MMSE リハビリ活用ガイド:点を“介入”へ直結
本ページは「MMSE リハビリ」に特化し、合計点の上下ではなく領域別プロファイル → 訓練・環境調整・家族教育へ落とし込む実践法をまとめます。MMSE はスクリーニングであり、失語・半側空間無視・遂行機能低下などは苦手です。必要に応じて補完評価(MoCA/BIT/TMT・BADS など)へ展開します。評価全体像の俯瞰は 評価ハブ を参考にしてください(本文インライン内部リンクは本リンクのみ)。
MMSE リハビリの設計(領域別プロファイル → 次アクション)
下表は設問文の引用なしで作成した自作の領域 → リスク → 指示・環境 → 訓練/HEP・家族説明への変換表です。領域の偏りを、そのまま当日の介入に接続できます。
| 領域 | よくある所見 | 主なリスク | 指示・環境調整 | 訓練・HEP/家族説明 |
|---|---|---|---|---|
| 見当識 | 日付・場所・時間の取り違え | 迷行・転倒、夜間不穏 | 定位置化・サイン掲示・離床センサー | 声かけ定型文/夜間導線の見守り |
| 記銘・遅延再生 | 新規学習保持が弱い(再認で改善) | 指示忘却、HEP 逸脱、服薬エラー | 一度に 1 指示+視覚支援、メモ・チェックリスト | 間隔反復・家族と役割分担(確認者の明確化) |
| 注意・計算 | 持続注意低下、同時処理困難 | 二重課題中の転倒・見落とし | 単課題→二重課題へ段階化、歩行中の会話を控える | 低強度有酸素+認知課題の併用 |
| 言語(理解/表出) | 理解遅延・語想起困難 | 誤解による拒否・不適切介助 | 短文・ジェスチャ・指差し/Yes–No 確認 | 家族の伝え方練習・コミュニケーションカード |
| 構成・視空間 | 配置再現の困難・構成の歪み | IADL 低下・物品誤使用・見落とし | 段取り提示→模倣→自立、ラベリング/定位置ルール | 家屋評価と整理整頓ルールの共有 |
領域別:日常生活で出現しやすい支障と対応策(カード型)
見当識(Orientation)
- 支障(入院/施設/在宅)
- 入院・入所中であることを理解できず、自分の状況がわからず不安が高まる/場所・時間・日付の混乱。
- 安全リスク
- 迷行・転倒・夜間不穏・逸走。
- 対応策(環境・コミュニケーション)
- 日めくりカレンダーと視認性の高い時計を目に入る位置に設置。病棟名・部屋番号・トイレ方向のサイン。短文で反復説明(「ここは◯◯病院の◯階です」)。
- リハ・HEP
- 病棟内オリエンテーション練習(写真・簡易地図)。夕方〜夜間の見守り強化。トイレ・ナースステーションへの固定ルート歩行。
- 家族への声かけ例
- 「今日は◯月◯日、夕食のあと一緒に廊下を歩きましょう」「ここは◯◯病院の◯階ですよ」。
記銘・遅延再生(Memory)
- 支障
- 新しい予定・指示・服薬を保持できない/HEP の手順を忘れる。
- 安全リスク
- 服薬ミス、処置・受診の失念、家事の手順逸脱。
- 対応策
- 一度に 1 指示+視覚支援(写真・ピクトグラム)。予定はホワイトボード+紙で二重化。重要情報はベッドサイドに固定表示。
- リハ・HEP
- 間隔反復(短時間×高頻度)。模倣→自立の段階づけ。HEP チェックリスト(家族のサイン欄付き)。
- 家族への声かけ例
- 「今は①体操、終わったら②散歩。忘れたらカードを見ましょう」。
注意・計算(Attention)
- 支障
- 同時処理でミス/周囲刺激で気が散る(テレビ・人通り)。
- 安全リスク
- 歩行中の転倒、火の元忘れ、道の見落とし。
- 対応策
- 単課題環境の確保(静かな場所・ TV 消音)。歩行中の会話・スマホ操作を控えるルール化。
- リハ・HEP
- 単課題歩行→短距離・低難度の二重課題へ段階化。低強度有酸素運動と簡単課題の併用。
- 家族への声かけ例
- 「歩いている間は歩くことに集中。話すのは止まってから」。
言語(理解/表出)(Language)
- 支障
- 口頭指示の理解が遅い/語想起困難で伝えられない。
- 安全リスク
- 誤解による拒否、不適切な介助、誤実施。
- 対応策
- 短文・一命令・ジェスチャ・指差し。Yes–No で逐次確認。視線・口形を合わせ、反応時間を十分確保。
- リハ・HEP
- モデリング(見本→模倣)。コミュニケーションカードの活用。選択肢提示で負荷軽減。
- 家族への声かけ例
- 「これをこうして(指差し)。できたら『はい』と教えてください」。
構成・視空間(Visuospatial/Construction)
- 支障
- 物の見落とし・誤使用、配置の再現ができない/片付けられず散乱。
- 安全リスク
- IADL 低下、転倒、誤飲・火傷。
- 対応策
- 定位置化・ラベリング・色分け。必要物は中央・手前に配置。右左対称の置き方を避け見落としを減らす。
- リハ・HEP
- 段取り提示→模倣→自立。片付け手順の写真化。家屋内の動線最適化。
- 家族への声かけ例
- 「使い終わったら写真と同じ形に戻しましょう」。
実施オペレーション:誤判定を避ける(バイアス最小化)
- 感覚補助:補聴器・眼鏡・照度・拡大印刷を事前確認。痛み・疲労・服薬タイミングも調整します。
- 運動・半側無視:利き手使用不可や無視が疑われる場合は、提示方向や配置を統一します。
- 言語・教育年数:母語/通訳/ジェスチャの許容を院内で統一。教育年数の影響に留意します。
- 採点一貫性:回答猶予・再提示・中断時の扱いを SOP 化(部署内で“同じルール”)。
変化の判定とフォロー
最小検出差(MDC) ≈ 3 点。±1–2 点は誤差域。3 点以上で方針更新。
- 頻度設計:回復期=週 1、外来/在宅=月 1 を目安(施設で調整)。
- 補完評価:軽度疑い= MoCA、無視= BIT、遂行機能= TMT/BADS などを組み合わせ、“リハに効く情報”を増やします。
ケースで学ぶ:MMSE リハビリの落とし込み
左 MCA 梗塞・非流暢失語(合計点は低いが理解は保たれる)
短文+指差し/Yes–No 確認で訓練を進行します。模倣→自立へ段階化し、家族へ「伝え方の定型文」を共有します。
右半球病変・構成低下(IADL の誤使用)
定位置化・ラベリング・動線整理を先行し、段取り提示→模倣→自立へ。歩行は単課題から開始し二重課題へ進めます。
軽度疑い(MMSE 正常域・ MoCA 陽性)
二重課題歩行+間隔反復の HEP を運用します。家族には「1 ステップ指示+視覚支援」を徹底します。
ダウンロード(A4・印刷最適化・自作/設問文なし)
印刷の目安:A4/余白 10–12 mm/ヘッダ・フッタ非表示。そのまま病棟掲示・新人オリエンで使用可。
FAQ
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
MMSE リハビリは何点から見直しますか?
MDC ≈ 3 点を一応の目安にします。±1–2 点は誤差域と扱い、合計点ではなく領域別の弱さ→介入で継続判断します。
MMSE の再評価頻度は?
回復期は週 1 回、外来/在宅は月 1 回を目安にします。状態変化(転倒、せん妄、薬剤変更など)や介入内容の大幅な更新時は、前倒しで再評価します。
MMSE だけでリハ目標は立てられますか?
いいえ。スクリーニングです。領域別プロファイルと臨床像をもとに、MoCA/BIT/TMT・BADS などの補完評価を統合して設計してください。
失語・半側空間無視がある場合はどうしますか?
合計点の意味づけに限界があります。言語モダリティの工夫と、BIT 等の無視評価を併用してください。
参考文献(一次情報・主要レビュー)
- Folstein MF, Folstein SE, McHugh PR. “Mini-Mental State”. J Psychiatr Res. 1975;12(3):189–198. PubMed
- Tombaugh TN, McIntyre NJ. The Mini-Mental State Examination: a comprehensive review. J Am Geriatr Soc. 1992;40(9):922–935. PubMed
- Nasreddine ZS, et al. The Montreal Cognitive Assessment (MoCA). J Am Geriatr Soc. 2005;53(4):695–699. PubMed / MoCA Official
- MMSE/MoCA の測定誤差と最小検出差(MDC)に関する報告(レビュー・原著)。PubMed 検索
- 脳卒中後の認知評価における MMSE の限界と代替(レビュー)。PubMed 検索
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下
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