補装具費支給(車いす・座位保持装置)で「評価依頼」が来る理由
補装具費支給(障害者総合支援の枠)は、車いすや座位保持装置などを「生活で継続して使う」前提で支給可否が判断されます。そのため医師の意見書では、身体機能の数値だけでなく、使用場面(どこで・どのくらい・何が危ないか)や操作能力・介助量がセットで求められやすく、現場では PT/OT に評価の依頼が来ます。
ポイントは、評価を「測って終わり」にしないことです。様式(自治体)/時点/使用環境/条件(装具・クッション等)をそろえて返すと、書類作成側の手戻りが減り、あなたの所見が“支給判断に使える情報”になります。関連の総論は 書類作成のための評価依頼(総論) にまとめています。
臨床の詰まりを減らすなら、環境の整え方も一緒に
書類対応は「個人の頑張り」で回すほど消耗します。評価の型・記録の型・連携の型を先に押さえると、日々がラクになります。
PT 転職の全体像を 5 分で確認まず確認する 4 点(ここが曖昧だと手戻りが増える)
補装具費(車いす・座位保持装置)は、自治体の様式・判定の流れに沿って情報が組み立てられます。測定に入る前に「何を、どの条件で、どの場面の困りごととして」返すかを合わせるのが最短です。
とくに所定様式(自治体)と使用環境がズレると、同じ数値でも意味が変わります。依頼元に“様式ベースで”すり合わせましょう。
| 確認ポイント | なぜ重要か | 聞き返す一言(例) |
|---|---|---|
| ① どの様式か(車いす/座位保持/付属品) | 様式で求める所見(座位・操作・使用頻度など)が変わる | 「所定の様式(車いす/座位保持)を共有いただけますか?」 |
| ② 時点(退院前/退院後想定/悪化直後など) | “現在の能力”か“生活を回す条件”かで記載の軸が変わる | 「この書類は “いつの状態” として作成しますか?」 |
| ③ 生活環境(屋内外・段差・動線・介助者) | 同じ車いすでも必要機能が変わる(段差、狭さ、介助量) | 「主な使用場所(屋内/屋外)と段差状況はどうですか?」 |
| ④ 条件(クッション・ベルト・テーブル・装具など) | 条件が混ざると、座位能力・移乗能力の解釈が揺れる | 「普段の条件(クッション等)で評価してよいですか?」 |
最小セット|まずはこの 6 つをそろえる(車いす・座位保持)
補装具費の書類は、数値だけでは弱くなりがちです。そこで「身体機能+座位の安定+移動の安全+環境+必要機能」をセットで返すと、支給判断につながる“筋の通った所見”になります。
迷ったら、座位(骨盤・体幹)→褥瘡リスク→移乗→操作→環境→必要機能の順で整理すると、意見書に落とし込みやすいです。
| 項目 | 最低限の書き方 | 記録ポイント(例) |
|---|---|---|
| 座位保持(体幹・骨盤) | 端座位可否/支持の要否/崩れ方(方向) | 「端座位:支持で可。骨盤後傾+右側方崩れ」 |
| 皮膚・褥瘡リスク | 座位時間/発赤・痛み/除圧の可否 | 「座位 60 分で仙骨部発赤。自力除圧は困難」 |
| 移乗 | 介助量/危険因子(滑落・膝折れ等)/手すり | 「ベッド→車いす:一部介助。立ち上がりで膝折れ」 |
| 操作能力(自操・介助) | 屋内外/距離/方向転換/段差の可否 | 「屋内:自操可。屋外: 50 m で疲労、段差は介助」 |
| 生活環境 | 主な使用場所/段差/廊下幅/屋外動線 | 「自宅:玄関段差 2 段。廊下狭く小回り必要」 |
| 必要機能(理由つき) | ティルト・リクライニング等を“なぜ必要か”で | 「体幹崩れ+除圧困難のためティルトが必要」 |
返却メモの型(3 行テンプレ)
依頼元へ返す情報は長文である必要はありません。むしろ短いほうが転記されやすいです。次の 3 行に当てはめると、座位保持装置や車いすの必要性が伝わります。
| 行 | 書く内容 | 例文 |
|---|---|---|
| ① 現状(能力) | 座位・移乗・操作の“いま” | 「端座位:支持で可。移乗:一部介助。屋内自操可」 |
| ② 困りごと(危険) | 崩れ方/発赤/転倒など | 「骨盤後傾で崩れ、 60 分で発赤。除圧は自力困難」 |
| ③ 必要機能(理由) | 機能を“理由つき”で | 「除圧・崩れ対策としてティルト+体幹支持が必要」 |
現場の詰まりどころ(よくある失敗)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
| NG(起こりがち) | なぜ弱いか | OK(直し方) |
|---|---|---|
| 「座位不安定」だけ | 崩れ方が不明で、必要機能につながらない | 崩れる方向(後傾・側方等)と支持の要否を 1 行で |
| 自操の可否だけ | 屋内外・距離・段差が不明で機種選定に弱い | 屋内外/距離/段差の可否を“条件つき”で添える |
| 必要機能を列挙 | “なぜ必要か”がないと説得力が落ちる | 「危険(発赤・滑落)」→「対策機能」の順で理由づけ |
| クッション等の条件が混在 | 座位能力の解釈が揺れて手戻りが増える | 普段の条件(クッション等)を先に固定して記載 |
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 車いすと座位保持装置、どちらの評価依頼が多いですか?
実務では両方ありますが、座位の崩れや褥瘡リスクが強い場合は、座位保持(機能付きを含む)として所見が求められやすいです。いずれも「主な使用場所」「使用頻度」「必要機能の理由」がセットで伝わると、書類が通りやすくなります。
Q2. ティルト/リクライニングはどう書けば伝わりますか?
機能名だけを書くより、危険(発赤・痛み・崩れ・滑落)→対策(除圧・保持)の順で 1 行にします。例:「 60 分で発赤、除圧困難のためティルトが必要」など、理由が先にあると伝わります。
Q3. 環境情報が取れません(自宅未訪問など)。
この場合は、依頼元に「想定環境」を確認してそろえます。最低限、屋内/屋外の比率、段差の有無、狭さ(小回り必要か)を聞けると、機能選定がブレにくいです。情報が薄いまま進めるほど、後から手戻りが増えます。
Q4. 痛みや痙縮で座位が安定しません。
“できない”を隠す必要はありません。むしろ崩れ方と危険が出る時間(例: 30 分で痛み)を短く残すと価値が上がります。必要機能は「保持」だけでなく「除圧・安全」を理由に整理すると通ります。
次の一手(運用を整える → 共有の型 → 環境も点検)
補装具の書類対応は、チームで“返却の型”があるだけで回りやすくなります。次の順で整えると、消耗が減ります。
- 運用を整える:最小セットと 3 行テンプレを共通言語にする
- 共有の型を作る:「座位・移乗・操作・環境・必要機能(理由)」の並びを固定する
- 環境の詰まりも点検:教育体制や標準化が噛み合わないなら、外部の選択肢も確認する
参考文献
- 補装具費支給制度の概要(厚生労働省)
- 補装具費支給制度の概要(PDF)
- 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(e-Gov 法令検索)
- 補装具費 支給事務(PDF)
- 補装具費支給意見書(車いす/座位保持装置)例(自治体様式 PDF)
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


