結論・早見表:まずは CTAR 、頸部負担が許せばシェーカー法
まずは嚥下訓練の全体像を押さえ、次に本記事で CTAR/シェーカー法の使い分けを決めると、評価→介入→再評価が回しやすくなります。
嚥下リハの全体像を見る関連: 摂食嚥下リハ体制の実務整理 / 多職種連携と PT 評価ガイド
喉頭挙上〜上部食道括約筋( UES )開大に関わる 舌骨上筋群を狙って負荷をかけるなら、実務では 継続しやすい CTARを第一選択にし、頸部の負担が問題になりにくい条件で シェーカー法を使い分けるのが整理しやすいです。
迷ったら「実施しやすい(継続できる)方」を選び、負荷は RPE(きつさ)と翌日の反応で調整します。効かない原因の多くは「負荷不足」か「代償運動で狙い筋に入っていない」ことです。
| 判断ポイント | CTAR( Chin Tuck Against Resistance ) | シェーカー法( Head Lift Exercise ) |
|---|---|---|
| 選びやすい場面 | 座位で実施でき、在宅・病棟で継続しやすい | 仰臥位で実施でき、体幹が安定している |
| 負担が出やすい部位 | 顎下の疲労感(狙い筋に入りやすい) | 頸部前面・肩周囲の疲労/疼痛 |
| よくある失敗 | 押す力が弱く、負荷が入っていない | 胸鎖乳突筋優位で、狙いがズレる |
| まずの処方 | 等尺 10 秒 × 5 回 × 2 セット( RPE 5〜7 程度 ) | 等尺 30 秒 × 3 回 + 反復 30 回(可能範囲で段階化) |
CTAR/シェーカー法は「何を良くする訓練」か
CTAR とシェーカー法は、どちらも 舌骨上筋群(顎二腹筋・顎舌骨筋・オトガイ舌骨筋など)の収縮を通じて、嚥下時の 舌骨・喉頭の前上方移動と UES 開大を助けることを狙う訓練です。現場的には「喉が上がりきらない」「食塊が咽頭に残る」などの詰まりに対して、姿勢調整や代償嚥下と並行して 筋出力の底上げを図る位置づけになります。
訓練単独で完結させるより、症状(むせ・湿性嗄声・呼吸苦)と 所見(咽頭残留の傾向、嚥下後の喀出力)をセットで追い、方針を微調整する方が結果につながります。
使い分け【比較表】:適応・環境・継続性で決める
両者の違いは「狙い筋」よりも、実務では 姿勢条件と 継続のしやすさに出ます。まずは下の表で、対象者の条件に合う方を選び、次に負荷(強度・回数・保持時間)を整えます。
どちらが正解かではなく「その人が続けられる形に落とす」ことが優先です。
| 観点 | CTAR | シェーカー法 |
|---|---|---|
| 姿勢 | 座位(ベッド上でも可) | 仰臥位(頭部挙上) |
| 負荷の入れ方 | 顎を押し付ける抵抗(ボール等) | 頭を持ち上げる自重負荷 |
| 継続しやすさ | 高い(環境の影響が小さい) | 頸部負担で中断しやすい |
| 代償が出やすい例 | 顎を引けず、押す力が弱い | 胸鎖乳突筋優位、肩をすくめる |
| 優先する場面 | 在宅・回復期・病棟での反復運用 | 頸部負担が少なく、仰臥位が安定する |
CTAR のやり方:準備・姿勢・負荷設定( 5 分で回す)
CTAR は「顎を引く」動きに 抵抗を足して、舌骨上筋群に狙って負荷を入れます。道具がない場合は、丸めたタオルでも代替できますが、抵抗が一定になりにくいため、可能なら柔らかいボールを使います。
実施のコツは、顎を引いたまま押し付け続ける感覚を作ることです。首を丸めるだけになっている場合は、狙い筋に入りません。
準備(道具・姿勢)
- 道具:柔らかいボール(目安として直径 10〜12 cm )または丸めタオル
- 姿勢:座位で骨盤を立て、体幹を軽く起こす(背もたれは軽く使用可)
- 位置:顎先と胸骨上部の間にボールを置き、顎を引いた時に潰れる位置へ調整
負荷(回数・保持時間)の目安
| 段階 | 内容 | ねらい | 進め方の目安 |
|---|---|---|---|
| 導入 | 等尺 5 秒 × 5 回 × 2 セット | 狙い筋に入る感覚作り | RPE 4〜6 で翌日に強い疼痛が残らない |
| 標準 | 等尺 10 秒 × 5 回 × 2 セット | 筋出力の底上げ | RPE 5〜7 程度を維持 |
| 発展 | 等尺 10 秒 × 5 回 × 3 セット(または反復 30 回を追加) | 持久+反復耐性 | 呼吸苦・めまい・頸部痛が増悪しない |
よくある失敗と回避手順
- 押す力が弱い:ボールを柔らかい素材へ変更し、肘支持で上肢を安定させる
- 首を曲げるだけになる:体幹を起こし、顎を引く方向を先に作ってから押す
- 疲労が強すぎる:保持時間を 10 秒→ 5 秒に落とし、総回数で調整する
シェーカー法のやり方:等尺+反復(段階化が必須)
シェーカー法は仰臥位で頭部を持ち上げるため、舌骨上筋群だけでなく頸部屈筋群にも負荷が乗りやすい点が特徴です。継続の可否は、頸部の負担と 代償(胸鎖乳突筋優位)の出方で決まります。
最初から原法どおりに固定せず、保持時間と反復回数を 段階化して運用する方が、現場では実装しやすくなります。
準備(姿勢・フォーム)
- 姿勢:仰臥位で肩をリラックスし、目線はつま先方向
- フォーム:肩が浮かない範囲で頭部を挙上し、顎は軽く引く(首をすくめない)
- 確認:胸鎖乳突筋の過緊張や頸部痛が強い場合は保持時間を短くして導入
負荷の目安(導入→標準)
| 段階 | 等尺(保持) | 反復 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 導入 | 5〜10 秒 × 3 回 | 10〜15 回 | 頸部痛が出ないフォーム作り |
| 標準 | 30 秒 × 3 回 | 30 回 | 疲労で代償が増える前に休息を入れる |
リスクと中止基準:やっていい条件を先に決める
訓練中に症状が悪化したり頸部負担が強くなったりする場合は、量を減らすだけでなく フォームの見直しと 実施条件(姿勢・時間帯)の再設計が必要です。とくにシェーカー法は頸部負担で中断しやすいため、先に中止ラインを共有しておくと運用が安定します。
以下は目安です。施設基準および主治医・ ST の方針を優先してください。
| 状況 | 目安 | 次アクション | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 頸部痛が増悪 | 痛みが強くなりフォーム維持が困難 | 保持時間を短縮/ CTAR に切替/姿勢再調整 | 痛み部位・強さ・出現タイミング |
| めまい・吐き気 | 訓練継続が不快で難しい | 中止し休息/体位・呼吸状態を確認 | 出現時の姿勢・バイタル変化 |
| 息切れ・呼吸苦 | 会話が途切れる/苦痛が強い | 中止/呼吸介助・姿勢調整/必要時連携 | SpO2 ・呼吸数・主観症状 |
| 代償運動が強い | 肩すくめ・胸鎖乳突筋優位で狙いが外れる | 負荷を落としてフォーム優先/反復より等尺へ | 代償の種類・修正で変化するか |
効果判定と記録:評価→介入→再評価が回る形にする
効いたかどうかを曖昧にしないために、訓練量(保持時間・回数・セット)と症状、簡便所見をセットで残します。嚥下の筋力側の見立ては、相対的喉頭位置( RLP )と GS グレードでボトルネックを整理してから入ると、介入の納得感が上がります。
続けて読む:相対的喉頭位置( RLP )と GS グレードの評価手順(測定・記録)
記録テンプレ(そのまま書ける形)
- 実施: CTAR(等尺 10 秒 × 5 回 × 2 セット)/シェーカー法(等尺 10 秒 × 3 回+反復 10 回)
- 主観: RPE( 0〜10 )= 6 /頸部痛 0〜10 = 2(翌日は 1 )
- 症状:むせ(増悪なし)/湿性嗄声(変化なし)/息切れ(軽度)
- 所見:フォーム(代償なし/肩すくめあり→修正で改善)
- 次回:保持 10 秒→ 12 秒、またはセット数を 1 追加(翌日反応が軽い場合)
現場の詰まりどころ:続かない・効かない理由はここ
結果が出にくい時は、方法論そのものより「負荷の作り方」と「代償管理」で詰まっていることが多いです。先に よくある失敗と回避手順を確認し、次に 中止基準で線引きを統一すると、チーム運用が安定します。
- 負荷が軽すぎる: RPE 3 以下で終わる場合は保持時間かセット数を微増
- 代償優位になる:フォームが崩れたら、負荷を下げて等尺中心へ戻す
- 頸部痛で継続困難:シェーカー法を段階化し、必要時は CTAR 優先に切替
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. どちらから始めるのが無難ですか?
実務では CTAR から始める方が継続しやすいことが多いです。座位で運用でき、道具が用意できれば負荷の再現性も高いためです。頸部負担が少ない条件でフォームを作り、必要に応じてシェーカー法(仰臥位)を追加すると整理しやすくなります。
Q2. 回数や保持時間は固定ですか?増やす基準は?
固定ではありません。 RPE(きつさ)と翌日の反応で調整します。目安として、 RPE が 4 未満で余裕があり翌日の増悪がなければ、保持を 2〜5 秒増やすかセットを 1 つ追加します。代償が増える場合は量を増やさず、フォーム修正を優先します。
Q3. 頸が痛い/肩がこる時はどうしますか?
まずフォームと負荷を落として再調整します。シェーカー法で頸部負担が強い場合は保持時間を短縮し、難しければ CTAR に切り替える方が継続しやすいです。痛みが強い・悪化する・日常動作に影響する場合は中止し、医師・ ST へ連携します。
Q4. 効いているかの見方は?
回数だけで判断せず、狙い筋の疲労感、症状推移、代償の減少をセットで追います。 RLP ・ GS の見立てと合わせ、同条件で訓練量を記録すると経時変化を捉えやすくなります。
Q5. どのくらいの間隔で再評価すればいいですか?
初期は 1〜2 週ごとに、負荷設定(保持時間・回数)と症状変化(むせ・湿性嗄声・呼吸苦)を確認する運用が実務的です。環境変化(食形態変更、体調変動、退院準備)や頸部痛の増悪があった場合は、予定を待たずに再評価します。記録は「実施量・ RPE ・症状・代償」の 4 点を同条件で残すと比較しやすくなります。
次の一手
まずは同ジャンルで「全体像」と「実装手順」を押さえると、CTAR/シェーカー法の位置づけが明確になります。
- A(全体像):栄養・嚥下ハブ
- B(すぐ実装):相対的喉頭位置( RLP )と GS グレードの評価手順
参考文献
- Shaker R, Easterling C, Kern M, et al. Rehabilitation of swallowing by exercise in tube-fed patients with pharyngeal dysphagia secondary to abnormal UES opening. Gastroenterology. 2002;122(5):1314-1321. DOI: 10.1053/gast.2002.32999. PubMed
- Logemann JA, Rademaker A, Pauloski BR, et al. A randomized study comparing the Shaker exercise with traditional therapy: a preliminary study. Dysphagia. 2009;24(4):403-411. DOI: 10.1007/s00455-009-9217-0. PubMed
- Sze WP, Yoon WL, Escoffier N, et al. Chin tuck against resistance (CTAR): new method for enhancing suprahyoid muscle activity using a Shaker-type exercise. Dysphagia. 2016;31(2):195-205. DOI: 10.1007/s00455-015-9678-2. PubMed
- Gao J, Zhang HJ. Effects of chin tuck against resistance exercise versus Shaker exercise on dysphagia after stroke: a randomized trial. J Int Med Res. 2017;45(3):969-979. DOI: 10.1177/0300060517693760. PubMed
- Park JS, Oh DH, Chang MY, Kim KM. Effect of effortful swallowing combined with CTAR in post-stroke dysphagia. J Oral Rehabil. 2018;45(6):426-432. DOI: 10.1111/joor.12648. PubMed
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


