労災(障害補償給付)の評価依頼|2026年改正診断書の見方

制度・実務
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労災の障害(補償)等給付の評価依頼は「診断書の該当欄」から逆算します

労災の障害(補償)等給付でPT・OTに評価依頼が来たときは、ROM・MMT・ADLを毎回一式測るのではなく、2026年6月改正後の診断書で、どの障害項目が対象なのかを確認してから必要な評価を選ぶことが重要です。

リハ職が障害等級を判断するのではありません。診断担当医が診断書へ反映できるように、該当障害→必要な検査→測定条件→結果→補足所見の順で整理して返します。この記事では、PT・OTが関わりやすい麻痺、せき柱、上肢・下肢の障害とROM評価を中心に、医師への返却方法まで整理します。

書類評価依頼の共通手順から確認する

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2026年6月改正後は、まず診断書の該当障害を確認します

厚生労働省は障害(補償)等給付請求用診断書を見直し、2026年6月1日以降は改正後の診断書によって障害等級認定事務を行うとしています。新様式では、各部位について障害等級認定基準に定められた障害の有無を確認し、必要な検査数値や所見を記載する構造になりました。

PT・OTへの運動機能評価依頼では、特に①神経系統の機能又は精神の障害、⑧せき柱及びその他の体幹骨の障害、⑨上肢(手指含む)及び下肢(足指含む)の障害、⑩上下肢等関節角度測定表、⑪障害の状態及びXP等の所見との対応を確認します。

2026年改正診断書|PT・OTが確認したい主な欄
診断書の欄 確認する内容 評価依頼との関係
① 神経系統の機能又は精神の障害 高次脳機能障害、身体性機能障害(麻痺等)、疼痛などの神経障害等 麻痺や神経学的所見について依頼された場合に確認する
⑧ せき柱及びその他の体幹骨の障害 せき柱の変形、頸椎・胸腰椎の運動障害、荷重機能障害など せき柱ROMや保持機能などの評価と対応する
⑨ 上肢・下肢の障害 欠損、短縮、変形、関節の機能障害 関節機能障害がある場合は⑩の関節角度測定表を確認する
⑩ 上下肢等関節角度測定表 必要な部位・運動方向の関節可動域 必要部分について患側・健側を測定し、原則として他動運動で記録する
⑪ 障害の状態及びXP等の所見 障害状態の詳細、各種検査所見など 数値だけでは伝わらない残存障害の状態を補足する

つまり、「労災だからROM・MMT・ADLを全部測る」のではありません。診断書でどの障害を記載するのかを先に確認し、その障害を説明するために必要な評価を選ぶのが基本です。

評価は「該当障害→必要検査→条件→結果→返却」の順で進めます

評価依頼を受けたら、最初に検査項目を決めるのではなく、診断担当医や依頼元と「どの障害について情報が必要なのか」を合わせます。そのうえで、診断書の該当欄を説明するために必要な所見を選びます。

  1. 現行の診断書を確認する:2026年6月改正後の障害(補償)等給付請求用診断書を確認します。
  2. 該当する障害項目を確認する:麻痺、せき柱、上肢・下肢の関節機能障害など、今回情報が必要な欄を確認します。
  3. 必要な評価を選ぶ:ROM、筋力、麻痺、感覚、動作所見などから、該当障害を説明するために必要な項目を選びます。
  4. 測定条件と結果を残す:左右、他動・自動、体位、疼痛など、結果を解釈するために必要な条件を残します。
  5. 医師へ返す:診断書のどの欄に対応する情報か分かる形で、測定結果と補足所見を簡潔に共有します。
労災の障害補償等給付で評価依頼を受けたときに、2026年改正後の診断書確認から該当障害、必要評価、測定条件、医師への返却まで進める流れ
労災の評価依頼は、診断書の該当障害から必要な評価を逆算し、測定条件と結果をそろえて医師へ返します

ポイント:評価項目を増やすことより、「この測定値は診断書のどの障害を説明するための情報か」が分かることを優先します。

ROMは必要部位のみ、患側と健側を測定します

上肢・下肢などの関節機能障害を記載する場合、改正診断書では⑩「上下肢等関節角度測定表」を使用します。様式には、必要部分のみ記入し、患側だけでなく健側も測定することが明記されています。

さらに、関節可動域は原則として他動運動で測定します。自動運動で測定した場合は、その理由を記載する欄があります。そのため、リハ職から医師へ返す段階でも「右膝屈曲110°」だけではなく、左右の値と測定方法をセットにしておくことが重要です。

労災のROM評価|最低限そろえたい情報
確認項目 返す内容 注意点
部位・運動方向 肩屈曲、膝屈曲など 今回の障害に必要な部分を選ぶ
患側・健側 左右の測定値 必要部位では患側だけでなく健側も測定する
他動・自動 どちらで測定したか 原則は他動。自動運動で測定した場合は理由も共有する
測定条件 体位や通常と異なる測定条件 結果に影響する条件があれば明記する
制限に影響した所見 疼痛、拘縮、麻痺など 角度と、それに影響した観察所見を分けて残す

ROMは「角度だけ」にしない

ROMの返却では、測定値だけを並べるよりも、どの条件で得られた値なのかを一緒に伝えます。

記載例:
右膝関節屈曲:他動[ ]°/左[ ]°。同一体位で測定。右は終末域で疼痛あり。
※実際には測定した数値と条件へ置き換えます。

労災の関節機能障害の認定では、原則として障害を残す関節の可動域と健側の可動域角度を比較します。せき柱や健側となるべき関節にも障害がある場合などは、参考可動域角度との比較が用いられます。PT・OT側で等級を推定するのではなく、まず実測値と測定条件を正確に返すことを優先します。

MMT・麻痺・感覚・動作所見は、障害に応じて追加します

MMT、感覚検査、歩行、ADLなどは、労災の障害診断書で全症例に共通する固定セットではありません。今回残っている障害を説明するために必要かという視点で選びます。

障害の種類から評価項目を選ぶ考え方
主な状況 優先して確認する情報 必要に応じて補足する情報
関節機能障害 患側・健側ROM、他動・自動、測定条件 疼痛、拘縮、麻痺、動作への影響
麻痺などの身体性機能障害 麻痺の分布、随意運動など依頼された神経学的所見 筋力、感覚、巧緻動作、支持性、基本動作など
疼痛などの神経障害 疼痛の部位、持続性、状態 確認できた活動への影響や関連所見
せき柱・体幹の障害 該当する運動のROMや保持機能など 疼痛、補装具の使用条件、動作所見など

たとえば、麻痺が残っている症例でMMTや随意運動を確認するのは、固定セットだからではありません。診断書の身体性機能障害を説明するために必要な所見だから評価する、という順番で整理します。

仕事動作・ADLは障害所見を補足する情報として扱います

現場では「仕事で何ができないか」を詳しく確認したくなりますが、労災の障害等級認定における労働能力は、被災者本人の特定の職業だけを基準に評価するものではありません。年齢、職種、利き腕、知識、経験などの職業能力的条件によって障害程度を決めるものではないとされています。

そのため、「この仕事ができないから、この等級に相当する」と結びつけることは避けます。一方で、診断書の障害状態を具体化する補足情報として、実際に観察した歩行、階段、物品操作、持続性、疼痛による活動制限などを医師へ共有することはできます。

ADL・仕事動作|障害所見と補足情報を混同しない
避けたい書き方 返しやすい書き方
「仕事復帰できないため重度」 測定した機能障害と、確認できた活動制限を分けて記載する
「この職種なのでこの等級と思われる」 職種から等級を推定せず、実測値と観察所見を返す
「長く歩けない」 補助具、距離・時間、疼痛や支持性など確認できた条件を添える
「ADLは自立」だけ 必要な場合は、残存障害との関係が分かる具体的な動作を補足する

仕事動作を詳しく評価する必要があるか迷った場合は、まず「診断書上の障害状態を説明するために必要な情報か」を確認します。制度が異なる交通事故の後遺障害診断書については、交通事故の後遺障害診断書で評価依頼が来たときで分けて整理しています。

医師への返却は「対象欄+条件+結果+補足」で整理します

返却メモを3行に固定する必要はありません。重要なのは、医師が「診断書のどこへ反映するための情報なのか」を把握できることです。評価結果をそのまま長文で渡すのではなく、対象欄、測定条件、結果、必要な補足の4つに整理します。

医師への返却メモ|4つの要素
要素 記載内容
① 対象欄 診断書のどの障害について評価したか
② 条件 患側・健側、他動・自動、体位、補助具など
③ 結果 ROM、筋力、麻痺など必要な実測値・観察所見
④ 補足 疼痛、活動への影響など、診断書作成に必要な追加情報

返却メモ例

対象:⑨ 右膝関節の機能障害、⑩上下肢等関節角度測定表。
ROM:右膝屈曲 他動[ ]°/左[ ]°、右膝伸展 他動[ ]°/左[ ]°。同条件で測定。
補足:右膝は終末域で疼痛あり。歩行時の支持性について[確認した所見]を認める。

等級の推定や認定結果を書くのではなく、「何を、どの条件で確認し、どの結果だったか」をリハ職の評価情報として返すと、診断担当医との役割分担が明確になります。

評価時点は「治ゆ(症状固定)」との関係を確認します

障害(補償)等給付は、業務災害・複数業務要因災害・通勤災害による傷病が治ゆ(症状固定)した後に障害が残った場合に関係する給付です。労災保険でいう「治ゆ」は、必ずしも完全に元の状態へ回復したことを意味しません。

症状が安定し、医学上一般に認められた医療を続けても、その医療効果が期待できなくなった状態を「治ゆ(症状固定)」と扱います。PT・OTが独自に治ゆ日を決めるのではなく、今回の評価がどの時点の状態を示すものなのかを依頼元・診断担当医と合わせたうえで測定結果を返します。

記録時の注意:以前のリハ記録や改善途中の値ではなく、今回依頼された時点で実際に確認した所見と測定日を明確にしておくと、過去データとの混同を防ぎやすくなります。

よくある失敗は「旧様式・患側だけ・測定方法不明」です

2026年改正後は、これまで院内で使用していた返却テンプレートをそのまま流用すると、新しい診断書の構造と合わない可能性があります。特に、以下の点は評価前に確認しておきます。

労災の評価依頼|よくある失敗と修正方法
よくある失敗 修正方法
旧診断書を前提に評価する 2026年6月改正後の様式を先に確認する
ROM・MMT・ADLを毎回すべて測る 診断書の該当障害を確認して必要な検査を選ぶ
患側ROMだけを返す 必要部分について患側だけでなく健側も測定する
自動か他動か分からない 測定方法を明記し、自動運動で測定した場合は理由も共有する
仕事動作から等級を推定する 障害所見と実測値を中心にし、仕事・ADLは必要な範囲で補足する
PT・OT側で治ゆ時点や等級を決める 客観的な測定結果・観察所見を診断担当医へ返し、役割を分ける

よくある質問(FAQ)

Q1. 労災の評価依頼ではMMTを必ず測定しますか?

全症例に固定して必要というわけではありません。関節機能障害であればROMが中心になりますし、麻痺などの身体性機能障害では筋力や随意運動の情報が必要になる場合があります。まず診断書の該当障害と依頼内容を確認してから評価項目を選びます。

Q2. ROMは患側だけではだめですか?

2026年改正診断書の⑩「上下肢等関節角度測定表」では、必要部分について患側だけでなく健側も測定するよう示されています。関節機能障害の評価では原則として健側との比較が用いられるため、左右を同じ測定方法で確認して返します。

Q3. ROMは自動と他動のどちらで測りますか?

改正診断書および労災保険の関節可動域測定要領では、原則として他動運動による測定値を用います。自動運動で測定した場合は、その理由を記載する必要があるため、測定値とあわせて理由も医師へ共有します。

Q4. 健側にも障害がある場合はどうしますか?

健側となるべき関節にも障害がある場合などは、障害等級認定基準で参考可動域角度との比較が用いられます。PT・OT側で等級を判断せず、左右の実測値と測定条件を正確に返し、診断担当医と必要な情報を確認します。

Q5. 仕事動作まで詳しく評価する必要がありますか?

特定の職種そのものから障害等級を決めるわけではないため、仕事動作を全例で詳細に評価する必要はありません。ただし、疼痛や麻痺などの障害状態を説明するために活動への影響が必要な場合は、実際に確認できた条件と所見を補足情報として返します。

次の一手

労災の評価依頼では、「いつものROM・MMTセット」を測り始める前に、まず現行診断書の該当障害を確認してください。そこから必要な評価を選び、測定条件と結果をそろえて医師へ返すことで、診断書の構造と評価情報を対応させやすくなります。

労災に限らず、診断書・意見書などの評価依頼を整理したい場合は、書類対応ハブから制度別の記事を確認できます。


参考文献

著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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