エネルギー必要量( TEE )の計算式(この記事の結論)
必要エネルギー量は「式で 1 回」ではなく、レンジで決めて“同条件で見直す”と迷いません。 PT キャリアガイドを見る(全体の流れ)
結論として、エネルギー必要量( TEE, kcal/日 )は TEE=BEE×活動係数( AF )×ストレス係数( SF )で整理すると、チームでの合意形成が速くなります。BEE は 推定式( MSJ / 改訂ハリス )、または可能なら 間接熱量測定( IC )を起点にします。
ただし、式は「出発点」です。現場で大切なのは、①まずレンジで初期設定し、②摂取率・体重/浮腫・離床量で過不足を判断して、③同条件で再評価できる運用に落とすことです。
全体像: 3 つの方法を “整合” させると強い
必要エネルギー量の見積もりは、方法が複数あります。実務では、(1)BEE×AF×SF、(2)kcal/kg 法、(3)IC(測定)を「どれか 1 つに固定」ではなく、整合をとって最終レンジを決めるとブレが減ります。
特に急性期や病態変動が大きい症例では、推定式の誤差が積み上がるため、可能なら IC を優先し、難しければ “レンジ運用→短い間隔で見直し” に切り替えるのが安全です。
| 方法 | 強み | 弱み(落とし穴) | おすすめの使い方 |
|---|---|---|---|
| BEE×AF×SF | 説明しやすい/院内共有しやすい | 係数の置き方でブレる | 初期レンジの起点にする |
| kcal/kg 法 | 速い/見積もりの補助に便利 | 体重の選び方で過大・過小 | クロスチェックに使う |
| IC(間接熱量測定) | “いまの代謝” を反映しやすい | 条件固定が崩れると誤読 | 重症・変動大で優先 |
基本式: TEE=BEE×AF×SF
BEE(基礎代謝量)は推定式( MSJ / 改訂ハリス )または IC を用います。そこに AF(活動係数)と SF(ストレス係数)を掛けて TEE を推定します。
重要なのは、AF と SF を “点” で決め打ちしないことです。現場では、AF と SF をレンジで運用し、摂取率と活動量の変動に合わせて “同じ前提” で再評価できるようにします。
活動係数( AF )の目安
AF は「日内の活動量」を反映させる係数です。リハの時間だけでなく、病棟生活(離床時間、歩数、ADL の自立度)を含めて考えるとズレにくいです。
| 状態(目安) | AF | PT 観察の要点 | よくあるズレ |
|---|---|---|---|
| 臥床主体 | 1.20 | 端座位が短い/離床が不安定 | リハ 1 回だけで高 AF にしがち |
| 軽い離床 | 1.30–1.40 | 病棟内移動が増える時期 | 疲労蓄積を見落としやすい |
| 日常生活主体 | 1.50–1.60 | ADL の自立度が上がる | 摂取率が追い付かないことがある |
| 作業・運動あり | 1.70–1.80 | 階段・長距離歩行など | 水分・便通の影響で体重が揺れる |
ストレス係数( SF )の目安
SF は「病態ストレス(炎症・侵襲・発熱など)」を反映させる係数です。病期が動きやすい症例ほど、SF を高く見積もるより、レンジで置いて短い間隔で見直す方が安全です。
| 病態(例) | SF | メモ | 見直しトリガー |
|---|---|---|---|
| 術後(軽〜中等) | 1.10–1.20 | 経過が良ければ下がる | 炎症反応・疼痛が落ちる |
| 感染症 | 1.20–1.30 | 発熱・呼吸努力で変動 | 解熱・呼吸状態の改善 |
| 敗血症/多発外傷 | 1.30–1.50 | 重症度で幅が大きい | 循環動態・鎮静の変化 |
| 熱傷 | 1.50–2.00 | 侵襲が強い | 創の面積・治癒経過 |
| COPD 増悪など | 1.20–1.30 | 呼吸仕事量で上がる | 呼吸努力・活動量の変化 |
BEE の推定式( MSJ / 改訂ハリス )
推定式は “どれが正しいか” より、施設内で方法を固定して運用すると再評価が安定します。一般成人では MSJ が実用的な場面が多く、改訂ハリスは比較用に持っておくと便利です。
| 式 | 対象 | 概要 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| MSJ( Mifflin-St Jeor ) | 一般成人 | 体重・身長・年齢で算出 | 体重の定義(浮腫・肥満)でブレる |
| 改訂ハリス( Roza & Shizgal ) | 比較用 | 体重・身長・年齢で算出 | MSJ と差が出たら前提を再点検 |
kcal/kg 法の使いどころ(クロスチェック用)
kcal/kg 法は “速い” のが強みです。いきなり最終値にするより、BEE×AF×SF の結果が現実的かを確認する補助として使うと失敗が減ります。
| 状況(例) | レンジ(目安) | 使うときのコツ | よくある失敗 |
|---|---|---|---|
| 一般病棟 | 25–30 kcal/kg/日 | “初期レンジ” の確認に使う | 体重の定義が曖昧 |
| 高齢・低活動 | 23–27 kcal/kg/日 | 摂取率と疲労で微調整 | 過小評価のまま固定 |
| リハ強度高め | 28–33 kcal/kg/日 | 離床量の増減で再評価 | AF と整合しない |
実践: 5 分で決める “ 5 ステップ ”( PT の臨床思考 )
現場で迷うのは「式」より「どれを採用して、いつ見直すか」です。次の 5 ステップにすると、判断が止まりにくくなります。
| ステップ | やること | PT の観察ポイント | アウトプット(例) |
|---|---|---|---|
| ① 前提整理 | 病期・病態・体重/BMI・摂取経路を確認 | 浮腫、呼吸努力、疲労、摂取率 | 「急性 / 回復期、感染あり」 |
| ② 方法選択 | IC が可能か、推定式かを決める | 条件固定の可否(安静・酸素など) | 「MSJ を起点にする」 |
| ③ 係数をレンジで置く | AF と SF を “幅” で設定 | 日内の離床量、発熱・侵襲の変動 | 「AF 1.3–1.4、SF 1.1–1.2」 |
| ④ クロスチェック | kcal/kg 法でも概算し整合を確認 | 体重の定義( BW / IBW など) | 「乖離 10% 超なら前提再点検」 |
| ⑤ 見直し条件を決める | 同条件で再評価できる “観察項目” を固定 | 摂取率・浮腫・便通・離床量 | 「 2–3 日で再評価」 |
低栄養の “診断” と “介入優先度” をそろえると、エネルギー設定の議論が速くなります。関連:GLIM 基準(低栄養の診断)を現場で迷わず運用する
再見直しトリガー(毎日チェック)
必要エネルギー量は 1 回決めて終わりではありません。特に回復期では、離床量や摂取率が数日単位で変わるため、見直しの合図を先に決めておくと運用が回ります。
| 項目 | 見るポイント | 見直しの目安 | 次の 1 手(例) |
|---|---|---|---|
| 摂取率 | 実摂取量(経口/経管) | 70% 未満が 2 日以上 | レンジを下げる / 目標に届く設計へ |
| 体重・浮腫 | 週の変動と水分バランス | 週 ±0.5–1.0 kg を超える | 水分影響を疑い前提を再点検 |
| 便通・消化 | 便秘/下痢/嘔気 | 便秘 3 日以上 or 下痢が持続 | 投与速度・内容を調整 |
| 離床量 | 歩数・距離・日内活動 | 予定より大きく乖離 | AF を再評価 |
| 疲労・創 | 倦怠・治癒の停滞 | 疲労蓄積 / 治癒が止まる | 目標とリハ負荷の整合を取る |
現場の詰まりどころ(よくある失敗と対策)
いちばん多い失敗は、係数を “高めに 1 回” 置いて固定してしまうことです。摂取率が追い付かず、結果として「食べられない」だけが残ります。まずはレンジの下端から開始し、摂取率と活動量がそろったら段階的に上げる方が、現場は回ります。
次に多いのが、AF とリハ負荷が噛み合っていないパターンです。リハ中の運動量だけで AF を上げるのではなく、病棟生活の離床が “日内でどれだけ積めているか” を含めて置くとズレが減ります。
| 失敗 | 原因 | 対策(最短) | 記録の一言(例) |
|---|---|---|---|
| 係数を高めに固定してしまう | “安全側” のつもりが過大 | レンジ下端→段階的に調整 | 「下端から開始し 2–3 日で再評価」 |
| AF がリハ負荷と不一致 | リハ中だけで判断 | 日内離床(病棟)で AF を置く | 「日内離床を含め AF を再設定」 |
| kcal/kg だけで決め打ち | 計算が速い反面、前提が曖昧 | BEE×AF×SF と整合させる | 「乖離 10% 超は前提再点検」 |
| 体重変動=栄養効果と誤読 | 水分・便通の影響 | 浮腫・摂取率・離床量で判断 | 「体重は水分影響を含む」 |
よくある質問( FAQ )
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AF と SF は 1 つの値に決めるべき?
結論として、最初から 1 つに決め打ちするとブレやすいです。レンジで置いて「見直し条件」を決め、同条件で再評価できる運用にすると迷いません。
推定式( MSJ / 改訂ハリス )はどちらを使う?
施設で方法を固定するのが最優先です。実務では MSJ を起点にし、改訂ハリスは差が出たときの “前提再点検” に使うと整理しやすいです。
kcal/kg 法と、BEE×AF×SF が大きくズレたら?
体重の定義(浮腫・肥満)、係数の置き方、病期(炎症や発熱)を 먼저点検します。ズレは “間違い” ではなく、前提が揺れているサインとして扱うと安全です。
毎日どこを見れば「過不足」を判断できる?
摂取率、体重/浮腫、便通、離床量、疲労感の 5 点です。どれも “同条件で比較” できる形で記録すると、判断が止まりません。
参考文献
- Weir JB de V. New methods for calculating metabolic rate with special reference to protein metabolism. J Physiol. 1949;109(1-2):1-9. doi: 10.1113/jphysiol.1949.sp004363
- Mifflin MD, St Jeor ST, Hill LA, Scott BJ, Daugherty SA, Koh YO. A new predictive equation for resting energy expenditure in healthy individuals. Am J Clin Nutr. 1990;51(2):241-247. doi: 10.1093/ajcn/51.2.241
- Roza AM, Shizgal HM. The Harris Benedict equation reevaluated: resting energy requirements and the body cell mass. Am J Clin Nutr. 1984;40(1):168-182. doi: 10.1093/ajcn/40.1.168
- Singer P, Blaser AR, Berger MM, et al. ESPEN guideline on clinical nutrition in the intensive care unit. Clin Nutr. 2019;38(1):48-79. doi: 10.1016/j.clnu.2018.08.037
- Delsoglio M, Dupertuis YM, Oshima T, van der Plas M, Pichard C. Indirect calorimetry in clinical practice. J Clin Med. 2019;8(9):1387. doi: 10.3390/jcm8091387
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下
おわりに
必要エネルギー量は、前提整理→方法選択→係数をレンジで置く→クロスチェック→同条件で再評価の “リズム” で回すと、現場の迷いが減ります。式は出発点として、摂取率と活動量がそろう設定に寄せていくのがコツです。
行動の優先順位が詰まるときは、面談準備チェックと職場評価シートで「条件の棚卸し」を先にやっておくと進みやすいです。マイナビコメディカルの無料ダウンロードから使えます。


