BARS は「短時間で運動失調の重症度」をつかむための臨床スケールです
BARS( Brief Ataxia Rating Scale )は、運動失調の重症度を短時間で把握し、初回評価や外来フォローを「同じ物差し」で回すための臨床スケールです。結論として、BARS は点数そのものよりも、条件固定(再評価の再現性)+所見 1 行をセットにすると、チーム共有と介入の精度が一段上がります。
運動失調の全体像(安全→観察→尺度→再評価)を先に整理したい場合は、運動失調の評価まとめから読むと迷いが減ります。
BARS が向く場面・向かない場面
BARS の強みは「短時間で重症度をつかむ」ことです。初回に全体像をざっくり掴みたい、忙しい外来で経過を確認したい、といった場面で活躍します。
一方で、症状の内訳を丁寧に分解して介入反応を追いたい場合は、SARA や ICARS の方が判断が安定します(比較は別記事でまとめています)。
| 場面 | BARS が向く | 他尺度の併用を検討 |
|---|---|---|
| 初回の全体像把握 | 短時間で「重い/軽い」を掴みたい | 症状が複雑で、内訳の整理が必要 |
| 外来の経過フォロー | 同条件で反復し、変化をざっくり追う | 小さな変化の理由まで追いたい |
| チーム共有 | 点数+短い所見で共有したい | 点数だけでは介入方針が決まらない |
BARS で見る 5 つのドメイン
BARS は、運動失調の臨床像を「歩行」「四肢協調」「構音」「眼球運動」など主要ドメインで捉える設計です。短時間でも抜けを作らないために、見る順番を固定しておくと運用が安定します。
- 歩行( gait ):支持基底面の拡大、ふらつき、方向転換での破綻
- 上肢協調( upper limb kinetic ):狙いのズレ、反復での崩れ、速度依存性
- 下肢協調( lower limb kinetic ):下肢の協調性、反復での破綻
- 構音( speech / dysarthria ):明瞭度、速度、リズム
- 眼球運動( oculomotor ):追従、注視、眼振(必要に応じて)
評価の進め方:安全→観察→採点→同条件で再評価
BARS は短時間スケールですが、運動失調は疲労や日内変動で見え方が変わりやすい領域です。おすすめは、①安全確保→②観察(崩れる場面の特定)→③採点→④同条件で再評価、の順で型を作ることです。
再評価でブレやすいのは、補助具・介助量・時間帯が揃っていないケースです。ここが揃っていないと、点数変化が「悪化」なのか「条件差」なのか判断できません。
| ステップ | やること | 記録に残す一言 |
|---|---|---|
| ①安全確保 | 転倒対策(動線・補助者・手すり)/補助具の準備 | 「見守り+ T 字杖」「軽介助+歩行器」など |
| ②観察 | どの場面で崩れるか(方向転換・狭所・反復・速度) | 「方向転換で増悪」「反復で破綻」 |
| ③採点 | 決められた手順で BARS を実施し合計 | 「 BARS 合計:○○(条件は同上)」 |
| ④再評価 | 同条件で反復(時間帯・補助具・介助量を揃える) | 「次回も午前・同補助具」 |
採点の考え方:点数は「結論」、所見は「根拠」
BARS は複数の評価項目を合計し、点数が高いほど重症度が高い方向で解釈します。採点の具体的な区分やアンカーは、原著の評価用紙・手順に従ってください。
臨床では、点数だけだと介入に繋がりにくいので、点数の横に崩れる条件を 1 行添えるのがコツです。「条件+現象」で残すと、次の訓練課題が決まりやすくなります。
- 例:歩行「方向転換で支持基底面が拡大」
- 例:上肢「速度を上げると狙いが外れる」
SARA / ICARS とどう使い分けるか(BARS の立ち位置)
簡便スケールは「短時間で回す」ほど真価が出ます。BARS は、SARA(定点観測しやすい)と ICARS(詳細に分解して拾う)の間で、時間と精度のバランスを取る選択肢として考えると運用がスムーズです。
どれを使うか迷うときは、目的(短時間の経過観察か/内訳の深掘りか)を先に決めてから選ぶと、評価と介入が噛み合いやすくなります。
現場の詰まりどころ(先にショートカット)
運動失調は「点数化」より先に、条件固定と観察の順番を揃えた方が、再評価が安定します。詰まりやすいポイントは、まず下の 3 点で潰せます。
よくある失敗(NG→対策)
BARS は短い分、「運用のズレ」がそのまま点数に影響します。特に多いのは、再評価の条件が揃わず、点数変化を誤解してしまうケースです。
| NG(起きがち) | 何が困る? | 対策 | 記録の一言 |
|---|---|---|---|
| 補助具・介助量が毎回違う | 点数の上下が「条件差」なのか不明 | 同条件を固定(難しければ条件を明記) | 「歩行器+見守り」など |
| 疲労・薬効時間を無視 | 日内変動で点数が揺れる | 時間帯を揃える/揃わなければ明記 | 「午前評価」「疲労強い」 |
| 点数だけ残して所見がない | 介入方針に繋がらない | 崩れる条件を 1 行添える | 「方向転換で増悪」 |
| 観察の順番が毎回バラバラ | 疲労の影響で再現性が落ちる | 順番を固定して実施 | 「歩行→四肢→構音→眼球」 |
よくある質問
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Q1. BARS は何分で終わる?(所要時間)
A. 症状と安全配慮(補助具・介助量)で変わりますが、BARS は「短時間で回す」ことを前提にしたスケールです。時間を短縮するほど、補助具・介助量・時間帯を固定して反復する運用が重要になります。
Q2. BARS の点数が毎回同じになりません。日内変動や疲労の影響はありますか?
A. あります。運動失調は疲労や薬効のタイミングで見え方が変わりやすいので、まず時間帯(午前/午後、内服前後)を揃えます。揃えられない場合は「午後・疲労強い」など条件を明記して、点数の解釈を誤らないようにします。
Q3. 点数が上がった/下がった…悪化?それとも条件差?
A. まずは条件差を疑います。特にブレやすいのは補助具と介助量です。同条件で 2〜3 回そろえて「その人のブレ幅」を掴んでから、悪化や改善を判断すると安全です。
Q4. BARS の記録は何を書けばいい?(最低限のテンプレ)
A. 最低限は「点数+条件+所見 1 行」の 3 点セットです。例:「BARS 合計:○○(歩行器+見守り、午前)/方向転換でふらつき増悪」。点数だけより、次の介入が決まりやすくなります。
Q5. BARS と SARA/ICARS は併用すべき?使い分けの結論は?
A. 結論は「目的」で決めます。短時間で重症度をざっくり追うなら BARS、定点観測を安定して続けたいなら SARA、内訳まで細かく拾って介入に直結させたいなら ICARS が向きます。迷う場合は比較記事で “目的別の結論” を先に確認すると早いです。
次の一手
- 運用を整える:運動失調ハブ(評価と実装の全体像)(全体像)
- 共有の型を作る:ICARS・SARA・BARS の違い(比較・使い分け)(すぐ実装)
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- Schmahmann JD, Gardner R, MacMore J, Vangel MG. Development of a brief ataxia rating scale (BARS) based on a modified form of the ICARS. Mov Disord. 2009;24(12):1820-1828. DOI: 10.1002/mds.22681 / PubMed: PMID 19562773
- Camargos S, Cardoso F, Maciel R, Huebra L, Silva TR, Campos VG, et al. Brief Ataxia Rating Scale: A Reliable Tool to Rate Ataxia in a Short Timeframe. Mov Disord Clin Pract. 2016;3(6):621-623. DOI: 10.1002/mdc3.12364 / PubMed: PMID 30363561
- Hartley H, Pizer B, Lane S, Sneade C, Pratt R, Bishop A, Kumar R. Inter-rater reliability and validity of two ataxia rating scales in children with brain tumours. Childs Nerv Syst. 2015;31(5):693-697. DOI: 10.1007/s00381-015-2650-5 / PubMed: PMID 25735848
- Schmitz-Hübsch T, du Montcel ST, Baliko L, et al. Scale for the Assessment and Rating of Ataxia: Development of a new clinical scale. Neurology. 2006;66(11):1717-1720. DOI: 10.1212/01.wnl.0000219042.60538.92 / PubMed: PMID 16769946
- Trouillas P, Takayanagi T, Hallett M, et al. International Cooperative Ataxia Rating Scale for pharmacological assessment of the cerebellar syndrome. J Neurol Sci. 1997;145(2):205-211. DOI: 10.1016/S0022-510X(96)00231-6 / PubMed: PMID 9094050
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


