嚥下評価の実務フロー|拾い上げ→重み付け→再評価

栄養・嚥下
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嚥下評価の全体像(スクリーニング→介入設計まで)

嚥下評価を「手順」で学ぶ流れを見る( ST キャリアガイド )

嚥下評価は「テストを当てる」よりも、安全確認 → スクリーニング → 臨床評価( CSE )→ 必要なら FEES / VF → 介入設計 → 再評価を、同じ順番で回し続けることが大事です。本記事は、その“回し方(親記事)”を 1 本にまとめ、現場で迷いやすい判断ポイント(中止基準・次の一手・記録の残し方)を整理します。

この記事の位置づけ(親記事/小記事)

このテーマは、親記事=「嚥下評価の全体フロー」小記事=「各ツールの使い方」で分けると、内部リンク設計と記事の役割がブレません。

  • 親記事(本記事):スクリーニング〜介入設計までの“順番”と“判断”を固定し、どの現場でも再現できる土台を作ります。
  • 小記事:RSST、 MWST / WST、 DSS、 FOIS / FILS、 KT バランスチャート( KTBC )など、個別ツールを深掘りします。

現場で回る嚥下評価フロー(まず結論)

  1. 安全確認:今 “食べてよい条件” か(呼吸・覚醒・循環・口腔・姿勢)。
  2. スクリーニング:低コストで “危険信号” を拾う( RSST、簡易水飲み、声・咳・ SpO_{2} など)。
  3. 臨床嚥下評価( CSE ):嚥下 5 相のどこで詰まるかを推定し、食形態と介助条件を仮決めします。
  4. FEES / VF の要否判断:誤嚥・残留・反復誤嚥の疑いが強い、または “食形態の分岐” が大きいときは検討します。
  5. 介入設計:姿勢・環境・口腔・呼吸・活動・栄養を束ね、優先順位と担当を決めます。
  6. 再評価:病状変化/食形態変更/薬剤変更/疲労の増減など “条件が変わるたび” に回します。

まず確認:中止・慎重判断が必要な状態

嚥下評価は “検査を成立させる” より、安全に評価できる条件を整えるほうが重要です。次に該当する場合は、無理に試行せず、医師・ ST と協働して順番を組み替えます。

嚥下評価の前に確認したい中止・慎重判断の目安(成人)
分類 代表例 次の一手(例) 記録のコツ
呼吸 呼吸苦が強い/呼吸数増加/湿性嗄声が増悪 離床量・呼吸介入・体位の再調整、食事時間の変更 「呼吸が落ち着く条件(体位・時間帯)」もセットで残す
循環・意識 傾眠/せん妄/急な血圧変動 覚醒を優先、鎮静・薬剤・睡眠を含めて条件調整 “できない” ではなく “条件が合わない” を書く
口腔 口腔内が不潔/乾燥/義歯不適合 口腔ケア・保湿・義歯調整を先に入れる 介入後の変化(唾液・咳・声)を比較できる形で記録
姿勢 骨盤後傾で頭頸部が安定しない 座位再建(骨盤・体幹・頭頸部)→ 少量から試行 “良かった姿勢条件” を次回の再現ポイントとして書く

スクリーニング:最小コストで “危険信号” を拾う

スクリーニングは、誤嚥を “確定” する検査ではなく、誤嚥・残留・咳反射低下の疑いを早期に拾い、次の評価( CSE / FEES / VF )につなぐための入口です。水飲みテストは便利ですが、実施条件(姿勢・覚醒・呼吸・口腔)を整えないと偽陰性・偽陽性が増えます。

  • RSST:唾液嚥下の反復が難しい場合、咽頭期の問題や疲労・覚醒の影響を疑いやすいです。
  • 水飲み(例: 3 oz ):むせ・湿性嗄声・呼吸変化が出るときは、形態や量を戻して安全域を探します。
  • 観察:声(湿性嗄声)、咳(弱い・出ない)、呼吸(食前後で乱れる)、 SpO_{2} の変化など。

臨床嚥下評価( CSE ):嚥下 5 相で “詰まりどころ” を推定する

CSE は “食べられる/食べられない” の二択ではなく、どの相で何が起きているかを推定し、介入の当たりを付ける評価です。観察は「予備期(食環境)→ 口腔準備期(咀嚼)→ 口腔期(送り込み)→ 咽頭期(嚥下反射・喉頭防御)→ 食道期」の順で、原因を切り分けやすくなります。

  • 予備期:覚醒・注意・環境(騒音、促し)・食具・一口量。
  • 口腔準備期:咀嚼、食塊形成、唾液、口腔内残留。
  • 口腔期:送り込みのタイミング、舌運動、食塊の移送。
  • 咽頭期:むせ、湿性嗄声、嚥下後の呼吸変化、反復嚥下。
  • 食道期:胸やけ、つかえ感、食後の逆流疑い。

FEES / VF を検討したい場面(目安)

FEES / VF は “必要なときに、必要な目的で” 入れると効果が高いです。特に、誤嚥の疑いが強いのにサインが乏しい(サイレントアスピレーションが疑われる)、残留が多く食形態の分岐が大きい肺炎を反復するといったケースでは、視覚情報で病態を把握し、チームで方針をそろえやすくなります。脳卒中では、入院早期のスクリーニングと評価の重要性がガイドラインでも強調されています。

KT バランスチャート( KTBC )は “計画と共有” の段で効く

KTBC は、嚥下だけを狙い撃ちするツールというより、「口から食べる」を支える要素を多職種で見える化し、介入の優先順位を共有するための枠組みです。スクリーニングや CSE で得た情報を、姿勢・活動・口腔・呼吸・栄養まで含めて 1 枚に整理できるのが強みになります。

続けて読む:KT バランスチャート( KTBC )の目的・使い方・評価のコツ

介入設計:スコアより “優先順位” を決める

介入設計は、① いまの安全域(食形態・一口量・姿勢)を守りつつ、② 変えられる要素(条件)から手を入れていくのが基本です。嚥下の問題は単独で起きにくいので、担当職種をまたいで “束ねて” 進めます。

嚥下リハの介入設計:優先順位をつけるための整理(例)
領域 よくある課題 介入の例 担当(例)
姿勢・座位 骨盤後傾で頭頸部が不安定 座位再建、クッション、机高さ、頸部アライメント調整 PT / OT
口腔 乾燥・汚染・義歯不適合 口腔ケア、保湿、義歯調整、食前の口腔準備 看護 / 歯科 / ST
呼吸 湿性嗄声、咳が弱い、食後に息切れ 呼吸介入、休息の挿入、食事ペース調整、離床量の最適化 PT / 看護
食形態・一口量 むせる/残留が多い 量・速度の調整、とろみ、姿勢とセットでの条件設定 ST / 管理栄養士
活動・耐久性 食事が続かない、疲労で後半に崩れる 食事時間の再設計、活動量の配分、休息戦略 PT / OT / 看護
栄養 摂取不足、体重減少、低栄養リスク 摂取量の “確保” を優先、補助食品、経路の検討 管理栄養士 / 医師

再評価:タイミングを決めて “変化点” を拾う

嚥下は日内変動・体調変動が大きいので、同じ条件で比較できる再評価が強い武器になります。目安としては、入院直後/病状変化時/食形態変更時/薬剤変更時/義歯調整後/肺炎や発熱の前後など “条件が変わったとき” に回します。記録は「スコア」より、安全域(条件)と、次に変える一手が残るとチームが動きやすくなります。

現場の詰まりどころ・よくある失敗

嚥下評価で詰まりやすいのは、「評価ができたのに、次の計画に落ちない」ケースです。原因は、条件が書けていない/担当が決まっていない/再評価のタイミングが不明に集約されます。

嚥下評価が “回らない” ときの詰まりどころ(原因→対策)
詰まり 起きやすい原因 対策 記録の一言例
同じ検査でも結果がブレる 姿勢・覚醒・呼吸の条件が一定でない “成立条件” を先に固定してから評価 「骨盤前傾保持+頸部中間位で実施」
むせがないのに肺炎を反復 サイレントアスピレーション疑い FEES / VF を検討し、病態を可視化 「むせなしだが湿性嗄声と食後の呼吸増悪あり」
“食形態変更” だけで終わる 姿勢・口腔・活動が置き去り 条件介入(座位・口腔・呼吸)を束ねる 「形態だけでなく座位再建と食前口腔ケアをセット」
チームで情報が共有できない 課題は書いたが “担当” と “期限” がない 誰が・何を・いつまでに、で書く 「 PT :座位調整/ ST :一口量設計( 1 週で再評価 )」

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. KTBC は “いつ” 入れるのが効きますか?

A. スクリーニングや CSE で “危険信号” が見えたあと、介入の優先順位を多職種でそろえたいタイミングが最も相性が良いです。食形態の調整だけでなく、座位・口腔・呼吸・活動・栄養まで含めて “次の一手” を決める場面で、整理力が上がります。

Q2. スコアが低い項目が多いとき、何から手を付けますか?

A. まずは安全条件(呼吸・覚醒・姿勢・口腔)を整えて “食べられる土台” を作ります。次に、変えやすい条件(座位・一口量・ペース・口腔ケア)から介入し、最後に訓練要素(筋力・協調・耐久性)を積み上げると、転びにくいです。

Q3. 水飲みでむせたら、すぐ禁食にすべきですか?

A. むせは重要なサインですが、即 “禁食一択” ではありません。姿勢・覚醒・一口量・速度の条件で変わることがあるため、安全域を探しつつ、必要なら ST と協働して FEES / VF を検討します。肺炎の既往や呼吸状態が不安定な場合は、より慎重に判断します。

Q4. 再評価の頻度はどのくらいが現実的ですか?

A. “日付で固定” より、条件が変わったときに回すのが現実的です。食形態変更、義歯調整、発熱・肺炎の前後、薬剤変更、離床量の増減などが、再評価の合図になります。記録は「前回と同じ条件か」を残すと比較しやすいです。

参考文献

  1. Maeda K, Shamoto H, Wakabayashi H, et al. Reliability and Validity of a Simplified Comprehensive Assessment Tool for Feeding Support: Kuchi-Kara Taberu Index. J Am Geriatr Soc. 2016;64(12):e248-e252. DOI: 10.1111/jgs.14508
  2. DePippo KL, Holas MA, Reding MJ. Validation of the 3-oz water swallow test for aspiration following stroke. Arch Neurol. 1992;49(12):1259-1261. DOI: 10.1001/archneur.1992.00530360057018
  3. 小口和代, 才藤栄一, 水野雅康, 他. 機能的嚥下障害スクリーニングテスト「反復唾液嚥下テスト」( RSST )の検討( 1 )正常値の検討. リハビリテーション医学. 2000;37(6):375-382. DOI: 10.2490/jjrm1963.37.375
  4. Dziewas R, Michou E, Trapl-Grundschober M, et al. European Stroke Organisation and European Society for Swallowing Disorders guideline for the diagnosis and treatment of post-stroke dysphagia. Eur Stroke J. 2021. PubMed: 34746431
  5. 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会. 嚥下障害診療ガイドライン( 2024 年版 刊行案内 ). 公式ページ

おわりに

嚥下評価は、安全の確保 → スクリーニング → 条件をそろえた観察 → 介入設計 → 再評価の “リズム” を崩さないほど、チームが動きやすくなります。次は、面談準備チェックと職場評価シートで学びを実装に落とし込めるので、必要なら /mynavi-medical/#download もあわせて活用してみてください。

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