褥瘡対策に係る報告書の書き方|様式5の4をやさしく解説

制度・実務
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褥瘡対策に係る報告書とは?

「褥瘡対策に係る報告書(様式5の4)」は、有床診療所や療養病床などで褥瘡対策を行っている保険医療機関が、毎年度の定例報告として提出する書類です。令和7年度版では「令和7年7月1日時点」の入院患者・褥瘡の状況を1日分スナップショットとして集計し、①~⑥の項目に落とし込みます。

とはいえ、人数のカウント方法や DESIGN-R2020 による重症度の整理など、現場では「誰がどのタイミングでどう数えるのか」が分かりにくくなりがちです。本記事では様式そのものは公的 PDF に譲りつつ、実務で迷いやすいポイントを PT・褥瘡対策チーム目線で整理し、最後に A4 集計補助シートの使い方も紹介します。

褥瘡対策や加算業務を一人で抱え込みすぎていないか確認する(PTキャリアガイド)

様式5の4の全体像:6つの項目の関係

様式5の4は、上から順に①~⑥まで6つのブロックで構成されています。①が「対象日時点の入院患者数」、②~④がそのうち褥瘡を有する患者の内訳、⑤が体圧分散マットレス等の整備状況、⑥が DESIGN-R2020 による重症度別の患者数です。このうち、実際に数字を書くのは①~④・⑥で、⑤は文章やチェックで体制を説明します。

特に重要なのは、②~④と⑥の整合性です。②は「 d1 以上の褥瘡を有する患者数」、③はそのうち「入院時から褥瘡を有していた患者数」、④は「入院中に新たに発生した患者数」です。⑥はこの③と④の患者を、それぞれ d1~D5・ DDTI・ DU に振り分けたクロス集計になっており、上段(入院時)と下段(院内発生)の合計人数が③・④と食い違わないように確認する必要があります。

公式様式と本記事のスタンス

実際の様式は、各地方厚生局のホームページから「様式5の4」として PDF や Excel 形式でダウンロードできます。たとえば東海北陸厚生局では「様式5の4 褥瘡対策に係る報告書(令和7年度定例報告用)」として公開されており、①~⑥の配置と「記載上の注意」が1枚にまとまっています。

本記事では、公的文書そのものの転載や改変は行わず、厚生労働省東海北陸厚生局の様式5の4(PDF) など公式資料を前提に、「どう読み解き、どう院内で集計するとスムーズか」を補足するスタンスを取ります。実際に提出する様式は、必ず最新の通知・各厚生局サイトからダウンロードしたものをご利用ください。

集計前にそろえるデータと役割分担

報告書を書く前に、まず「誰がどのデータを持っているか」を整理しておくと集計がスムーズです。①の入院患者数と入院日・退院予定日などは医事課や病棟クラーク、②~④・⑥で必要な褥瘡の有無や重症度は褥瘡リンクナースやチーム、⑤の体圧分散マットレスの整備状況は看護部やリハ、物品担当が情報を持っていることが多いでしょう。

あらかじめ「対象日(多くは7月1日)の入院患者一覧」と「 DESIGN-R2020 による褥瘡評価結果( d1 以上)」を出しておき、病棟ごと・病床種別ごとに確認しておくと、そのまま①~④・⑥の集計に使えます。この記事で紹介する A4 集計補助シートは、この一覧作成と⑥の重症度別集計を1枚で済ませることを意図しています。

①~④の書き方:入院患者数と褥瘡保有者の数え方

①「入院患者数」は、報告月の前月の初日(令和7年度の場合は令和7年7月1日)の入院患者数を指します。この時点で「すでに入院している患者」を数えるものであり、当日中に入院予定の患者や、当日の新規入院は含めません。一方で、当日中に退院予定の患者は含める点が、現場ではよく迷うポイントです。

②~④はこの①を母数とした褥瘡保有者の内訳です。②は①のうち DESIGN-R2020 分類 d1 以上の褥瘡を1つ以上有する患者の人数で、「褥瘡数」ではなく「患者数」であることが強調されています。③は②のうち、入院時点ですでに d1 以上の褥瘡を有していた患者数、④は②から③を差し引いた「入院中に新たに褥瘡が発生した患者数」です。複数の褥瘡があっても、全て「患者1名」としてカウントする点をチーム内で共有しておきましょう。

⑤ 体圧分散マットレス等の整備状況の書き方

⑤では、施設としてどの程度「体圧分散マットレス等の体制が整っているか」を記載します。具体的には、専用マットレスやエアマットの保有台数、レンタル契約の有無と範囲、導入基準(ブレーデンスケールや危険因子評価票の点数など)、選定・フォローアップに関わる職種や会議体などを、簡潔にまとめるとよいでしょう。

ここは「褥瘡ができてから対処しているのか」「入院時スクリーニングから予防的に運用しているのか」を示す重要な欄です。たとえば「ブレーデンスケールで一定以上のリスクと判定された患者に対し、 PT・看護師・栄養士で褥瘡対策カンファレンスを行い、マットレス選定と体位変換計画を決定している」など、実際のプロセスがイメージできる書き方を意識します。

⑥ 褥瘡の重症度(DESIGN-R2020)を整理するコツ

⑥は、③に該当する「入院時褥瘡保有者」と、④に該当する「院内発生褥瘡保有者」について、それぞれの最重褥瘡を DESIGN-R2020 の重症度( d1・ d2・ D3・ D4・ D5・ DDTI・ DU )に振り分けて記載する欄です。1人の患者に複数の褥瘡がある場合は、最も重いものだけを1つ選んでカウントします。

実務上は、「患者一覧表に DESIGN-R2020 の最重グレードを1人1つ書き込む」→「 d1 ~ DU ごとに、入院時・院内発生で人数を数える」という二段階に分けるとミスが減ります。本記事で配布している集計補助シートでは、患者ごとの最重グレードを記録する欄と、 d1~ DU ×(入院時/院内発生)のクロス集計欄を別々に用意し、最後に様式5の4の⑥へ転記できるようにしています。

よく迷うケーススタディと考え方

よくある疑問の1つは、「複数の病棟を持つ医療機関で、どこまでを集計対象とするか」です。基本的には、褥瘡対策加算や ADL 維持向上等体制加算など、該当する病棟・病床種別単位で集計することが多いため、自院の施設基準通知と照らして「どの病棟の入院患者を①に含めるか」を事前に確認しておきましょう。

もう1つは、「入退院のタイミング」の扱いです。たとえば、対象日直前に褥瘡が治癒し d0 相当になった患者や、対象日翌日に入院予定の患者は①~④の対象外ですが、対象日当日に退院予定の患者は①に含まれます。現場で迷ったケースは、集計補助シートの備考欄に簡単にメモを残しておくと、翌年度以降の再現性が高まります。

PT・褥瘡対策チームが押さえたいポイント

報告書自体は事務や看護部が中心となって作成することが多いですが、数字の背後にある「褥瘡予防・管理の質」を支えるのは、病棟チームとリハスタッフです。特に、入院時スクリーニング(危険因子評価票やブレーデンスケールなど)と DESIGN-R2020 による定期評価が安定して回っていれば、③・④・⑥の集計は格段にやりやすくなります。

PT の立場からは、体圧分散マットレスやクッションの選定、ポジショニング・離床量・座位耐久の調整を通じて、「 d1 以上の褥瘡が生じにくい環境づくり」に関わることが重要です。また、報告書の結果(たとえば院内発生の割合や D3 以上の重症例の比率)を定期カンファレンスでフィードバックし、予防バンドルの見直しや教育計画につなげる仕組みを作ると、毎年の定例報告が「単なる事務作業」で終わらなくなります。

集計補助シート(A4)の構成と使い方

rehabilikun blog では、様式5の4の作成時に使える「褥瘡対策に係る報告書 集計補助シート(A4 横)」を用意しました。1ページで「①~⑤の転記サマリー」「 d1~ DU × 入院時/院内発生の重症度別集計」「対象日時点の入院患者一覧」を整理できるようにしています。印刷して手書きで使う想定です。

ダウンロードはこちらからどうぞ。公式様式そのものではなく院内集計用の自作シートなので、提出用の様式は必ず各厚生局のサイトから取得してください。
褥瘡対策に係る報告書 集計補助シート(A4・印刷用)をダウンロードする

おわりに

褥瘡対策に係る報告書(様式5の4)は、「加算のための書類」という側面だけで見ると負担に感じがちですが、入院時スクリーニングや予防バンドルの成果を毎年振り返る良い機会でもあります。①~⑥の数字を揃えるプロセス自体を、褥瘡対策チームの振り返りや教育の場につなげていけると、報告書作成にかける時間の価値がぐっと高まります。

一方で、褥瘡対策や診療報酬関連の事務作業が特定のスタッフに集中しすぎると、現場の学びやケアの質が犠牲になりかねません。日々の臨床で蓄えている経験を整理しつつ、必要であれば体制や働き方そのものも見直していけるように、面談準備チェックと職場評価シートのようなツールも活用してみてください。見学や情報収集の段階でも使えるチェックシート(A4・無料)をダウンロードできます

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

様式5の4で①~④と⑥の数字が合わないとき、どこから確認すればよいですか?

最初に確認したいのは、「患者単位での一覧表」です。対象日時点の入院患者ごとに、「褥瘡の有無」「入院時からの保有か・院内発生か」「DESIGN-R2020 の最重グレード」を1行で整理し直すと、どこで人数がずれているのかが見えやすくなります。

具体的には、①の患者一覧から d1 以上の褥瘡保有者を抜き出して②とつなげ、その中から「入院時からの褥瘡」を③、「入院後発生分」を④として振り分け直します。そのうえで、③・④に該当する患者だけを対象に、「最重グレード」を d1~ DU に振り分けて数え直すと、⑥の上段・下段と③・④の整合性を取りやすくなります。この記事で紹介している集計補助シートも、こうした「患者単位の見直し」をしやすくする目的で設計しています。

DESIGN-R2020 の評価が十分でない病棟があり、⑥の記載に不安があります。どのように整備を進めればよいですか?

⑥は「評価体制がどこまで整っているか」を反映しやすい項目なので、まずは 評価の標準化 から着手するのがおすすめです。全病棟で同じ DESIGN-R2020 評価シートを用い、評価者(リンクナースや褥瘡対策チーム、担当医など)と評価タイミング(入院時・定期ラウンド・褥瘡発生時など)を決めておくと、報告書作成時に「評価がされていないため分類不能」というケースを減らせます。

運用のイメージとしては、危険因子評価票の院内運用プロトコル褥瘡予防バンドル(Braden) の流れに DESIGN-R2020 を組み込み、「危険因子評価 → Braden や危険因子スコア → 必要に応じて褥瘡評価・写真記録 → 報告書の③・④・⑥へ」というラインを共通言語にしておくと、病棟間のばらつきが少なくなり、翌年度以降の集計も楽になります。

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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