橈骨神経麻痺の評価は「原因・運動・感覚・生活機能」からリハ方針へつなげる
橈骨神経麻痺を評価するときは、下垂手の有無だけで判断せず、発症・原因、手関節や手指の運動、感覚分布、生活機能を組み合わせて所見を整理することが重要です。そのうえで障害部位を方向づけ、医学的な治療方針を確認しながら、可動域維持、伸展機能の補助、把持・リリース、ADLへリハビリをつなげます。
本記事では、PT・OTが橈骨神経麻痺を評価するときに確認したい項目と、得られた所見をリハ方針・再評価へつなげる考え方を整理します。局在推定、下垂手と下垂指の比較、脳梗塞との鑑別、装具選択の詳細は、それぞれの各論記事へ役割を分けています。
橈骨神経麻痺は7つの視点で全体像を整理する
橈骨神経麻痺では、筋力だけを確認するより、「なぜ起きたか」「どの運動が低下しているか」「感覚障害を伴うか」「生活で何ができないか」を順番に整理すると、次に必要な評価やリハ方針を決めやすくなります。

| 確認すること | 主な内容 | 次につなげる視点 |
|---|---|---|
| 発症・原因 | 発症時期、圧迫、外傷、骨折、手術など | 原因と医学的治療方針 |
| 運動 | 手関節、手指、母指の伸展 | 麻痺の分布と程度 |
| 感覚 | 橈骨神経領域の感覚障害 | 運動枝優位か、本幹を含むか |
| 局在 | 運動・感覚所見の組み合わせ | 障害部位の方向づけ |
| 生活機能 | 把持、リリース、更衣、食事など | 実際に補うべき機能 |
| リハ方針 | 保護、ROM維持、機能・生活動作練習 | 原因と回復段階に応じて調整 |
| 再評価 | 運動、感覚、ROM、ADL、装具使用状況 | 回復と介入内容の見直し |
最初に発症時期と原因を確認する
評価の出発点は、下垂手を見ることではなく、いつ・どのような状況で症状が始まったかを確認することです。橈骨神経は上腕骨に近接して走行するため、圧迫だけでなく、上腕骨骨折、外傷、手術などでも障害されます。
問診では、少なくとも発症時期、症状の出方、圧迫につながる姿勢、外傷・骨折、手術歴、疼痛やしびれの有無、症状が改善しているか進行しているかを確認します。
| 項目 | 確認例 | 評価上の意味 |
|---|---|---|
| 発症時期 | 突然か、徐々にか | 急性発症では末梢神経障害だけに固定しない |
| 圧迫 | 睡眠姿勢、長時間の上肢圧迫など | 圧迫性ニューロパチーを考える材料 |
| 外傷・骨折 | 転倒、打撲、上腕骨骨折など | 神経損傷の程度や治療方針を確認 |
| 手術・処置 | 上肢手術、固定、処置後の発症 | 医原性を含めた原因確認 |
| 経過 | 改善、停滞、悪化 | 再評価や追加検査の必要性につなげる |
脳卒中でも、まれに手関節や手指の麻痺が目立ち、橈骨神経麻痺に似た所見を示すことがあります。顔面麻痺や構音障害などが目立たない場合もあるため、突然の発症や病歴・所見が末梢神経分布と合わない場合は、速やかな共有と医学的評価を優先します。
運動と感覚はセットで評価する
橈骨神経麻痺の運動評価では、単に「下垂手あり」と記録するのではなく、手関節・手指・母指のどの伸展運動が、どの程度低下しているかを分けて確認します。感覚所見を組み合わせることで、障害部位を方向づける材料になります。
運動機能で確認するポイント
基本となるのは、手関節背屈、手指MP関節伸展、母指伸展です。必要に応じて肘伸展や前腕の運動も確認し、筋力低下がどこまで広がっているかを整理します。
| 評価 | 確認すること | 記録で残したいこと |
|---|---|---|
| 手関節背屈 | 自動運動の可否、筋力、動作パターン | 左右差、MMT、代償 |
| 手指MP伸展 | 各指を伸ばせるか | どの指で低下が目立つか |
| 母指伸展 | 母指を伸展できるか | 可動範囲と筋力 |
| 近位筋 | 必要に応じて肘伸展などを確認 | 麻痺が近位まで及ぶか |
感覚は橈骨神経領域を左右比較する
橈骨神経本幹の障害では、運動麻痺に加えて手背橈側などに感覚障害を認めることがあります。一方、後骨間神経は主に運動を担うため、後骨間神経障害では皮膚感覚が保たれることが特徴です。
感覚検査では、しびれの訴えだけでなく、触覚などを左右で比較し、運動所見と感覚分布が同じ神経障害として説明できるかを確認します。
所見の組み合わせから障害部位を方向づける
局在は1つの所見だけで決めず、運動と感覚の組み合わせから方向づけます。親記事では大きな違いを押さえ、筋ごとの詳細な局在推定は橈骨神経麻痺の障害レベル推定で確認してください。
| 目立つ所見 | 考える部位 | 次に確認すること |
|---|---|---|
| 手関節+手指伸展低下 | 橈骨神経本幹側の障害 | 感覚、近位筋、発症原因 |
| 手関節背屈が残り、手指伸展低下が目立つ | 後骨間神経障害を検討 | 感覚が保たれているか、筋ごとの分布 |
| 運動低下が乏しく、感覚症状主体 | 橈骨神経浅枝などを検討 | 感覚分布、圧迫・絞扼の背景 |
| 末梢神経分布と合わない | 他の末梢神経、神経根、腕神経叢、中枢病変など | 神経学的所見と医学的評価 |
この表は診断基準ではなく、PT・OTが所見を整理して次の評価へ進むための目安です。実際の局在や原因診断は、病歴、神経学的診察、必要に応じた電気生理学的検査や画像検査などを含めて判断されます。
筋力だけでなく把持・リリースとADLまで確認する
橈骨神経麻痺では、手関節や手指を伸展できないことが、物をつかむ準備、手を開いて離す操作、道具操作に影響します。そのため、PT・OTの評価では筋力低下の程度だけでなく、実際にどの活動で困っているかまで確認することが重要です。
| 場面 | 確認すること | 観察ポイント |
|---|---|---|
| 把持 | コップ、ペットボトル、道具などをつかめるか | 手関節肢位、握り込み、代償 |
| リリース | 把持した物を意図して離せるか | MP伸展、母指伸展、反対側上肢による代償 |
| 更衣 | 袖を通す、衣類を操作できるか | 手を開く操作と両手動作 |
| 食事 | 食具や食器を扱えるか | 保持の安定性、疲労 |
| 整容・作業 | 日常的な道具を操作できるか | 本人が実際に困っている活動 |
「MMTが何点か」と「生活でどこまで使えるか」は必ずしも一致しません。本人が必要としている活動を確認し、機能評価と活動評価を往復しながら目標を設定します。
リハビリは原因と医学的治療方針を確認して組み立てる
橈骨神経麻痺のリハビリを一律のメニューで開始するのではなく、神経が障害された原因、損傷の程度、骨折や手術の有無、医師の治療方針を先に確認します。圧迫性ニューロパチーと外傷性神経損傷、術後では、保護すべき組織や許容できる運動が異なります。
保存的に経過を見る場合でも、関節の受動可動域を保つことは重要です。手関節や手指の伸展機能低下によって二次的な可動域制限や活動低下を生じないよう、患者ごとの状態に応じて介入内容を調整します。
| 目的 | 評価してから行うこと | 再確認すること |
|---|---|---|
| 患部の保護 | 原因・損傷部位・医学的な制限を確認する | 疼痛、腫脹、皮膚状態、症状悪化 |
| 可動域維持 | 手関節・手指・母指のROMを確認して介入する | 拘縮、疼痛、自動運動との差 |
| 伸展機能の補助 | 失われた運動と生活上必要な機能を確認する | 装具あり・なしでの動作変化 |
| 機能練習 | 回復している運動を使った課題を設定する | 代償、疲労、反復後の変化 |
| 生活動作練習 | 把持・リリースを実際のADLへつなげる | 本人の困りごとが改善しているか |
手関節伸展を保持したいのか、手指のリリースまで補助したいのかによって必要な機能は変わります。装具の種類や選び方は、本記事では広げず各論で整理します。
再評価は筋力・感覚・ROM・ADLを同じ条件で追う
神経回復を追うときは、筋力だけで判断せず、運動、感覚、関節可動域、生活機能を組み合わせて経時的に確認します。前回と条件をそろえて記録すると、小さな変化を比較しやすくなります。
| 項目 | 確認する変化 | 記録例 |
|---|---|---|
| 手関節背屈 | 自動運動範囲、筋力、代償 | ROM、MMT、運動パターン |
| 手指・母指伸展 | 伸展可能な範囲・筋力 | 指別の変化、MP伸展 |
| 感覚 | 感覚低下・しびれの範囲 | 部位、左右差、自覚症状 |
| ROM | 二次的な可動域制限 | 手関節・手指・母指 |
| 生活機能 | 把持・リリース・ADLの変化 | 具体的にできるようになった動作 |
| 装具 | 必要性、適合、装着時の機能 | 使用場面、皮膚所見、動作への効果 |
再評価では「筋力が上がったか」だけでなく、回復した運動が実際の把持・リリースやADL改善につながっているかまで確認します。反対に筋力の変化が小さくても、装具や代償手段によって活動が改善していれば、その変化も記録しておきます。
所見が合わない・進行する・突然発症なら再検討と共有を優先する
橈骨神経麻痺として評価を進めていても、経過や所見が想定と合わない場合は、最初の仮説へ固執しないことが重要です。
- 手関節・手指の麻痺が突然出現した
- 症状が進行している
- 運動・感覚所見が橈骨神経の分布だけでは説明しにくい
- 他の神経領域にも筋力低下や感覚障害がある
- 強い疼痛、外傷、骨折などを伴う
- 経過観察中も回復が乏しい、または新しい症状が出現した
突然発症した下垂手では、顔面・構音・下肢症状など典型的な脳卒中所見が目立たなくても、中枢病変を完全には除外できません。詳しい考え方は脳梗塞と橈骨神経麻痺の鑑別ポイントで整理しています。
原因や局在が明確でない場合、医療機関では必要に応じて神経伝導検査・筋電図、超音波、MRI、X線などが検討されます。PT・OTは診断を確定するのではなく、発症経過と神経学的所見、生活機能の変化を整理して共有することが重要です。
まとめ:橈骨神経麻痺は評価所見をリハと再評価までつなげる
橈骨神経麻痺では、下垂手だけを確認して終えるのではなく、発症・原因、運動、感覚、生活機能を組み合わせて評価します。そこから障害部位を方向づけ、原因や医学的治療方針を確認したうえで、可動域維持、必要な伸展機能の補助、把持・リリース、ADLへリハビリをつなげます。
再評価では筋力だけでなく、感覚、ROM、生活機能、装具使用状況まで追い、患者が実際に使える機能がどう変化したかを確認します。所見が末梢神経分布と合わない場合や、突然発症・進行性の症状では、橈骨神経麻痺という前提をいったん見直して共有することも重要です。
次の一手
下垂手と下垂指の違いを整理したい方
手関節背屈と手指MP伸展の違いから、所見の見分け方を確認できます。
装具の選び方・使い方へ進みたい方
手関節や手指のどの機能を補うかから、装具運用を整理できます。
参考文献
- 日本整形外科学会. 橈骨神経麻痺. 症状・病気をしらべる. https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/radial_nerve_palsy.html
- 日本整形外科学会. 前骨間神経麻痺と後骨間神経麻痺. 症状・病気をしらべる. https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/anterior_interosseous_nerve_palsy.html
- Bumbasirevic M, Palibrk T, Lesic A, Atkinson HDE. Radial nerve palsy. EFORT Open Rev. 2016;1(8):286-294. doi:10.1302/2058-5241.1.000028.
- Ansari FH, Juergens AL. Compressive Radial Neuropathy. In: StatPearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing. NCBI Bookshelf.
- Goel K, Singh SK, Agarwal H, Mukherji JD, Kumar M. Isolated wrist drop presenting as acute stroke: rare case report with review of literature. J Neurosci Rural Pract. 2018;9(4):647-649. doi:10.4103/jnrp.jnrp_115_18.
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度など、医療従事者の実務に役立つ情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

