海馬の役割とは?場所・記憶障害・リハでの見方

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海馬とは?記憶形成に関わる側頭葉内側の領域

海馬は、左右の側頭葉内側にあり、新しい出来事や場所を記憶する過程に深く関わる脳領域です。障害されると、昔の出来事は話せても直前の説明や新しい手順を覚えにくい前向性健忘、新規学習の困難、道順の混乱などがみられることがあります。

この記事では、海馬の場所、記憶との関係、障害時の症状、認知症との関係を整理し、PT・OT・STがリハ場面で確認したい観察ポイントと支援方法まで解説します。

海馬と扁桃体の違いも整理する

海馬は出来事・場所・文脈の記憶形成に、扁桃体は経験の情動的な重要性や恐怖学習に強く関わります。両者の役割を比較すると、大脳辺縁系を混同しにくくなります。

扁桃体と海馬の違いを確認する

海馬は左右の側頭葉内側にある

海馬は、左右の側頭葉内側に位置し、海馬傍回などとともに記憶形成を支えるネットワークを構成します。

側脳室下角に沿って前後方向へ伸びる構造で、断面の形がタツノオトシゴに似ていることが名称の由来です。海馬だけが単独で記憶を担うのではなく、嗅内皮質、海馬傍回、前頭前野、視床など複数の領域と連携して働きます。

海馬の基本情報
項目 内容
場所 左右の側頭葉内側、側脳室下角付近
分類 大脳辺縁系に含まれる領域
主な関連機能 エピソード記憶、新規学習、空間記憶、文脈処理
臨床での関連 前向性健忘、新規学習困難、道順の混乱、認知症

海馬の中心的な役割は新しい記憶の形成

海馬は、経験した出来事を新しい記憶として形成し、後から思い出せる状態へつなげる過程に重要です。

たとえば「今日リハビリで何をしたか」「誰から説明を受けたか」「どこに物を置いたか」といった、時間や場所を含む出来事の記憶に強く関与します。

海馬の役割と障害時の症状。記憶形成、新規学習、空間認識に関わり、障害されると新しい出来事を覚えにくくなることを示した図
海馬の主な役割と生活場面の例
役割 内容 生活・リハ場面の例
エピソード記憶 時間や場所を伴う出来事を記憶する 今日の訓練内容や直前の会話を覚える
新規学習 新しい情報や手順を獲得する 移乗手順や自主練習の方法を覚える
空間記憶 場所や経路、周囲の配置を記憶する 病室からトイレまでの道順を覚える
文脈処理 出来事が起きた状況を関連づける いつ、どこで、何をしたかを整理する

海馬は記憶の保管庫ではなく形成過程に関わる

海馬は、過去のすべての記憶を保管している一つの場所ではありません。

海馬は、とくに新しいエピソード記憶や空間記憶の形成と固定に重要です。一方、長期間保持された知識や運動技能には、大脳皮質、基底核、小脳などを含む別のネットワークも関与します。

記憶の種類と海馬との関係
記憶の種類 海馬との関係 臨床での確認例
エピソード記憶 新しい出来事の形成に強く関与する 今日の出来事や直前の会話を思い出せるか
空間記憶 場所や経路の学習に強く関与する 病棟内の道順や物品の場所を覚えられるか
意味記憶 新しい知識の獲得には関与するが、長期保存は広い皮質ネットワークが担う 新しく説明された名称やルールを覚えられるか
手続き記憶 基底核や小脳などの関与が比較的大きい 言葉で説明できなくても反復で動作が安定するか
ワーキングメモリ 前頭前野を中心とする別のネットワークの関与が大きい 短時間だけ情報を保ちながら課題を進められるか

臨床では「昔の仕事や家族の話はできるのに、数分前の説明を覚えていない」という差が手がかりになります。ただし、会話が成立していることだけで新しい記憶が保たれているとは判断できません。

海馬が障害されると新しい出来事を覚えにくくなる

海馬を含む側頭葉内側の記憶回路が障害されると、発症後の新しい出来事を記憶しにくい前向性健忘が目立つことがあります。

説明直後は理解しているように見えても、数分後には内容を思い出せない、同じ質問を繰り返す、新しい生活手順が定着しないといった形で現れます。

海馬を含む記憶回路の障害でみられやすい変化
変化 内容 リハ・生活場面での見え方
前向性健忘 発症後の新しい出来事を記憶しにくい 説明を受けたこと自体を忘れる
新規学習困難 新しい情報や手順が定着しにくい 自主練習や移乗手順を毎回確認する
エピソード記憶の低下 いつ、どこで、何をしたかを保持しにくい 訓練した内容や担当者を思い出せない
空間記憶の低下 場所や経路を学習しにくい 病棟内で迷う、病室を間違える
同じ質問の反復 直前の説明を保持できず再確認する 予定や帰宅時期を繰り返し尋ねる

海馬の症状と決めつけない

説明を覚えられない原因は、海馬を含む記憶回路の障害だけではありません。覚醒低下、注意障害、失語、せん妄、抑うつ、疲労、薬剤、視覚・聴覚障害などでも入力や再生が不安定になります。単一の所見だけで病変部位を判断せず、発症経過、画像所見、ほかの認知機能、生活場面を合わせて考えます。

海馬萎縮は認知症診断の一所見として扱う

海馬は、認知症、とくにアルツハイマー病でみられる記憶障害を理解するうえで重要です。

アルツハイマー病では、病初期から新しい出来事を覚えにくいエピソード記憶障害が目立ち、MRIで海馬を含む側頭葉内側の萎縮が認められることがあります。

ただし、海馬萎縮があるだけでアルツハイマー病や認知症と診断することはできません。加齢、ほかの神経疾患、血管障害などでも海馬の容積変化がみられるため、本人・家族から得られる経過、認知機能、ADL・IADL、行動変化、検査所見を総合して判断します。

海馬と認知症を考えるときの確認項目
観点 確認したいこと
発症経過 急性発症か、緩徐に進行しているか
新しい記憶 直前の会話や当日の出来事を保持できるか
見当識 日時、場所、現在の状況を理解できるか
生活機能 服薬、予定、金銭、持ち物を管理できるか
画像・検査 萎縮や病変を症状・経過と照合できるか

海馬障害を疑うときは3段階で確認する

臨床では、正答数だけを見るより、「入力」「保持・再生」「手がかりの効果」の3段階に分けると、つまずいている過程を整理しやすくなります。

海馬障害を疑うときの3段階フロー。情報を入力できているか、数分後に保持・再生できるか、手がかりで改善するかの順に確認する方法を示した図

ステップ1:情報を入力できているか

覚醒、注意、聴覚、視覚、言語理解を確認します。説明を聞けていなければ、記憶機能だけを評価することはできません。

ステップ2:時間を置いた後に保持・再生できるか

数分後に、説明内容、実施した課題、物品の場所などを自由に思い出せるか確認します。

ステップ3:手がかりで改善するか

選択肢、写真、メモ、場所の目印、動作開始の合図などを提示し、再生や行動が改善するか確認します。

この3段階を分けることで、「覚えていない」のか、「注意が向いていなかった」のか、「自力では思い出せないが手がかりで再生できる」のかを区別しやすくなります。

リハビリでは記憶に頼らない学習環境を作る

新規学習が難しい場合は、繰り返し説明するだけでなく、覚えなくても実行しやすい環境を作ることが重要です。

外的手がかり、物品配置の固定、動作手順の単純化、声かけの統一などを組み合わせます。患者さんが失敗するたびに説明内容を変えると、かえって学習しにくくなるため、チーム内で方法をそろえます。

海馬を含む記憶障害を考慮した支援
支援 具体例 確認する反応
情報を絞る 一度に伝える手順を1〜2個にする 説明直後に実行できるか
外的手がかり メモ、写真、掲示、色分け、目印を使う 手がかりを自分で参照できるか
環境の固定 物品の場所、動線、練習場所をそろえる 迷いや取り違えが減るか
反復条件の統一 同じ順番、同じ表現、同じ介助方法で練習する 反復に伴い介助量が減るか
誤りを減らす 失敗する前に必要な手がかりを提示する 安全な成功経験を重ねられるか
チーム共有 家族・スタッフ間で声かけや手順を統一する 場面が変わっても行動が安定するか

生活場面では直前記憶・道順・日課を観察する

海馬を含む記憶回路の機能は、机上検査だけでなく、病棟生活や訓練場面で確認します。

療養病棟では、短い会話には自然に応じられても、リハ予定を繰り返し尋ねる、病室へ戻れない、毎日の動作手順が定着しない患者さんがいます。訓練室だけで判断せず、病室、トイレ、食堂、廊下など複数の場面で観察することが重要です。

  • 直前の説明:数分前に伝えた内容を覚えているか
  • 当日の出来事:食事、処置、リハの実施を思い出せるか
  • 場所と道順:病室、トイレ、食堂まで移動できるか
  • 日課:リハ時間や食事場所を学習できるか
  • 新しい手順:移乗や自主練習の手順が定着するか
  • 手がかり:メモ、写真、掲示、目印を利用できるか
  • 汎化:練習した方法を別の時間や場所でも使えるか

海馬の理解でよくある4つの失敗

海馬を臨床へ結びつける際は、「海馬=記憶」とだけ覚えず、記憶の種類と観察条件を分ける必要があります。

  • 失敗1:覚えられない状態を意欲低下と決めつける
    本人が取り組もうとしていても、説明そのものを保持できない場合があります。
  • 失敗2:入力条件を確認せず記憶障害と判断する
    覚醒、注意、聴覚、視覚、言語理解が不十分では、情報を記憶へ取り込めません。
  • 失敗3:海馬萎縮だけで認知症と判断する
    画像は重要な情報ですが、症状、経過、生活機能を含めた総合判断が必要です。
  • 失敗4:説明を繰り返すだけで環境を変えない
    外的手がかりや環境の固定により、記憶への依存を減らす視点が必要です。

海馬についてよくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップすると閉じます。

海馬は何をしている部位ですか?

海馬は、新しい出来事や場所を記憶する過程に重要な脳領域です。とくにエピソード記憶、新規学習、空間記憶、出来事の文脈処理に強く関わります。

海馬は脳のどこにありますか?

海馬は左右の側頭葉内側、側脳室下角付近にあります。海馬傍回や嗅内皮質など周辺領域と連携し、記憶形成を支えます。

海馬が障害されるとどのような症状が出ますか?

新しい出来事を覚えにくい前向性健忘、同じ質問の反復、新しい手順の学習困難、場所や道順の混乱などがみられることがあります。ただし、症状は病変の範囲や左右差、ほかの脳領域の障害によって異なります。

海馬が萎縮していれば認知症ですか?

海馬萎縮だけで認知症とは判断できません。加齢やほかの疾患でも容積変化がみられるため、認知症の診断では発症経過、認知機能、ADL・IADL、行動変化、画像所見などを総合します。

まとめ

海馬は左右の側頭葉内側にあり、新しい出来事の記憶、エピソード記憶、新規学習、空間記憶に強く関わります。海馬を含む記憶回路が障害されると、直前の説明を覚えにくい、同じ質問を繰り返す、新しい手順が定着しない、病棟内で迷うといった変化がみられることがあります。

リハビリでは、覚醒や注意を含む入力条件、時間を置いた後の保持・再生、手がかりによる改善を分けて確認します。記憶に頼った説明を繰り返すだけでなく、外的手がかり、環境の固定、手順の単純化、チーム内の対応統一によって生活を支えることが大切です。

次の一手

海馬を理解した後は、隣接する扁桃体との役割の違いと、認知機能に関わる頭頂葉連合野を整理すると、症状を単一部位へ当てはめずに考えやすくなります。


参考文献

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著者情報

この記事は、脳卒中認定理学療法士・登録理学療法士として、療養病棟で脳卒中患者や高齢患者のリハビリテーションに携わる理学療法士が執筆しています。海馬の知識を単独で局在診断へ当てはめるのではなく、記憶、新規学習、注意、生活場面、環境条件を整理するための基礎知識として解説しました。