閉鎖式吸引の運用プロトコル|気切・人工呼吸器併用で「安全に回す」ための結論
閉鎖式吸引は、人工呼吸器回路を外さずに気道分泌物を回収できる方法です。特に気切・高 PEEP・高 FiO2 の場面では、回路離脱による肺胞虚脱や酸素化悪化を避けやすく、日常運用の安全性を高めやすいのが利点です。
一方で、深追い吸引・陰圧のかけ過ぎ・吸引時間超過・再評価不足が重なると、低酸素化や気道損傷、循環変動を招きます。したがって本稿の結論は、①適応を見極める、②短時間で回収する、③前後評価を固定する、④中止基準を共有するの 4 点です。
閉鎖式吸引の適応|「必要時に行う」が基本
吸引はルーチンではなく、分泌物貯留の兆候があるときに実施します。閉鎖式が有用なのは、人工呼吸器依存度が高く、回路離脱の影響を受けやすい患者さんです。必要性の根拠(音・波形・痰など)をそろえる考え方は 吸引の適応判定(必要性評価) にまとめています。
| 場面 | 理由 | 現場でのポイント |
|---|---|---|
| 高 PEEP・高 FiO2 | 回路離脱で酸素化が崩れやすい | 閉鎖式で連続性を保ち、前後の SpO2 を確認 |
| 気切管理中 | 吸引頻度が高くなりやすい | 吸引の必要性を都度評価し、過剰介入を避ける |
| 離床・体位変換前後 | 分泌物移動で一時的に詰まりやすい | 前処置と再評価をセット化する |
実施前チェック|開始条件を満たしてから入る
「とりあえず吸引」を避け、開始条件を先に確認します。意思疎通が難しい患者さんほど、条件を固定したほうが事故が減ります。
- 必要性:粗い呼吸音、喀痰可視、換気波形の鋸歯状、咳嗽時の分泌物移動など
- 酸素化:実施前の SpO2 と呼吸パターンを確認
- 循環:著明な頻脈・徐脈、血圧不安定がないか確認
- 回路と固定:コネクタ緩み、牽引、加温加湿の状態を確認
- 陰圧設定:施設基準に合わせ、過大陰圧を避ける
- 時間管理: 1 回の陰圧時間を短くし、長時間連続を避ける
設定の目安|陰圧・カテサイズ・時間を先に決める
閉鎖式の事故は「その場のノリ」で陰圧と時間が伸びたときに起きやすいです。ポイントは、カテーテルは太すぎない/陰圧は過大にしない/陰圧時間を短く区切るの 3 点です。
| 項目 | 決め方 | 現場の注意 |
|---|---|---|
| カテーテルサイズ | 気道径に対して「太すぎない」を優先 | 抵抗感が強い/吸引中に換気が崩れる場合は見直す |
| 陰圧(吸引圧) | 施設基準の範囲で「必要最小」を選ぶ | 陰圧を上げて取り切ろうとすると損傷リスクが上がる |
| 陰圧時間 | 短時間で区切り、 1 回ごとに反応を見る | 「連続で長い」ほど低酸素化と循環変動が出やすい |
手順|「短く・浅く・必要回数だけ」で回収する
- 準備:患者体位、回路固定、モニタ、吸引圧を確認
- 挿入:抵抗が強いときは無理に進めず、位置と体位を再調整
- 吸引:陰圧は短時間で行い、 1 回ごとに反応を確認
- 回収:痰量・性状を確認し、必要時のみ追加吸引
- 再評価: SpO2、呼吸音、努力呼吸、アラームの変化を確認
- 記録:時刻・回数・前後バイタル・痰性状・対応を残す
中止基準と即時対応|「続けるより止める」を優先する場面
| サイン | 目安 | 対応 |
|---|---|---|
| 酸素化悪化 | SpO2 の急低下、回復遅延 | 即中断し酸素化を優先、体位・回路・分泌物を再確認 |
| 循環変動 | 著明な徐脈・頻脈、血圧変動、冷汗 | 中止して報告、再開可否を医師と判断 |
| 強い苦悶 | 努力呼吸増大、顔色不良、強い咳込み | 中断し休止、刺激量を下げて再評価 |
| 血性分泌物 | 血痰増加、疼痛訴え | 無理に継続せず、損傷評価と方針再設定 |
よくある失敗と対策|現場の詰まりどころ
| 失敗 | 起きる理由 | 対策 |
|---|---|---|
| 必要性評価なしで実施 | 「時間で吸う」運用になっている | 実施トリガを可視化(音・波形・痰)し、必要時実施へ |
| 深追いしてしまう | 痰を取り切ろうとして回数が増える | 1 回ごとに再評価し、必要最小回数で終了 |
| 陰圧時間が長い | 時間管理の不徹底 | 短時間ルールをチームで統一 |
| 吸引後の再評価漏れ | 実施で終わってしまう | 前後バイタルと呼吸音を記録テンプレに固定 |
| 離床時に再悪化 | 回路牽引・体位変化の影響 | 離床前後の再評価を定型化し、必要なら前処置を追加 |
詰まりどころの解決導線(ここだけ押さえる)
多職種で分担すると安全| PT が握ると強い領域
- PT:離床前後の呼吸状態評価、体位・胸郭運用、再評価設計
- 看護:吸引実施、気切ケア、急変時初動
- 医師:適応・中止判断、治療方針調整
- 臨床工学技士:回路安全管理、アラーム・機器整備
記録テンプレ|「最小セット→追加項目」で迷いを消す
まずは「いつ・なぜ・どれだけ・結果どうなった」を最小セットで固定し、必要なときだけ追加項目を足します。
- 最小セット(毎回)
- 実施時刻
- 実施理由(必要性の根拠:音・波形・痰など)
- 前後の SpO2 ・呼吸数・心拍数(必要なら血圧)
- 吸引回数と陰圧時間(短時間で区切ったか)
- 分泌物(量・色・粘稠度)
- アラーム有無と対応
- 次の一手(再評価タイミング/体位・加湿など)
- 追加項目(必要時のみ)
- 体位/回路牽引の有無/加温加湿の状態
- 設定情報(吸引圧・カテサイズ:問題があったとき)
- 中断・中止の有無(理由+対応+報告先)
- 所見メモ(努力呼吸、左右差、血性分泌物など)
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 閉鎖式吸引は定時でやるべきですか?
定時ルーチンより、分泌物貯留の兆候がある「必要時実施」が基本です。過剰吸引は合併症リスクを上げるため、適応評価を先に行います。
Q2. 吸引で SpO2 が下がったらどうしますか?
まず中断し、酸素化回復を優先します。体位、回路牽引、分泌物移動、刺激量を見直し、再開は原因整理後に行います。
Q3. 1 回で取り切れないときは?
深追いせず、短時間で区切って再評価します。前処置(加湿・体位・呼吸介助)を再設計すると回収効率が上がることがあります。
Q4. 気切カフ圧との関係はありますか?
あります。リークや微小誤嚥の管理は吸引効率と直結します。カフ圧管理を先に整えると、吸引の再現性が上がります。
Q5. 閉鎖式と開放式はどう使い分けますか?
回路離脱の影響が大きい(高 PEEP・高 FiO2 など)ほど閉鎖式のメリットが出やすいです。一方で、痰性状や施設 SOP を踏まえ、チームで統一します。
次の一手|同テーマで運用を固める
参考文献・資料
- Blakeman TC, et al. AARC Clinical Practice Guidelines: Artificial Airway Suctioning. Respir Care. 2022;67(2):258-271. ( PubMed : 35078900 )
- American Association for Respiratory Care. Artificial Airway Suctioning Guideline(PDF). 公式 PDF
- Maggiore SM, et al. Decreasing the adverse effects of endotracheal suctioning during mechanical ventilation by changing practice. Respir Care. 2013;58(10):1588-1597. doi: 10.4187/respcare.02207
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


