糖尿病の合併症がある人の運動療法|禁忌・注意点(網膜症/腎症/神経障害)

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糖尿病の合併症がある人の運動療法|この記事の結論

臨床の “判断基準” を整理して、迷いを減らしたい方へ。 臨床力を体系化するロードマップを見る

糖尿病の運動療法は「やった方がいい」が原則ですが、合併症(網膜症/腎症/末梢・自律神経障害/足病変/心血管リスク)で “避けたい動き” が変わります。禁忌・注意点を先に押さえると、運動処方の安全性が一段上がります。

この記事では、合併症別の NG/OK と実施前チェック、中止基準(赤旗)を表でまとめます。関連:糖尿病( DM )評価の全体像も併せて確認すると、評価→介入までの流れがつながります。

なぜ “合併症別” に注意点が変わるのか

合併症があると、運動そのものが悪いのではなく、「強度」「動き(いきみ・頭位・荷重)」「環境(脱水・高温)」「モニタリング」の条件でリスクが変動します。たとえば重症の糖尿病網膜症では、いきみや高強度が硝子体出血などのリスク要因になります。

一方で、腎症や末梢神経障害があっても、やり方を整えれば運動は可能です。つまり臨床では、合併症を “運動禁止の理由” ではなく “運動条件を決める情報”として扱うのがポイントです。

合併症別:運動療法の禁忌・注意点 早見表

まずは “何を避けるか” を先に決め、次に “代替案” を選ぶと安全です。現場ではこの表を起点に、患者さんの状態(痛み・バイタル・足の皮膚・視力変化・起立時症状)で微調整します。

糖尿病の合併症別|運動療法の NG/OK と実施前チェック(成人の目安)
合併症 避けたい運動・動き 選びやすい代替( OK ) 実施前チェック
重症 網膜症
(増殖/重症 NPDR )
高強度の有酸素・筋トレ、息こらえ( Valsalva )、ジャンプ/衝撃、頭低位・倒立系 低〜中強度の有酸素(歩行・自転車エルゴ等)、呼吸を止めない軽負荷レジスタンス、分割・短時間 眼科の運動制限、最近の視力変化・飛蚊症、血圧(高値なら強度を下げる)
腎症/ CKD 脱水を招く長時間・高温環境、高強度での急増、重い息こらえ 中強度までの有酸素+軽〜中等度のレジスタンス、こまめな休憩と水分、透析中の運動(施設方針に従う) 血圧、浮腫・息切れ、当日の体調(倦怠感・感染)、透析の有無と指示
末梢神経障害
(感覚低下)
足部への過負荷(長距離歩行・ラン・段差反復)、合わない靴での荷重運動 非荷重〜低荷重(自転車・水中・上肢エルゴ)、荷重なら “短時間+皮膚チェック” で漸増 足の観察(発赤・胼胝・水疱)、履物・インソール、モノフィラメント等の保護感覚
自律神経障害 急な方向転換・起立反復(起立性低血圧がある場合)、脱水・高温、過度な息こらえ ウォームアップ長め、姿勢変換は段階的、室温管理と水分、 RPE で強度管理 立位でのめまい・ふらつき、起立時の血圧、発汗異常、服薬(降圧薬等)
足病変(活動性)
潰瘍・感染・ Charcot など
患部への荷重運動(歩行運動の反復、立位負荷の継続) 原則は “免荷” を優先し、上肢・体幹中心、非荷重有酸素(状態により) 創の状態(滲出・臭い・発赤)、疼痛、発熱、医師の免荷指示
心血管リスク高値
(狭心症症状など)
症状を無視した継続、高強度の急導入 症状・バイタルを見ながら段階的に、ウォームアップ/クールダウンを徹底 胸痛・圧迫感、息切れの変化、 SpO2 、血圧、既往と運動許可

セッション中の中止基準(赤旗)

「続けるか止めるか」を迷う場面では、基準を先に共有しておくと判断が速くなります。特に自律神経障害や心血管リスクがある場合は、自覚症状を最優先で拾います。

運動療法の中止基準(赤旗)|症状・バイタル・血糖のチェック
カテゴリ 中止を考えるサイン(例) まず行う対応
循環・呼吸 胸痛/圧迫感、冷汗、強い息切れ、失神前駆、 SpO2 の急低下 運動中止→安静、バイタル確認、必要時は医師へ報告・救急対応
自律神経 立位でのふらつき増悪、顔面蒼白、頭痛、悪心(起立性低血圧を疑う) 座位/臥位へ、下肢挙上、ゆっくり体位調整、水分・環境調整
眼(網膜症) 急な視力変化、強い眼の痛み、飛蚊症の増悪 運動中止、眼科へ相談(当日対応が必要なことがあります)
足(神経障害/足病変) 局所の熱感・発赤、疼痛、皮膚損傷(靴ずれ・水疱) 荷重中止、皮膚保護、必要時はフットケア外来・医師へ連携
血糖 低血糖症状(ふるえ・冷汗・集中困難)、高血糖症状(強い口渇・倦怠感) SMBG / CGM で確認し、施設手順に従って補食・休息・報告

実施前の 60 秒チェック(現場の詰まりどころ対策)

忙しい現場ほど「合併症は知っているけど、今日の状態を見落とす」ことが起きます。毎回ぜんぶは無理でも、足・眼・起立時症状・バイタル・補食の 5 点だけは最短で押さえると事故が減ります。

  • 足:発赤/水疱/胼胝/熱感(靴もチェック)
  • 眼:最近の視力変化や飛蚊症の訴え
  • 起立:めまい・ふらつき(自律神経障害を疑う)
  • バイタル:血圧・脈拍・ SpO2 ・呼吸困難の有無
  • 血糖: SMBG / CGM の傾向、運動前の補食・インスリン調整の有無

よくある質問(FAQ)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. 網膜症があると筋トレは全部ダメですか?

「全部ダメ」ではなく、重症度(増殖/重症 NPDR )やり方(息こらえ・高負荷・衝撃)がポイントです。重症例では、高強度やいきみを伴う運動は避け、低〜中強度で呼吸を止めない形に調整します。

Q2. 腎症( CKD )でも有酸素運動はしていいですか?

多くの場合、中強度までの有酸素運動は実施可能です。脱水・高温・急な強度増加を避け、血圧や体調(浮腫・息切れ・感染)を見ながら段階的に進めます。

Q3. 末梢神経障害がある人は歩行練習を避けるべきですか?

足の皮膚損傷リスクが上がるため、足の観察と履物調整が前提です。状態が安定していれば短時間から漸増できますが、赤旗(発赤・水疱・熱感)が出たら荷重量を下げ、非荷重の代替(自転車など)へ切り替えます。

Q4. 自律神経障害が疑われるときの “安全な進め方” は?

起立性低血圧がある場合は、姿勢変換を段階的にし、急な方向転換・脱水・高温を避けます。ウォームアップを長めに取り、 RPE(自覚的運動強度)で “ややきつい” を超えない範囲から始めるのが安全です。

Q5. 足潰瘍があるときは運動を完全に中止しますか?

原則は患部の免荷を優先しますが、上肢・体幹中心の運動や非荷重の活動は、状態と指示の範囲で検討できます。創の状態が悪化するサインがあれば、まず荷重を止めて医師・フットケアへ連携します。

まとめ

糖尿病の運動療法は、合併症があっても “条件設定” を整えれば実施できる場面が多いです。臨床では、合併症→避けたい動き→代替案→実施前チェック→赤旗の順に整理すると判断が速くなります。

次の一手として、現場で使える「面談準備チェック」と「職場評価シート」を手元に置いておくと、指導や説明の質が安定します。続けて読む:/mynavi-medical/#download

参考文献

  1. American Diabetes Association Professional Practice Committee for Diabetes. 5. Facilitating Positive Health Behaviors and Well-being to Improve Health Outcomes: Standards of Care in Diabetes—2026. Diabetes Care. 2026;49(Suppl 1):S89-S131. DOI: 10.2337/dc26-S005
  2. American Diabetes Association Professional Practice Committee for Diabetes. 12. Retinopathy, Neuropathy, and Foot Care: Standards of Care in Diabetes—2026. Diabetes Care. 2026;49(Suppl 1):S261-S276. DOI: 10.2337/dc26-S012(PubMed: 41358886
  3. Colberg SR, Sigal RJ, Yardley JE, et al. Physical Activity/Exercise and Diabetes: A Position Statement of the American Diabetes Association. Diabetes Care. 2016;39(11):2065-2079. DOI: 10.2337/dc16-1728(PubMed: 27926890
  4. Colberg SR. Key Points from the Updated Guidelines on Exercise and Diabetes. Front Endocrinol (Lausanne). 2017;8:33. DOI: 10.3389/fendo.2017.00033
  5. American Diabetes Association; European Association for the Study of Diabetes. 2026 ADA-EASD Management of Type 1 Diabetes Consensus Report( Draft for consultation ). 2025.(PDF)リンク

著者情報

rehabilikun rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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