褥瘡対策の基準の進め方|チーム体制と評価フロー

制度・実務
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褥瘡対策の基準とは?

「褥瘡対策の基準」は、入院診療計画、院内感染防止対策、医療安全管理体制、栄養管理体制などと並ぶ、入院基本料の施設基準(通則)の 1 つです。褥瘡対策加算褥瘡ハイリスク患者ケア加算 の有無にかかわらず、入院基本料を算定する医療機関であれば、原則として全て整備しておくことが求められる“土台”の項目と考えたほうが分かりやすいです。

中身を一言でまとめると、「日常生活自立度が低い入院患者に対して褥瘡の危険因子を評価し、危険因子や褥瘡を有する患者には計画的な褥瘡ケアを行える体制を整えておくこと」です。単発の評価やマニュアルの有無ではなく、チーム医療・診療計画・物品体制・職員教育まで含んだ一連の仕組みとして運用できているかどうかがポイントになります。診療計画書の書き方やケアの組み立て方は 褥瘡対策に関する診療計画書、報告書類の整え方は 褥瘡対策に係る報告書(様式 5 の 4)褥瘡ハイリスク患者ケア加算の報告書(様式 37 の 2) の記事で詳しく解説しています。

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「褥瘡対策の基準」で求められる 4 本柱

通知や施設基準の文言を現場目線で整理すると、「褥瘡対策の基準」で求められている内容は大きく 4 本柱に分けられます。①褥瘡対策チームの設置、②褥瘡に関する危険因子評価の実施、③危険因子あり・褥瘡あり患者への診療計画書と PDCA、④体圧分散マットレス等の物品体制です。②の危険因子評価は 危険因子評価票の院内運用プロトコル、③の診療計画書の回し方は 褥瘡対策に関する診療計画書、④の物品体制は 体圧分散マットレス導入・モニタリングプロトコル褥瘡予防ケアの優先順位 などの実務記事とセットで整えると、適時調査でも説明しやすくなります。

①チーム設置では、専任の医師と褥瘡看護の臨床経験を有する専任看護師が必須とされ、必要に応じて薬剤師・管理栄養士・リハ職などが加わります。②危険因子評価は、日常生活自立度が低い入院患者を対象に、厚労省「褥瘡に関する危険因子評価票」や Braden スコア などを用いて入院早期から継続的に行います。③危険因子あり・褥瘡ありの患者には、チーム医師・看護師が関与した 診療計画書 を作成し、実施・評価・修正のサイクルを記録します。④体圧分散マットレスなどの物品は購入でもレンタルでも構いませんが、医療機関負担で必要なときに速やかに使用できる体制が求められます(詳細は 体圧分散マットレス選定プロトコル を参照)。

院内体制づくりのフローチャート

「褥瘡対策の基準」は条文だけを読むと分かりにくいですが、院内体制づくりの流れとして見ると 6 ステップに整理できます。①現状把握(チーム・マニュアル・危険因子評価の運用状況・体圧分散マットレス等の配置)、②褥瘡対策チームの設置と役割分担、③危険因子評価ツールと「誰が・いつ評価するか」の決定、④診療計画書様式と記録ルールの統一、⑤チームラウンド・委員会・職員研修の実施と記録、⑥適時調査・個別指導を見据えた資料保管です。③〜⑤で実際に使用するツールや様式は、危険因子評価票運用プロトコル褥瘡対策に関する診療計画書褥瘡対策に係る報告書(様式 5 の 4) などと合わせて設計していくとスムーズです。

実務としては、まず現在のマニュアルや評価票、チーム構成、物品リストを棚卸しし、「足りていない部分」「形式だけになっている部分」を洗い出すところから始めるのが現実的です。そのうえでチーム会議で役割とフローを決め、危険因子評価と診療計画書を入院時・定期ラウンド・褥瘡発生時の三つの場面で確実に回せるようにします。年間のラウンド実績や研修記録、症例一覧などを 1 か所に集約しておくと、適時調査での確認や新任スタッフへの引き継ぎにも活用しやすくなります。

褥瘡対策の基準:院内体制フロー 現状把握からチーム設置、評価運用、計画書作成、ラウンド・研修、実績集約までの 6 ステップを示したフローチャート 現状把握 チーム設置 評価ツール・タイミング決定 診療計画書・記録ルール統一 ラウンド・研修の実施 実績・記録の集約/適時調査対応
図 1 褥瘡対策の基準に対応する院内体制づくりの流れ(概略)

入院患者 1 人あたりの褥瘡対策フロー

施設基準の理解を現場の動きに落とし込むには、「入院患者 1 人」を追いかけるフローで考えるとイメージしやすくなります。まず入院時に褥瘡に関する危険因子評価を実施し、その結果から「危険因子なし(低リスク)」と「危険因子あり・既存褥瘡あり(高リスク)」に分岐させます。低リスクの患者には標準的なスキンケアや体位変換などの基本ケアを行い、状態変化に応じて必要時に評価を繰り返します。

一方、高リスク群やすでに褥瘡を有する患者では、褥瘡対策チームが関与した 診療計画書 を作成し、体圧分散マットレス等の選定、ポジショニング、栄養・リハビリテーションなどを含めた重点的な褥瘡ケアを行います。このラインの中で、要件を満たす症例について 褥瘡対策加算褥瘡ハイリスク患者ケア加算 の算定可否を検討し、必要な 褥瘡対策に係る報告書(様式 5 の 4)ハイリスク患者ケア加算の報告書(様式 37 の 2) へ接続していくイメージです。

褥瘡対策の基準:患者単位のフロー 入院時評価から危険因子の有無で分岐し、標準ケアと重点的褥瘡ケア・加算判定につなげる流れ 入院 褥瘡危険因子評価 危険因子あり/褥瘡あり? 標準的スキンケア・体位変換 診療計画書作成・体圧分散マットレス選定・チーム介入 褥瘡対策加算/ハイリスク患者ケア加算の要件確認・報告書 いいえ はい
図 2 入院患者 1 人あたりの褥瘡対策フロー(危険因子評価から加算判定まで)

褥瘡対策加算・ハイリスク加算との関係

褥瘡対策加算褥瘡ハイリスク患者ケア加算 は、「褥瘡対策の基準」を満たしたうえで、危険因子のある患者やハイリスク患者に対して一定水準以上の褥瘡ケアを実施した場合に上乗せされる仕組みです。イメージとしては、施設全体の体制要件として「褥瘡対策の基準」があり、その中の一部症例に対する診療内容に応じて各加算が乗ってくる“レイヤー構造”になっています。

実際の算定実務では、「施設として基準を満たしているかどうか」と「個々の症例で要件を満たしているかどうか」を分けて確認することが重要です。前者はチーム体制・評価の実施率・ラウンドや研修の実績などの院内資料で担保し、後者は 褥瘡対策に関する診療計画書 や、褥瘡対策に係る報告書(様式 5 の 4)褥瘡ハイリスク患者ケア加算の報告書(様式 37 の 2) などでエビデンスを残しておく、と整理しておくと現場でも混乱しにくくなります。

適時調査で見られるポイントとセルフチェック

適時調査や個別指導では、「褥瘡対策の基準」が形式的にしか運用されていないケースが繰り返し指摘されています。特に、危険因子評価が一部の病棟・患者にしか行われていない、診療計画書がテンプレートのコピペで実施・評価欄が空欄のまま、チーム活動や職員研修の記録が残っていない、体圧分散マットレスの運用状況が資料になっていない、といった点はよく挙げられるポイントです。

自施設の状況を簡単に振り返れるように、代表的なチェック項目を表にまとめました。病棟カンファレンスや褥瘡対策委員会などで一度「セルフ監査」をしておくと、実務の整理と適時調査対策を同時に進めやすくなります。詳細な運用の工夫や記載例は、危険因子評価票の院内運用プロトコル褥瘡対策に係る報告書 の記事も参考にしてください。

表 1 褥瘡対策の基準に関するセルフチェック項目(成人入院患者・2025 年版)
チェック項目 ありがちな NG 例 確認したいポイント
危険因子評価の対象 特定病棟のみ・一部の寝たきり患者だけで実施している 日常生活自立度の低い全入院患者に、入院早期から評価できているか
診療計画書の運用 テンプレはあるが、実施欄・評価欄がほとんど空欄 危険因子あり・褥瘡ありの患者に対して、作成・見直しが循環しているか
チーム活動の記録 「やっている」と口頭で説明するだけで資料が残っていない 委員会議事録・ラウンド記録・職員研修の開催記録を保存しているか
体圧分散マットレス体制 病棟ごとの肌感覚で使用しており、台数や利用状況が把握できていない 台数・配置・レンタル状況と使用基準を、資料として説明できるか
リハ・栄養との連携 褥瘡悪化時だけスポットで依頼し、日常的な連携が限られている 栄養・リハ職が褥瘡対策チームに継続的に関与できる仕組みがあるか

まとめ

褥瘡対策では、「危険因子の抽出 → 診療計画 → ケア実施 → 評価・見直し → 記録保管」というリズムを、病棟と褥瘡対策チームが一体となって回していくことが重要です。「褥瘡対策の基準」はその全体像を示す“設計図”のような位置づけであり、ここが整って初めて褥瘡対策加算やハイリスク患者ケア加算の議論がスタートラインに立てると考えられます。施設基準まわりの詳細は、本稿とあわせて 褥瘡対策加算 15 点・5 点の違い褥瘡対策に係る報告書(様式 5 の 4)褥瘡ハイリスク患者ケア加算の報告書(様式 37 の 2)褥瘡対策に関する診療計画書 の 4 本で一連の流れとして押さえておくと整理しやすくなります。

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よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

自院が「褥瘡対策の基準」を満たしているか、ざっくり確認するには?

厳密には通知本文と施設基準の原文を一つひとつ照合する必要がありますが、現場レベルではまず ①危険因子評価、②診療計画書、③チーム活動・研修、④体圧分散マットレス体制 の 4 点が回っているかを確認すると全体像がつかみやすくなります。

本記事の「表 1」のセルフチェック項目に沿って、病棟単位で現状を書き出してみるのが第一歩です。そのうえで、危険因子評価票の院内運用プロトコル褥瘡対策に関する診療計画書褥瘡対策に係る報告書(様式 5 の 4) などの関連記事と照らし合わせながら、「どのステップが弱いか」「書類と実務のズレはどこか」を整理していくと、具体的な改善点が見えやすくなります。

適時調査で「褥瘡対策の基準」を聞かれたとき、最低限そろえておきたい資料は?

地域や指導のスタイルにもよりますが、最低限そろえておきたいのは ①褥瘡対策チームの設置根拠(委員会要綱・メンバー表)、②危険因子評価の実施状況、③診療計画書と報告書のサンプル、④ラウンド・研修実績の一覧、⑤体圧分散マットレス等の台数・配置リスト の 5 つです。

②〜③については、危険因子評価票の院内運用プロトコル褥瘡対策に関する診療計画書褥瘡対策に係る報告書(様式 5 の 4)褥瘡ハイリスク患者ケア加算の報告書(様式 37 の 2) で示した様式例を用いて、「評価 → 計画 → 実施 → 評価・見直し → 集計」の流れが追える症例をいくつかピックアップしておくと安心です。

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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