脳卒中の歩行練習は用量設計で伸ばす|図解・記録シート付き

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脳卒中の歩行練習は「用量設計」で伸ばす

脳卒中リハの歩行練習は、ただ歩く時間を増やすだけでは処方がぶれやすくなります。大切なのは、強度・反復・時間・頻度を同じ指標で記録し、前回と比較できる形にすることです。

この記事では、PT / OT が臨床で迷いやすい歩行練習の用量設計を、初期設定、増量ルール、中止・減量基準、記録テンプレまで整理します。読み終えると、「今日は何をどれだけ歩くか」「次回は何を増やすか」「どう記録するか」が決めやすくなります。

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このページで決めることは「歩行練習の量と増やし方」です

このページで扱うのは、歩行練習の細かな手技ではなく、どれくらいの強度・反復・時間・頻度で行い、どう増量するかです。歩行評価、装具選定、10 m 歩行テストの詳しい測定手順は、別記事に役割を分けます。

歩行練習の内容が良くても、用量が記録されていなければ「効いたのか」「足りないのか」「増やしすぎたのか」が判断できません。まずは、介入内容を複雑にする前に、用量を比較できる状態に整えます。

このページで答えること/答えないこと
区分 扱う内容 扱いすぎない内容
主テーマ 歩行練習の用量、増量、中止・減量、記録 脳卒中リハ全体の総論
評価 再評価指標としての 10MWT、6MWT、歩数 10 m 歩行テストの詳細手順
介入 歩行関連課題の量をどう積むか 装具選定、歩容分析、促通手技の詳細

歩行が伸びないときは「用量が見えているか」を先に確認する

歩行練習で伸び悩むと、筋力、バランス、歩容、装具に目が向きやすくなります。しかし、臨床では歩数・実働時間・強度・休憩が残っておらず、そもそも十分な練習量を積めているか判断できないことがあります。

歩行速度や歩行耐久を改善したい場合は、課題特異的な歩行練習を中等度〜高強度で行い、反復を確保する視点が重要です。ガイドライン改訂点と脳卒中 PT 実務の全体像は、脳卒中 GL 2025 アップデートまとめで整理しています。

用量は「強度・反復・時間・頻度」の 4 軸で決める

歩行練習の用量は、FITT の考え方で整理するとぶれにくくなります。本記事では Type を「歩行関連課題」として固定し、Intensity(強度)・Time(時間)・Frequency(頻度)に、臨床で重要な反復(歩数・本数)を加えて管理します。

ポイントは、毎回すべてを完璧に測ることではありません。最低限、RPE、歩数または区間本数、実働歩行分、休憩を同じ形式で残せば、次回の増量判断がしやすくなります。

歩行練習の用量を記録できる形に落とす
要素 現場での意味 最低限の記録 次回の判断
強度 どれくらいきついか RPE、可能なら心拍 狙いの強度に入っているか
反復 何歩・何本歩いたか 歩数、距離、区間本数 前回より積めているか
時間 実際に歩いた時間 実働歩行分、休憩分 休憩が増えすぎていないか
頻度 週に何回積めたか 週回数、週合計歩数 疲労を残さず継続できるか

5 分フロー:初期設定から再評価までを固定する

用量設計は、毎回ゼロから考えると時間がかかります。臨床では、初期設定 → 当日記録 → 増量判断 → 中止・減量判断 → 再評価の順番を固定すると、チーム内でも共有しやすくなります。

特に大切なのは、増量前に「前回と何が違うのか」を 1 つに絞ることです。強度、歩数、時間、難易度を同時に変えると、良くなった理由も悪くなった理由も追えなくなります。

歩行練習の用量設計 5 分フロー
手順 決めること 記録すること 次の判断
1. 初期設定 病期・リスク・歩行能力から開始量を決める RPE 目標、距離、時間、頻度 安全に開始できるか
2. 当日実施 歩行関連課題を行う 歩数、本数、実働分、休憩 狙い通り積めたか
3. 増量判断 次回に 1 つだけ増やす 増やす項目を 1 つ明記 歩数か時間を優先する
4. 中止・減量 症状・疲労・歩容悪化を確認する 中止理由、減量内容 次回の開始量を下げる
5. 再評価 週単位で効果を見る 10MWT、6MWT、週合計歩数 処方を継続・修正する
脳卒中歩行練習の用量設計5分フローを示した図版
図:脳卒中歩行練習の用量設計 5 分フロー

病期別の初期値は「たたき台」として使う

初期値は、最初から高く設定するためではなく、同じ指標で比較を始めるための基準です。急性期は安全性と再現性、回復期は反復量、生活期は継続性と自己管理を優先します。

下記はあくまで開始時の目安です。循環器リスク、整形外科的疼痛、麻痺重症度、併存症、服薬、転倒リスク、施設体制により調整してください。

病期別:歩行練習の初期値目安
病期 強度 反復 時間 頻度 優先事項
急性期 RPE 11–13 程度から慎重に 短距離を小分けに反復 5–15 分を分割 状態に応じて高頻度 安全性、離床、同条件での記録
回復期 RPE 13–15 を目標に調整 歩数・本数を明示して反復 15–30 分を目安 週 5 日前後を目安 反復量の確保、増量ルールの固定
生活期 RPE 12–15 を目標に調整 日内・週内の歩数を管理 20–40 分を分割可 週 3–5 日を目安 継続性、自己管理、再発予防視点

強度は心拍が難しければ RPE で固定する

強度は心拍で管理できると明確ですが、臨床では機器、薬剤、測定環境の影響を受けます。その場合は、RPE( Borg )を主指標にして、毎回同じ尺度で比較できるようにします。

RPE は「きつさの記録」ではなく、増量のブレーキにもなります。同じ歩数でも RPE が上がりすぎる場合は、速度や環境難易度を下げ、反復を確保できる条件に戻します。

強度のそろえ方:心拍が取れないときの代替
状況 第一選択 最低限そろえる指標
心拍が測れる %HRR、%HRmax、ピーク心拍 RPE を併記し、主観とのズレを確認
心拍が測れない RPE を主指標に固定 息切れ、会話のしやすさ、休憩回数
β遮断薬などの影響がある 心拍だけで判断しない RPE、症状、血圧、回復時間を併記

反復と時間は「歩数」と「実働分」で見る

歩行練習の量は、実施時間だけでは見えません。60 分の介入でも、説明や休憩が長ければ、実際の歩行反復は少ないことがあります。そこで、歩数または区間本数実働歩行分を分けて記録します。

歩数が取れない環境では、「20 m × 10 本」「廊下往復 8 本」のように区間長と本数で代用します。トレッドミルでは、速度、傾斜、実働分、RPE を固定すると比較しやすくなります。

反復量を比較しやすくする記録方法
環境 主指標 併記する項目 比較のコツ
平地歩行 歩数、距離、区間本数 補助具、介助量、RPE 同じ区間で前回比を見る
トレッドミル 実働分、速度 RPE、休憩、傾斜 速度か時間のどちらか 1 つを上げる
段差・方向転換 回数、本数 ふらつき、介助量、休憩 難易度を上げた日は歩数減少を許容する

頻度は「週合計」と「疲労の抜け方」で調整する

頻度は多ければよいわけではありません。疲労が残り、歩容が崩れ、転倒リスクが上がる場合は、頻度や 1 回あたりの量を見直します。逆に、週合計歩数や実働分が増えていなければ、十分な刺激になっていない可能性があります。

おすすめは、毎回の記録に加えて、週 1 回だけ「週合計歩数」「週合計実働分」「疲労の残り方」を確認することです。週単位で増えているのに評価が変わらない場合は、用量ではなく難易度や歩行課題の選び方を見直します。

増量は 1 回に 1 要素だけ上げる

増量の基本は、強度・反復・時間・難易度を同時に上げないことです。同時に上げると、改善しても悪化しても原因が追えません。次回の処方では、上げる項目を 1 つに限定します。

迷う場合は、RPE を大きく変えずに、まず歩数または区間本数を増やします。歩数が安定したら実働歩行分を伸ばし、最後に速度、段差、方向転換、屋外などの難易度を上げます。

歩行練習の増量ルール:次に上げる項目を 1 つに絞る
前回の状態 次回に上げる候補 上げない方がよいもの
RPE が狙いの範囲で安定 歩数または区間本数を + 1〜2 本 速度と難易度の同時増加
歩数は増えたが休憩が多い 休憩を整え、実働分を維持 さらに歩数を増やすこと
歩数・時間とも安定 速度、方向転換、段差などを 1 段階 環境難易度を複数同時に上げること
翌日に疲労が残る 前回量を維持または 1 段階減量 頻度を増やすこと

中止・減量基準は増量ルールとセットで決める

用量設計では、増やす基準だけでなく、止める・減らす基準も必要です。特に脳卒中後は、疲労、血圧変動、疼痛、痙縮、ふらつき、注意低下などで歩行の質が崩れることがあります。

中止基準は施設のリスク管理基準を優先し、本記事では臨床記録に残しやすい判断軸として整理します。「何が起きたので、何を減らしたか」まで記録すると、次回の再設定がしやすくなります。

歩行練習の継続・減量・中止の判断
判断 目安 次回の対応
継続 RPE が目標範囲、歩容の崩れが軽度、休憩で回復 同条件で記録し、次回 1 要素だけ増量
減量 息切れ・疲労が強い、休憩が増える、代償が増える 速度・距離・難易度のどれか 1 つを下げる
中止 症状悪化、転倒リスク増大、疼痛増悪、バイタル異常 中止理由を記録し、医師・チームへ共有

記録テンプレは「RPE・歩数・実働分・休憩」を固定する

記録は長文である必要はありません。最低限、RPE、歩数または区間本数、実働歩行分、休憩、環境を 1 行で残せば、次回の処方が決めやすくなります。

週次レビューでは、10MWT、6MWT、週合計歩数などを組み合わせ、用量が増えているのに評価が変わらないのか、そもそも用量が積めていないのかを切り分けます。

歩行練習の最小記録セット
項目 書き方 記録例
強度 RPE、可能なら心拍 RPE 13、HR 110 bpm
反復 歩数または区間本数 800 歩、20 m × 10 本
時間 休憩を除いた実働歩行分 実働 18 分
休憩 回数と合計時間 3 回、合計 6 分
環境 速度・補助具・難易度を短く 平地、T 字杖、方向転換あり

1 行テンプレ:RPE( )/歩数・本数( )/実働( )分/休憩( 回・合計 分)/環境( )/次回に上げる 1 項目( )

週次レビュー:週合計歩数( )/週合計実働分( )/10MWT( 秒)/6MWT( m)/疲労残存(有・無)/次週の変更点( )

歩行練習の用量記録シート PDF

この記事の内容を、A4 1 枚で使える記録シートにまとめました。RPE、歩数または区間本数、実働歩行分、休憩、次回に上げる 1 項目を同じ形式で残せるため、チーム内の共有や週次レビューに使いやすくなります。

PDF 記録シート

印刷して、歩行練習の用量・中止/減量理由・週次レビューを 1 枚で記録できます。

PDFを開く(ダウンロード)

PDF プレビューを表示する

PDF プレビューを表示できない場合は、上のボタンから PDF を開いてください。

現場の詰まりどころは「記録が揃わず原因が追えない」ことです

歩行練習で詰まりやすいのは、練習量を増やしたつもりでも、何を増やしたのかが記録に残っていない場面です。まずは、増量の前に記録項目を固定し、前回と比較できる状態を作ります。

ここまで整えても毎回同じところで詰まる場合は、手順だけでなく、教育体制・共通フォーマット・相談相手の有無など、職場環境の影響を受けている可能性もあります。

PT キャリアガイドを見る

よくある失敗は「同時に上げる」「歩数がない」「休憩を見ない」です

用量設計の失敗は、努力不足ではなく、記録設計の問題として起きます。強度・反復・時間・難易度を同時に変えると、次回の処方が再現できません。

下記の NG を避けるだけでも、歩行練習の比較とチーム共有がかなり楽になります。

用量設計の NG → OK 早見表
NG 起きやすいこと OK
強度・歩数・難易度を同時に上げる 良否の原因が追えない 上げるのは 1 回に 1 要素だけ
「歩行練習実施」のみ記録する 反復量が比較できない 歩数または区間本数を残す
介入時間だけを見る 休憩が増えても気づきにくい 実働歩行分と休憩分を分ける
評価条件が毎回変わる 改善か測定誤差か判断しにくい 10MWT などの条件を固定する

よくある質問(FAQ)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. 歩数が測れない環境では、何を反復量として残せばよいですか?

歩数が取れない場合は、歩行区間の本数で代用します。例えば「20 m × 10 本」「廊下往復 8 本」のように、距離と本数を固定してください。トレッドミルでは、速度、実働分、RPE、休憩をセットで残すと比較しやすくなります。

Q2. まず増やすのは歩数と時間のどちらですか?

基本は歩数または区間本数を先に見ます。RPE が目標範囲で、歩容の崩れが少なければ、次回は歩数や本数を少し増やします。歩数が安定してから、実働歩行分を伸ばすと、増量の理由が明確になります。

Q3. RPE が高くなりすぎるときはどう調整しますか?

速度、距離、環境難易度のどれか 1 つを下げます。反復を確保したい場合は、区間を短くして本数を増やす方法もあります。無理に同じ距離を続けるより、狙いの RPE に収まる条件で歩数を積む方が安全に比較できます。

Q4. 用量が増えているのに歩行速度が変わらない場合はどう考えますか?

まず、10MWT などの測定条件がそろっているかを確認します。条件がそろっていても変化が乏しい場合は、単純な歩数不足ではなく、速度課題、方向転換、屋外、段差など、目標に近い難易度を入れる必要があります。ただし、難易度を上げた日は歩数が一時的に減ることも許容します。

Q5. 急性期でも高強度を目指すべきですか?

急性期では、まずリスク管理と再現性を優先します。状態が不安定な時期に無理に高強度を狙うのではなく、短時間・小分けで安全に反復し、RPE、歩数、実働分、休憩を残します。強度を上げる判断は、バイタル、疲労、歩容、医師の指示、施設基準を踏まえて行います。

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参考文献

  • Hornby TG, Reisman DS, Ward IG, Scheets PL, Miller A, Haddad D, et al. Clinical Practice Guideline to Improve Locomotor Function Following Chronic Stroke, Incomplete Spinal Cord Injury, and Brain Injury. J Neurol Phys Ther. 2020;44(1):49-100. doi: 10.1097/NPT.0000000000000303. DOI / PubMed
  • Hornby TG, Holleran CL, Leddy AL, Hennessy P, Leech KA, Connolly M, et al. Feasibility of Focused Stepping Practice During Inpatient Rehabilitation Poststroke and Potential Contributions to Mobility Outcomes. Neurorehabil Neural Repair. 2015;29(10):923-932. doi: 10.1177/1545968315572390. DOI / PubMed
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  • 日本脳卒中学会. 脳卒中治療ガイドライン 2021〔改訂 2025〕改訂項目. 2025. 公式 PDF

著者情報

rehabilikun blog 運営者アイコン

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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