脳卒中の歩行練習量は「一律の○分・○歩」では決めない
脳卒中後の歩行練習では、「何分歩けばよいか」「何歩くらい練習すればよいか」と迷うことがあります。結論からいうと、すべての患者に共通する歩行練習時間・歩数の目標値はありません。目標、下肢麻痺の重症度、現在の歩行能力、安全性、当日の反応をみながら、歩行練習時間・反復量・強度を組み合わせて調整します。
一方で、歩行練習の「量」は軽視できません。2026年に報告された亜急性期脳卒中患者326例の研究では、入院中の累積歩行練習時間と歩行自立の間に用量反応関係がみられました。ただし、その関係は直線的ではなく、下肢麻痺の重症度によっても異なっています。
この記事では、亜急性期〜回復期を中心に、PT・OTが「今日はどれくらい歩くか」「次回は何を増減するか」「何で効果判定するか」を決めるための考え方を整理します。
この記事の結論
- 歩行練習量に、全員共通の「○分・○歩」という処方値はありません。
- 量は歩行練習時間・反復量・強度・頻度に分けて把握します。
- 目標と重症度、歩行能力を先に確認し、その人が安全に反復できる条件を作ります。
- 増量したかどうかだけでなく、歩行自立・10MWT・6MWTなどの変化で再評価します。
脳卒中の歩行練習は何分・何歩行えばよい?
「1日○分」「○歩以上」と一律に決められる根拠はありません。研究では多くの歩行練習や高い運動強度が歩行機能の改善につながる結果が報告されていますが、対象者の病期・重症度・歩行能力・介入方法が異なるため、その数値をそのまま別の患者へ当てはめることはできません。
日本理学療法学会連合の脳卒中理学療法ガイドラインでも、「起立着座練習、歩行練習などの下肢に対する運動量(頻度もしくは強度)を増やすことは有用か」が独立したClinical Questionとして設定されています。つまり、歩行練習では「何を行うか」だけでなく「どれくらい行うか」も重要な臨床課題です。
2026年研究では歩行練習時間と歩行自立に用量反応がみられた
Imotoらは2026年、リハビリテーション病棟へ入院した非歩行自立の亜急性期片麻痺患者326例を対象に、歩行練習時間と歩行自立の関係を検討しました。
| 累積歩行練習時間 | 歩行自立の累積到達率 |
|---|---|
| 2,000分 | 50.6% |
| 4,000分 | 61.7% |
| 6,000分 | 65.0% |
| 8,000分 | 65.9% |
歩行自立はFIM歩行項目6点以上で定義され、累積歩行練習時間が増えるにつれて歩行自立到達率は上昇しました。一方で、増加は徐々に小さくなり、用量反応にはプラトーがみられています。さらに、下肢運動麻痺の重症度によって歩行自立率や歩行練習時間との関係が異なりました。
重要:2,000分・4,000分・6,000分・8,000分は、患者へそのまま処方する「目標時間」ではありません。この研究は後ろ向き観察研究であり、累積歩行練習時間を時間軸として歩行自立との関連を検討したものです。「4,000分歩けば自立する」といった因果関係を示すものではありません。
臨床で使うべきメッセージは、特定の数字ではなく、「練習量は重要だが、必要な量と反応は重症度によって異なる」という点です。
歩行練習量は5ステップで決める
歩行練習量を決めるときは、最初から「今日は20分歩く」と時間を決めるのではなく、目標 → 重症度・歩行能力 → 練習量 → 強度 → 再評価の順に考えると整理しやすくなります。
STEP 1:何を改善したいのかを決める
最初に確認するのは、歩行練習そのものではなく目標です。「病棟内歩行を自立したい」「歩行速度を上げたい」「長距離を歩けるようにしたい」では、選ぶ課題も評価指標も変わります。
例えば、介助歩行から歩行自立を目指す患者では、安全に多くのステップを経験できる環境を作ることが重要です。一方、すでに歩行自立している患者で速度・耐久性の改善が目標なら、単純な歩行時間だけでなく、速度や心肺負荷を高める必要がある場合があります。
STEP 2:重症度と現在の歩行能力を確認する
同じ脳卒中でも、重度片麻痺で長下肢装具・介助を要する患者と、独歩可能だが歩行速度が遅い患者では、適切な用量の考え方が異なります。
少なくとも、下肢運動麻痺、立位保持、介助量、装具・歩行補助具、連続歩行可能距離、循環・呼吸応答を確認し、「安全に反復できる条件」を決めます。
STEP 3:実際の歩行練習時間と反復量を把握する
「60分の理学療法を実施した」という記録だけでは、実際にどのくらい歩いたのか分かりません。説明、装具調整、休憩、他の練習を除くと、歩行していた時間は短いことがあります。
そのため、歩行練習の量を評価するときは、実際に歩いた時間と歩数・距離・区間本数のどれかを記録します。歩数計が使えない場合でも、「20m×8本」「病棟廊下4往復」のように記録すれば前回と比較できます。
STEP 4:量だけでなく強度を調整する
同じ20分の歩行でも、ゆっくりした介助歩行と、速度を高めた連続歩行では身体への刺激が異なります。歩行練習では量と強度を分けて考えることが重要です。
心拍数を利用できる場合は運動中の心拍反応を確認し、心拍数だけで判断しにくい患者ではRPE、自覚症状、血圧、呼吸状態、回復時間などを組み合わせます。β遮断薬、心房細動、ペースメーカー、循環器疾患などがある場合は、単純な予測最大心拍数だけで強度を決めないようにします。
STEP 5:歩行自立・速度・耐久性で再評価する
歩行練習量を増やしたら、「たくさん歩けた」で終わらず、目標となるアウトカムが変化したかを確認します。
歩行自立度、介助量、10MWT、6MWTなどを目的に応じて選択し、同じ条件で経時的に比較します。10MWTの測定条件を確認したい場合は、10m歩行テストの測定方法で整理しています。
歩行練習量は「時間・反復・強度・頻度」の4つに分ける
臨床で「歩行量を増やす」と考えると、時間だけを増やしやすくなります。しかし歩行練習の用量は、時間、反復量、強度、頻度に分けて考える方が実態を把握しやすくなります。
| 要素 | 確認する内容 | 記録例 |
|---|---|---|
| 時間 | 実際に歩行課題を行った時間 | 実働歩行18分 |
| 反復量 | 歩数、距離、区間本数 | 900歩、20m×10本 |
| 強度 | 心拍、RPE、症状、回復状態 | HR、RPE、息切れなど |
| 頻度 | 1日・週あたりに行った回数 | 1日2セッションなど |
すべてを毎回細かく測る必要はありません。まずは「実働歩行時間+反復量+強度指標」を同じ形式で記録すると、歩行練習の実態が見えやすくなります。
歩行練習量は重症度と歩行能力で考え方を変える
非歩行自立の患者と、すでに自立歩行できる患者を同じ基準で管理しないことが重要です。歩行能力が低い段階では「安全にステップ数を確保すること」が大きな課題となり、歩行能力が高くなるにつれて速度・持久性・環境適応へ課題を発展させます。
| 現在の状態 | 主な目標 | 量を見るポイント | 再評価 |
|---|---|---|---|
| 立位・歩行に大きな介助を要する | 安全な立脚・ステップ経験を増やす | 介助量、装具条件、実働時間、ステップ反復 | 介助量、歩行自立度 |
| 介助・監視下で連続歩行できる | 歩行自立と連続歩行距離を伸ばす | 歩数、距離、実働時間、休憩、強度 | 歩行自立度、10MWT、6MWT |
| 歩行自立しているが遅い・疲れやすい | 速度・耐久性を改善する | 歩数だけでなく速度・心肺負荷を確認 | 10MWT、6MWT |
| 基本歩行は良好だが生活場面で制限がある | 実生活に近い歩行能力を高める | 方向転換、障害物、坂道、屋外などを追加 | 生活内歩数、屋外歩行、参加状況 |
このように、同じ「歩行練習量を増やす」でも、重症者では介助や装具を利用して反復可能な条件を作ることが重要となり、歩行能力が高い患者では単純な歩数だけでなく、速度・強度・課題難易度も重要になります。
高強度歩行練習は「誰にでも同じ強度」で行うものではない
脳卒中後の歩行能力改善では、より高い歩行練習量や中等度〜高強度のステッピング練習を支持する研究があります。
2020年の入院脳卒中患者を対象とした研究では、高強度ステッピングを導入した群は通常診療期より1日あたりのステップ数が多く、歩行速度、6MWT、バランスなどの改善も大きくなりました。また、亜急性期入院患者75例を対象としたDOSE研究では、通常リハより歩行・有酸素運動量を増やした2群で、4週間後の歩行耐久性の改善が大きくなっています。
一方、慢性期で歩行可能な患者を対象としたClinical Practice Guidelineでは、歩行速度・歩行距離を改善するための中等度〜高強度歩行練習が強く支持されていますが、対象は主に発症から6か月を超えた歩行可能者です。亜急性期の重症患者へ、その強度設定をそのまま当てはめることはできません。
臨床でのポイント:「高強度=速く歩かせる」ではありません。安全性を確認しながら、その患者が十分な反復を確保できる範囲で、速度・休憩・介助・免荷・装具・環境を調整します。
歩行練習量はいつ増やす?維持・減量はどう決める?
歩行練習量を増やすかどうかは、前回より多く歩けたかだけで決めません。当日の反応と翌日までの回復、歩行の安全性、目標アウトカムを合わせて判断します。
| 判断 | 確認する状態 | 次回の調整例 |
|---|---|---|
| 増量を検討 | 安全に完遂でき、強い疲労が残らず、目標強度にも余裕がある | 歩行時間、歩数、速度、課題難易度などを段階的に上げる |
| 維持 | 狙った負荷で反復できているが、まだ安定性や回復に余裕が少ない | 同条件を継続して再現性を確認する |
| 減量 | 疲労が強い、休憩が増える、介助量・代償・ふらつきが増える | 速度、距離、時間、課題難易度などを調整する |
| 中止・再検討 | 新たな神経症状、胸部症状、失神前症状、著明な呼吸困難、バイタル異常、転倒リスク増大など | 練習を中止し、施設基準に従って医師・チームへ共有する |
臨床上、変更する項目を1つに絞ると前回との差を追いやすくなります。ただし、「必ず1要素しか変えてはいけない」という治療原則ではありません。体系的なプログラムでは、歩数と速度など複数の要素を計画的に進める場合もあります。重要なのは、何を変更し、その結果どう反応したかを追えることです。
記録は「どれだけ歩いたか」と「どう反応したか」を残す
歩行練習の記録は、長い文章にする必要はありません。量を比較したい場合は、歩行条件・実働時間・反復量・強度・反応が分かるようにします。
記録例
T字杖+AFO、見守り。病棟40m×8本、実働18分。RPE 13、休憩2回。後半に軽度つまずき増加するが休憩後改善。次回は同条件で本数増加可否を確認する。
「歩行練習30分」だけでは、患者が実際に何分・何歩歩いたか、どの程度の強度だったか分かりません。細かなフォーマットを作るよりも、チーム内で同じ項目を継続して残すことを優先します。
再評価では「歩ける能力」と「実際に歩いている量」を分ける
歩行練習量を増やした後は、目的に対応した指標で効果を確認します。歩行速度を改善したいなら10MWT、歩行耐久性なら6MWT、介助量を減らしたいなら歩行自立度など、最初に設定した目標へ戻って評価することが重要です。
さらに、歩行テストで改善しても生活内で歩く量が増えているとは限りません。2026年に報告されたDOSE研究の二次解析では、入院中の高用量歩行練習群と通常群の間で12か月後の身体活動量に有意な群間差は認められませんでした。一方、入院中の6MWT改善量は12か月後の身体活動量と関連していました。
つまり、歩行能力(capacity)と実生活での活動量(performance)は同じではありません。退院が近づいたら、歩行速度や6MWTだけでなく、病棟・自宅での歩数や屋外歩行、生活範囲も確認します。
歩行練習量を考えるときのよくある失敗
歩行練習量を管理するときは、「少なすぎる」だけでなく、「数字だけを追う」ことにも注意が必要です。
- 介入時間=歩行練習時間と考える:60分介入しても、実際の歩行時間は異なります。
- 全員に同じ歩数・時間を設定する:重症度・介助量・歩行能力によって適切な量は変わります。
- 歩数だけを増やす:歩行自立後は速度・心肺負荷・環境難易度が不足することがあります。
- 高強度を目的化する:高強度は手段であり、安全性と目標に合った歩行課題が前提です。
- 練習量だけ記録して再評価しない:量が増えても目標アウトカムが変化しなければ、課題設定を見直します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 脳卒中の歩行練習は1日何分が目安ですか?
すべての患者に共通する1日あたりの推奨時間はありません。亜急性期では歩行練習量を増やすことで歩行機能改善が大きくなる研究がありますが、重症度、歩行能力、循環器リスク、介助量などが異なります。まず現在の実働歩行時間を把握し、安全性と反応を確認しながら調整します。
Q2. 1日に何歩歩けばよいですか?
一律の目標歩数は設定できません。介助を要する患者では数百〜数千歩という数字より、安全にステップ反復を確保できているかが重要です。歩行自立後は歩数だけでなく、速度、耐久性、屋外歩行なども合わせて確認します。
Q3. RPEは何点を目標にすればよいですか?
本記事では一律のRPE目標値を設定しません。対象者の病期、運動耐容能、循環器疾患、服薬、歩行能力によって適切な強度が異なるためです。心拍が利用できる場合でもRPEや症状を併記し、心拍が判断しにくい場合はRPE、呼吸状態、血圧、症状、回復時間などを組み合わせます。
Q4. 重度片麻痺で歩けない患者でも歩行練習量を増やした方がよいですか?
「量を増やす=無理に長時間歩かせる」ではありません。装具、手すり、免荷、介助、ロボットなどを利用し、安全にステップ反復を確保できる条件を作ることが重要です。2026年の観察研究でも、歩行練習時間と歩行自立の関係は麻痺重症度によって異なっていました。
Q5. 歩行練習量を増やしているのに10MWTや6MWTが改善しない場合は?
まず測定条件がそろっているか確認します。そのうえで、目標に対して課題が適切かを見直します。歩数は増えていても速度刺激が不足している、平地歩行だけで方向転換・障害物・屋外課題が不足している、疲労で実質的な強度が下がっている、といった可能性があります。
まとめ:歩行練習量は「量を測り、反応をみて調整する」
脳卒中後の歩行練習では、練習量を確保することが重要ですが、全員に同じ時間・歩数を当てはめることはできません。
目標を決める → 重症度・歩行能力を確認する → 実際の歩行時間・反復量を把握する → 強度を調整する → 歩行自立・速度・耐久性で再評価する、という順番で考えると、患者ごとの歩行練習量を整理しやすくなります。
「何分リハビリをしたか」ではなく、実際にどれだけ歩き、どの程度の強度で、結果がどう変化したかまで追うことが、歩行練習の用量設計につながります。
参考文献
- 日本理学療法学会連合. 脳卒中理学療法ガイドライン. 公式ページ
- Imoto D, Wada Y, Kawanai H, Katoh M, Maeda H, Hirano S, et al. Dose-Response Relationship Between the Gait Training Dose and Gait Independence in Individuals With Hemiparetic Stroke. Arch Phys Med Rehabil. 2026;107(8):2015-2023. doi:10.1016/j.apmr.2025.12.027. PubMed
- Klassen TD, Dukelow SP, Bayley MT, Benavente O, Hill MD, Krassioukov A, et al. Higher Doses Improve Walking Recovery During Stroke Inpatient Rehabilitation. Stroke. 2020;51(9):2639-2648. doi:10.1161/STROKEAHA.120.029245. PubMed
- Moore JL, Nordvik JE, Erichsen A, Rosseland I, Bø E, Hornby TG, et al. Implementation of High-Intensity Stepping Training During Inpatient Stroke Rehabilitation Improves Functional Outcomes. Stroke. 2020;51(2):563-570. doi:10.1161/STROKEAHA.119.027450. PubMed
- Hornby TG, Reisman DS, Ward IG, Scheets PL, Miller A, Haddad D, et al. Clinical Practice Guideline to Improve Locomotor Function Following Chronic Stroke, Incomplete Spinal Cord Injury, and Brain Injury. J Neurol Phys Ther. 2020;44(1):49-100. doi:10.1097/NPT.0000000000000303. PubMed
- Mackie P, Hung SH, Klassen TD, Eng JJ; DOSE Research Group. Evaluating the impact of high dose inpatient rehabilitation gait training on post stroke physical activity: A secondary analysis of a randomized controlled trial. Arch Phys Med Rehabil. 2026. Online ahead of print. doi:10.1016/j.apmr.2026.07.022. PubMed
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

