この記事の目的と使い方
本記事は、病棟で誤嚥性肺炎が疑われる高齢患者を担当する PT が、24 時間の経過の中で 「いつ・どのサインを・どう記録するか」 を迷わず判断できるようにすることを目的としています。疾患総論ではなく、明日からの観察・初期対応・記録・多職種共有に直結する実務の型だけを扱い、詳細なスクリーニング手順や予防バンドルは別記事へ誘導します。
ポイントは、体位・口腔・呼吸・水分栄養 の 4 面を同時に少しずつ整えながら、「普段との違い」+「時間変化」 に注目することです。数値だけでなく声質や覚醒度、昼間傾眠などもセットで追い、必要に応じて サイレント誤嚥スクリーニング・PT プロトコル で詳細評価につなげます。
臨床の「危険サイン」の見抜き方を整理する(PT キャリアガイド)
誤嚥性肺炎の予兆サインをどう見るか
高齢者肺炎は発熱が軽微で、湿性嗄声・湿った咳・痰増加・食思不振・昼間傾眠 など非特異的なサインから始まることが多いです。担当 PT は、患者本人と家族から「ここ数日で何が変わったか」 を聴取し、呼吸数の微増・SpO2 のじわじわした低下・声の“濡れ” をセットで見ます。夜間の体位や口腔乾燥、義歯の装着状況も重要な手掛かりです。
予兆は一時点では判断が難しいため、時間軸で比較する視点 が欠かせません。例えば「排痰後に声質がクリアになるか」「嚥下後に湿声や咳が増えるか」「座位保持で呼吸数が落ちるか」など、介入前後で変化を見ると、誤嚥由来か、心不全や COPD など他の要因かを整理しやすくなります。記録は数値・所見・体位を 1 行にまとめ、主治医や看護師と同じ“言語”で共有できるようにしておきましょう。
サイレント誤嚥スクリーニング 5 点セット(RSST・MWST・WST ほか)はこちら
初期対応の流れ(3 ステップ)
誤嚥性肺炎が疑われたときの PT の初期対応は、次の 3 ステップ に集約できます。① 体位最適化: 安静時はヘッドアップ 30–45° を基本とし、ベッドのずり落ちや円背による頸部過伸展を避けます。摂食時は軽度前屈位を意識し、胸郭の自由度を確保しながら座位保持を安定させます。② 口腔・気道: 看護と口腔ケアのタイミングを合わせ、座位での咳嗽訓練や呼吸理学療法で気道クリアランスを促通します。③ スクリーニング: RSST・MWST・WST など簡便検査を薄く広く反復し、日内変動を確認します。
この 3 ステップを回しながら、脱水・便秘・鎮静薬による過度の眠気・強い倦怠感 など誤嚥を悪化させる要因をチェックします。体位調整や排痰で一時的に改善しても、SpO2 が 92 % 前後から回復しない、呼吸数が 24 回/分以上で推移する、意識レベルがじわじわ低下する 場合は、主治医への早期報告が必要です。詳細な予防策は 誤嚥性肺炎予防バンドル と組み合わせて運用します。
誤嚥性肺炎 PT 実務ハブ(予兆・スクリーニング・予防の総まとめ)へ
観察テンプレの使い方(貼るだけ・書き方の型)
以下は、誤嚥性肺炎が疑われる入院高齢者を担当する PT 向けの観察テンプレです。各セルは長文にする必要はなく、「所見+体位・活動+介入+再評価」 を 1 行で書くのがコツです。RSST・MWST・WST、咳テスト、口腔衛生所見を 1 枚にまとめておくと、日内の変化や介入効果を多職種で共有しやすくなります。
特に、主治医コール基準 をテンプレの余白にあらかじめ記載しておくと安全です(例:呼吸数 24 回/分以上が持続、SpO2 92 % 未満が継続、座位での湿声・強いむせの出現、意識レベルの急な変化など)。「いつもより悪い」だけでなく、「どのラインを越えたら報告するか」が共有されていると、PT も判断しやすくなります。
| 時刻 | 体位・活動 | 声質/咳/痰 | 呼吸数/SpO2 | スクリーニング | 介入(体位・呼吸・口腔) | 再評価 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 午前 | 座位 20 分(訓練後) | 湿声ややあり・痰少量 | 22 回/分・94 % | RSST 2 回・咳弱い | ヘッドアップ 35 °、咳嗽訓練・深呼吸 | 声クリア、96 %・咳力やや改善 |
| 午後 | 立位練習 5 分 | 痰量やや増・湿った咳 | 24 回/分・93 % | MWST 1/3・口腔乾燥 | 口腔ケア連携・水分調整・体位変換 | 痰減少、95 %・むせ軽減 |
| 夜間 | 背上げ 20 °・自発呼吸のみ | 咳ほぼなし・口腔乾燥 | 20 回/分・94 % | スクリーニングなし(眠気強く中止) | 体位調整(側臥位)・加湿確認 | SpO2 95 %・呼吸パターン安定 |
記録・共有:多職種連携の要点
記録は、「所見 → 判断 → 介入 → 再評価」 を 1 行で書くことを基本とします。例:「昼食後に湿声増・呼吸数 24 回/分・座位保持やや困難 → 誤嚥性肺炎疑い、体位調整+咳嗽訓練+排痰 → 湿声軽減・SpO2 95 %」。このフォーマットで並べると、時間変化と介入効果が一目で把握でき、カルテを読む医師や看護師にとっても判断材料が整理されます。
共有のタイミングは、口腔ケア・内服・栄養・嚥下評価 と同期させることが重要です。日中の訓練場面で得た情報を、夕回り前の短いカンファレンスや申し送りで共有し、夜間の体位や水分管理、鎮静薬の見直しまで話題に含められると、誤嚥性肺炎の悪化を防ぎやすくなります。関連する評価スケールは、呼吸困難の評価なら mMRC・Borg スケール、運動耐容能の把握には 6 MWT プロトコル も組み合わせて運用しましょう。
関連プロトコル(最短導線)
- サイレント誤嚥スクリーニング・PT プロトコル
- RSST・MWST・WST・咳テスト・口腔衛生の 5 点セット早見表
- MWST・WST:ベッドサイド水飲みテストの比較と使い分け
- 誤嚥性肺炎予防バンドル:毎日チェックと実践の型
- 栄養・嚥下ハブ:評価と介入の全体像
おわりに:予兆の「違和感」を言語化してチームで共有する
誤嚥性肺炎は、「いつもと少し違う」 というレベルの変化から静かに進行します。PT が、体位・声質・呼吸数・SpO2・覚醒度の小さな変化を 1 行の記録に落とし込み、初期の体位調整や呼吸介入とセットで評価し続けることで、重症化を防げる場面は少なくありません。本稿のテンプレやプロトコルをベースに、病棟ごとの申し送り様式や主治医コール基準を整え、「予兆をチームで共有するリズム」を作っていきましょう。
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よくある質問
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教育体制に不安があるとき、転職はいつ検討すべき?
誤嚥性肺炎のようなハイリスク症例を担当するとき、PT が一人で判断を抱え込む状況が続くと、学びより先に消耗が進んでしまいます。① カンファレンスやラウンドに PT が参加できない、② 誤嚥性肺炎の評価・予防バンドルが院内で標準化されていない、③ 教育担当が不在でフィードバックを受ける場がない といった状態が 3〜6 か月以上続く場合は、情報収集ベースでの転職検討を始めてもよいサインです。具体的なチェックポイントは PT キャリアガイドの「赤信号サイン」 にまとめているので、今の職場を客観的に見直す材料として活用してみてください。
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


