Hoffer 座位能力分類(JSSC 版)とは
Hoffer 座位能力分類(ホファーの分類)は、しっかりした座面で端座位を取り、 30 秒 の基準で「手の支持の有無」と「保持可否」を評価する 3 段階の簡易 座位能力分類です。装置の有無・認知面・日常の実用性は判定に含めず、安全を最優先に実施します。hoffer 座位能力分類(JSSC版) を用いることで、全職種が同じものさしを共有でき、車椅子選定や hoffer シーティング 介入の出発点づくりに有効です。
評価の基本的な考え方は、先に公開したシーティング総論とセットで読むと理解が深まります。本稿では手順と判定基準、判定から選定へのつなぎ方、現場で起こりがちなミスと対策を 1 ページに凝縮しました。
評価条件と手順
開始条件は「安定した平面座面」「足底接地」「外部支持(柵・手すり)を使わない」。前額面・矢状面の崩れ、上肢を“支持として”使っていないかを観察し、会話や上肢挙上など軽い課題を入れても 30 秒 保てるかを確かめます。日内変動がある場合は原則として低いレベルを採用(安全側)。
- 環境を整え、端座位をとる(見守りは行うが外部支持は使わない)。
- 上肢の使い方と骨盤・体幹のアライメントを確認。
- 会話・深呼吸・上肢挙上などの軽課題中も安定して 30 秒 保持できるか評価。
- 必要に応じて再試行し、変動時は低いほうのレベルで記録。
判定基準(JSSC 版)
| レベル | 判定 | 30 秒 基準 |
|---|---|---|
| 1 | 手の支持なしで座位保持可能 | 上肢を自由に動かしても崩れず、 30 秒 保てる |
| 2 | 手の支持で座位保持可能 | 片手・両手で座面を支えれば、 30 秒 保てる |
| 3 | 座位不能 | 外部支持がなければ保持できず倒れていく |
判定から選定へ(最初の一手)
| レベル | 座位傾向 | 選定の目安 |
|---|---|---|
| 1 | 支持なしでも安定 | 標準/セミモジュラーの最適化。長時間使用はクッション調整を併用。 |
| 2 | 手支持が必要 | モジュラー車椅子+側方・骨盤サポート。座位時間は短め設定から段階的延長。 |
| 3 | 外部支持が不可欠 | ティルト・リクライニング等の姿勢変換型+高機能クッション。体幹・頭部支持を併用。 |
よくあるミスと対策(記録ポイント付き)
Hoffer の分類 覚え 方 のコツは、① 30 秒基準、② 手の支持の有無、③ 座位不能かどうかの 3 点を順番にチェックすることです。どのレベルでも、この 3 つを外さなければ大きな取り違えは起こりにくくなります。
| ミス | 何が起きる? | 対策 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 柵や手すりを使わせる | 本来より高い判定になる | 外部支持は不可。見守りのみ。 | 環境/外部支持:使用なし と明記 |
| 軽課題を入れない | 実用的な保持力を見落とす | 会話・上肢挙上などを入れて確認。 | 課題:会話・上肢挙上の可否 |
| 日内変動を無視 | 安全側の処方にならない | 変動時は低いレベルで採用。 | 時間帯/疲労:朝・夕など |
現場の詰まりどころ
現場で詰まりやすいのは、「評価者ごとに基準がバラつく」「Hoffer の分類だけで車椅子を決めてしまう」「レベル 2・3 で“座らせっぱなし”になる」の 3 点です。特に、レベル 2・3 の人を“座位不能=ベッド上”と決めつけてしまうと、活動性・覚醒レベル・嚥下機能の低下を招きます。
- 評価前にチームで基準を確認し、事例検討でグレーゾーンをすり合わせる。
- Hoffer 座位能力分類はあくまで「スタート地点」と位置づけ、体圧分散や疼痛、嚥下・呼吸など他の指標と組み合わせて処方する。
- レベル 2・3 でも、安全な時間帯と時間枠を決めて「短時間・高品質な座位」を積み重ねる。
こうした視点を記録とカンファレンスに落とし込むと、「とりあえず座らせる/寝かせる」という場当たり的な対応から脱却しやすくなります。
よくある質問
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Q1. Hoffer 座位能力分類はどの場面で使うのが適切ですか?
Hoffer 座位能力分類は、車椅子シーティングやポジショニングを検討する「入口」の評価として有用です。具体的には、入院・入所時の初期評価、車椅子導入前後の評価、座位時間延長を検討するタイミングなどで使うと、変化が追いやすくなります。一方で、褥瘡リスクや疼痛、嚥下機能などは別指標で補完し、Hoffer だけで最終処方を決めないことがポイントです。
Q2. レベル 1 と 2 の境界で迷ったときは、どちらで判定すべきですか?
基本は「安全側」に倒して、レベル 2(手支持あり)で記録するのが推奨です。例えば、端座位は何とか維持できるが、課題を入れるとすぐに手支持が必要になる場合はレベル 2 とします。そのうえで、コメント欄に「課題なしなら手支持不要」「集中していれば 30 秒 保持可」などの補足を書いておくと、リハ経過の解釈や車椅子選定の議論がしやすくなります。
Q3. 認知症や失語で指示理解が難しい場合は、どう評価すればよいですか?
Hoffer 座位能力分類は、指示理解よりも「自発的な姿勢保持」と「外乱に対する安定性」を重視します。言語指示が入らなくても、普段の覚醒が良い時間帯を選び、看護・介護スタッフと一緒に自然な会話や歌などを用いて観察するのが現実的です。そのうえで「最も安定している条件」でのレベルを記録し、併せて覚醒レベルや協調性をコメントしておくと、ケア方針につなげやすくなります。
Q4. Hoffer の結果を、リハビリや車椅子処方の目標にどう結びつければよいですか?
レベル 3 なら「外部支持を使いながらも安全に 5〜10 分座位を確保する」、レベル 2 なら「課題中の手支持を徐々に減らす」、レベル 1 なら「座位時間の延長と姿勢の質(骨盤・頭部のアライメント)を高める」など、レベルごとの短期目標を設定すると具体化しやすくなります。また、Hoffer の変化を週単位で追うことで、リハビリ介入やシーティング調整の妥当性を客観的に評価できます。
配布資料(院内共有に)
おわりに
Hoffer 座位能力分類(JSSC 版)は、「この人はどこまで安全に座れるか?」をチームで共有するための、シンプルかつ実践的な指標です。30 秒・手支持の有無・座位不能の 3 軸を押さえるだけで、車椅子選定やシーティング介入のスタートラインが明確になります。
一方で、褥瘡・疼痛・嚥下・認知など、座位と密接に関わる要素まではカバーしきれません。Hoffer の結果を「使い倒す」には、評価の背景や日内変動、短期目標を丁寧に記録し、カンファレンスで繰り返し言語化していくことが重要です。ぜひ院内のチェックシートやシーティング回診と組み合わせて、現場の共通言語として活用してみてください。
参考文献
- 日本シーティング・コンサルタント協会. 座位能力分類(Hoffer 座位能力分類 JSSC 版). Web.
- 太田記念病院. 車椅子シーティングって何?(Hoffer の説明と手順). Web.
- 厚生労働省. 高齢者の適切なケアとシーティングに関する手引き. PDF.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


