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栄養管理のポイント

高齢者は低栄養の有病率が高いことから、適切な評価に基づく栄養管理が重要になります。
先行研究によると、低栄養リスクのある患者に対し、個別化した栄養管理の有効性を示した報告があります。
その結果をもたらした要因として、栄養管理の中でも「適切なエネルギー必要量」を設定したことがあげられています。
エネルギー摂取量は臨床アウトカムの予測因子であると考えられており、エネルギー摂取量不足は死亡リスクの増加と関連しています。
また、問題になるのは摂取量不足だけではなく、エネルギー摂取過剰も死亡リスクの増加と関連していることがわかっています。
以上のことから、超高齢化社会を突き進む本邦における低栄養問題を解消するためには、対象者に合った適正な「エネルギー必要量」を設定することが重要といえます。
エネルギー消費量の算出方法

適正なエネルギー必要量を設定するためには、エネルギー消費量を予測する必要があります。
摂取するエネルギー量については、食べるものや飲み物によって数値を算出することができますが、消費するエネルギー量については目に見えるものではないため、分かりにくい部分があります。
このようなエネルギー消費量ですが、実は数値を算出する方法がいくつかあり、その方法は以下の 3 種類に分類されます。
- 間接熱量計による測定
- Harris-Benedict の式
- 簡易式
これら 3 種類の方法について項目ごとにわかりやすく解説していきます。
間接熱量計による測定
間接熱量計は、患者の呼気中の酸素および二酸化炭素濃度を計測することで、エネルギー消費量を測定することができます。
間接熱量計を用いて安静空腹時に測定した消費エネルギーは、安静時消費エネルギー(resting energy expenditure)と呼ばれています。安静時消費エネルギー(REE)は、仰臥位や坐位など、安楽な姿勢で活動している状態のエネルギー代謝量になります。筋肉の維持や精神緊張に要するエネルギー消費量と、摂取したものの消化・ 吸収に要するエネルギー消費量の合計値となります。
日本静脈経腸栄養学会のガイドラインにおいても、消費エネルギーの算出方法として、間接熱量計による算出を推奨しています。
間接熱量測定は、呼気ガス分析により酸素消費量と炭酸ガス産生量から消費熱量を算出します。少なくとも 8 時間の絶食後に測定します。自発呼吸か人工呼吸器装着の患者での測定は可能ですが、経鼻酸素療法を実施している場合には測定することができません。
Harris-Benedictの式
日本語で読むとハリス・ベネディクトの式となります。
Harris-Benedict の式は 1918 年に出版された論文で発表されており、開発されてから 100 年以上が経過した、歴史ある消費エネルギーの計算方法になります。
Harris-Benedict の式は身体計測値や性別、年齢等の変数を組み合わせたものとなっており、以下の数式を使用します。
【男性】
66.47 + (13.75 × 体重) + (5 × 身長) - (6.76 × 年齢)
【女性】
665.1 + (9.56 × 体重) + (1.85 × 身長) - (4.67 × 年齢)
※体重:kg 身長:cm 年齢:歳
Harris-Benedict の式で求めた基礎エネルギー消費量(BEE)に、活動係数とストレス係数を乗じることで、エネルギー消費量(total energy expenditure:TEE)を算出することができます。
総エネルギー消費量 = 基礎エネルギー消費量(BEE) × 活動係数(AF)× ストレス係数(SF)
一般的に Harris-Benedict の式は基礎エネルギー消費量の予測式であるとの認識であり、論文にもそのように記載されています。
一方、ESPEN(欧州臨床栄養代謝学会)のエキスパートグループの論文では、Harris-Benedict の式は安静時エネルギー消費量の予測式であると記載されています。
使用の注意点として、Harris-Benedict の式の研究データとなっている被検者は 21 ~ 70 歳の欧米人になります。
欧米人と日本人では身体的特徴が異なることと、100 年経過したことで世界的に高齢化が進み、現在では Harris-Benedict の式を使用することになる多くの対象者が 70 歳以上になると考えられます。
簡易式
簡易式は、エネルギー消費量(total energy expenditure:TEE)を算出することができます。
上述した Harris-Benedict の式はその数式から、やや複雑な印象を受ける方もいると思います。医療機関などの臨床現場では多くの患者に対して個別の栄養管理計画を立案する必要があるため、全患者に対して Harris-Benedict の式を使用してエネルギー消費量を算出することが困難な場合もあるかと思います。
そこで、臨床で良く使用されている方法が 「体重」 を使用したエネルギー消費量の推定になります。
この簡易式では 「体重」 に 「1 kg あたりのエネルギー必要量」 を乗じてエネルギー消費量を算出します。
「1 kg あたりのエネルギー必要量」 については疾患や身体活動(活動性)によって数値が異なり、おおよそ 25 ~ 35 kcal とされています。以下の数値を参考にしていただければと思います。
- 健常者:25 ~ 35 kcal
- 糖尿病、脂質異常症、肥満症:25 ~ 30 kcal
- 腎不全、透析:30 ~ 35 kcal
- 肝不全:25 ~ 35 kcal
- 炎症性腸疾患:30 ~ 35 kcal
- COPD:30 ~ 40 kcal
健常者を例に出してみると健常者でも 25 ~ 35 kcal と数値に幅があります。これに関しては、身体活動が多い(重労働やスポーツを実施している)場合には 35 kcal、身体活動が少ない(デスクワーク、外出はあまりしない)場合には 25 kcal というように設定する必要があります。
エネルギー必要量の決め方
前項で解説した方法を使用することでエネルギー消費量を算出することができます。
続いてエネルギー消費量に対して、エネルギー必要量はどのように設定すれば良いのか、というところを事例を通して説明していきます。
エネルギー消費量の算出方法については Harris-Benedict の式を活用します。
栄養状態が良好、体重も適正
Harris-Benedict の式で求めた基礎エネルギー消費量(BEE)に、活動係数とストレス係数を乗じることで、エネルギー消費量(total energy expenditure:TEE)を算出することができます。
栄養状態に問題がなく、BMI が正常値であり、過去数ヶ月間に体重の大きな増減がない場合には、エネルギー消費量と同等のエネルギー必要量に設定することで体重を維持することができます。
【基本情報】
男性、40 歳、170 cm、70 kg
活動係数:1.2、ストレス係数:1.0
【計算式】
66.47 + [13.75 × 70] + [5.0 × 170] - [6.75 × 40] = 約 1,609(BEE)
1,609 × 1.2 × 1.0 = 約 1,931(TEE)
「エネルギー消費量 = エネルギー必要量」に設定するため、エネルギー必要量は 1,931 kcal となります。
つまり、こちらの男性の場合、1 日に 1,931 kcal を摂取することで、太ることも痩せることもなく 70 kg の体重を維持することができると考えられます。
低栄養状態、体重減少(低BMI)
急性期の侵襲や安静などで体重が減少してしまったり、低栄養状態にある場合には、体重や筋肉量を増やすために通常よりも多くのエネルギーを摂取する必要があります。
年齢や体格などによって個人差はありますが、体重を 1 kg 増加させるためには約 7,000 kcal が必要であると報告されています。
この、体重を増やすために必要なエネルギー量をエネルギー蓄積量といいます。必要栄養量はエネルギー消費量(TEE)にエネルギー蓄積量を足すことで算出することができます。
体重を 1 kg 増やすためには約 7,000 kcal が必要ということですが、それでは実際にその情報をどのように活かせばよいのでしょうか?事例を通して解説します。
【基本情報】
男性、40 歳、170 cm、70 kg
活動係数:1.2、ストレス係数:1.0
【計算式】
66.47 + [13.75 × 70] + [5.0 × 170] - [6.75 × 40] = 約 1,609(BEE)
1,609 × 1.2 × 1.0 = 約 1,931(TEE)
事例は 40 歳の男性で体重が 70 kg になります。
基礎エネルギー消費量(BEE)が 1,609 kcal、エネルギー消費量(TEE)が 1,931 kcal と算出されています。
この事例に対して 30 日間で 2 kg 体重を増加させることを目標にエネルギー必要量を算出します。
【1 日あたりの目標エネルギー蓄積量】
7,000(kcal)× 2(kg)÷ 30(日)= 467 kcal
【1 日あたりのエネルギー必要量】
1,931 + 467 = 2,398 kcal
このように 30 日間で 2 kg 体重を増やすためには、1 日で 467 kcal エネルギーを蓄積する必要があることから、1 日のエネルギー必要量は 2,398 kcal と算出することができます。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます!
この記事では「エネルギー必要量」をキーワードに解説させて頂きました。
こちらの記事を読むことでエネルギー必要量の算出方法についての理解が深まり、臨床に欠かすことができない栄養管理への一助へとなれば幸いです。
参考文献
- 新川花絵子.必要栄養量ってどうやって算出するの?.ブレインナーシング.38(6),p840-841,2022.
- 川瀬文哉.入院高齢者の安静時エネルギー消費量の予測式.臨床栄養.145(1),p61-65,2024.
- 宮島功.重症患者への経腸栄養の投与量と投与速度はどのように決めるの?.ニュートリションケア.16(2),p115-117,2023.
- 栗原美香.静脈栄養・経腸栄養時の必要エネルギー量、たんぱく質・アミノ酸量はどのように算出するの?.ニュートリションケア .12(2),p119-121,2019.