 枚にする」ことです。
1)対象になる「施設区分」と「要件(基準日)」を確定する
まずは病院/有床診療所/無床診療所/訪問看護ステーションのどれかを確定し、賃上げ支援の要件(ベースアップ評価料の届出)と基準日を整理します。要件が 1 つでも曖昧だと、経営会議で止まります。
- 病院:ベースアップ評価料(2026-02-01)/病床数(2025-08-01)
- 診療所等:ベースアップ評価料(2026-03-01)を基本に、例外要件の有無を確認
2)療法士の対象人数と「想定原資」を 1 枚にまとめる
部門側で、雇用形態・所属(病棟/外来/訪問)・勤務時間区分など、院内の集計軸をそろえます。ここで、この支援で “療法士の賃上げ原資が確保できる”ことを数字で示せると通りやすくなります。
3)経営層への説明は「短いテンプレ」で通す
説明は「制度の趣旨」より、①要件(基準日)②交付額(内訳)③対象人数 ④想定原資 ⑤申請ルート(国/都道府県)を 1 枚で示すのが最短です。稟議の形式に合わせて、用語と数字だけ施設仕様に合わせます。
4)申請ルート(国・都道府県)と “提出物” を先に集約する
病院は国(外部事業者への業務委託の案内待ち)、診療所等は都道府県の運用で進みます。厚生労働省ページと都道府県ページを院内の共有フォルダに 1 箇所へ集約し、最新版の様式・提出先・締切を更新できる状態にしておきます。
5)「現場に還元されたか」を部門で確認し、次の改定にも備える
受給後に賃金改善へ確実につなげるには、配分のルールが必要です。部門としては、どの手当・どの職種・いつからを確認し、説明可能な状態(根拠とログが残る状態)にしておくのが安全です。
現場の詰まりどころ:ここで止まりやすい 3 点
この手の制度は「制度の理解」より「院内の手続き」で止まります。詰まりやすいのは次の 3 つです。
- 要件の取り違え:ベースアップ評価料の届出状況(基準日)を誰も即答できない
- 対象人数の定義が曖昧:兼務・非常勤・委託・派遣の扱いが部署でバラバラ
- 配分の議論が後回し:「申請して終わり」になり、現場の納得感が作れない
よくある質問
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Q1. うちは何から確認すべきですか?
A. まず「施設区分(病院/診療所/訪問看護)」と「賃上げ支援の要件(ベースアップ評価料の届出)」を基準日つきで確定します。次に、療法士の対象人数と想定原資を 1 枚にまとめ、経営層へ “申請が必要” である点まで含めて共有します。
Q2. 病院は「1 床あたり 19.5 万円」と「84,000 円/床」どっちですか?
A. 「19.5 万円/床」は、賃上げ支援(84,000 円/床)と物価支援(111,000 円/床)の合算の概算です。実務では、賃上げ支援は要件(ベースアップ評価料の届出)があるため、内訳を分けて説明すると誤解が減ります。
Q3. 診療所・訪問看護は、どこに申請しますか?
A. 原則として都道府県が窓口になります。受付期間や提出物は自治体ページで “準備中” のこともあるため、厚生労働省ページと都道府県ページを院内で 1 箇所に集約して、最新版が出たら更新できる状態にしておくのが安全です。
Q4. ベースアップ評価料の「基準日」がズレると何が起きますか?
A. 賃上げ支援はベースアップ評価料の届出が要件に絡むため、基準日の勘違いがあると「対象外」や「申請が止まる」リスクが上がります。部門会議では “届出の有無・届出日・施設区分” をセットで確認しましょう。
次の一手
運用を整えたあとに、職場環境の詰まりも点検しておきましょう
制度を通しても「人員・教育・標準化」で止まると、現場の納得感が作れません。チェック用に一度だけ点検しておくと安心です。
参考資料
- 厚生労働省.令和 7 年度 医療機関等における賃上げ・物価上昇支援事業について(参照 2026-02-20)Web
- 厚生労働省.令和 7 年度 医療機関等における賃上げ・物価上昇に対する支援事業 実施要綱(2026 年 1 月)PDF
- 公益社団法人 日本理学療法士協会.国の補正予算に基づく療法士の賃上げに対する支援の申請について(周知・お願い)[第 1 報](2026 年 1 月 20 日)PDF
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


