糖尿病の足病変スクリーニング| PT の 60 秒チェック(この記事の結論)
臨床の “評価→介入→記録” を体系化したい方へ。 臨床力を伸ばすロードマップを見る ※この記事は、糖尿病( DM )の足病変(足潰瘍・切断)を “見落とさない” ための評価手順を、 PT 視点で短時間に回せる形にまとめます。
糖尿病の足病変は、「皮膚の小さな傷」→「感染」→「潰瘍」へ進みやすく、早期のスクリーニングが重要です。 PT は運動療法や歩行練習の前後に、皮膚・感覚・循環・靴を短時間で確認し、危険サインがあれば “運動を止める/医療者へつなぐ” 判断ができます。
本記事では、観察(皮膚・爪・胼胝)、10 g モノフィラメント、128 Hz 音叉、脈・冷感など循環、靴の適合を 1 セットとして整理します。最後に、リスク分類とフォロー頻度、中止基準、記録テンプレまで “貼れる形” でまとめます。
なぜ PT が足をみるべきか
糖尿病性末梢神経障害( DPN )では、痛みを感じにくい=傷に気づきにくい状態になります。そこに不適切な靴や足部変形が重なると、歩行・立位練習の “いつもの負荷” が、潰瘍の引き金になりえます。
逆にいえば、 PT がリハ場面で “足の赤旗” を拾い、負荷調整(オフローディングを意識した介入)と 早期連携ができれば、重症化を防げる可能性があります。評価は難しくありません。まずは 60 秒で回せる型を作るのがコツです。
PT 版 60 秒スクリーニング:観察・感覚・循環・靴
最初は “この 4 点だけ” で十分です。全てを毎回フルでやるより、短くても継続できる形が現場向きです。
| 項目 | 見るところ | 拾いたい “赤旗” | 次アクション |
|---|---|---|---|
| 観察 | 皮膚の乾燥・ひび割れ、発赤、水疱、胼胝、爪、変形 | 潰瘍・浸出液、感染疑い、強い発赤/熱感、急な腫れ | 運動を止める/医師・看護へ共有、足部の保護 |
| 感覚 | 10 g モノフィラメント、音叉( 128 Hz ) | 保護感覚低下( LOPS ) | 負荷量の再設計、靴・装具の相談、頻回フォロー |
| 循環 | 足背動脈/後脛骨動脈、冷感、毛細血管再充満 | 冷たい/蒼白、脈が触れにくい、安静時痛 | 循環評価の依頼、疼痛や皮膚変化は早期連携 |
| 靴 | つま先の余裕、踵の固定、当たり・摩耗、異物 | 当たりがある/サイズ不適、硬い縫い目、異物 | 靴の見直し、インソール検討、自己管理指導 |
観察:皮膚・爪・胼胝・変形の “赤旗”
観察は “足底だけ” で終わらせず、趾間(ゆびの間)・踵・外側縁・母趾球/小趾球まで見ます。乾燥や胼胝は “前ぶれ” になりやすいので、軽くても拾う価値があります。
特に、熱感・腫脹・発赤がセットで出る場合は要注意です。痛みが弱い(または無い)からこそ、視診所見が判断材料になります。
| 場面 | NG | OK | 理由 |
|---|---|---|---|
| 足底だけ見る | 足底のみで終了 | 趾間・踵・外側縁・爪周囲まで確認 | 趾間の白癬や擦れが潰瘍の入口になる |
| 胼胝の扱い | 「硬いだけ」でスルー | 当たり部位と歩行負荷を推定し共有 | 局所高圧のサインで、潰瘍の “一歩手前” になりうる |
| 熱感・腫れ | 痛みがないので継続 | 運動を中止し、早期連携 | 感染や Charcot などの可能性があり進行が速い |
感覚:10 g モノフィラメントと 128 Hz 音叉
糖尿病の足評価で重要なのは、保護感覚の低下( LOPS )を拾うことです。 10 g モノフィラメントは “簡単で再現しやすい” 反面、手技が雑だと結果がぶれます。 1 分でよいので、手順を固定します。
また、モノフィラメント “だけ” に頼らず、音叉( 128 Hz )など別系統の検査を組み合わせると判断が安定します。
10 g モノフィラメント:最短で外さない手順
- 説明:「目を閉じて、触れたら ‘はい’ と言ってください」
- 当て方:皮膚に垂直 → しなる( buckling )まで押す → 約 1 秒保持 → 離す
- 注意:こする・連続で押し続ける・同じ順番で当て続けるのは避ける
- ポイント:胼胝の真上は避け、足底の “圧がかかる場所” を中心に
128 Hz 音叉:短時間でできる確認
- 母趾(遠位)などに当て、「振動を感じる/消えるタイミング」を確認する
- 左右差、以前より “鈍い” の訴えがあれば、モノフィラメント結果と合わせて解釈する
循環:脈・冷感・皮膚色で “危険な足” を拾う
末梢動脈疾患( PAD )があると、傷が治りにくく感染が長引きやすくなります。 PT は検査機器がなくても、脈・冷感・皮膚色・毛細血管再充満といった “目と手” の情報で異常を疑えます。
足が冷たい、蒼白、脈が触れにくい、安静時痛がある、歩くとふくらはぎが痛い(間欠性跛行)などがあれば、運動負荷を上げる前に共有しておくと安全です。
靴と靴下:合わない靴が “原因” になりやすい
足病変の引き金は “病気そのもの” だけではなく、靴の当たり・縫い目・異物などの小さな外傷であることが多いです。靴を見ないまま歩行距離だけ伸ばすと、トラブルに気づきにくくなります。
- 靴の中:砂・小石・シワのある中敷き・段差
- 摩耗:外側だけ極端に減る、踵がつぶれている
- サイズ:つま先が当たる、踵が抜ける(固定が弱い)
リスク分類とフォロー頻度(目安)
“今の所見” を、次のフォロー頻度につなげると運用が回ります。ここでは国際的に用いられる考え方に沿って、 PT が使いやすい表に整理します。
| リスク | 特徴 | 頻度の目安 | PT の負荷設計 |
|---|---|---|---|
| 0(非常に低い) | LOPS なし・PAD なし | 年 1 回 | 通常負荷で可。靴と皮膚の自己チェックを導入 |
| 1(低い) | LOPS または PAD のいずれか | 6〜12 か月ごと | 足底の当たりを前提に負荷を漸増。靴の点検を習慣化 |
| 2(中等度) | LOPS + PAD、または 変形を伴う | 3〜6 か月ごと | 局所高圧を避けたメニュー設計。皮膚変化は早めに共有 |
| 3(高い) | 既往:潰瘍/切断、腎不全、強い変形など | 1〜3 か月ごと | 負荷は慎重に。赤旗があれば “中止→連携” を最優先 |
運動療法の中止基準と再開の目安
足病変の疑いがあるときは、“痛みがないから大丈夫” ではなく、所見ベースで中止します。 PT が判断に迷う場面を、 OK / NG で整理します。
| 所見 | NG(続行) | OK(安全側) | メモ |
|---|---|---|---|
| 潰瘍・浸出液 | 歩行練習を継続 | 中止し共有。保護とオフローディングを優先 | 感染リスクが上がる |
| 急な熱感・腫脹・発赤 | 「捻っただけ」と判断 | 中止し早期連携 | 感染や Charcot の可能性 |
| 強い冷感・蒼白 | 負荷を上げる | 循環評価を優先し、負荷は一段落とす | PAD の可能性 |
| 新しい “当たり” | 同じ靴で距離を伸ばす | 靴の見直し、皮膚観察の頻度を上げる | 最初は小外傷が多い |
記録テンプレ:カルテに残す 8 項目
評価が “やりっぱなし” にならないよう、記録を定型化します。短くても、次回の比較ができる形が重要です。
- 皮膚:乾燥/亀裂/発赤/水疱/胼胝/潰瘍(部位)
- 爪:肥厚、巻き爪、爪周囲炎の疑い
- 感覚:モノフィラメント(反応の有無)、音叉(左右差)
- 循環:脈(足背/後脛骨)、冷感、皮膚色
- 浮腫:あり/なし、左右差
- 変形:外反母趾、槌趾、 Charcot 疑いなど
- 靴:当たり、摩耗、異物、サイズ感
- 判断:リスク分類(目安)と “次のフォロー頻度”
現場の詰まりどころ/よくある失敗
ここが詰まりやすいポイントです。対策を “型” にしておくと、忙しい日でも再現できます。
| 詰まりどころ | 起きがちなこと | 対策 | 記録の一言 |
|---|---|---|---|
| 時間がなくて省略 | その日の評価がゼロになる | 60 秒セット(観察・感覚・循環・靴)だけは固定 | 「60 秒スクリーニング実施」 |
| モノフィラメントがぶれる | 押し方が毎回違う | 垂直→しなる→ 1 秒→離す、を統一 | 「手順固定で実施」 |
| 赤旗を共有しない | 所見が埋もれる | 潰瘍・浸出液・熱感腫脹は “即共有” をルール化 | 「所見を共有済」 |
| 靴を見ない | 当たりの原因が残る | 靴の中の異物と摩耗だけでも毎回見る | 「靴内異物なし/当たり部位確認」 |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. モノフィラメントは毎回やるべきですか?
毎回フルで行うのが難しければ、まずは 観察(皮膚)+靴を毎回、感覚検査は リスクが高い人や変化があった日に優先する運用が現場的です。重要なのは “ゼロにしない” ことです。
Q2. 痛みがないのに赤い/腫れているときは?
痛みが弱いほど注意が必要です。熱感・腫脹・発赤がそろう場合は、感染や Charcot なども鑑別に挙がります。 PT は安全側に倒して、運動は中止し共有します。
Q3. 靴の何を見ればいいですか?
最初は ①靴の中の異物 ②当たり(擦れ) ③摩耗の 3 点で十分です。足病変の入口は “小外傷” が多いので、ここだけでも有用です。
おわりに
糖尿病の足は、観察→感覚→循環→靴→リスク分類→記録→再評価の順で “同じ型” を回すと、見落としが減り介入の質が上がります。面談や職場選びで評価体制も整えたい方は、面談準備チェック&職場評価シートも活用してみてください。
参考文献
- American Diabetes Association Professional Practice Committee. 12. Retinopathy, Neuropathy, and Foot Care: Standards of Care in Diabetes—2026. Diabetes Care. 2025;49(Suppl 1):S261–S276. doi: 10.2337/dc26-S012 (PMC: PMC12690177)
- Boulton AJM, Armstrong DG, Albert SF, et al. Comprehensive foot examination and risk assessment: a report of the task force of the Foot Care Interest Group of the American Diabetes Association. Diabetes Care. 2008;31(8):1679–1685. doi: 10.2337/dc08-9021 (PubMed: 18663232)
- Bus SA, Sacco ICN, Monteiro-Soares M, et al. Guidelines on the prevention of foot ulcers in persons with diabetes (IWGDF 2023 update). Diabetes Metab Res Rev. 2024;40(3):e3651. doi: 10.1002/dmrr.3651 (PubMed: 37302121)
- Schaper NC, van Netten JJ, Apelqvist J, et al. Practical guidelines on the prevention and management of diabetes-related foot disease (IWGDF 2023 update). Diabetes Metab Res Rev. 2024. doi: 10.1002/dmrr.3657
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

