車椅子シーティングの評価と調整は「目的→評価→調整→再評価」でそろえます
車椅子シーティングは、見た目の「良い姿勢」を作ることが目的ではありません。まず決めるのは、何のために座るかです。食事を続けやすくしたいのか、移乗を安定させたいのか、駆動しやすくしたいのか、発赤や痛みを減らしたいのかで、見るポイントも調整の優先順位も変わります。
このページで答えるのは、評価→調整→再評価をどう並べるかです。製品比較や疾患別の細かな特殊対応は深掘りしません。まずは、骨盤→体幹→頭部→足部の順に崩れ方を見て、最小限の採寸をとり、変更点を 1〜2 点だけ残し、同じ課題で再評価する流れを固定しましょう。
評価の型は、個人の努力だけで安定するとは限りません。
院内で相談相手がいない、見本が少ない、標準化しにくいと感じるなら、学び方と環境の整え方を先に整理しておくと動きやすくなります。
PT キャリアガイドを見る評価・調整の記録シート(PDF)
車椅子シーティングの「最小評価セット → 調整 → 再評価」を 1 枚にまとめた印刷用 PDF です。院内共有や申し送りで、前後差を残しやすい形にしています。
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このシートの使い方(3 ステップ)
目的を 1 つに絞る → 最小評価 → 1〜2 点だけ調整 → 同じ課題で再評価の順で回します。シーティングで迷いやすいのは、観察・採寸・調整が同時進行になり、「何を変えた結果こうなったのか」が残らないことです。
書く内容は、①基本情報、②固定条件、③前の状態、④調整メモ、⑤後の状態、⑥再評価・共有事項です。数字の多さより、同じ条件で前後比較できることを優先してください。最初から完璧な設定を狙うより、再現できる記録の型を作る方が院内で回りやすくなります。
最小評価セット:まずは「ここだけ」
最初から項目を増やしすぎる必要はありません。主訴、崩れ方、最小採寸、皮膚・痛みの 4 点がそろうだけでも、調整の方向性はかなり定まります。
スマホでは表を横スクロールできます。
| 項目 | 見るポイント | 記録のコツ | 次の一手(例) |
|---|---|---|---|
| 主訴(目的) | 食事/移乗/駆動/疼痛/皮膚など | 1 つに絞って書く。複数ある場合は優先順位を残す | 「食事が疲れる」など、同じ課題で再評価する |
| 観察(崩れ方) | 骨盤→体幹→頭部→足部の順で正中性をみる | 左右差/後傾/側屈など“方向”を短文で残す | 骨盤が崩れるなら、まず座面条件から疑う |
| 採寸(最低限) | 座幅・座奥行・下腿長(足台高) | 厳密さより、次回も同じ基準で測れることを優先 | 座奥行や足台高が合わない場合は大腿支持と足底条件を見直す |
| 皮膚・痛み | 坐骨/仙骨/大腿後面、発赤、疼痛、座位耐久 | 部位と出るタイミングを残す | ずれや剪断が疑わしいなら、前すべり対策を優先する |
調整の考え方:変更点は「前→後」で残す
調整は「何となくクッション変更」ではなく、何を変えたかを言語化して残す方が再現性が上がります。記録シートの“調整メモ”は、申し送りと再評価の質を上げるための欄です。
よく使う調整は、座面(高さ/奥行/座角)、背支持(高さ/角度)、骨盤・体幹支持、クッション、ティルト/リクライン運用です。ティルト/リクラインは、除圧や座位耐久に役立つ一方で、ずれや設定不一致があると判断しにくくなるため、角度と時間、実施後の皮膚・主観・活動をセットで残してください。
現場の詰まりどころ/よくある失敗
よくある失敗と立て直し手順を先に固定すると、同じ時間でも判断がぶれにくくなります。
とくに採寸が安定しないときは、測り方の前に「条件固定」が抜けていることが多いです。迷ったら シーティングの身体計測:測り方と決め方 に戻り、座幅・座奥行・下腿長の 3 点を同じ基準で取り直すと立て直しやすくなります。
よくある失敗
| 詰まりどころ | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 目的が増える | 食事も移乗も駆動も見たくなり、判断が散る | 主訴を 1 つに絞り、同じ課題で再評価する |
| 変更点が多い | クッション・背角・足台を一気に変えて効果が不明になる | 調整は 1 回に 1〜2 点まで。「前→後」を必ず残す |
| 記録が残らない | 次の担当者が同じところで迷う | 数値だけでなく、崩れ方・条件・前後差を短文で残す |
立て直し手順
迷ったら、①目的を 1 つに戻す → ②最小採寸を取り直す → ③変更点を 1 点に絞る → ④同じ課題で再評価するの順に戻してください。総論ページでは、この「戻る先」を固定しておくことが一番大事です。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
どこまで厳密に採寸すればいいですか?
最初は“再現可能な範囲”で十分です。座幅・座奥行・下腿長(足台高)の 3 点がそろうだけでも、調整の方向性はかなり定まります。違和感が残る場合に、追加の採寸や支持部の検討へ進む流れで問題ありません。
最初にクッションから触るべきですか?
いきなりクッションだけを変えるより、骨盤の崩れ方、足底条件、座奥行などの設定ズレを先に確認した方が速いことが多いです。クッションは重要ですが、座面条件と切り離して考えると前後差が読みにくくなります。
ティルト/リクラインはいつ検討しますか?
発赤、疼痛、疲労、座位耐久の低下、活動中の姿勢崩れが続くときに候補になります。ただし、角度だけでなく時間と実施後の変化を残さないと判断しにくいため、皮膚・主観・活動をセットで再評価してください。
ずり落ちが強いとき、最初に見るのはどこですか?
骨盤後傾の“きっかけ”を探します。座奥行、足台高、背支持、体幹支持の不足が重なって起きることが多いので、まずは「どの方向に崩れるか」を短文で残し、座面条件から順に見直しましょう。
次の一手
- シーティングハブ(座位評価・車椅子調整・除圧・記録をまとめて確認)
- 車椅子のずり落ち(仙骨座り)対策(まず触る 3 点を具体化するときに便利)
参考文献
- World Health Organization. Wheelchair Service Training Package – Basic level. Geneva: WHO; 2012. Official page
- European Pressure Ulcer Advisory Panel, National Pressure Injury Advisory Panel, Pan Pacific Pressure Injury Alliance. Prevention and Treatment of Pressure Ulcers/Injuries: Clinical Practice Guideline. Seating section. 2025. Guideline
- RESNA. Position on the Application of Tilt, Recline, and Elevating Legrests for Wheelchairs: 2015 Current State of the Literature. Arlington, VA: RESNA; 2017. PDF
- Hobson DA. Comparative effects of posture on pressure and shear at the body-seat interface. J Rehabil Res Dev. 1992;29(4):21-31. PubMed
- Jan YK, Jones MA, Rabadi MH, Foreman RD, Thiessen A. Effect of wheelchair tilt-in-space and recline angles on skin perfusion over the ischial tuberosity in people with spinal cord injury. Arch Phys Med Rehabil. 2010;91(11):1758-1764. DOI: 10.1016/j.apmr.2010.07.227. PubMed / DOI
- Jan YK, Liao F, Jones MA, Rice LA, Tisdell T. Effect of durations of wheelchair tilt-in-space and recline on skin perfusion over the ischial tuberosity in people with spinal cord injury. Arch Phys Med Rehabil. 2013;94(4):667-672. DOI: 10.1016/j.apmr.2012.11.019. PubMed / DOI
- Brienza D, Kelsey S, Karg P, Allegretti A, Olson M, Schmeler M, et al. A randomized clinical trial on preventing pressure ulcers with wheelchair seat cushions. J Am Geriatr Soc. 2010;58(12):2308-2314. DOI: 10.1111/j.1532-5415.2010.03168.x. PubMed / DOI
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


