MARSIとは?まず定義と見分け方
MARSI(Medical Adhesive-Related Skin Injury:医療用粘着剤関連皮膚損傷)とは、テープ、創傷被覆材、ストーマ用品、電極、貼付剤、創閉鎖用テープなど、医療用粘着製品・機器の使用に関連して生じる皮膚損傷です。テープを剥がしたあとに表皮が剥けた、びらんした、水疱ができた、赤みや皮膚炎が生じた、といった場面が含まれます。
MARSIで最も重要なのは、「見た目だけ」で名前を付けるのではなく、粘着剤の貼付・保持・剥離と皮膚損傷の因果関係を確認することです。また、MARSIは1つの傷の形を表す名称ではなく、機械的損傷、皮膚炎、浸軟など複数の皮膚障害を含む概念です。
MARSIを疑う最初の3点
1. 損傷部位にテープ・被覆材・電極などが使われていたか
2. 貼付中または剥離後に皮膚変化が生じたか
3. 損傷の形から、機械的損傷・皮膚炎・浸軟などを整理する
「剥がして30分以上赤い」がMARSIの絶対条件ではない
2013年のコンセンサスでは、粘着剤除去後に発赤や水疱、びらん、皮膚裂傷などの皮膚異常が30分以上持続することがMARSIの定義に含まれていました。一方、2020年の国際コンセンサスでは、より簡潔に「医療用粘着製品・機器の使用に関連した皮膚損傷」と定義され、30分という時間条件は含まれていません。
そのため、たとえばテープを剥がした直後に明らかな表皮剥離や皮膚裂傷が確認できる場合に、「30分待たないとMARSIとは判断できない」と考える必要はありません。時間だけでなく、粘着剤との関連と皮膚損傷の状態を評価します。

| 皮膚障害 | 主な考え方 | MARSIとの関係 |
|---|---|---|
| MARSI | 医療用粘着剤の使用に関連した皮膚損傷 | 原因を基準にした包括的な概念 |
| スキンテア | 摩擦・ずれなど機械的外力で生じる急性創傷 | 粘着剤の剥離が原因ならMARSIでもある |
| 接触皮膚炎 | 刺激またはアレルギー反応による炎症 | 粘着製品に関連すればMARSIの皮膚炎型として考える |
| 機器関連圧迫損傷 | 機器による圧・ずれなどの機械的負荷が主因 | MARSIとは原因が異なるが、同じ部位に併存し得る |
見分け方のポイント:「傷の名前を1つだけ選ぶ」のではなく、何が原因で、どのタイプの皮膚損傷が起きたのかを分けて考えます。粘着剤の剥離で生じたスキンテアなら、「MARSIによるスキンテア」のように整理できます。
褥瘡・皮膚トラブルを含む臨床手技全体から確認したい場合は、
臨床手技・プロトコルハブ
から目的に近い記事を探せます。
MARSIの種類|機械的損傷・皮膚炎・その他に分けて考える
MARSIは大きく、機械的損傷、皮膚炎、その他の皮膚障害に整理すると理解しやすくなります。同じ部位で表皮剥離と発赤、水疱などが同時にみられることもあり、必ずしも1種類だけに分類できるわけではありません。
「テープを剥がしたら赤くなった」だけで終わらせず、表皮欠損があるのか、水疱があるのか、湿潤して浸軟しているのか、掻痒や皮疹が主体なのかまで確認すると、原因の修正につながります。
| カテゴリー | 代表例 | 観察ポイント |
|---|---|---|
| 機械的損傷 | スキンストリッピング、スキンテア、緊張性水疱・損傷 | 表皮剥離、皮膚裂傷、水疱、貼付部の張力 |
| 皮膚炎 | 刺激性接触皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎 | 発赤、皮疹、掻痒、水疱、製品との分布関係 |
| その他 | 浸軟、毛包炎など | 白色化・ふやけ、湿潤、毛包周囲の炎症 |
スキンストリッピング
粘着力が皮膚の細胞同士の結合力を上回ると、粘着剤を剥がす際に角質層や表皮の一部が一緒に剥がれることがあります。表皮の光沢、浅いびらん、ヒリヒリする痛みなどがみられる場合があります。
緊張性水疱・損傷
貼付時にテープや被覆材を引っ張ったまま固定したり、浮腫や関節運動によって貼付後に皮膚へ強い張力が加わったりすると、水疱や表皮と真皮の分離が生じることがあります。貼付時から引っ張らない・伸ばした状態で固定しないことが重要です。
皮膚炎
粘着剤や製品中の成分への刺激反応・アレルギー反応でもMARSIが起こります。特に掻痒が強い、皮疹が接着面に沿っている、同じ製品で繰り返すといった場合は皮膚炎を考えます。感染症などとの鑑別が必要な場合や症状が強い場合は、医師・皮膚科などへ相談します。
MARSIのリスクが高い患者|皮膚だけでなく全身状態も確認する
MARSIは粘着剤を使用するすべての患者に起こり得ますが、特に高齢者や新生児など皮膚が脆弱な患者、乾燥・浮腫・低栄養などで皮膚バリアが低下した患者では注意が必要です。また、皮膚側の問題だけでなく、何度も同じ部位へ貼付・剥離を繰り返すこと自体もリスクになります。
2023年に成人ICU患者のカテーテル固定部を追跡した前向き研究では、高齢、入院期間、乾燥皮膚、粘着剤の反復除去、低いBraden Scale、低アルブミン血症などがMARSIと関連し、特に乾燥皮膚はMARSI発生との強い関連が報告されました。ただし、この数値をすべての患者集団へそのまま当てはめるのではなく、リスクを考える1つの根拠として扱います。
| 患者側 | 皮膚・治療側 |
|---|---|
| 高齢者・新生児など年齢による皮膚脆弱性 | 乾燥皮膚 |
| 脱水・低栄養 | 過度な湿潤・浸軟 |
| 浮腫 | 同一部位への反復貼付・剥離 |
| 皮膚疾患 | 必要以上に強い粘着力 |
| 糖尿病・腎機能障害・免疫抑制など | ステロイド・化学療法・放射線治療など |
貼る前に確認:
皮膚の色、湿潤・乾燥、浮腫、脆弱性、既存の表皮剥離・皮膚炎を確認します。「今まで大丈夫だった患者」でも、浮腫や全身状態の変化でリスクが変わるため、貼付・交換のたびに皮膚を見直します。
MARSIを防ぐ貼り方|「必要な粘着力」と「張力をかけない」が基本
MARSI予防では、「絶対に剥がれないよう強く貼る」ことを目標にしません。目的を満たす範囲で適切な製品を選択し、必要以上の接着面積や粘着力を避け、皮膚へ張力をかけないことが重要です。
特に高齢者の脆弱皮膚では、固定力だけでなく、次に安全に剥がせるかまで考えて製品と貼付方法を選びます。製品ごとの使用方法や禁忌があるため、実際の貼付ではメーカーの添付文書・使用説明を優先してください。
貼付前から貼付後までの5ステップ
- 必要性:本当に粘着製品が必要か、別の固定方法がないか確認する
- 皮膚評価:乾燥、湿潤、浮腫、既存損傷、アレルギー歴などを確認する
- 製品選択:皮膚状態、固定目的、交換頻度に合った粘着製品を選ぶ
- 貼付:原則として乾いた皮膚へ、テープや被覆材を引っ張らずに貼る
- 再評価:発赤、疼痛、水疱、浮腫、ずれ、剥がれを確認する
NG:テープを強く引っ張って伸ばし、その張力を残したまま皮膚へ貼る方法は避けます。浮腫や関節運動が起こる部位では、貼付後に皮膚へさらに緊張が加わらないかも確認します。
乾燥・湿潤・摩擦などを含む日常的な皮膚管理は、
褥瘡スキンケアの手順|保清・保湿・保護と記録
でも整理しています。
MARSIを防ぐ剥がし方|皮膚を押さえて「低く・ゆっくり」剥がす
粘着製品を剥がすときは、皮膚から上方向へ一気に引き剥がすのではなく、皮膚を支えながら、粘着製品を皮膚表面に近い低い角度で、ゆっくり折り返すように剥がすのが基本です。速く垂直方向へ引くと剥離力が高まり、痛みや皮膚損傷につながります。
2020年の国際コンセンサスでは、粘着製品の端を緩め、反対の手で皮膚を粘着剤から離す方向へ押さえながら、製品を皮膚面に近づけたままゆっくり自身の上へ折り返す方法が示されています。必要に応じて医療用粘着剥離剤を検討します。
剥離の4ステップ
1. 粘着製品の端をゆっくり緩める
2. 反対の手で剥離部近くの皮膚を押さえる
3. 皮膚面に近い角度で、ゆっくり折り返して剥がす
4. 必要に応じて適切な粘着剥離剤を使用する
皮膚を引っ張るのではなく「製品を皮膚から逃がす」
剥離中は、露出したばかりの皮膚を剥離ラインの近くで支え続けます。毛のある部位では、可能な場合は毛流れも考慮します。透明フィルムなど製品ごとに推奨される剥離法が異なるため、伸展剥離など特有の方法が指定されている製品では使用説明に従います。
粘着剥離剤は「全員に必須」ではない
医療用粘着剥離剤は、接着力を弱めて皮膚への負担を軽減する選択肢です。ただし、使用部位、創の有無、感染リスク、製品の成分などを考慮し、施設の手順や製品説明に従って選択します。「MARSI予防なら必ず剥離剤」と一律にはせず、皮膚状態と製品に合わせて判断します。
MARSIが起きたらどうする?原因を止めて損傷を評価する
MARSIを認めたら、患部の処置だけで終わらせず、なぜその場所で損傷したのかを特定し、次の貼付で同じ原因を繰り返さないことが重要です。まず損傷の程度を評価し、必要な固定・ドレッシングを維持できる別の方法や貼付部位を検討します。
表皮剥離やスキンテア、強い皮膚炎などを認めた場合は、その病変に応じた創傷・皮膚管理が必要です。感染徴候、急速な悪化、強い疼痛、広範な水疱・びらんなどがある場合は、医師や創傷・皮膚ケアに詳しい専門職へ相談します。
MARSI発生後の5ステップ
1. 損傷部位と皮膚所見を確認する
2. 使用していた粘着製品・貼付時間・剥離状況を確認する
3. 機械的損傷・皮膚炎・浸軟など原因を整理する
4. 同じ損傷を繰り返さない固定方法へ変更する
5. 記録・共有し、次回交換時に再評価する
同じ場所へそのまま貼り直さない
皮膚バリアが損傷した部位へ同じ粘着製品を同じ方法で再貼付すると、剥離を繰り返すたびに損傷が広がる可能性があります。固定が必要な医療機器では安全性を保つ必要があるため、貼付位置、固定方法、使用製品を多職種で検討します。
MARSI以外の原因も再確認する
発赤や水疱があっても、すべてがMARSIとは限りません。機器の圧迫、湿潤、感染、基礎疾患による皮膚症状など別の原因が考えられる場合は、粘着剤だけを原因と決めつけずに評価します。特に医療機器の形に一致して圧・ずれが持続している場合は、機器関連圧迫損傷との鑑別が必要です。
MARSIの記録例|「発赤あり」だけで終わらせない
MARSIの記録では、皮膚所見だけでなく、どの粘着製品を、どこへ、どの程度の期間使い、どのタイミングで損傷を確認したかまで残すと、原因分析と再発予防につながります。
同じ患者でも、使用製品や貼付部位が変わればリスクは変化します。「MARSIあり」とだけ残すより、次回の担当者が貼付・剥離方法を変えられる情報を記録します。
記録例
右前腕の固定テープ剥離時、接着面外側に約2cmの浅い表皮剥離を認める。出血少量、水疱なし。周囲皮膚は乾燥あり。テープを皮膚面から上方へ引いて剥離した際に疼痛あり。皮膚を保護し、同部位への再貼付を避けて固定位置を変更。次回交換時は皮膚を支持し、低い角度でゆっくり剥離する方法を共有した。
最小限残したい6項目
- 部位
- 使用していた粘着製品・医療機器
- 皮膚所見と範囲
- 貼付・剥離時の状況
- 実施した対応
- 次回の予防策・再評価ポイント
MARSI予防でよくある失敗|「強く貼る・一気に剥がす」を避ける
MARSIは製品だけの問題ではありません。同じ粘着製品でも、皮膚状態、貼付方法、剥離方法、交換頻度によって皮膚への負担は変わります。製品変更だけで解決しない場合は、一連の運用を見直します。
| よくある失敗 | 問題 | 修正 |
|---|---|---|
| 強く固定するほど安全と考える | 必要以上の粘着力・張力になる | 目的に必要な固定力へ調整 |
| テープを引き伸ばして貼る | 皮膚へ持続的な緊張がかかる | 張力をかけずに貼付 |
| 上方向へ一気に剥がす | 剥離力と疼痛が増える | 皮膚を支え、低くゆっくり剥離 |
| 毎回同じ部位へ貼る | 反復剥離で皮膚負担が蓄積 | 可能なら位置・固定方法を再検討 |
| 損傷後も同じ方法を継続 | 原因が修正されない | 製品・貼付・剥離をセットで見直す |
MARSIのFAQ
MARSIでは、「赤みが何分続けばMARSIなのか」「スキンテアとの違い」「剥離剤は必須なのか」といった疑問が生じやすくなります。最後に、実務で迷いやすい境界を整理します。
Q. テープを剥がしたあと30分赤ければMARSIですか?
2013年のコンセンサスでは30分以上持続する皮膚異常が定義に含まれていました。一方、2020年の国際コンセンサスでは時間条件を設けず、「医療用粘着製品・機器の使用に関連した皮膚損傷」と簡潔に定義しています。時間だけでなく、粘着剤との因果関係と損傷所見を確認します。
Q. MARSIとスキンテアは別のものですか?
完全に別というわけではありません。スキンテアは機械的外力による急性創傷です。医療用粘着剤を剥がす力でスキンテアが生じた場合は、スキンテアであると同時にMARSIにも該当します。
Q. テープの形に赤くなったらMARSIですか?
粘着製品に関連した刺激性・アレルギー性接触皮膚炎の可能性がありますが、発赤だけで原因を断定することはできません。掻痒、水疱、皮疹の分布、使用製品、発症時期、他の皮膚疾患や感染の可能性も確認します。
Q. 医療用粘着剥離剤はMARSI予防で必ず使いますか?
全例に必須とはいえません。皮膚脆弱性、使用製品、貼付部位、創の有無などを考慮し、臨床的に必要な場合に使用します。使用する場合は製品の使用説明や施設手順を確認してください。
Q. MARSIが起きた場所に再びテープを貼ってもよいですか?
損傷した皮膚へ同じ方法で繰り返し貼付すると、さらなる皮膚障害につながる可能性があります。固定の必要性を確認したうえで、貼付部位、粘着製品、固定方法、皮膚保護策を再検討します。重要なラインや医療機器では自己判断で固定を変更せず、担当チームで安全な方法を決めます。
まとめ|MARSIは「貼る前・剥がす時・起きた後」の3段階で防ぐ
MARSIは、医療用テープや被覆材、電極などの粘着製品・機器の使用に関連して生じる皮膚損傷です。スキンストリッピングやスキンテア、緊張性水疱、接触皮膚炎、浸軟などさまざまな形をとります。
スキンテアとMARSIは二者択一ではなく、粘着剤の剥離が原因で生じたスキンテアは両方に該当します。一方、医療機器による圧・ずれが主因なら機器関連圧迫損傷を考えるなど、傷の見た目だけでなく原因を確認することが重要です。
予防では、貼付前の皮膚評価と製品選択、張力をかけない貼付、皮膚を支持しながら低くゆっくり行う剥離を一連の流れとして実施します。MARSIが生じた場合は、処置だけで終わらせず、使用製品・貼付方法・剥離方法を振り返り、次回の固定方法まで修正してください。
MARSI予防の3段階
1. 貼る前:皮膚状態と必要な粘着力を確認する
2. 剥がす時:皮膚を支持し、低くゆっくり剥がす
3. 起きた後:損傷を評価し、次回の固定方法を修正する
参考文献
MARSIの定義・分類・予防については国際コンセンサスと更新コンセンサスを中心に、スキンテアおよびリスク因子について原著・国際推奨を参照しました。
-
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McNichol L, Lund C, Rosen T, Gray M. Medical adhesives and patient safety: state of the science: consensus statements for the assessment, prevention, and treatment of adhesive-related skin injuries. J Wound Ostomy Continence Nurs. 2013;40(4):365-380. doi:10.1097/WON.0b013e3182995516.
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Frota OP, Pinho JN, Ferreira-Júnior MA, et al. Incidence and risk factors for medical adhesive-related skin injury in catheters of critically ill patients: a prospective cohort study. Aust Crit Care. 2023;36(6):997-1003. doi:10.1016/j.aucc.2023.02.005.
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ISTAP recommendations -
National Pressure Injury Advisory Panel, European Pressure Ulcer Advisory Panel, Pan Pacific Pressure Injury Alliance. Device-Related Pressure Injuries. Prevention and Treatment of Pressure Ulcers/Injuries: Clinical Practice Guideline.
International Guideline
著者情報
rehabilikun(理学療法士)です。rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度など、医療従事者の実務に役立つ情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。本記事では、MARSIを単なる「テープかぶれ」とせず、皮膚損傷の原因、貼付・剥離方法、再発予防まで一連の流れで整理しました。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級
