はじめに|2026 年に「心臓リハビリテーション指導士」を目指す理由
循環器リハのキャリア全体像を確認する( PT キャリアガイド )
心臓リハビリテーション指導士は、心不全や心筋梗塞など循環器疾患の患者さんに対して、安全で効果的な心臓リハを提供するための「チーム内キーパーソン」として位置づけられた資格です。心大血管リハ加算そのものの要件ではありませんが、症例検討・運動負荷設定・生活指導・多職種カンファレンスなど、現場の運営に深く関わる役割が期待されています。
一方で、会員歴 2 年・心リハ経験 1 年・講習会受講・ 10 症例報告など、受験資格はやや複雑です。さらに 2026 年は、学会開催地や試験日程が事前に告知されており、逆算した準備がしやすい年度と言えます。本記事では、 2026 年の受験を目指す PT ・ OT ・ ST 向けに、「なるには?」を年次スケジュールと具体的な手順に分けて整理します。細かな日程や条件は変更される可能性があるため、必ず最新の募集要項・公式情報で最終確認してください。
資格の概要と役割
心臓リハビリテーション指導士は、日本心臓リハビリテーション学会が認定する資格で、心臓リハに関わる 11 職種(医師・看護師・ PT ・ OT ・ 管理栄養士・薬剤師・臨床検査技師など)が対象です。心不全・虚血性心疾患・心臓手術後などを中心に、運動療法・生活指導・心理的サポート・再発予防プログラムを安全に進めるための専門知識と実務経験が求められます。
PT ・ OT ・ ST にとってのメリットは、急性期から外来・在宅まで「循環器に強いリハ職」としてのポジションを取りやすくなることです。心不全パンデミックと高齢化が進むなかで、心大血管リハをしっかり回している病院やクリニックは増えており、「心臓リハビリテーション指導士」を持っていることは、転職や院内異動の場面でもひとつのアピール材料になります。
2026 年試験までの全体スケジュール
まずは 2026 年受験を念頭に、ざっくりとした流れをイメージしておきましょう。例年、指導士試験は学術集会にあわせて夏〜初秋頃に行われ、当該年度の講習会( 1 部・ 2 部)もその前後の日程で開催されます。募集要項に記載される「出願期間」は、おおむね春先の数週間に設定されるため、この時期までに受験資格を満たしている必要があります。
より具体的には、① 2024 年中に学会入会( 2026 年受験なら会員歴 2 年が必要)、② 2025 年までに心リハ実地経験 1 年以上または研修制度による資格認定、③ 2026 年春の出願期間中に書類一式を提出、④ 2026 年の講習会 1 部・ 2 部を受講、⑤ 夏〜秋の筆記試験を受験、という 5 ステップで進みます。現時点でどの条件を満たしていて、あと何が足りないのかを把握することが、最初の一歩です。
手順 1 :受験資格 5 条件を整理する
心臓リハビリテーション指導士の受験資格には、代表的に次のような条件が設定されています。① 学会が定める 11 職種のいずれかの国家資格を持つこと( PT ・ OT ・ ST を含む)、② 学会の正会員として 2 年以上継続していること、③ 心臓リハビリテーションの実地経験を 1 年以上有するか、研修制度で受験資格認定証を取得していること、④ 当該年度に開催される講習会 1 部・ 2 部を受講すること、⑤ 所定の書式に基づいた症例報告 10 例・推薦書・資格証写しなどの書類を揃えて出願すること、の 5 つです。
このうち、見落としやすいのが「会員歴 2 年」と「心リハ経験 1 年 or 研修制度」です。 2026 年に受験したい場合、募集要項の基準日までに会員歴 2 年を満たしている必要があるため、「受験したい年の直前に入会」では間に合わないことがあります。また、自施設に心大血管リハビリテーションの算定体制が整っていない場合、「心リハ経験 1 年」だけで条件を満たすのが難しいケースもあり、その場合は研修制度ルートを検討することになります。
手順 2 :心リハ経験 1 年 vs 研修制度ルート
自施設に心大血管リハビリテーションがあり、心リハカンファレンス・運動負荷試験・心肺運動負荷試験・外来リハなどに継続的に関わっている場合は、「心リハ実地経験 1 年」ルートを目指しやすくなります。この場合でも、どの期間・どの部署で・どのような役割を担っていたかを、後から症例報告や推薦書に落とし込みやすいよう、メモや簡単なログを残しておくとよいでしょう。
一方で、自院に心リハの算定体制がない、あるいは症例数が極端に少ない場合は、学会の「心臓リハビリテーション研修制度」を利用する選択肢があります。これは、学会が定めた研修協力施設で 40 時間以上の研修を行い、所定の評価を受けることで「受験資格認定証」を取得する仕組みです。研修先の募集・申し込み・マッチングには締切や定員があるため、受験したい年から逆算して、 1 年以上前から情報収集を始めておくと安心です。
手順 3 : 10 症例報告の集め方とまとめ方
心臓リハビリテーション指導士の出願では、所定様式に基づく症例報告 10 例の提出が求められます。心不全・虚血性心疾患・心臓手術後・心筋症など、一定のバリエーションが含まれることが望ましく、単純なルーチン症例だけでなく、合併症や再入院リスクの高い症例、在宅復帰や就労支援に関わった症例なども含めておくと、実務経験の幅が伝わりやすくなります。
実務のなかで症例を集めるコツは、「候補症例リスト」を早めに作っておくことです。入院時から「この方は症例報告候補」と決めておき、カルテのどこを見るか(基礎疾患・心機能指標・ BNP ・体重変化・ NYHA ・運動負荷試験結果・退院後のフォローなど)をあらかじめ項目立てしておくと、後からまとめる作業がスムーズになります。 1 症例あたりの構成は、① 背景、② 評価、③ 介入、④ 経過、⑤ アウトカム、⑥ 考察、というテンプレートで書き進めると、 10 症例を並べたときの統一感が出ます。
手順 4 :申請〜講習会〜試験勉強のロードマップ
出願期間中は、オンラインでの申請入力と、書類一式の作成・郵送を並行して進める必要があります。チェックリストを作り、「症例報告 10 例がそろっているか」「推薦書の押印は済んでいるか」「資格証・免許証のコピーは規定どおりか」「封筒の宛名・書留種別は指定どおりか」などを一つずつ確認していきましょう。不備があると受験そのものが認められないこともあるため、締切ギリギリではなく、数日前には投函できるスケジュール感を持っておくと安心です。
講習会 1 部・ 2 部は、心臓リハの基礎から最新トピックスまで幅広くカバーする内容となっており、試験対策としても重要な位置づけです。事前にテキストを軽く通読し、講義中は「どのテーマがよく強調されているか」「ガイドラインのどの項目がポイントか」を意識しながら聴くと、その後の勉強効率が上がります。試験までの勉強は、① テキスト・講習会資料の通読、② 循環器診療ガイドラインの重要部分を中心に復習、③ 過去問題集や想定問題でアウトプット、という流れで、平日 30〜60 分+週末 2〜3 時間を 2〜3 か月続けるイメージを持っておくとよいでしょう。
PT ・ OT ・ ST は現場でどう活かすか
急性期病院では、心筋梗塞・冠動脈バイパス術後・弁膜症手術後・急性心不全などの症例で、早期離床や運動負荷の設定、 BNP や心エコー所見を踏まえたリスク層別化が求められます。心臓リハビリテーション指導士としての知識を持っていると、循環器内科医・看護師・臨床検査技師との共通言語が増え、 CPX や 6 分間歩行試験の結果をふまえた個別運動処方を、より論理的に提案しやすくなります。
回復期や外来・在宅では、慢性心不全・フレイル・サルコペニアを合併した症例が多く、「再入院をいかに減らすか」が実務のテーマになります。退院支援カンファレンスでの運動指導・自己管理支援・家族指導、訪問リハでの息切れ評価や生活場面での動作調整など、心臓リハビリテーション指導士としての視点を、日々のリハ介入や指導に落とし込むことが大切です。資格取得後も、症例検討会や勉強会の企画・後輩育成を通じて、チーム全体の循環器リハ力を底上げしていくことが期待されます。
現場の詰まりどころ
実際に準備を始めると、最初にぶつかりやすい壁が「会員歴 2 年」を満たしていないケースです。 2026 年受験を見据えているのに、入会時期の関係で 2027 年以降でないと受験資格を得られない、というパターンは珍しくありません。この場合は、焦って他の条件だけ先に進めるより、「どの年度に受験するか」を一度落ち着いて決め直し、その年までにどのスキル・症例を積み上げるかを逆算しておく方が、結果的にキャリア形成としてプラスになりやすいです。
もうひとつの詰まりどころは、「症例報告 10 例がなかなか集まらない」「締切直前に徹夜で書く」というパターンです。とくに混合病棟や回復期病棟では、循環器症例が常に十分あるとは限らず、気づいたら候補症例が足りないこともあります。日頃から、「この症例は指導士のレポート候補」と思った時点でカルテ番号や経過の要点をメモしておき、月に 1 件ずつでもラフ案を作っていくと、出願前の負担が大きく減ります。また、研修制度を利用する場合は、研修中に担当した症例を中心にレポートをまとめておくと、受験準備と学びの両方を効率よく進められます。
おわりに
心臓リハビリテーション指導士は、循環器疾患の患者さんと長く付き合ううえで、「安全に動いてもらう」「再発・再入院を減らす」というリハ職の強みを最大限に発揮できる資格です。その一方で、会員歴・実務経験・研修制度・講習会・症例報告・試験勉強と、準備すべきステップは多く、忙しい臨床のなかでは後回しになりがちでもあります。本記事を、自分なりの受験年と準備スケジュールを整理するためのたたき台として活用していただければ幸いです。
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よくある質問
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PT でも心臓リハビリテーション指導士は目指せますか?どのくらいの経験が必要ですか?
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は、学会が定める 11 職種に含まれており、受験資格の対象です。条件としては、学会の正会員として 2 年以上継続していることに加え、心臓リハビリテーションの実地経験を一定期間有するか、研修制度を利用して受験資格認定証を取得している必要があります。まずは、現在の職場でどの程度心リハ症例に関われているか、所属長や循環器チームとも相談しながら確認してみてください。
自院に心臓リハの算定体制がありません。研修制度だけで本当に受験できますか?
自施設に心大血管リハビリテーションの算定体制がない場合でも、学会の研修制度を利用して、指定された研修協力施設で 40 時間以上の研修を受けることで、受験資格の一部を満たすことができます。研修先の募集やマッチングには締切や定員があるため、受験したい年から少なくとも 1 年以上は余裕をもって、募集要項や学会ホームページをチェックしておくと安心です。
症例報告はいつ頃から書き始めるのがよいですか?
実務と並行して準備することを考えると、「受験年度の 1 年以上前」から候補症例リストを作り始めるのがおすすめです。入院時から「この症例はレポート候補」と決めて、カルテ番号・診断名・主要な経過・退院後のフォローを簡単にメモしておくと、出願期限が近づいたときにまとめやすくなります。目安としては、受験年度の春までに 10 例分の下書きができていると、出願前の負担がかなり軽くなります。
2026 年の受験に間に合わない場合はどうすればよいですか?
会員歴や実務経験の条件から 2026 年受験が難しい場合は、次の受験可能な年度を一度カレンダーに書き出し、その年までにどのような経験・症例・勉強を積み上げるかを整理しておくとよいでしょう。無理に 1 年早く受験するよりも、準備が整ったタイミングで受験した方が、合格後の実務への活かし方も含めてメリットが大きくなります。心不全や循環器疾患の症例を広く経験しながら、少しずつ症例報告候補や勉強時間を積み重ねていきましょう。
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

